まばゆい光に目をつむり…そして目を見開くと、そこには記憶のままの姉がいた。
と同時に怒涛のように記憶がなだれ込んでくる。
義勇は現在9歳。
少女であるのに義勇と言う男のような名であるのは、すでに姉がいたこともあって父親が跡取りの男の子を切望していたからで、義勇が女として生まれても、男でなくともしっかり者に育ってくれればとそのまま名づけたらしいが、まったくそのような性格には育たず、父はその名づけに反対した母と姉にそら見たことかと怒られていた。
そんな両親は去年に事故で亡くなり、年の離れた姉はその前からお付き合いしていた男性と明日祝言をあげることになっていて、今日は二人きりで過ごす最後の夜。
姉の蔦子の白無垢がかけてある居間で、義勇はねだって明日蔦子の祝言の時に着る予定の可愛らしい青地に花模様の振袖を着てみさせてもらったところだった。
「ああ、やっぱり義勇は可愛らしいわ。
将来は素敵なお婿さんをみつけないとね」
と、年が離れている分、義勇を猫可愛がりしている姉は自分の花嫁衣裳のことよりもはしゃいでいる。
義勇はと言うと、男であった時の記憶の上にすさまじい量の今生の記憶が流れてきたせいで頭が混乱してぼ~っとしていたので、何も知らない蔦子は
「このところ忙しかったから疲れちゃった?
そろそろ着物を脱いで寝巻に着替えて寝ましょうか」
と、心配そうに頬に片手を当てて小首をかしげた。
その時である。
表玄関の方でバリバリバリっ!!!とドアが破られたようなすさまじい音がした。
そこで義勇ははっとする。
そうだ、今日は前世の通りなら姉が鬼に喰われてしまう日だ!!
姉は異常を悟った瞬間、義勇を押し入れに閉じ込める。
「義勇、絶対にここから出ちゃダメっ!声も出しちゃだめよっ!!」
と言われて、今後の展開を知っている義勇は
「でも姉さんが危ないからっ!!姉さんも一緒に隠れようっ!!」
と必死に縋った。
すると姉は
「いいから姉さんの言う事を聞いてっ!!」
と、いつになく厳しい声で言って、それでも義勇が言うことを聞きそうにないと悟ると、なんと押し入れの戸が開かないように箒でつっかえ棒をしてしまったらしい。
「姉さんっ!!姉さん、開けてっ!!!」
義勇は必死に戸を叩いたが、齢9歳の少女の力では開けることができない。
押し入れの中で必死に泣いて叫んで…涙も声も枯れ果てた翌朝…祝言の準備に来た親戚に発見されて押し入れを出られた時には、姉はすでに死んでいた。
遺体は無残な状態だったらしく義勇には見せてもらえなかったが、義勇は知っている。
姉は鬼に喰われたのだ。
それを口にしたらどうなるかもわかっていたはずなのに、義勇の感情は子どものままで、昂った気持ちのまま姉は鬼に喰われたのだと主張したら案の定狂人扱いをされて、着の身着のままで田舎の親戚の家にやられることに…。
ひどい…と思った。
姉と姉妹としての生活を楽しむ時間も全くなく、悲しい思い出だけ繰り返す。
意識が戻って姉がすぐ殺されてしまうなら、なんのために巻き戻ったのだろう。
さらに悪いことには、前世では田舎に連れていかれたのは姉が殺されて3日後だったが、今回は2日後。
日付がずれているとすれば、逃げ出しても前回の猟師がたまたま見つけてくれた時間と違ってしまう。
0 件のコメント :
コメントを投稿