学園警察S&G_20_罠1

(夜中にこっそりなんて、ホント怪しい奴みたいだよなァ…)
(仕方ないだろう。見つからないようにしないと意味がないしな)
(…こんなもんでいいかァ?)
(…ああ、そんなもんか…)
(植木鉢…もってきた)
(おっけぃ、それに土を少し入れてくれ)

(あとは…朝を待って、外出許可取るだけだなァ…)




「しっつれいしまっす」
金曜日の朝、不死川は職員室へと向かった。
手には一枚の紙、外出許可申請書。
週末でも校外に出るときにはこれが必要となるのだ。

それを自分の担任の長谷川に提出。

「買い物か…。どうした?欲しい参考書でもあるのか?」

基本的に不死川はあまり外出はしない。
勉強に必要なものに関してはたいてい学校に揃っているし、日常に必要なものは養父母が手配して送ってくれる。
それ以上にこれといって物品が必要になるような趣味を持たないので外出する必要があまりないのだ。
なので、今回はそれを珍しく思った長谷川がそう言うと、不死川は少し考え込んで、チラリとドア側の担任のデスクとは離れた位置にデスクのある地理の教師で園芸部の顧問相川の様子を伺う。

「どうした?相川先生が何か?」
「いや…あの…」
「…何かやらかしたのか?」
割合と生徒とは距離が近い長谷川は、ばつの悪そうな教え子の様子に、苦笑しつつ
「黙っといてやるから、言ってみろ」
とうながした。

「いや、実は…植物って冷たいもんとかかけたら枯れちまうって知らなくて…なんか俺、11月頃に氷をぶちまけて食堂裏の花壇の花枯らしちまったみたいで…。
謝る前に枯れた花とかは取っ払われてて今冬だからなんも植えてないみたいなんすけど、こっそり土だけ植木鉢にもらってきて部屋においてあるんで、種買ってきて来年植えられるようなもん育ててそれ手土産に謝ってこようかな~と思ったから」

その告白に長谷川は少し固まって、しかしすぐに笑って言う。

「あ~そうなのか。
しかしお前も律儀だな。
11月ならどうせ花も枯れる時期だっただろうし、問題ないと思うぞ?
それでも謝罪したいというなら俺が植えるの手伝ってやろうか?
今の担当は科学とはいえ、理科の教師だからな。
お前よりは上手に育てられると思うぞ」

「いや、とりあえず自分のやったことだし、自分の尻は自分で拭いたいんで。
種の事も育つまで秘密にしときたいんで、内密にたのんます」

「わかった。無理そうだと思ったらすぐ俺のとこに持って来いよ」
と、そんなやりとりのあと、外出許可証にサインをして渡されたので、不死川は礼を言ってそれを受け取ると職員室を出た。


「ウケる。奴、目が笑ってなかったな。
これで仕掛けは完了だな」
職員室を出てくる不死川に、宇髄がにやりと笑って声をかけた。

「まあ…これからが本番だが…」
とその隣では錆兎が腕組みをして立っている。


そして職員室から出てきた不死川を挟んで二人は
「…今晩は二手に分かれるか?」
「そうだな。じゃあ俺は義勇と花壇に行っておく」
「じゃ、俺は不死川と部屋待機だな」

という会話を交わし、それぞれ不死川の背をパン!と叩くと、そのまま二人は彼らの教室へと帰っていった。

これで今日明日中くらいには全てがはっきりするだろう。




それから十数時間後……食堂前の花壇には二人の人影……

(…義勇、寒くないか?)
(…少し…でも別に大丈夫だ)
(…そうか。じゃあこうしていれば暖かいだろう?)

夜…義勇は錆兎と共に窓から抜け出した。
そして食堂前の花壇に陣取る。

正直義勇が来て何ができるわけでもないのだが、安全とは言えない学園内で自分から離したくはないと言う錆兎の希望で、義勇も同行していた。

一応コートは着て来てはいるものの、夜はやはり寒い。
ふるりと義勇が身震いしたら、錆兎は前述のように聞いてきてくれて、自分のコートを開いてその中に抱え込むように義勇を抱きしめてくれる。

錆兎は優しい。
何時も優しい。
でも本当のところはどうなのだろう…と、何もすることがなくただ待っているだけの時間が続いたので、義勇はふと悲観的な考えにとらわれてしまった。

そう言えばゴタゴタのうちに有耶無耶になったが、連絡を入れずに不死川とパンを食べて戻ったあの日、錆兎はやっぱり怒っていたんじゃないだろうか…。

2年前の最後の日もそうだが、それが錆兎に対して悪いことをしたのだと義勇が気づいてから謝ろうとしても、いつも別に怒ってないで済まされてしまうので、義勇はきちんとした形で謝罪をするということができないまま流されてしまっている。

錆兎は器の大きい男だから、とても許容範囲が広くて義勇の非礼もそうやって怒らずにいてくれているのだろうが、だからと言ってあまりに甘えすぎれば見放されてしまうのではないだろうか…と、それが怖くて、

「さびと…」
「…ん?」
「この前の昼…」
「この前?」
「うん…不死川とパン食べてて連絡忘れた日…」
「ああ、あの日な。
どうした?長谷川に何か嫌な事をされたのを思い出しでもしたか?」
「そうじゃなくて…」

と、改めて自分の非について謝ろうと思ったら、逆に嫌な事を思い出したのかと心配されてしまって困ってしまった。

「ちゃんと謝らないとと思って……」
と言えば、──ごめんって謝ってただろう?…と言われてしまう。

「えっと…それはそうなんだけど…すごく軽い言い方で…昼休みつぶさせたのに…。
錆兎、あの時すごく怒ってたみたいだったし…」


そう言って、後ろから義勇を抱え込み、自分のコートに一緒に包みこむようにして待機している錆兎を後ろ向いて見上げれば、その視線に気づいた錆兎は

(…あ~、うん…あれは…)
と、フイっと顔を背けた。

…やはりまだ何か怒っているのか?
そう思ってそれを口にしてみると、錆兎が気まずそうに眉尻を下げた。
そして何度か口を開きかけてはつぐみを繰り返し、最後にやっぱり顔を背けたまま言いにくそうに小声で言った。

――…動揺してただけだ…

え?

