悲鳴をあげるひまり&姫君二人。
見張りの位置から走り寄ってそれを囲む男性陣。
プスップスッと宇髄から苦無が放たれるが効果は全くないようだ。
ベチョベチョと濡れたような足音。
まるでよどんだ沼のように濁った緑色の体はよくよく見れば多数のイボのようなもので覆われている。
4本の手はグネグネと波打つような動きで前に伸ばされ、そのうち1本が避けそこねた射人の足首を掴んだ。
「ひぃぃっ!!!」
と、バランスを崩して尻もちをつく射人の悲鳴。
そのままずりり…と引きずられようとする射人に、錆兎が大振りのナイフを持って飛び出して、ザシュッと怪物の手首を斬り落とした。
そして同じく飛び出した煉獄が太い木の枝を怪物の眉間に突き入れる。
一瞬怪物が怯んだ。
そのタイミングですばやく苦無をナイフに持ち直した宇髄が射人を片手で立たせると、まだ彼の足首に絡みついたままウネウネと動いている化け物の手の指を斬り落として足先で手を射人の足首からこそぎ落とすと後ろに下がるように指示をする。
そうして錆兎と煉獄、そして宇髄の3人は中央にある東屋を背に武器を構えるが、不思議なことに化け物は中央へは向かわなかった。
ビチョリ、ビチョリと歩を進めた先は唯一人が籠もっている北西の小屋。
CPが籠もっている小屋だ。
え…?
と、その場にいる全員が驚く。
だって普通は人数も多く遮る壁もない東屋の方が襲い易いだろう。
何故ドアを閉めて籠もっている小屋の方を襲うんだ?
呆然とする錆兎達の目の前で、化け物は閉まった小屋の戸をガンガン叩いている。
小屋の中からは悲鳴。
厚いとは言い難い木の扉はすでに壊れかけている。
このままでは袋のネズミだ。
──窓から逃げろっ!!
と、錆兎が大声で叫ぶが、
──動けねえっ!!体がしびれて動かねえんだよおぉ!!助けてくれええーーー!!
と、中から男の悲鳴が返ってきた。
「錆兎っ、煉獄っ、ここ頼むっ!!」
と言いおいて、宇髄が小屋の方に走った瞬間に、ベリベリっと木のドアが化け物の手によって小屋から引き剥がされる。
化け物の後方から駆け寄った宇髄の目に映ったのは、暗い部屋の中、光る蝶。
羽ばたくたび何かキラキラした粉のような物を舞い散らせながら、ふわりふわりと化け物の方へと飛んできて、その濁った沼のような肌にとまってストロー状の細い口を化け物のイボに伸ばす。
生臭い匂いに混じるどこか甘い匂い…
ああ、そうか……こいつらは共依存なのか…
化け物は自らの体から蝶の餌になる体液を出す代わりに、蝶は鱗粉を振りまいて獲物を痺れさせ動けなくして化け物の餌として提供するのだろう。
と、それはそれとして、情報源として証人として、おそらく暗殺者なのであろう亜美だけでも助け出したい。
そう考えて宇髄が出方に迷っていると、
──宇髄っ!!!避けろっ!!!!
という声と共に何かの気配。
慌てて身をかがめると、それまで宇髄の頭があったあたりを、でかい木の幹がすっ飛んでいって、化け物の頭を後ろからふっとばした。
うあああーー!!!
と思うものの、それを投げ飛ばしてきた煉獄の怪力は実に頼もしい。
伊達にゴリプリと呼ばれては居ない。
姫君としてはあるまじき姿だが、別にここには姫君を評価採点する教師陣はいないので良しとしよう。
そんなことを思いつつ、さてこれで解決か…と思えば、なんと化け物は頭がない状態で、今度は東屋の方へと向かってくる。
あがる悲鳴。
歩みはゆっくりなのでそれぞれ逃げる一同。
とっさのことで、錆兎は義勇を抱き上げて走り、大学生組は並んで、不死川は善逸と、幼馴染組も手に手をとって逃げる。
そんな中、煉獄は1人森の方へ。
どうやらまた木を引き抜いてくるつもりらしい。
そんな風にバラバラになった中、化け物は2人で逃げる大学生組の方へ。
「え?え?なぜっ?なぜーー?!!」
パニックになる二人。
その様子に錆兎はハッとした。
──蝶だっ!蝶の袋を捨てろーー!!!
そう叫ぶ錆兎の声に
──ひぃぃーーー!!!
と、悲鳴をあげながら大学生組の1人が投げた蝶の袋は、近くを逃げていた茂部太郎の腕にジャストミート。
するとやはりそれが原因だったらしい。
化け物は茂部太郎を追い始めた。
──いやああーーー!!!
と、腕に絶対死守を命じられたピチュと卵を包んだタオルを抱えているために袋を捨てられずに茂部太郎が叫ぶ。
その悲鳴に、義勇を不死川達に預けて錆兎がナイフを手に走り出した。
茂部太郎に伸びる化け物の手を間一髪、ナイフで斬り落とすと、白モブ三銃士が揃って、おぉ~~!!と、感嘆の声をあげる。
──やっぱりリアルカインだ、カインっ!!
──さすが我らが皇帝、超カッコいいっ!!
──怖い怖い怖い怖い!化け物怖い!…でも皇帝眼福すぎてやばいっ!
化け物に追い回されて確かに青ざめているのだが、変なスイッチが入ってしまったらしい。
3人並んで逃げながら叫ぶ三銃士。
完全に自分達からターゲットが外れたのを察して、3人を遠目に眺めながら
「えっとさ…茂部太郎は手が空いてないとしても、あとの二人のどちらかが袋捨てれば良いんじゃないかな?」
と、冷静につぶやく善逸。
「ん~3人は気づいてないけど、錆兎はわざとそのあたり指摘しないみてえじゃね?
あいつらがひきつけてれば姫君に化け物来ねえし?」
と、それにまた冷静に答える不死川。
「ま、今のうちに敵確保してくるっ」
と、とりあえずこちらは大丈夫そうなのを見計らって、一旦戻ってきた宇髄は亜美を捕らえにロープを持って小屋の方へと向かって行った。
このまま朝までというのも無理だろうが、もう少し時間を稼げないだろうか…と誰もが思い始めたその時、
──あっ!!
と、茂部太郎がこけた。
勢いで彼の手を離れて宙を舞うタオル。
やばいっ!!と、それまでは少し距離を置いて伴走していた錆兎が間に入ろうと飛び出してそれをキャッチする。
迫る化け物…ナイフは持ったまま、しかしタオルを抱えて戦闘態勢に入れない錆兎。
…だがっ!!
──ピィィィーーー!!!!
いきなり凄まじい鳴き声と共に威嚇するように大きく羽を広げる小鳥。
パカッと開くクチバシ。
ブワッと吐き出される赤い光。
それはまっすぐ化け物を包み、まとわりついた蝶ごと化け物の濃緑の体が燃え上がった。
え??
みんな何も出来ずにただ呆然と見ているなか、化け物は真っ黒な灰になる。
そしてそれが何故か小鳥と共にタオルに包まれている赤い球体の中へと吸い込まれていった。
本当に唖然とするしかない。
錆兎が恐る恐る手の中のタオルを見下ろすと、赤い球体の中にうっすら黒い何かが浮かび上がっていて、小鳥の方はと言えば何事もなかったかのように羽繕いをしていた。
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