秘密のランチな関係Ver.SBG_14

「鱗滝く~ん、エプロン用意してきたわ、はいっ」

産屋敷学園中等科剣道部強化合宿。
春夏冬と長期休みごとに行われるそれは、産屋敷学園剣道部の伝統であり、学校所有の東京郊外の合宿所で行われる。

合宿所は格安なものの、そこは部活の延長線上とあって、例年食事は自炊。
マネージャー達がその役割を負うが、毎年なんのかんので6,7人はいるマネージャー達が今年は2年2人、1年1人の計3名しかいない。

ゆえに今年は当然、部員達もその任を負わざるをえない…が、いるだけ邪魔になる輩も多いので、志願制。

自他共に認める部員達の父と言われる錆兎を始めとして、マネージャーの佐倉と錆兎の接近を阻止したい1年組、不死川、炭治郎、煉獄、善逸の4人と、もちろん義勇も志願組だ。

練習を少し早めに抜けて、食事の1時間前。
佐倉がご機嫌でエプロンを手に錆兎に走り寄る。
もちろん自分もいかにもブランド物な新品のエプロンを装着済みである。

錆兎に差し出すのも同じブランドの色違いエプロン。

「北欧の有名メーカーのでね、評判いいのよ」
とにこやかに言うが、錆兎はそれを少し手で制して

「あーすまない。俺は自前のものでないと落ちつかないから持ってきた。
他の奴らに貸してやってくれ。
おーい、エプロン持ってきてない奴いるか~」
と、後ろを振り返って声をかけると、は~い!!と元気良く手をあげる1年組。

「佐倉がエプロン貸してくれるというから、皿運び以上のことやるやつは借りておけ」
と、呆然とする佐倉の手からエプロンを取ると、一番器用そうな炭治郎に渡す。

そうしておいて錆兎が
「おい、義勇、俺の~」
と、それだけ言うと、当たり前にエプロンをつけた義勇が
「はい、もってきてます」
と、普段錆兎が愛用している黒いエプロンを手に駆け寄ってきた。

阿吽の呼吸である。

それに少しムッとする佐倉。
しかし錆兎の前とあってグッとこらえ、くるりとマネージャー二人が運び出している食材の方へと歩を進め……キレる。

「ちょっと何、これっ!!!」

緑色の長細い野菜を振り回しながら柳眉を逆立てて叫ぶ佐倉にお互いお互いにしがみつくマネージャー二人。

「…え?…えと…きゅうり…だけど……ちょっと大きいけど安かったから少し多めに買っておいたんだけど……」

おそるおそる言う1,2年生マネージャーに

「ちょっとっ!!調理できないもの多めに買っちゃったのっ?!!やる気あるのっ?!!
それとも嫌がらせっ?!!!」
と怒鳴る佐倉。

「…きゅうり…別に調理しなくてもいいんじゃね?塩ふって食えば良いと思うぜ?」
と言う伊之助に、
「…何かきゅうりとは違う物質な気がしないでもないんだけど…」
とこそこそ返す善逸。

そんな風に平和にきゅうり談義をしている二人の横では
「エプロンと大きすぎるきゅうりのせいで佐倉、すっかりウサ先輩がそこにいること忘れてんなァっ」
ととてつもなく良い笑顔の不死川。

そんな中でまたもまともな発言は炭治郎だ。

「善逸、伊之助、あれきゅうりじゃないぞ。ズッキーニ。
夏野菜と一緒にトマト味で煮込んだりするよな」
と指摘する。

そのあたりで仲裁に入ることにした錆兎。

マネージャー3名の方に歩み寄って、
「ストップっ!ズッキーニなら別に普通に調理できるし食えるだろ?」
と、スポーツ選手並みの握力でミシミシとズッキーニを握りつぶしかけている佐倉の手からズッキーニを取り上げた。

そこで佐倉もハッとしたらしい。

「あ…も、もちろん、調理したことはあるわよ?
私は料理得意だし…。
でも今日は他の材料とか揃えてないし……」

ともごもごと口ごもる佐倉に、錆兎は

「普段食う食事なんて、その時にある材料で適当に作るものだろう。
佐倉の家では毎日それようにフルセットで食材揃えているのか?」

といいながら、他の食材は~…と、食材の入った箱と冷蔵庫を覗いて、玉ねぎとひき肉、トマト缶をピックアップした。

「おい、義勇、これ頼む」
と、その中で玉ねぎをポイポイ義勇に投げてよこす錆兎に、当たり前にそれを受け取ってみじん切り始める義勇。

「なんでアレだけでみじん切りなんだ?」
と不思議そうに首をかしげる炭治郎に、義勇は
「あー…なんとなく?」
と、笑って玉ねぎの皮を剥いておくよう指示した。

こうして大量に玉ねぎのみじん切りが出来上がった頃、錆兎は錆兎でズッキーニを大量にみじん切りにしている。
そうして中華なべに油をしいてそれらとひき肉を豪快に炒め始めた。

