学園警察S&G_06_クラスメート

「この問題は…、鱗滝、解いてみろ」

数学の時間、教師に言われて立ち上がった錆兎は白墨を手にスラスラと黒板の問題を解いていく。

「ん。正解だ。さすが編入試験平均98点取っただけのことはあるな」
教師が満足げにうなづきながらそういうと、教室内にざわめきが広がった。

一礼して席に着く錆兎に様々な視線が送られている。

「なんか危なそうな奴だよな…」

その時ボソっとそう呟いたのは宇髄天元。
錆兎の隣の席の男である。

本人はそれほど大した意味もなく言ったのかもしれないが、錆兎としては聞き捨てならない言葉である。
まさか正体がバレたのか?
それとも不良を制した過去の何かが滲み出てしまっているのか…

休み明けにクラスで紹介された時から今日までずっと、いつも任務中はそうであるように万人に愛想よくしていたし、特にヘマをした覚えはないのだが、宇髄は特別に勘が良い人間なのだろうか…

「どういう事だ?それは」
とグイっと宇髄の腕を掴んで引き寄せると、そこで彼は初めて錆兎が聞いていたらしいことに気づいて、肩をすくめた。

「深い意味はねえよ」
「深い意味がなくて危ないとか言うか」

正体がバレて自分の身が危険になるのは全く構わないが、今回の任務は義勇と一緒で、自分は義勇の護衛なのだ。
どんな些細な危険からも義勇を守る義務と責任がある。

「あ~、意味はねえっつ~か…うちって割と進学校なわけだけどな、そんな学校の編入試験でいきなりほぼ満点とか普通じゃねえだろ?
よっぽどの進学校にいたのか?」

宇髄はいわゆる優男のような顔をしているくせに、錆兎よりもまだ体格の良い男で、頭は悪くなさそうなのに、なんとなく授業も適当で、飄々とつかみ所のない人間だと思う。
そして、不思議な発言の真意を問えば、こんな風にまるで煙に巻くような返答を返してくる。

目的があって潜入している錆兎が言うのもなんだが、どことなく得たいが知れない男だと思う。
それでも馴染みやすい性格はしているので転校してそろそろ1週間だが、なんとなく一緒にいることが多い。

「あ~、保護者の都合で全国を転々とすることが多かったし、今回みたいに季節外れの引っ越しだと学校を選んでいたら入れないからな。
高校に在籍できない期間が長いと単位が足りなくなるし、たいていの学校の編入試験に合格できるように、家庭教師がつけられてた」

「あ~、なるほど。そういうことか」
宇髄はふ~んと特に疑う様子もなく、しかし、
「でも進学校だと成績の良い転校生なんか来ると殺伐としそうだよな」
とどこか意味ありげにつぶやいた。

「ここも進学校だろう?殺伐としているのか?」
「う~ん…まあ…色々?」
「そこまで言ったなら教えてくれ。普通に気になる」
「噂だけどな。
学校側は必死に隠してるけど、うちの学校それが原因で殺人起こってるらしいぜ?」
「それは本当かっ?!」
「だから噂だって。ホントかどうかは知らねえよ」

「詳しく聞かせてくれ」
いきなり核心に迫る話に錆兎が身を乗り出すと、
「お前ら、私語は慎めっ!」
と、チョーク二つが飛んできた。
それはそれぞれ錆兎と宇髄の頭を見事に直撃する。

「すみませ~ん♪」
宇髄はヘラっと教師に謝罪すると、今度は錆兎に小声で
「聞きたいなら、昼にでもな」
と、ウィンクして言った。

まあ確かに…授業中にする話ではないな。
と、錆兎も納得して授業に集中する。

とは言っても、宇髄に話したことは物理的には全くのでたらめと言うわけでもなく、学園警察のスタッフは潜入先の学力レベルについていけないと当然どうしてこの学校に入れたのだ?と疑われる可能性が高いので、学業においても特殊教育を受けているため、一流の大学に入れるくらいの能力はあるということもあり、やや単調にして退屈だ。

