学園警察S&G_22_罠3

「君たちは一体……」
縛られて床に正座をさせられた状態で呆然とする長谷川に、不死川は
「まあ、話そうぜ、先生」
と、自分のベッドに腰をかけた。

「とりあえず…俺は飲み物用意するわ」
と、そこで宇髄が立ち上がって、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォータのペットボトルを出し、製氷機の氷をピッチャーに移し、未開封の紙コップの束を持ってきた。

そしてまず紙コップを開け、二つのコップに氷を入れ、水を注いで、一つを不死川に渡し、一つをテーブルに置く。

「ま、乾杯ってことで…」
と、不死川は自分のコップをテーブルのコップに軽くあてて、その中身を飲み干した。

そして先生もどうぞ?と、長谷川の口元に持っていくが、長谷川が口を閉じたままなので、

「毒なんて入ってやしねえよォ。今俺も目の前で同じモン飲んだだろ?」
と、笑って鼻をつまんで苦しさに長谷川が口を開けたところで、一口水を流し込んだ。

「君たちっ、教師にこんなことをしてどうなるかっ…」
ケホケホとむせながらそういう長谷川の言葉に、不死川のベッドに腰をかけて二人を眺めていた宇髄が
「意味なく生徒の部屋に無断で入り込んで私物盗もうとした挙句、それ目撃された生徒を口止めに乱暴しようとした教師ってほうがやばいんじゃね?」
と、ニヤニヤと笑いながら肩をすくめる。

そこで長谷川はグっと黙った。

「とりあえず、話進めんぞォ」
と、宣言して、不死川はコップを置いて長谷川のほうを向き直った。

「11月半ば、学園祭で主席の木村が3位の田中に渡された毒入りジュースを飲んで死んだ事件のことなァ。
あれが冤罪じゃ?って話が出て、
二人がいなくなって得すんの誰だ?
2位の俺だ!
って事で、俺犯人説とか出てめっちゃ迷惑してんだよォ、こっちは」

「あれは…状況的にも田中が…」

「それは間違いだ。ちょっと黙っててくれェ。話しならあとで聞く」
口を挟む長谷川を宇髄はギロリとにらんだ。

「まず木村が死んだ毒はどこに仕込まれていたのか、そこから始めっかァ。
もし田中が犯人だった場合、自分しか触ってないジュースのコップに仕込むって時点でもう、身バレ覚悟なわけだよなァ。
だから、わざわざタイミングが掴みにくい、途中で注ぎ足す時に相手が持っているコップに入れるなんて真似しないでも、自分が持ち歩いているジュースの方に毒入れる方が確実だろォ?
注ぐってのは相手が飲み終わった時にするもんなんだから、相手の都合でタイミングが変わるしな。
そこからして不自然なんだよ。
じゃあコップに直接入れたんじゃなければ、何に毒が入っていたのか……
あの時、先生と木村が乾杯したのは同じ未開封の束から取った紙コップに同じピッチャーから入れた氷、そして同じペットボトルから注いだジュースだ。
ここで先生が死ななかった事で、みんな当たり前にそこには毒が入っていなかったと思った。
そして実際木村の死後、警察が調べたらそれらからは毒が検出されなかった……とされてるわけだが……本当にそうかァ?
田中が木村に掴みかかった騒ぎでペットボトルとピッチャーとカップが床に落ちた。
ペットボトルは蓋がしてあったから中身は無事で、カップは床に触れた分は捨てたけど、あとで捨てた分もゴミ箱から出して調べた…だけど氷は?
その時はそんな事になるとは思わなかったから、普通に落ちた氷を拾って捨てて、落ちたピッチャーを洗ったんで、残ったピッチャーの分は調べたけど、肝心の木村が飲んだ氷の入ったピッチャーのは調べてねえんだよなァ

「し、しかし、そこから木村が無作為に入れた氷の入ったジュースを私も飲んでいるんだぞっ!」

「そう…入れてすぐ飲んでる…」
「何が言いたい?」



「先生、氷ってさ、内側外側、どちらから凍るかわかるかァ?」

「………」

「外側から…だよな?
でもってだ、凍る途中だと外側だけ凍って中がまだ液体状の氷ができる。
製氷機の半分くらいの量でこれを作ってだ、中の水を捨てて異物をいれて、製氷機の半分くらいの高さの氷で蓋をして、わずかに水を足してくっつけると…中心部に異物の入った氷の出来上がり。
これを使えば、氷を入れて即飲めば、まだ毒が溶け出さないから死なずに済む。
でもずっとそのコップで飲み続けてれば当然氷は解けて中の毒も飲み物に溶け出すって寸法だァ。
ってことで…この仕掛けをできたのは、氷を用意した人物…先生ってことなんだけど?」

そろそろいいかァ、と、不死川はだいぶ氷の溶けたコップの水を飲み干し、長谷川にも同様に飲ませようとするが、長谷川は慌てて首を振る。


「毒じゃねえよ。たんに今の仮説を実証するため氷の中心に砂糖入れただけだ。
でないと俺まで死んじまうだろうがァ」

と苦笑する不死川がまたコップを口に持っていくと、今度は長谷川もおそるおそるそれを飲み干した。

そして言う。

「あんな仮説を聞かされたら誰だって飲むのを躊躇するだろう。
こんなんで証拠にはならないぞ?」

「ああ、それはそうだなァ」

その言葉も想定の範囲だったので、不死川はニヤリと笑った。
しかし次の瞬間笑みが消え、その目がキラリと光る。


「あんたには運が悪いことに、あの日…氷を片付けたのは俺なんだよ」
「………」

「毒入りの氷なんて知らねえから、これもエコ~とか床に落ちて口にすることはできなくなった氷を、窓から花壇に向かって落としたら…花は枯れるよなァ?
んで、土には毒が残る…。
昨日俺が外出許可とる時に花壇に氷ばら撒いた事を話した時にあんたは気づいたんだろォ。
土を処分しねえとまずい。
で、処分しないとまずい土は花壇と俺の部屋の植木鉢にあるって事もその時知ったあんたは、まず昨日の夜中に花壇の土を入れ替えて、今日、俺が天体観測で夜中まで屋上にいるって事で、俺の部屋に忍んできたってわけだよなァ?
言い訳はできねえぜ?
あんたは冨岡にはっきり“誰にも知られずにあの植木鉢を手にいれたい”って言っちまってんだからな。
まあそこで土から毒が検出されればチェックメイトだ。
どうする?
自首するか、あくまで逃げるか。
自首の方が若干罪軽くなるだろうけど、俺は自分に対する疑いが晴れるならどっちでもいいんだけどなァ?」

手の中の紙コップをもて遊びながらそういう不死川に、長谷川はがっくりとうなだれた。



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