学園警察S&G_07_たわいもない話について

こうして2時間目の授業が終了したあとの休み時間。

他は10分なのだが、2時間目と3時間目の間には20分あるので、思い切り込み入った話をする気満々だった錆兎は缶コーヒーを買って、宇髄を人の少ない屋上へ続く階段へと誘導した。

宇髄は特に異議を申し立てることもなく、大人しく同行してくれる。

そうして2人並んで階段に腰を掛けたところで、宇髄は錆兎が渡した缶コーヒーのプルトップをプシュッと開けてごくごくと半分ほど飲み干すと、

「で?わざわざ人がいねえとこまで連れて来たってことは…聞きたいのはこの前の事件のことあたりか?」
と、にやりと笑った。

ああ、見抜かれている。
それは授業中のやりとりから考えると想定の範囲内なわけなのだが、ここで気になるのは何故ここまで察しがいいかということである。

本人の申告通り単に勘が良いだけの人間ならいいんだが…と、思いつつ
「…何故知りたがるのか、…というあたりは聞かないのか?」
と、軽くジャブをいれてみると、宇髄はクスクス笑った。

「普通気になんだろうよ、殺人事件なんて起こったらな。
でもまあ…お前は単なる好奇心以上の理由がありそうに見えるけど…」

内心ひやりとする。
どこまで気づかれている…?

「冨岡とかはなんか鈍そうだし知らずに来てるって可能性も半分くらいはあると思ってるけど、お前は頭良くてあらかじめ色々最低限は知ってそうだし、嫌なら他に空きがある学校の編入試験を受けりゃあ受かるだろうしな。
それでもうちを選んでるってことはどうでも良いと思ってたんだろうが…」
と、そこで一旦切って、また缶コーヒーを一口。

その時間にすれば数秒くらいであろう沈黙に、錆兎の緊張は高まるが、続いた言葉は

「…冨岡が一緒だってわかったからだろ。
お前自身は何かトラブっても回避できそうだけど、あいつは出来なさそうだしな。
でもって…お前にとってあいつだけは特別で、危険なモンに一切近づけたくないと思ってる。
…違うか?」

と、にやにやと言われて、錆兎は

バレてたのはそっちかあーーーー!!!
と、心の中で絶叫した。


「…え~と……どこまで察してる?」

正直、その手の知識はあれど、自分が当事者だったことはない。
正確には義勇と2年離れていて、もう近づくことができることなど想定していなかったため、自分を当事者として考えたことがないので、そのあたりを突かれると弱い。

おそらく真っ赤になっているであろう顔を両手で覆って聞くと、宇髄はやっぱり笑って
「たぶんほとんど?
つか、あれな、お前ってモテそうだけど、あんま付き合ったりしてこなかったタイプなのな。
もしかして、一途に思い続けて他の誘いは断る主義か」
などと言うので、恥ずかしさで沈没しそうだ。

「だって仕方がないだろう。
絶対に想いが届かないとしても、好きな相手以外と交際するなど、好きな相手にも交際相手にも…自分の気持ちにも不誠実だ。
恋愛というものはまず第一に誠実であるべきだろう」
と、それでも持論は主張しておく。

そう言えば、こんな風に普通の男子高校生のように心について語るなんて初めてかもしれない。
今までは…義勇以外には、いずれ消える身だからと、あたりさわりのない会話しかしてこなかった。
そう思えば、恥ずかしいことは恥ずかしいのだが、少し楽しくもある。


しかしまあ…その想い人は同性なのだから、あまり一般的ではないのだろうが…と思いながら、それを素直に
「想い人が同性と言うのは一般的ではないし、引かないのか?」
と聞くと、宇髄は、
「全然。うち男子校だしな。
しかも寮生活だから女に出会う時間もねえから結構そういう奴いるし?
そもそも、ジェンダーレスの時代に異性以外はおかしいとか、古すぎだろ」
と、笑い飛ばした。

そしてそのあと、ふと視線を下に落として

「まあ…俺も居たしなぁ、以前。
たぶん立場的にはお前と似てるんじゃね?
俺は見ての通り何でもできて派手に良い男で、相手はまあなんつ~か、可愛げはあるが目立つタイプじゃねえってやつ?」
と、口元にだけ笑みを浮かべるが、視線はいつも自信満々のこの同級生には珍しくどこか寂し気だ。

それでも
「で、なんか嫌がらせとか結構あったみてえでなぁ…。
保護者の転勤かなんかについて行っちまった。
別に寮生活してんだから行く必要はねえんだけど、ここに居んのが嫌になったんだろうな。
ま、でも俺を嫌になるわきゃあねえから、俺が卒業してあちこちいけるようになったら、捜して迎えにいってやろうかとは思ってんだ」
と、声音だけは軽い笑みを含んだような調子で言う。

それが本心なのかどうかはわからない。
だが、本心だとしたら、あっさりと諦めて気づけば2年を経過していた自分よりよほど強くて前向きだ、と、錆兎は思った。

「だからな、ま、経験者は語っておいてやる。
言葉は放って手は離すな。
これ、基本な?」
と、最終的におちゃめな感じにウィンクして言う宇髄に、錆兎の方は非常に生真面目な表情で頷いた。

想い人として錆兎の脳内に君臨する義勇は別にして、長い学生生活の中で、同級生という以上の友人という対象が出来そうだ…と、そんなことを思いながら。



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