ポケモンのくせにボールに入れないなんてありえないことを受け入れてくれたサビトは、面倒だろうし重いだろうにギユウを背負って歩いてくれた。
だが、この上戦えないとなったら、さすがに何のために連れて歩いているのかわからない、と、連れて歩くのが嫌になるかもしれない。
それだけは嫌だ。
だから役に立つところを見せなければ……
「…どうした、ギユウ?何かみつけたか?
何かあっても俺が守ってやるからそんなに気を張っていなくても大丈夫だぞ?」
と、サビトの豆だらけで固い…しかし温かい手で撫でられると、ふにゃふにゃっと力が抜けてしまう。
そもそもが、いくら気合をいれてみたところで、ギユウの行動範囲は体の中では一番長い尻尾を思いきり伸ばしてサビトの一部に触れていられる範囲なので、出来ることなんて大してあるわけがないのだ。
それでも……少しでも……何かの役にたたなければ……と、怯えるギユウは気ばかり焦っていた。
だいたいのトレーナーは町から町に泊まり歩いているが、サビトは自身の武者修行も兼ねているため、野宿を繰り返すらしい。
夜には火を焚き、慣れた手つきで米を炊き、川で獲った魚をさばいて串にさして焼く。
そのうえでリュックからギユウ用にポケモンフーズを出してくれるが、なんだかサビトのご飯はいい匂いがして、携帯用の小さなテーブルに並べた諸々にギユウが鼻を寄せて、くんくん、と匂いを嗅ぐと、サビトは魚に塩を振りかけようとしていた手を止めた。
そうして箸で器用に魚をほぐすと、
「味をつける前なら大丈夫だろ。食ってみるか?」
と、ギユウの口元にそれを運んでくれる。
ぱくん!と微塵もためらう事なくそれを口にすると、焼けた皮の香ばしさと柔らかな身の甘さが口いっぱいに広がって、ギユウは思わず目をまんまるくして小さな両手を落ちてしまいそうなほっぺたに添えた。
そんなギユウを見て、サビトは
「旨いか?ギユウ」
と、聞いてきたので、ギユウはとっても美味しいのだという事を少しでもたくさん伝えたくて、こ~~っくんと思いきり頷く。
「そうか。それではもう一口だけやろう。
それ以上は、お前が栄養を取るのに必要なフーズを食えなくなると困るからな」
と、サビトは目を細めてそう言うと、もう一口、魚を口に放り込んでくれた。
今までウロコダキ博士の家ではギユウはポケモンフーズを与えられていて、ご飯とはお腹がすくから食べるものだったのだが、食べ物の味が美味しいから食べる、ということを、ギユウはこの時に初めて知る。
それからはサビトはいつも、自分が食べるものを最初に一口、二口、ギユウに味見させてくれるようになった。
食事が終わると錆兎は背負ってきた一人用のテントを広げると、ギユウを抱えて中に入る。
もちろんギユウはテントも初めてで、…きゅぅ…と珍しさにキョロキョロ中を見まわした。
そうしている間に錆兎はさらにリュックの中から寝袋をを出している。
テントは、研究所と外と…そして一瞬連れて行かれた最初のトレーナーの豪邸以外を知らないギユウにとってはとても不思議な所だった。
ギユウよりも大きいサビトにとって、ギユウが寝ていた寝床よりももう少し大きいくらいだろうか…。
でもちゃんと屋根がある。
普通の部屋よりずっと狭いその空間でサビトと二人きりなのが嬉しくて、なんだか尻尾が揺れてしまった。
そうして夢中で下を見て前を見て、そのままずぅ~っと上を見ていくと、こてん、と、後ろにひっくり返りそうになったギユウをサビトが慌てて支えてくれる。
「本当に…お前は赤ん坊みたいだな」
と、苦笑するサビト。
だけどやっぱりギユウはこの空間が嬉しくて楽しくて、きゅぃきゅぃ鳴きながら、サビトに向かって笑みを浮かべる。
外は怖いけど…テントの中は最高だ!
この、サビトと二人きりの狭い空間の中で、さらにサビトに抱え込まれて眠る寝袋の中はさらに心地いい。
ポケモンボールに入れないポケモンなんてトレーナーのサビトは大変で申し訳ないとは思うが、休む時はいつもボールの中で、こんな幸せを知らない他のポケモンはなんだか可哀そうな気さえした。
こうしてギユウはサビトの懐に鼻先を突っ込んで、サビトの匂いに包まれながら、機嫌よく旅の初日を終えたのだった。
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