寮生は姫君がお好き821_解決

その夜…

化け物が消えてから宇髄が亜美と連れの男を拘束したことに関しては、幼馴染組の申告通り、縄が燃えた時に外にいた事、そしてその後カバンにライターを戻していたことなどを告げて、わざわざ化け物を招き入れるような行動を取った可能性があることを理由に念の為ということで皆に説明した。

普通なら相手の1人は女性だということもあり、人道面その他で揉めそうな措置ではあるが、化け物に危うく殺されるところだった面々は精神的に参っていたので、反対する者はいなかった。

幸いにして死人はなし。
結界を燃やされてあんな化け物に襲撃されたことを考えると奇跡である。

一応化け物の燃えカスが吸収された球体とそれを産んだらしき小鳥は、無事救助されてここを脱出出来たら宇髄家の方で厳重管理の上、球体の処理の仕方を調べる事にするということで話し合った。
もちろんその経過と結果は渡辺家と煉獄家、そして桑島家の方には報告すると言う。

そもそもこの化け物は一体だけなのかもわからないので、念の為皆東屋に集まって夜明かし。
どうしても眠い人間はレジャーシートを敷いて寝て、そうでないものはおそらく安全だと思われる日中に寝ることにした。


そうして眠気覚ましに始まる雑談。

最初の話題は壁画と化け物の関連性について。

──これ…逆だったんですね、たぶん。
と、茂部太郎達が言い出したことが始まりだった。

「球から生まれて人を襲って蝶が退治するって思ってたけど、あの化け物って実は植物系で、蝶は化け物から餌の蜜かなんかをもらう代わりに化け物の捕食を助けて、化け物は人を襲って食い、最後、球を生む小鳥に燃やされて、灰が球に格納されておしまい。
蝶がむらがってる絵って、化け物を止めてるんじゃなくて、化け物の蜜吸ってる絵だったんですね」

「あ~、それな。
俺も前に本で見たことがあるが、虫の中には空気中にフェロモンを放出して相手を引き寄せるみたいなのがいるらしいから、もしかしたらあの蝶も何かそういうの出して化け物引き寄せていたのかもな。
ひまりさんが持っていた蝶はinビニール袋で結構空気が遮断されていたが、小屋の方のは前全開になってる窓からダダ漏れていたんだろう。
だからあっちに行ったんじゃないか?」

「なにはともあれ、皇帝の手から小鳥がビーーーム!!って感じで化け物倒してたのめちゃ格好良かったっス!
最後から二番目の絵で化け物が包まれてたのって最初は血かと思ってたけど、炎だったんスね」
と、ぐったりしている他の面々を尻目に盛り上がる白モブ三銃士。


──モブとか言いつつ、実は大物なんじゃね?モブ寮生でこれって銀狼寮ぱねえな!
と、そんな3人を見て宇髄が苦笑した。



救助が来たのは翌朝のことである。

渡辺家から依頼を受けた宇髄家が渡辺家の全面協力の元、驚きの速さでたどり着いた。

なにやら完全武装の兵士に囲まれた時にはぎょっとしたが、その中の指揮官らしい人間が宇髄に敬礼。
そこで救助隊だとわかって皆歓声をあげる。


その後は全員ヘリで救出。
一旦は病院に収容された。
そこで健康チェック。

小屋に籠もっていたCPはまだ若干体の痺れが残っていたようだが、それもその日のうちには回復するとのことだった。



そして…早朝救出され午前中に健康チェックを終えて昼食を摂ったあとの午後。

今回の目的でもある桑島老が到着した。
もちろん他には秘密で、配下が今後の相談と称して錆兎を始めとする寮長トリオだけを呼びに来た。
そして義勇と善逸の相手は煉獄にさせておく。

こうして不死川と錆兎、宇髄だけが応接室に集められ、そこで桑島老を待った。


そうして桑島老の来訪を告げる部下。
全員が席を立って老を迎え入れた。

彼は立ち上がったままの面々の顔を見回し、ただ一言
「今回は申し訳なかった」
と、謝罪後、着席を促した。

そこからは老の口から善逸の実家についての話がある。

まず伝えられたのは、今回のことは当然ながら桑島老は関知していなかったこと。
そして、財閥の総帥の私生児であることや、正妻に誘拐されて正妻に雇われた女の元で育てられたこと、善逸の母親のことや、善逸の存在を知ってから今もなお、正妻が彼を疎ましく思い、また、私生児であっても有する相続権の問題もあって、彼を亡きものにしようとしていることまで、包み隠さず説明したうえで、善逸はこれまでも…そして今も、これからも、ずっとこうして命を狙われることになるだろうと言う。

そのうえで守ってやって欲しいと頭を下げられた。
彼にかかる費用、彼を守るのにかかる費用は当然桑島老が負担し、なんなら報酬を用意すると言われたのだが、そこで

──別に金に困ってないしな…
と、顔を見合わせる錆兎と宇髄。
そしてボンボン二人が視線を向ける先は当然残った不死川である。

その視線に気づいて不死川は舌打ちした。

「馬鹿にすんなよっ!
俺は腐っても金狼寮の寮長で、あいつはうちの姫君だ。
それを守るのに金なんて要らねえよっ!」
と、当たり前に言う彼に笑みを浮かべる寮長二人と、目を丸くする桑島老。

「そうか…それは仮にも藤襲学園の寮長に失礼なことを言った。
申し訳ない」
と、すぐ頭を下げるものの、その顔はとても穏やかで嬉しそうに見える。

「あの子はいい寮に入れてもらったようじゃ。
これからもよろしく頼みます」
と、再度不死川に頭を下げながら、しかし善逸の護衛をするのにかかるすべての費用は、遠慮なく自分に請求して欲しいと、連絡先だけは交換していた。

こうして一つの騒動はなんとか乗り越えたが、これはおそらく、卒業まで…いや、卒業後も続くのだろう。

しかし後ろ盾が全くない寮長だった不死川も後ろ盾が出来たことで少しは楽になるのだろうか…
宇髄と錆兎は情報を共有した者として最低限の協力を約束をして、今回の事件は幕を閉じたのであった。






2 件のコメント :

  1. とりあえず、一件落着ですね。そしてまた、新たな物語の始まり?

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    1. ですね。次は寮対抗イベントです😊

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