一緒に謝りに行ってやろう、そう決めて部屋のドアを開けた時だった。
ドアのすぐ前でまさに今ドアをノックしようとこぶしを握っている男がいた。
義勇と違って編入試験をほぼ満点を取って合格したということで、成績が全てのこの学校では正式にクラスが決まる前から同学年どころか上下の学年の話題までかっさらった男。
他人に興味がない不死川でも知っている、いまや学校一の有名人である。
不死川と同じく顔に大きな傷があるが、それで避けられる不死川と違い、元の顔立ちがたいそう宜しいからなのか行動性が影響しているのか、特に避けられている様子もなく、転校してきてさして日も経っていないと言うのに、当たり前にクラスに溶け込んでいた。
一学年2クラスしかないので、隣のクラスと言ってもたまにチラリと見かけることがあったが、いつ見ても級友に囲まれて笑顔だった気がする。
なのに今目の前にいる彼は、視線だけで人を射殺せそうな目で不死川を睨んでいた。
ああ、これ、誤解されてるよな…と思ったら案の定で、彼は不死川をキツイ目で威嚇するように視線は向けてきているが一言もなく、その後ろにいる義勇に
「義勇…早くこちらに来い…」
と、静かに言う。
しかし絶望的に他人の思考を察することができないのだろう。
義勇は不死川に向けている厳しい顔で自分が怒られていると思っているらしい。
怯えて泣き出した。
これがさらに誤解を加速する。
「…きさま…義勇に何をした…」
と、もう死ぬ、殺される…と、さすがに不死川も青ざめ始めたところに、張りつめた空気に割って入ってきたのは、やはり隣のクラスの宇髄天元。
「錆兎、お前の姫さん怯えてるぜ?
不死川じゃなくて、お前の態度に怯えてる」
と、ポンと錆兎の肩を叩くと、その横を通り過ぎて大柄な体を少し縮めるようにして、義勇の顔を覗き込んで言った。
「俺は宇髄な?隣のクラスで錆兎のダチだ。
一応こっちの状況から説明しておく.
昼休みにお前さんがやばい教師に連れて行かれたってんで、俺らは救出しに行ったんだが、お前さんは不死川に連れて行かれた後だった。
でもって…お前さんと連絡が取れねえってんで、昼休み中捜す羽目になったんだがな?
心配しただけで、それを怒ってるわけじゃあねえからな?
不死川は色々噂とかあって、それは俺が錆兎に話した。
それに対して錆兎は”怪しい奴”じゃなくて”あやしまれそうな奴”って思っていただけなんだけど、他の人間とは興味なさげに距離を取っていた不死川がピンポイントでお前さんに構うから、色々な方面から心配して、とりあえずお前さんに危険が及んだら大変だってことで、逃げるお前さんを捜しまくって、これは昼休みのこともあるし、お前さんが居る場所はもしかして…って思ってここに来てみたってわけだ」
それは義勇に対する説明でもあるが、不死川に対しての説明でもあるらしい。
宇髄は言い終わるとチラリと視線を不死川に移した。
ああ、釈明の機会を与えてもらえたらしい。
と、そのことに気づいて不死川はとりあえず頭を下げることにした。
「あ~…ちょっとばかし知人に似てて放っておけなくなってお節介焼いちまったんだが、混乱させてすまなかったァ。
他意はねえんだ。
今も、こいつが昼飯の約束すっぽかして鱗滝を怒らせた、どうしようって飛び込んで来たんで、そいつァ謝るしかねえだろ、一緒に謝ってやるからってそっちに行こうとしてたとこだったんだが…」
と、謝罪する。
「…知人?」
と、少しばかり殺気は収まったが、まだ警戒の色を残したまま錆兎が眉を寄せるのに、不死川はそこまで言うか言うまいか少しばかり悩んで、しかし結局誤解を解くには全てさらけ出してしまうしかないだろうと判断。
「…末の妹。まあ、こんな風にデカく育つ前に死んじまったけど…。
どこか不器用で必死に誰かをおっかけてる感じがなんとなく似てる気がしてなァ。
俺らの年まで育ったらこんな感じだったのかと思ったら、なんだか助けたくなっちまった。
でもすまねえ。
迷惑だろうし俺ァもう近寄んねえから、こいつを怒らないでやってくれェ」
そう言いながらほとんど反射的に義勇の頭をくしゃりと撫でて、…ハッとして慌ててその手を離した。
宇髄はそこで今度は視線を錆兎に移す。
そして錆兎は小さくため息。
「いや…こちらこそ義勇が世話になったのに喧嘩腰ですまなかった。
…実は機会があったら不死川に聞いてみたいことがあった。
気分を害していないようなら、話を聞かせてもらっても構わないだろうか?」
と、とりあえず誤解と怒りは解けた様子で言う錆兎にホッとしつつ、不死川は
「ああ、構わねえよ。
ここじゃなんだから入るかァ?」
と、少し体をずらして中に促そうとするが、そこで空気を読まないことには定評のありすぎる義勇がきっぱり、
「不死川の部屋は他人を招くことがないそうだから。
飲み物も水しかない」
と言いきるので、錆兎は慌てて
「すまんっ!!義勇は悪気は全くないんだっ!」
とその口を押え、宇髄は爆笑しながら、
「別に茶ぁしに来たわけじゃねえからいいんだが、無難に話を聞きたい奴の部屋に行くかぁ」
と、錆兎と義勇の部屋で話すことを提案して、結局4人で移動した。
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