「今日の昼のパスタはミートソースな。
パスタに絡めるように買ってあったタラスパのソースはサラダにするぞ。
手の空いてる奴、ジャガイモ剥いて切ってゆでてつぶせ。
それにソース絡めろ」

主将の見事なフライパンさばきにほぉぉ~っと感心していたマネージャー二人と1年生組は慌ててジャガイモに手を伸ばした。

その中で伊之助が
「主将、料理できるのか?
というか、ミートソースってそんなに簡単に出来んだな」
と物珍しげに錆兎の手元を覗き込む。

それに対して錆兎は淡々と

「日々の料理なんか分量や材料なんかだいたい適当だぞ。
ミートソースならな、家庭で少量ならたまねぎ1をみじん切りして炒め、何でもいいからひき肉200gくらいを追加して炒めて、トマト缶をぶち込む。コンソメ×2をそこに放り込んで好みで大匙1くらいの砂糖。
それで煮詰めればそれっぽいのが出来る。
炒める時チューブでも良いからにんにくとか入れると香りが良くなって食欲そそるぞ。
今日はそれにズッキーニをみじん切ったのを入れて玉ねぎと一緒に炒めたが。
余ってる野菜があったらとりあえずみじん切って一緒に炒めておけ。
俺らは大抵は嫁さんよりは体力あるだろうし、将来、同等くらいの仕事で共働きするなら体力ある俺らが食事くらいは作らないとな」
と、両手で持っていた中華なべを片手で持つと、伊之助の頭をクシャクシャと撫で回した。

上級生も含めて他の人間にそんなことをされれば子ども扱いすんな!とキレる伊之助も、錆兎には大人しく撫でられている。

「主将は本当に父親という感じだなっ!」
と、それを遠目で見て聞いて、煉獄が感嘆のため息をつく。
「イクメンて奴だなァ。
あいつに育てられたらモテる男に育ちそうじゃね?」
と、頷く不死川。

そんな一年生組と違い、佐倉は錆兎に直接駆け寄って声をかけた。

「鱗滝君て…料理上手いんだ」

にこっと意識的に笑みを浮かべて上目遣いにそう言う佐倉に、伊之助は若干警戒の色を見せるが、錆兎はほかに対するのと全く変わらない調子で

「特別に上手いわけではないけどな」
と笑う。

そして…その直後、そのままの笑顔で当たり前の口調で爆弾を落とした。

「料理を嫁に教えたのは良いが、今では嫁の方が上手いしな」
「嫁っ?!!!」

一年生組はいっせいに義勇を見て、佐倉は叫んで錆兎を凝視する。

「ああ。毎日弁当作ってもらってただろう?
あ、そうだ。ミートソース食べきれないよな、おい、義勇っ!!」
「はい。今作ってますよ。残ったらエンパナーダの具にしましょう」

と、佐倉に話しかけながら手元の鍋を見て錆兎が振り返ると、その先には小麦粉を練り練りする義勇の姿。

「冨岡ァ、エンパナーダって何だァ?」
「鱗滝君っ、嫁ってっ?!!今彼女いないって言ってたわよねっ!」
と、間延びした不死川の声と切羽詰った佐倉の声が重なり合って響く。

そこに少し遅れて錆兎が
「おおっ、言う前に作ってたか。気が利くな。さすが俺の嫁」
という言葉と共に中華なべを置くと義勇に駆け寄って、その頭を引き寄せるとつむじにチュッと口付けを落とした。

目を見開いて凝視するのが数名と悲鳴を上げるのが約2名。

「錆兎先輩っ…いきなり何をっ?!!!!」
真っ赤な顔で叫ぶ義勇と、
「嫁っ?!まさか冨岡君じゃないわよねっ?!!うそっ!!!」
と叫ぶ佐倉。

そして、ハッハと笑う錆兎。

「バラしても良いって言ったのお前だろう?」
「そんなことっ……言いましたけどっ…言いましたけどっ、だけどいきなりこれはっ……ちょっと驚きます…」
「別に口にしてるわけじゃないし…」
「…く、くちに…って……」
「バラすって何っ?!彼女はいないけど、彼氏はいるってことっ?!!!」

阿鼻叫喚。

「…カオスだな…」
「…本当に……」
と、呆然とそれを遠巻きに眺める煉獄と炭治郎。

「さすが冨岡っ!!!名演技だぜェっ!!!!」
と、ガッツポーズの不死川。

女子マネ達はなぜかすごい勢いでスマホをいじっていて、唯一またカオスに入りきれなかった善逸は…

「さっきの話だとこれ…煮てればいいんだよね?」
ご飯食べれなくなるの嫌だしね…と呟きながら、錆兎が放置した中華なべを火にかけてことこと煮つめ始めた。


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