一応聞いてはいてノートも取ってはいるが、脳内の半分くらいを占めるのは、隣のクラスになった義勇のことである。

ずっと学園警察をやっている錆兎と違い、義勇は教育時間をそれほど取れなかったのもあって、高校生としては出来ないほうではないものの、進学校であるこの学園の授業レベルについていけているかというと、やや心許ない。

なので、一応、学校内にそちらの分野に精通している者がいないと調査したうえで、絵画の分野の特待生という形を取っていた。

もちろん実績を作るために国の方で手を回して絵画コンクールに義勇の名で出した作品を入賞させるなど、色々と手は回している。

今後、義勇が潜入する場合は、そういう方向での転入という形になるだろう。
まあ…次があれば、ではあるが。


とりあえず、義勇には毎日学校が終わって寮に戻ってから授業について行けるように勉強を教えてやっているため、自分にとって退屈なレベルの授業でも、義勇に教えることを考えて、教師が板書以外にも口頭で行う説明の中で必要そうなあたりをノートにメモする作業を怠ることはできない。

「編入試験…ほぼ満点取れるなら、そこまでやる必要なくね?」
と、自身も勉強ができるだけに退屈なのだろう。
そんな錆兎のノートを覗き込みながら言ってくる宇髄。

それに、錆兎は黙々とメモを取ると同時に別のノートに綺麗にまとめながら
「自分だけならな。
でも寮に戻ったら義勇に教えるから」
と、答えた。

「ふ~ん?二人ともこの前の連休の間に入寮したって聞いたけど、まだそんなに経ってないのに距離近くね?」
宇髄は本当にだるそうにノートも取らずに頬杖をついて言う。

そして錆兎の側は、その言葉を待っていた。
真実の中に少しだけ言わない事実を混ぜるという無理のない説明。
それは錆兎が得意とするやり方である。

「ああ。俺は元々転校が多いんだが、その転校先に義勇の通っていた中学もあってな。
その学校では半年ほど過ごしたんだが、そこで義勇は転校生の俺によく構われてくれたから仲良くなって…」

「…それ、構われてくれた、じゃなくて、構ってくれたじゃね?」
と、当然のように入る突っ込み。

そんなやりとりが来るのも計算のうち。
錆兎は
「いや?構われてくれた、で、正しい。
俺は転校慣れしすぎてて、知らない人間に対してあまり物怖じとかしない人間だったし、むしろ積極的に人脈を築こうとしていくタイプだし、義勇はおっとりとお育ちが良くて来るものは拒まないが人見知りだしな。
学校環境の知識は義勇の方があるが、俺が聞いて初めて答えが出てくる感じだし、何かに誘うのもいつも俺の方からだった」
と親しみやすい笑顔というものを浮かべて言う。

「あ~、なるほどな。理解。
なんだか友達とか作るの下手そうだもんな、冨岡。
お前は…広く浅く、情も移さず…ってかんじだな」

当たり前に語られる宇髄の言葉に、錆兎はひっかかりを覚えた。

広く浅く…までは良いとして、情を移さず…というところまで見抜かれていると、さすがに警戒心を刺激される。

思わず笑顔のまま固まるが、宇髄はそれに気づいてか気づかないでか、
「俺も一部にそう言われてるからな。
なんか親近感沸くわ」
と、笑顔を返してきた。

どういう男なのか…信用できる相手なのか、あるいは事件に関係していてこちらを警戒しての言葉なのか、まだ判断がつきかねている錆兎に、

「ま、俺は構われてやってもいいぜ?
とりあえず休み時間にでも聞きたいことがありゃあ答えてやるよ」
と、さらに踏み込んでくる宇髄。

さあどうする…と一瞬悩むものの、虎穴に入らずんば虎子を得ずだな、と、錆兎は小さく息を吐き出して、
「そうだな。とりあえず色々教えてくれ。
じゃあ、休み時間にな。
今は授業に集中したい」
と、答えて暗に話をあとに持ち越すことにした。


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2 件のコメント :

  1. 誤記ではないんですが「虎穴に入らずんば虎子を得ず」元の漢文だと虎子で日本語だと虎児が正しいらしいです^^...とはいえ修正する必要もない内容ですね。

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    1. ほぉぉ~。漢文と日本語だと字が違うんですね。
      かる~く、こけつに…と打って予測変換で変換してましたが、なかなか奥が深い😀

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