宇髄がこの作戦に入る際に聞いた話によると、この数か月ほどだろうか…
街はずれの豪邸に借金と引き換えに奉公に行った娘たちが戻ってこないという現象が続いているという。
そのうちことを重く見た男衆が大挙して豪邸へと乗り込んでいったが、彼らもまた豪邸内に消えて戻っては来ない。
ということで、秘密裏に鬼殺隊に依頼が来たというわけだ。
すでに一月ばかり前に奉公人の娘に変装した乙の隊士が内部をさぐるために乗り込んでいるが連絡が取れなくなっている。
ということで、今回の作戦は、奉公に来た娘に扮した隊士と共に屋敷に乗り込み、相手に鬼がいるかどうかを調べ、生存者がいるなら救出をして、鬼がいるなら退治し、人間だけなら役所に引き渡す予定だ。
宇髄が入るのは囮+護衛班。
これは飽くまで館の門を開けさせたうえで相手が鬼かどうかを見極めるだけで、鬼と分かれば即撤退という班だ。
例のきつねっこの少女が囮の町娘、そしてそれをきつねっこの残り二人と癸の隊士二人の4名で護衛する予定だった。
宇髄はその癸の隊士の1人と代わって班に入る。
──錆兎ぉぉ~~!!良かった、お前と一緒なら大丈夫だよなっ!!
だいぶ決行の時間も迫ってきた夕方。
班に分かれ始めたところで、そう言ってきつねっこの少年に駈け寄る少年。
地味を絵に描いたような容姿なのに、髪の毛だけつやつやサラサラなのがかえって目を引いてしまうその隊士は、言葉からするときつねっこ達と最終選別を超えた癸の新米なのだろう。
その姿を目にすると、きつねっこの少年は
「村田っ!同じ任務だったか。久しいなっ」
と、ずいぶんと嬉しそうな笑顔を見せた。
こうしてみると特別な剣士には見えない。
ただの少年だ。
「あ~、村田っ!
最終選別の時はありがとうね~」
と、右隣のきつねっこの少女も笑顔を見せる。
「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。
それより、足はもう大丈夫?」
「うん!おかげさまで錆兎と蹴り合いできる程度には?」
「それ出来るって…元気になりすぎ」
「まあね~!!」
と、こちらとも仲が良いらしい。
そんなお子様たちの微笑ましいやりとりを目にしながら、宇髄はきつねっこプラスその同期らしい新米隊士の中に入って行った。
最初に反応したのはきつねっこの少年だ。
近づいてくる宇髄に
「初めまして。
俺は渡辺錆兎。右は姉弟子の真菰、左は妹弟子の義勇。
3人とも元水柱の鱗滝左近次先生の弟子です。
そしてもう一人は村田。
4人一緒に先日の最終選別を超えたばかりの新米隊士です。
今回はお世話になります。
よろしくお願いします」
と、頭を下げる。
柱合会議で話題に出るくらいの鳴り物入りでの入隊だが、ずいぶんと礼儀正しく腰が低い。
宇髄はたまたまこっそりお忍びで参加している柱だが、これが一般の並みの隊士なら、おそらくこのお坊ちゃんの方が強いだろう。
それでも驕ることなく先輩を敬うあたりが、さすが元水柱だけあって剣術や呼吸のみならず、礼儀もしっかり躾けているようだと感心した。
宇髄はそれほど礼儀作法に煩い方ではないが、そのあたり細かい鳴柱桑島あたりが会ったら喜びそうだ…と、思う。
「おう、俺は宇髄な。
隊士になって2年ほどになる。
よろしくなっ」
まだ柱になりたてなので、それほど名も知られていないとは思うが、相手は元水柱の弟子なのでそのあたりの情報は一般隊士よりは持っているかもしれない。
なので、フルネームは避けて名字だけ名乗っておいた。
幸いにして相手は宇髄の正体には気づかないようで、
「はいっ。よろしくお願いします!
俺達は全員隊士になりたてなので、基本、宇髄さんの指示に従うということでよろしいでしょうか?」
と、至極真面目に確認を取ってくる。
まあ普通は2年差があるのだからそうなるのだろうが、それではせっかくお忍びで来たのに面白くない。
だから、
「あ~…班員全員知ってる奴の方が指示は出しやすいだろ。
ってことで、お前が指示出してくれ。
現場に入ったら年数より効率だ。
俺はだいたいのことは卒なくまんべんなくできると思って指示くれてかまわねえから」
と言うと、少年、錆兎は、そう言っても皆がそうするようにグダグダとでもでもだってと言うことなく、即
「そうですか。それではそうさせて頂きます。
ただ、まだ不慣れな未熟者なので、途中で何か気になること、足りないことなどがありましたら、ご指摘、ご教授頂けるとありがたいです」
と、もう実にそつなく宇髄をたてながらも無駄なく話を進めていく。
その思い切りと冷静さ、そして飽くまで崩さない礼儀正しさに、宇髄は内心驚きながらも、秘かに将来は年の近い同僚になるのだからと、
「ああ。じゃあそういうことで頼むわ。
あ、あと敬語は禁止な?めんどくせえ」
と、4人の中に入って行った。
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