学園警察S&G_13_長子、不死川実弥

そうして危ういところを救出したのだが、なんだかセクハラをされかけたことで動揺しているのが丸わかりで、じゃ、またなっ!と放置できなくなったのは、不死川が心の底から長子だったからだろう。

自分と一緒に居る所を見られれば自分は構わなくても義勇がおかしな目で見られて困るだろうからと、いつも自分が昼飯を食べている人気のない階段に誘導して、自分の昼食用のパンを半分分けてやって、一応自分と一緒に居るとあまり宜しい目で見られないから人の居る所では無視をしろと忠告したうえで、話を聞いてやることにする。

そうすることにしたのは、男なのに男性教師にセクハラされかけたなんてことは、他に言いにくいだろうし、かといって一人で抱え込んでいるのもショックが大きいだろうということで、ガス抜きのつもりだった。

だが、このお坊ちゃん、そう、本当に能天気なお坊ちゃんと言うにふさわしいこの少年は、同時期に転入してきた同室の同級生が実は2年前に転校で会えなくなった想い人だったということから、彼がいかにカッコいいか優しいか、彼の頬の傷は2年前に自分を暴漢からかばって出来た傷で、動揺していた当時の自分はお礼もお詫びも言えなかったから嫌われただろうと思っていたら、全くそんなことはなくて、優しい彼は自分の事をずっと気にしていてくれたらしいことまで、昼休みいっぱい実に幸せそうに語ってくれたのだった。

正直、呆れていないとは決して言えないが、もし妹が生きていて優しく賢く強い理想的な男に大切にされているなんて話を聞いたなら、それがどんなシチュエーションで始まった話だろうと、不死川自身も幸せな気持ちになったと思うので、まあ、いいかぁと思って聞き役に徹する。

話している相手は本当に同い年の同級生のはずだが、心情的には半分自身の子どもみたいに思っていた末の妹に対するような気持ちで、久々になんだか和んだ気になった。

そこで終われば奇妙ではあるが、まあ、良い話だったのだが……


その日、他の曜日よりも少しばかり早く帰った寮の部屋をノックする音がして、あの事件以来本気で誰も訪ねてきたこともなかったのに珍しい…と、ドアを開けてみれば、大きな丸い目を涙でいっぱいにした、例の同級生。

「おい、なんかあったのかァ?」
と、思わず頭を撫でつつ部屋にいれると、義勇はヒックヒックとしゃくりをあげながら、
「錆兎に…嫌われたかもしれない…」
と、さらに泣き出した。


しかし、だ、この部屋には来客など久しくない。
そして不死川自身は勉強以外にこれと言って注意や興味を向けることがなくなって長い。

つまり、何が言いたいかというと、人が来ても茶の一つもない。
冷蔵庫から大量買いした安いミネラルウォーターを出すと、ボロボロと泣いている義勇に一本渡してやる。

すると、いきなり来たくせにこの坊やは
「…普通の…水?」
と、どこか不満げに言う。

ああ、こういうところもそうだ。
上の2人の妹はなんだかませてきたのか、ダイエットなんて言い出して糖分を控えていたが、一番下の妹ことだけは、甘いものを欲しがって、よく駄々をこねていた。

その分、不死川が自分のおやつを残して少しばかり分けてやると、満面の笑みで──兄ちゃん、大好きっ…などとまとわりついてきたものだが……

どうしてか義勇は何かにつけてことを思い起こさせる。
なので、そういう態度にも腹も立たずに苦笑してしまう。

「普段誰もこねえからなァ、なんも用意してねえんだよ。
でも水分補給はしておかねえとなァ」
と言うと、こっくりと頷いてキャップを開けると、ペットボトルを両手に持ってコクコクと飲み始める…のはいいが、何故こぼす?

もしかしてコップに注いで渡してやらなければならなかったのか…と思うものの、自分は毒殺疑惑がある人間なので、密封されていない飲食物を渡すと言うのは色々とまずいだろう。
と、そんなことを思って、こぼして濡らした服を拭くためのタオルを投げつつ事情を聞いた。


「なるほどなァ。昼飯の約束をすっぽかしちまったのかァ。
でも長谷川に呼ばれたのは不可抗力だよなァ?
それは言ったのかァ?」

どうやら義勇は彼が大好きだという同室の錆兎と毎日昼食を一緒に摂っているらしい。
それが今日はセクハラ教師に呼び出されたせいで、すぽ~んと約束が頭から抜け落ちていて、相手はどうやら心配して昼休み中探し回っていたということだ。

そして…何故か不死川と一緒にいたことも知られていて、他のクラスメートにも頼んで捜してもらっていたらしく、授業前に珍しく厳しい口調でそれを言われて、謝る勇気がなくて逃げ回っているという事である。

しかし本当に義勇の言う通りの優しい男だとしたら、事情を説明すれば心配をすることはあっても怒りはしないんじゃないだろうか…。

…ということで、事情をとりあえず話せと言ったのだが、嫌われたかもしれないしそれをはっきりさせるのは怖くて出来ないとシクシクと泣く。

ああ、確か毒を食らわば皿までという言葉があったな…などと、不死川は遠い目をしながら諦めた。

「わかったっ!俺が説明して、それでもだめなら無理矢理引き留めたってことにでもして、絶対に許してもらってやるから、行くぞォ」
と、義勇の手からペットボトルを取り上げて流しにおくと、頭を撫でてやりながら、ドアの方へと促した。


Before <<<   >>> Next (5月29日0時以降公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