寮生は姫君がお好き817_皇帝陛下と三銃士

遠くで我らが皇帝が剣…もとい大振りナイフを構えている。
欲を言えばもう少し大きめの武器が良かったが、それでもそのナイフを脳内で剣変換できるのがオタクである。

俺らの皇帝、カッコいい!超カッコいい!!

茂部太郎達は海岸方面から来た化け物に対峙する自寮の寮長錆兎にうっとりとした視線を向けていた。


彼らが大好きなアニメ、【エルサイア・オデッセイ】の主人公カインにそっくりな銀狼寮の皇帝は彼らの誇りであり推しである。

カインがいついかなる時もカッコいいのと同様、錆兎皇帝もいついかなる時もカッコいい。

そう、校内だろうと寮内だろうと容赦なくカッコいいわけなのだが、こうして武器を持って敵と対峙している時のカッコよさと来たら、もう世界の至宝レベルだ。

その服装がピシッと着こなしたタキシードだというのも、そのカッコよさに磨きをかけている。

どうやら結界となっている荒縄の内側には入ってこられないようである敵を前に、銀虎の宇髄寮長を右、同じ船に居合わせて一緒に避難してきた大学生達を左に従えて、3人に何やら指示をしている姿は、神々しいほどだ。


そこから数メートル離れた中央の東屋に待機中のメンバーの中には【エルサイア・オデッセイ】のヒロインであるアリア似の自寮の姫君が愛らしいドレス姿でやはり居合わせた女子大生らしき女性と抱き合って震えながらも、心配そうな視線を皇帝に送っている。

そしてその手にはタオルに包んだ片翼に包帯を巻いた小鳥。
それは最初の探索の途中で姫君が怪我をして弱っているところを見つけて保護して手当をしたものだ。

自分もこんな離島に漂着してどうなるかわからない状況で、他の動物まで気にかけて手を差し伸べる優しいところは本当にアリアそのもので、カインとアリアが揃って事故で見知らぬ島に漂着というシチュエーションに、茂部太郎達は不謹慎だが胸が高鳴ってしまう。

普段はよく3人して推しCPの家の壁になりたいなどと話していたが、こうしてそんなピンチに寄り添う二人を堪能できることを考えると、人間に生まれて良かったとつくづく思った。

自分達はモブという立場を愛しているので表舞台にあがりたいとは思わないが、それでも推しに多少なりとも認識されて、モブとして舞台の端っこにいるような存在になれたとしたら、理想的である。

そう思ってせっせと一般寮生として、この危機に色々忙しい皇帝と姫君のために動いていたら、なんともったいなくもありがたくも、皇帝から【白モブ三銃士】という名前を拝命してしまった。

もちろんそれは皇帝の方から自分達をモブと言ったわけではなく、自分達がモブという立場が好きなのだと主張した結果の命名である。

そこでそんな素敵な名を下さった皇帝にはどこまでもついていこうと3人で誓いあった。


化け物は結局日が昇る直前まで居て、太陽の光を避けるように森の中に消えていったので、それまで全員その場に待機していたが、化け物が消えて皇帝と銀虎の寮長の宇髄以外は休息を取るために小屋に戻る。

茂部太郎達もその予定だったが、3人話し合って、今回の一連を全て余さず見ておきたいということで、姫君と同じ小屋の茂部太郎はそのまま小屋に、仁は雑用係として使ってくれと言って皇帝の元へ、そして射人はいまのうちに休んであとで記録係を交代という形を取ることにした。


茂部太郎の小屋は錆兎がいないため、茂部太郎の他は姫君二人だ。

…といっても、その一人は自寮の皇帝にすらゴリプリと称されるほどに体格の良い、姫君というより皇帝見習いで、茂部太郎なんかよりはよほど強い。
ということで、茂部太郎達の大切な姫君は、招集がかかるまで眠っていたのもあって眠くないらしく、小鳥を挟んでゴリプリ…もとい、煉獄相手におしゃべりに興じている。

どうやら姫君が拾った小鳥は卵が生まれそうだということで、少しでも栄養をと果物を与えながら、ここを出る時に連れていけないかなどと相談していた。

そう言えば【エルサイア・オデッセイ】でもヒロインのアリアは小鳥を連れていて、彼女が攫われた時にその小鳥が主人公カインに拉致されている場所を教えたりなどという展開も多々ある。

やっぱりヒロインには小鳥が似合うなぁ…この小鳥が皇帝と姫君の間を行き来するとか、すごくカインとアリアみたいで良いなぁ…などと茂部太郎がしみじみ思っていると、数分後、小屋に錆兎が戻ってきた。

「2時間仮眠を取る。6時になったら起こしてくれ。
そうしたら今度は煉獄が2時間仮眠。
8時になったら煉獄がまた見張り。
俺と宇髄が蝶塚発見した幼馴染3人組の男1人を連れて海岸と蝶塚の様子見に行く」

当たり前に固い床に寝転ぼうとする錆兎の腕を両手で持って、義勇が自分が寝ていたシートに誘導し、そこにふわりと座り込むとポンポン!と自分の膝を叩いてにっこりと見上げる。

あ~~!!これは【エルサイア・オデッセイ】で同じような場面を見たことがあるぞ!!
と、それを見て茂部太郎は内心興奮気味に思った。

リアルカイン&アリアを目の当たりにして、二人にはあとで絵にして見せてやろうと思いつつも心のアルバムにその姿を貼り付ける。


どこか得意げに自らの膝に誘う姫君。
それに皇帝は一瞬目を丸くすると、次にくすっと笑って頭をそのふんわりと広がるワンピースに包まれた膝の上に乗せた。
その皇帝の宍色の髪を白く小さな手が梳くように撫でる。

見つめ合う目と目が甘く優しい。

こんな尊いものを見せてもらえるのなら、死なない限りは多少のトラブルがあろうと最高の旅行だと茂部太郎は心の底から幸せを噛み締めた。


Before <<< >>> Next (6月9日0時公開予定)




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