学園警察S&G_08_善意の第三者から見た事件について

「…というわけでな、手を離さないのもそうなんだが、俺は義勇の安全を絶対に確保したいわけなんだ。
済んだことと言っても、その後の人間関係であるとか色々と影響もあるだろうし、事件について正確なところを把握しておきたい。
聞かせてもらえないだろうか?」
と、一通り雑談が終わったところで、錆兎は本題を切り出した。

自分の身分とか公的な目的など、言っていないことはあるが、今口にしていることは錆兎にとってはそれ以上に大切なことなので、問題ないだろうと思う。

それに宇髄は
「まあもう犯人も自殺して終わったって言われてる事なんだけどな」
と、小さく息を吐き出すと、口を開いた。

「11月の半ばな、学園祭の打ち上げやってた時、渡されたジュース飲んで死んだ奴がいんのな。
毒入ってたらしくて。
死んだのは学年でトップの奴で、その毒入りジュース渡したのは3位の奴。
うちの学校って卒業時に成績順で卒業証書とか渡されんだわ。
で、それで主席ってわかるからな。
割と良いあたりに勤めてるOBとかがチェックしにきて、大学卒業と同時に引っ張られたりするから、みんな必死でなぁ。
それが原因じゃないかって言われてるわけだ」

「バカバカしいな。それで捕まったら就職もなにもないだろう」
「うん…だからな…実は何か裏があるんじゃないか?って校内ではもっぱらの噂なわけだ」
「裏?」
「そそ。捕まったら意味無いのに自分がもろ犯人だってわかるやり方で殺すのって馬鹿だろ?
だから真犯人他にいて、3位の奴にどうやってか罪なすりつけたんじゃないかってな」

「そういう意味で言うと…1位と3位がこけたら得するのは……」

「そ、2位の奴。1位から3位っていつも接戦だったからな、2学期の中間は確かに被害者が1位だったが、1学期の間は順位入れ替わったりしてたから、今後もグルグルする可能性高かったしな」

「それで?2位はどんな奴なんだ?」
「あ~…ちょっと人相悪い系?
でもって群れないでいつもスマホいじってっから、余計にな、人となりをよく知る奴も居なければ、かばう奴もいねえ、そんな感じか」

「それはまた…怪しまれそうな奴だな」
と、錆兎が言うと、
「そこ、怪しい奴じゃなくて、怪しまれそうな奴、なんだな、お前の感覚からすると」
と、宇髄が笑う。

「いや…怪しいことをするなら、普段から怪しまれないように立ち振る舞う奴が多いんじゃないかと思うだけだ。
そのあたりの根回しが出来ない奴が何かする場合は、もう衝動的にやるんだろうから、わかりやすく犯人として特定されているだろうしな」

「いやあ…お前さん、マジ面白いわっ。
探偵かよっ。
秀才…つか、もう天才か。
天才の脳みその中ってそんなんなのなっ」

探偵…の言葉にわずかばかり肝が冷えるが、宇髄は単に錆兎の頭の回転の良さ=知能の高さを面白がっているだけのようなので、あえて何も言い返すことなくスルーしておく。
そして話題を移すように、口を開いた。

「で…その2位はなんて奴だ?」
「あ~、不死川実弥。
顔のど真ん中を横断するでっかい傷痕があるから、みりゃすぐわかる」
「…チェックはいれておく」

不死川実弥…真犯人かもしれないと言われている男…。

(念のため義勇に近づけないようにしないとな…)
と、錆兎は内心思う。
まあ義勇も人見知りするほうではあるし、他人に構わないタイプなんだとしたら、大丈夫だろう。

こうしてその後、その現場にもいたという宇髄からその時の様子を聞きだした。

その日は学年ごとに固まって、食堂で打ち上げをする予定だった。
1学年は2クラスだが、A組もB組も入り混じっての打ち上げだ。

ジュースや氷や菓子などはそれぞれ担任が用意してくれていて、2年はBの担任である化学教師長谷川がまとめて運び込み、それはこの学校ではいつもそうなのだが、現首席優先ということで、

「じゃ、とりあえず一番偉い先生様と主席様の乾杯からだな~」
と、容疑者である田中に、まず主席である被害者木村と教師自身の分のジュースをいれて渡すように命じた。

教師としては単にたまたま目に付いた生徒に命じただけで他意はなかったらしいが、一番最後の定期試験である2学期の中間の前、1学期の期末では木村と田中の順位は逆だったので、これは田中的には非常に屈辱的な事だったのだろう。

これが殺人に走った一番の理由だと判断された。

その後、被害者はテーブルを挟んで教師と紙コップを掲げるだけの乾杯をし、教師はその時点で被害者と同じ所から取った紙コップに同じピッチャーからいれた氷をいれ、同じペットボトルから注がれたジュースを飲み干している。

もしそのいずれかに毒が入っていたなら、教師も死んでいるはずである。
しかし教師は死なず、数分後、被害者だけが亡くなった。

ゆえに、全く同じ条件の物を飲んで無事な人間がいる以上、渡す時に毒が混入されたとしか考えられないと結論付けられた。

「その時、例の不死川は?」
「特に注目してなかったからよくわかんねえな。
仲いい奴もいないしな。
でも、被害者の木村の側にいなかったのは確かだ。
3人それぞれにあまり仲良くないから、近づいて歓談なんかしてたらむしろびっくりで皆覚えてると思うしな」

「動機もあって、他に犯行行えた奴がいないのか…そうだとすると、犯人ではないとするのは難しいな…」

確かに被害者加害者両方いなくなって得をするのは2位の不死川だが、どう考えても犯行は無理だ。
洗いなおすまでもなくそう思う。

何故産屋敷委員長はこれを洗いなおそうなどと思ったのだろうか……。

(だめだ…犯人とされている田中が冤罪であると立証するには情報が足りない……)

考え込んでいるうちに予鈴がなったので、錆兎は一旦思考を中断して、宇髄と共に教室へと戻った。


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