可愛い…。
とんでもなく可愛い。
その様子がとてつもなく可愛らしい。
なまじ本当に愛らしい顔立ちをしているので、まるで料理番組に出ている子役の少女のように絵になった。
正直、最初義勇が泣いているのを見て、色々予定が狂うな…と、もう習慣づいている他人の世話ではあるものの若干困ったなと思ってそれでも放っておけなくて誘ったわけだが、普段は誰に対しても一歩引いているような、距離を決して縮めてこない後輩がなんだか懐いてくる様子は、懐かない野生の小動物がだんだん心を許して手から餌を食べてくれたり触れるのを許してくれたりした時のような、達成感がある。
本当にこんな可愛らしい様子を見られただけで、誘った甲斐はあったなと、錆兎は思った。
距離を取っている…という風に見えたのも、単なる人見知りで近づいてくることができなかっただけだったのだろう。
そんな態度から、周りの娯楽から除外されてしまっている現状は、まだ12歳の子どもにとっては随分とつらかったに違いない。
かくいう自分も特に問題も起こさず自分から寄ってくることもない義勇のことは特別に手や声をかける対象から外してしまっていた気がする。
しかし仲間に入れてもらえなかったと一人で泣き、うまく出来たと褒めてやると嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべる様子は本当に普通の子どもだ。
これからは今までの分も含めて少し気をつけてフォローしてやらないとな…と、錆兎は【貧乏人のキャビア】に使った残りのセロリの葉を刻みながら、そんな事を思った。
「おぉ、綺麗に混ざったな。
今日は他で使った残りがあるから、あとはこいつも一緒に混ぜるぞ」
義勇がちょうど3つの肉を袋の中でスパイスをまぶし終わった頃、錆兎はボールに入れた刻んだセロリの葉を次々肉の入ったビニールに入れていく。
それを二人で袋の上からまたワシャワシャ揉み込んだ。
「これ…これからさっきの肉みたいに鍋で燻すんですか?」
楽しい気分でそう聞くと、錆兎はん~と少し考えこむ。
「肉はだいたい2~5日くらいそのまま冷蔵庫で寝かせるんだ。
今は秋だから…まあ3,4日後だな、燻すのは」
「…そう…なんですか……」
目に見えてショボンとする義勇はなんだか本当に幼子か小動物のようで可愛くて錆兎は小さく吹き出した。
「燻す時は教えてやるから、またうちに来て一緒に燻すか?
せっかく初めて作ったんだから最後までやりたいよな?」
そう言ってやると、義勇の顔がぱぁあ~っと輝く。
学校では表情に乏しい印象だったが、こうして近い距離で接してみると、意外に喜怒哀楽が表に出る少年なことがわかった。
ソーダキャンディのように丸く大きな青い目は、言葉より雄弁にその感情を語る。
嬉しい時はなんだかキラキラと光を放っているように見えるし、悲しい時は少し色濃くなって、さらに悲しみが強くなると、そこからころんころんと透明な涙の粒が転がり落ちるのだ。
確かに口下手でわかりにくくはあるが、決して無口というわけでもない。
拙い言葉で一所懸命伝えようとはしてくるのだ。
ただ、言葉が出るまでが少し遅いので、ゆっくり待ってやらなければならないということも今日初めて理解した。
そんな義勇は錆兎の提案に、嬉しい時のキラキラした目をして喜びに飛び跳ねんばかりに言う。
「いいんですかっ?」
「ああ、構わないぞ。
俺の家は当分祖父が忙しくて帰宅が11時過ぎで、それまで1人だから。
あ、でも部活後で遅くなるから、お前の親御さんが良いって言ったらな」
「大丈夫ですっ!主将のご自宅と言えば問題ありませんっ!」
そう勢い込んで言う姿は、なんだか嬉しいことがあってじゃれついてくる子犬のようで、錆兎はまたよしよしと頭を撫でてやった。
本当に可愛いな、こいつ…。
と思いつつ、でも当分他はそれに気づかないといいな…などと思ったのは秘密だ。
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