少女で人生やり直し中_12_朝焼けの中で

そうして一気に和やかになった空気の中、拠点に戻れば、緊張した面持ちだった同期達は一様にほっとした様子で4人の帰還を歓迎し、そうしているうちにゆるゆると東の空が赤く染まってきた。


…ああ…綺麗な朝焼けだ……

今まで見た中で一番綺麗な朝焼けな気がする…と、そんなことを思ったせいだろうか。
村田の目から涙があふれてきた。

でもそれは彼だけではない。
同期の半数くらいは同じく涙でぬれた目で、赤から橙、そこから徐々に黄色、青と綺麗な階調の空を見つめている。


…すごいな、全員欠けずに選別突破ってもしかして今回が初めてじゃね?
と、誰の口からか、そんな言葉が漏れると、

──そういえばそうかもなっ!
──俺、師匠から突破できるのは多くて4分の1くらいだって聞いた。
──俺も俺もっ!!
──すげえっ!俺ら伝説作ったんじゃね?!!

などとはしゃぐ声があがり、しんみりした空気が一気にお祭り騒ぎに。


「はいはいっ!はしゃぐのは集合場所についてからねっ!
立つ鳥跡を濁さず!まずはこのあたりの片付けからっ!!」
と、そこで村田の背から降りて錆兎の横に立った真菰がパンパン!と手を叩きながら声を張り上げる。

それに皆すなおに従い、かまどを作るのに積み上げた石を崩し、川をせき止めた岩を元に戻し、囲いにしていた布地はきちんと畳んで、最後に食った動物や魚の骨を放り込んでいたゴミ箱代わりの穴をきちんと埋めた。


そうしてまた来た時と同様に隊列を組んで、全員で集合場所を目指して元来た道を歩いていく。
足をくじいた真菰は相変わらず村田が背負うことになった。
それは同期の男にめちゃくちゃ羨ましがられた。

自分が背負いたいと申し出る多数の男連中に

──アハハ、やっぱり村田がいいかな?
と、笑いながら言う真菰。

何故?何故?と村田自身も含めた皆に聞かれると、

──ん~~なんでだろうねぇ?
と、不思議そうな顔をして逆に村田の方に聞いてくるので男どもの敵対心がビシバシ向けられる。

ひぃぃーー!!!
と、それに内心悲鳴をあげる村田を救ってくれたのは錆兎だった。

「ああ、わかる。俺もなんだか村田だと気を使わないというか…なんか物を頼みやすい。
なんとなくな、誰でもいいはずのことでも気づけば村田に頼んでる」
と、その言葉に、実際この7日の間ずっと錆兎が何かあると村田に頼んでいたことを思い出して、皆が『なるほど』と納得した。



清々しい朝の空気。
そんな中で、初日に夕闇の中で集まった集合場所に全員そろって戻ってきた。

そこにはすでに初日に皆を送り出してくれたお館様の奥方様が待っていて、

──お帰りなさい。おめでとうございます。ご無事でなによりです
と、仰せになる。

その後は係の人間が代わって今後の予定をつらつらと説明された。


まず自身の日輪刀を作る鋼を選ぶ。
その場でなぜか義勇がぽろぽろ泣き出した。

──さびとの…日輪刀が見られるの、嬉しい……
と言う言葉で、何か辛くてとか悲しくてではなく、どうやら感極まっての涙らしいと知って、錆兎のぎょっとした表情が優しく甘いそれになっていく。

──義勇、俺の鋼を選んでくれるか?俺の刀はお前を生涯守っていく刀だから、お前に選んで欲しい…
と言う錆兎の言葉に頬を染めて涙をぬぐう義勇。

そして楽し気に鋼を選ぶ様子に、もうこれ何か違うよね。
結婚指輪?結婚指輪でも選んでるの?
もういいよ、お前らお館様夫妻を仲人に勝手に祝言でもあげてくれ!

…と呆れかえったのは村田だけではない。
他の同期の男連中も…そして選ばせる鋼を持った係の人も生暖かい目になっている。

…もっとも……

──うらやましぃぃ~~!!!
──無理なのわかってるけどっ!諦めてるけど、義勇ちゃんと代わりたいっ!!
──私も鬼殺隊に入ったら絶対に良い男みつけるんだっ!!
と、女子3人組は身もだえているので、真菰姉ちゃんの対女性教育としては成功しているのだろう。


そんな周りを気にすることなく、
…これ、これが錆兎に似合いだと思う。
と、義勇が選び出したひときわ大きく艶やかな光沢のある鋼。

錆兎はそれを握って差し出す白く小さな義勇の手を己の両手で包んで、

──ありがとう。大切にする…
と、その手に口づけると、鋼を受け取る。

それにまた女子組からあがる嬌声。
そして…そんな少女達の反応に、『あれは私が育てました!』と言わんばかりのドヤ顔の真菰。

そんな騒々しくもなかなかカオスな面々を尻目に、村田も自身の鋼を選んだ。

これと言って特徴もないごくごく普通の鋼。
地味でもいい。
死なずにコツコツと鬼を斬り続けていれば、少しでも良い未来に近づけるはずだ。
これはそんなために村田の良い相棒になってくれるだろう。

村田はそれを手に取り、
「これでお願いします」
と、係の人に渡すと、次いで隊服のための計測へと向かった。



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