他人と違う…それは色々な意味合いがあるのだが、この人の…鱗滝錆兎という人物の違い方は、かなり好意を持たれる系の違いかたなのではないだろうか…。
少なくとも自分が女性なら絶賛片思いだ。
冨岡義勇は鱗滝家で台所に立つ錆兎の後ろ姿を目で追いながら、そう思った。
義勇はどうもいつも同級生から距離を取られがちだ。
いや、同級生だけではない、接する人間全てからと言った方がいいだろうか。
まず同級生達が楽しげに話しているのに入って行こうとすると、会話を中断され、話題を変えられる。
何故?と聞いても返ってくる答えは
『冨岡が聞いて面白いようなすごい話題でもないから』
で、すごくなくても良いから聞きたいと言うと大抵困った顔をされるので、やがて聞かなくなった。
唯一、同級生の竈門炭治郎は話しかけてくれて、なんなら明るい彼を取り囲む多くの友人達に義勇も話にいれてくれるよう言ってくれるのだが、友人達はちょっと困ったように黙り込んでしまうので、なんだか申し訳なくて義勇の方から距離をおくようになった。
今日もそんな感じで皆で部活後に寄り道をする話をしていたが、自分は入れてもらえなかった。
あのラーメン屋で何食う?…と話している同級生達に
『どこか寄るの?』
と聞いても、
『あー、別にお前が興味持つようなとこじゃねえよ』
と、いつものように不死川に暗にシャットされた。
そして今日に限っていつもは他との仲を取り持ってくれる炭治郎が家の都合で部活を休んでいたので、それ以上義勇にはどうにもできず、1人ぽつねんと取り残される。
今日は自分も両親が留守で姉も仕事が遅いから暇なのにな…と思いながら、自分一人だけ分かれてまっすぐ帰宅というのもひどく悲しくて、帰宅の時間をずらすため部室に残った。
こうしてたった一人で何をするでもなくベンチに座ると、普段賑やかな部室もシン…としていて、余計に孤独感が増す。
悲しい…寂しい……。
もうどうせ誰もいないのだから…と思って感情のまま泣いていると、誰もいないと思っていた部室のドアが開いた。
驚いて顔をあげると、そこに立っていたのは主将の鱗滝錆兎先輩だった。
「…冨岡?」
と、駆け寄ってきてそう聞きながら涙をぬぐってくれる手。
相手が自分だからといって、他となんら態度を変えることもなく、まるで普通に年下の後輩に接するように――実際にそうなのだが他の先輩…下手をすると教師ですら自分にだけはそう接してくれない――心配してくれる。
当たり前に、他と同じ距離感で接してくれるのだ。
その後事情を話すと話を聞いてくれるという。
義勇の親が心配するだろうから帰りながら…という錆兎に親は今日帰宅せず姉は仕事で遅いので一人なのだという旨を告げると、なんと自宅に誘ってくれた。
皆に好かれ、皆に親しまれている錆兎にすれば普通の事なのだろうが、義勇にしたら大事件だ。
学校後に寄り道どころか、知人の家にお呼ばれだ。
一気にステップアップだ。
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