「今日のコンポート、あれ良いアイディアだな。
保冷剤にもなるデザートなんて、さすが義勇だ。
最初は俺の子どもになりたいと言っていたが、今はお前も料理がかなり上手くなったし、子どもよりむしろ嫁にでもなれそうだな」
“鱗滝錆兎の嫁”…ああ、なんて素晴らしい立場だろう。
なれるものならぜひなりたい。
いや、ならせてください…と、義勇は切実に思った。
よくよく考えて見れば子どもは唯一ではないが、嫁は唯一だ。
ここ1ヶ月くらいですっかり見慣れた黒いエプロン姿。
カッコイイのにすかした感じが全くなく親しみやすい。
こんな相手とずっとこうして一緒にキッチンに立てたらどんなにいいだろう…。
「そんな事言ったら本気で嫁に来ますよ?」
と言ったのは決して全くの冗談だったわけではなく、溢れ出る願望だったわけだが、錆兎は当たり前に冗談と受け取ったらしく
「ああ、かまわんぞ。もらってやるからいつでも来い」
と爽やかに笑って言う。
最初は戸惑った。
そして寂しさからくる勘違いだと思った。
しかし最近はもう諦めと共に認めてしまった。
冨岡義勇は鱗滝錆兎に恋している。
彼と一緒にいたいし、彼と色々を共有したいし、彼の特別になりたい。
もちろん告白など出来るはずもなく、それどころか自分から甘えに行くことすらなかなか出来ず、こうやって褒めてもらえるネタを一生懸命探して頭を撫でてもらうのが関の山だ。
それでもこうやって二人で過ごせるのは幸せだった。
このきっかけを作った、自分をいつも話題に入れてくれず落ち込ませた同級生達に感謝したいくらいだ。
その日は金曜日で、安かったので大量に買ったキウィを一緒にジャムにするため、鱗滝家にお泊りだった。
というか…あれ以来義勇は金曜日はお泊り出来そうな理由を一生懸命探しては錆兎に進言している。
錆兎の側は別に理由などなくとも誘ってやろうとは思っているのだが…。
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