顔を背けているため義勇からはよく見える耳が真っ赤だ。

――未熟者ですまん。感情が制御できなかった。

みっともない…と、ため息をつく横顔が何故だか大人びて見える。
義勇を抱え込む腕に少し力が入って、さらに距離が縮まった。

――こんな仕事をしているから、誰かが大怪我するとか、それこそ命を落とすとかも慣れているはずだったんだが、お前に何かあったら…と思うと、居ても立っても居られなくなって、冷静さをすっかり欠いていた。

──それって…まるで俺の事が特別に好きみたいだよな…。
と、義勇が苦笑すると、

――へ?
と、錆兎は今度こそ言葉もなく呆けた。

――なぜそうなる?
そう詰め寄る錆兎のあまりの勢いに義勇も慌てて

──いや、違うのはわかってるけど…
と言うが、

――全くわかっていないだろうっ
とツッコミがはいる。

「違わない。俺にとって特別なのが何故伝わっていないんだ?!
俺としては十分特別扱いしていたし、特別扱いしていることも伝えていたと思ったんだが?
親兄弟でもないのに特別に大切にするというのが、何故なのかなんて当然わかっていると思っていたんだが、伝わっていなかったのか…。
………
………
ふむ…俺が悪いな。
お前が人の気持ちや言葉の裏を読まない人間だということをわかっているようでわかっていなかった。
きちんとした言葉で伝えるべきだったな」

錆兎は義勇に言っているのか自問自答しているのか…普段目を見て話すことを信条としている彼にしては珍しく視線を逸らしたまま、少し困ったような悩んでいるような顔で言った。

そして、今度は義勇の顔をしっかり見て言う。

「義勇…俺はお前のことを特別な意味で好きだ。
この世で唯一、親愛ではなく恋情としてだ」

そう言う言葉は錆兎にしては珍しくどこか不器用な感じで、顔が真っ赤だ。

「さびと…顔が赤い」
と、それを指摘すると
「…それは…まあ、そうだろう。
こういうの、慣れてないから」
と、何かに耐えるように…あとから思えばそれは羞恥だったんだろうが、それでもまっすぐと義勇から視線を逸らさず、続ける。

「いつも一番に守りたいし、大事にしたい…」
「触りたいし、キスしたいし、その先もしたい…そういう意味の好き?」
と聞くと、動揺したように言葉に詰まって少し固まり…しかし一瞬のちに、
「ああ、そうだ」
と、ため息と共に言った。

「…よかった……」
と、それに義勇は笑う。

「…え?」
「俺と一緒だ。錆兎もそうで嬉しい…」

ふわりと錆兎の首に義勇の腕が回って、呆然と固まっているとふにゅりと柔らかいものが唇に当たって、錆兎は脳内パニックになって固まった。

え?ええ??

「初めては…絶対に錆兎が良かったんだ」
と、錆兎よりも一回り小さい両手を唇にあててむふふっと笑う姿は、どう見ても同年代の同性に見えない。

慣れている…わけではない…よな?
初めてって言ってたし……

と、脳内色々がグルグル回る錆兎を義勇は吸い込まれそうな青い目で見上げて言った。

「初めてって…一度きりだから…。
事故でも故意でも、錆兎以外と唇が触れてしまう何かが起きたら嫌だったから、錆兎が嫌じゃないなら絶対にすぐしないとと思ってたんだ」
と、真剣な顔で言われて、なるほど、と、納得する。

確かに長谷川に科学準備室に連れ込まれた先日のような出来事があれば、そういうこともあるかもしれない。

うん、自分の認識が甘かった。
これは義勇が正解だ…と、錆兎も思う。

しかし、だ、それに続いて
「もう一度…」
と、引き寄せられるのは、
「だめだ」
と、手で制する。

「…なんで?いや?」
と、悲しい顔をされて非常に心が痛むわけだが、
「そうじゃなくて……」
と、錆兎は眉を八の字にして苦笑した。

そして
「どうやら誰か来たようだ。おそらく犯人だと思う。動画を撮らないと…」
と、顔を上げる。

「でないと、落ち着いて思いを語れないだろう?」
と、錆兎は気持ちを切り替えてビデオを回した。


こうして犯人が作業を終えるまで1時間。
帰っていくその姿まで録画を終えて、撮影終了。

残念ながら寒さと緊張で甘い空気は薄らいでしまったが、互いに気持ちを確認したうえで部屋も同室なのだからいくらでもまた想いをかわし合う機会はある。

ということで、二人とも寒さでガチガチで震えながら部屋へと戻っていった。




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2 件のコメント :

  1. 「基本的に宇髄はあまり外出はしない」→文面からして多分、不死川の間違いかと…ご確認ください。(;'∀')💦
    義勇さん可愛いすぎる(*´▽`*)空気を読まずにこのタイミングでやって来るとは…犯人の××(-_-)/~~~ピシー!ピシー!

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    1. はい、めっちゃ不死川の間違いです😅💦
      ご報告ありがとうございます。
      修正しました。
      空気読んでもっと遅れてきたら、ちょっと二人が取り返しのつかないところまでしてしまっていると困るので、まあいいタイミングだったということで😁

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