少女で人生やり直し中_19_宍色の麒麟児

こうして館の左側の棟を探索。
手前からどんどん確認していくと、途中の部屋でわずかな気配を感じた。

「村田、真菰、いつもの通りで。
宇随さんは念のため全体の警戒を頼む」
と、部屋の前で刀に手をかける錆兎。

そうして油断することもなく、しかし気負う事もなく、実に冷静な様子で障子を開くと、部屋の中央にいる鬼の首を刎ねた。

まるで手本のように綺麗な水面切りで斬られた鬼の首は床に落ちた瞬間に消え、しかし切り口からまた鬼の頭が生えてくる。

おそらく古参の隊士でも動揺しそうなこの状況に誰も焦った様子を見せないのがむしろ不気味だ…と、宇髄は思った。

焦れよ、ガキども!
と、なんだか苦笑まじりに思いつつ、

「これきりねえな、どうするよ?」
と、前方の少年に声をかけると、彼は

「仕方ないから、焼いてみる」
と、少し変わった構えをとった。

へ…?

水の呼吸の型ではない気がする…。
少なくとも宇髄は見たことがない。

──壱の型…朱雀!!

前方に走りながら敵に向けた刃先が赤みがかった光に包まれ、そこから飛び出した剣戟が火の鳥となって新たに生えた首を丸焦げにした。

ジュッと音を立てて炭化した頭がポロリと床に。

そして残った切り口はというと、今度は黒く焦げ付いたまま回復する様子はなく、胴体は慌てたように床下へと消えかけたが、焼かれた首の部分が炭化しているせいで、変質して床下にもぐることができないらしい。
ドン!ドン!と何度も床に体を打ち付けて暴れている。


──ふむ…焼くのが正しいみたいだな。
と、当たり前のように言って刀を下ろすきつねっこの少年に、宇髄は顔色を変えた。

ああ…これは…水の呼吸じゃなく……

「お前、もしかして筆頭の血筋かっ?!」
と詰め寄ると、錆兎はコテンと小首をかしげる。

「宇髄…さんて、もしかして碓井関係なのか?」
と、その言葉を聞いて、
「あ~、マジかよっ!まだ絶えてなかったのかぁ…」
と、宇髄は片手を額にあてて天を仰いだ。

筆頭…というのは、鬼退治で有名な平安時代の源頼光率いる頼光四天王のまとめ役、渡辺綱のことである。

「かな~~り傍流だけどな、一応碓井の子孫な。
てか、数年前、鬼の襲撃で筆頭のとこの最後の当主が殺されたって聞いてたんだが…」
「あ~、それ父だ。
俺は祖父が鱗滝先生の弟弟子だった関係で、その時に先生の所に行けって逃がされて…」

「…筆頭のとこに伝わる全型使えたりするのか?」
「…一応。壱の型の朱雀から、弐の白虎、参の青龍、肆の玄武…で、最後に伍の麒麟まで」
「…最高かよ」
「…そう…か?」
「おう。源氏武者憧れの剣技だ。
当主でも使えねえ奴もいるくらいのすげえ技だしなっ。
それを全部網羅した奴が生き延びてるってそりゃあ興奮すんだろっ。
てか、寝物語に聞かされた技を自分の目で見られるたぁ思ってもみなかったわ」

興奮気味に言う宇髄に、今度は義勇がきょとんとした顔で
「…錆兎の今の技…有名なの?」
と小首をかしげた。

「あ~、もう有名も有名っ!
おとぎ話の勇者様が使う必殺技だっ!」

「…そうなのか…
やっぱり錆兎はすごいんだ」
と、宇髄の言葉に義勇がムフフっと嬉しそうに笑う。

嬉しさではしゃぎたいのは宇髄も一緒だ。
前評判の高さに好奇心で見にきたら、なんと自分が幼い頃に聞かされたおとぎ話の主人公がいたのだから、テンションはあがりまくりである。

まさに鬼退治の物語の主人公。
宍色の髪の麒麟児だ。



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