学園警察S&G_11_焦り

居ない、居ない、居ない、居ない!!!

宇髄と二人、たどり着いた科学準備室。

思わず勢いで飛び込もうとした錆兎を、
「あ~、俺の方が第三者で冷静な分、上手くやれるだろ」
と、宇髄が制した。

ああ、確かに自分は今冷静ではない。
そう認識することができる程度には残っている理性で、錆兎は宇髄に道を譲った。

それにウィンクで答えると、宇髄は一歩ドアに歩み寄り、

「せ~んせ、わりっ、そっちに冨岡いねえ?
ちょっと伝言頼まれてんだけど?」
と、本当に軽い調子でそう言ってノックもせずにドアを開ける。

すると、科学の長谷川がどこか不機嫌に顔を出した。

「B組の奴らが長谷川ちゃんが冨岡連れてったって聞いたんだけど?」
と、そんな教師の不機嫌さも全く気にした様子もなく、いつもの飄々とした感じでチラッと奥を覗く宇髄。

特に室内を遮るようなものはないため、ドアさえ開けさせてしまえば中の様子を探ることは容易だ。
そして…中に人の気配はない。

「あれ?もう飯行った?」
と、中を覗いたことをことさら隠すことなく宇髄が聞くと、長谷川は

「ああ。少しばかり前の学校の授業が遅れていたのだろうと感じたからその確認を終えたところで、不死川が一緒に飯を食う約束をしているというので、解放したよ。
足りない部分はあとで課題でも出して勉強させればいいし、食事は大切だからね」
と、感情のこもらない笑顔を作って言った。

「…不死川……」
そこで出てきた思いがけない名に宇髄は少し眉を寄せる。

しかしすぐ気を取り直して
「サンキュ。捜してみるわ」
と、科学準備室のドアを閉めた。


そして一歩離れた所にいた錆兎の両肩に手をかけて、はぁ~~と俯き加減でため息交じりに言う。

「…お前のさ、義勇ちゃん?物語のヒロインかよ。
なんでこう厄介なのにばかりひっかかんだ?」
と、その言葉に、錆兎は駆け出したくなるのを必死に抑えて、聞こえてきた名の確認を取る。

「…しなずがわ…って…例の……」
「おう、例の学年2位な。………ま~て~~~!!!」

無言で駆け出しかける錆兎。
その腕を取って宇髄が引き留めた。

「とりあえず分かれて探すけど、見つかったらお前が即介入せずに俺にスマホで連絡な?
ヘタ踏んであとで後悔したくねえだろ?」
と、当たり前に必要なことを申し出てくれる宇髄に錆兎は心から感謝する。

今まで自分が暴走することなど2年前の義勇と分かれる前の一件以外はなかったし、一緒に入る相方より常に自分の方が能力的にも経験値的にも上だったのもあり、誰かからフォローを申し出られることなど皆無だったため、ひどく驚いてしまったが、悪い気持ちはしない。

「わかった、そうさせてもらう。感謝する」
と、礼を言って、錆兎は今度こそ駆け出して行った。


学食も教室も図書室も…思い当たるあたりを探し回ったがいない。

途中すれ違った時、宇髄が
「差し入れ。
感謝しろよ、この派手なイケメン宇髄様のおごりだからなっ」
と、コロッケサンドとパックの牛乳を投げてよこす。

本当はこれは逆だろう。
昼食の時間なのに付き合わせているのは自分の方なのだから、本来は自分が用意するべきだった…と、即猛省。

「宇髄、本当にすまん」
と、頭を下げると、宇髄は笑って
「すまんじゃねえよ。そこはありがとうと言っておくところだろうが」
と何でもないことのように言うので、また即礼を言いつつ、なんだか泣きたいような気分になった。


その後も結局義勇は見つからず、予鈴がなったので、念のため…と、義勇のクラス、B組の前で張ってみる。
すると義勇がなにごともなかったかのように戻ってきた。


義勇はB組の教室の前で立ち尽くしている錆兎に気づくと、
「あれ?錆兎…あっ!!連絡いれるの忘れてたっ!ごめん!!」
と、当たり前に言うので、あまりに心配しすぎていて気持ちに余裕がなかったのもあって、つい、
「今まで不死川と一緒だったのか?」
と聞く声が思いのほか硬い声音になってしまった。

それに一気に顔色を変える義勇に、さらに
「俺だけじゃない。何かあったのかと心配して探していた俺を気遣って、俺のクラスメートも休み時間中一緒に捜してくれていたんだ」
とも言う。

感情が色々たかぶっているのもあって、声を大きくしないようにとしたら、ずいぶんと押し殺したような声になったが、もうすぐ授業が始まるので、

「もういい。授業が始まるから」
と、踵を返して教室へと入った。




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3 件のコメント :

  1. お節介報告です。^^;「B組の奴らが長谷川ちゃんが冨岡連れてったって聞いたんだけど?」→B組の奴らから~ or ~言ってたんだけど のどちらかを修正した方がスムーズかと…ご確認ください。あと、あとで後悔や返事を返すはよく使用されますが頭痛が痛いというのと同じ誤用なのでお気にかけていただけると幸いです。

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    1. ご指摘ありがとうございます。

      『あとで後悔』の記述について、色々調べたり先生とかに聞いたりしてみました。
      結論から言うとスルーしてやってください。
      ネットなどでは二重に後がつくのはおかしいと言う記述も確かにあるんですが、突き詰めていくと、【ある事柄を述べるのに、同義語や類語を反復させる修辞技法】というものらしいです。

      後悔=あとで悔やむに変換したものと分解したうえで訳してみると、『のちに(やはり)【あとで悔やむ】という事態に陥った』という感じでしょうか。
      同様の言い回しで、一番最初:最初=1番早いこと、とか、あとで復習する:復習=習ったあとで反復勉強する。習う前や習っている最中ではありえない。
      とか、色々ありますね。
      完全に同じ漢字の繰り返しだと、歌を歌うなども普通に使用されています。

      それらを誤りとするかという事に関しては賛否両論ありますが、とりあえず国語の例文を作っているのではなく、地の文の部分であっても会話や心情描写も含めた言葉の延長線上なので、明らかに通常使っていない言い回しや同音異義語であるとか、打ち間違いはとにかくとして、一語一句、万人に完全に正しいと認められた言葉以外を使用しないとなると、もう何も書けなくなってしまうので💦

      まあ…乱暴に言ってしまうと、いわゆる
      【大事な事なので二度言った】
      というものだと流して頂けるとありがたいです。

      それはそれとして…でも、ふと立ち止まって何気なく使っていた日本語を追求していくのは、なかなか面白いものですね😀

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  2. ありがとうございます。日本語って奥深いですね(*´▽`*)

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