学園警察S&G_03_過去

今回は義勇にとっては裏教育委員会での初めての現場…通称学校警察としての任務だった。

義勇は2年前の中学2年の時に偶然、どうやら見てはいけないモノを目撃してしまったらしく口封じにと命を狙われ、そしてその巻き添えで家族を全員殺されている。

その時に秘密裏に介入して義勇を守ってくれたのが、学校警察として働いている錆兎だった。

その一件はかなり社会的地位も高い学校の理事長が関わっていたため、特殊機関が物理的な証拠を固めた上で、証人である義勇の証言が必要だったらしく、証拠固めの間に証人が殺されたりしないようにと、国から錆兎が所属する秘密組織、裏教育委員会が依頼を受けて、彼が派遣されてきたという事らしい。

相手に警戒されないよう飽くまで気づかれず、しかし多数のプロの殺し屋が色々仕掛けてくるのをかわせるように誘導。
そして最悪、依頼人の命に係わるようならどんな手段を使っても依頼人を死守。
つまり、プロを相手に力で押し勝つこと。

そんな案件をこなせるのは学園警察内でもトップクラスの人員である錆兎くらいだと後に義勇自身も在席することになった裏教育委員会のスタッフに聞いた。

確かに最初に彼が転入してきた時から最後の日まで、義勇は彼の事を季節外れの転入生だと疑いもしなかった。
義勇に構うのは、転校が多いという彼はとても人間関係を築くのが上手い少年なので、内向的なせいで友達がいなくてぽつねんとしていた義勇を見るに見かねて手を差し伸べてくれたのだと思っていた。

義勇は確かに人の機微に敏いほうではないが、錆兎は他のクラスメートとも適度に付き合っていたし、義勇のクラスメート達も最後まで彼の正体に気づいていなかったと思う。

顔が良くて頭も良くて運動神経も抜群で、はきはきと明るく精悍で男らしく、そのくせ細やかな気遣いも出来て、強く優しい。
彼はあとからクラスの一員になったのに、あっという間にクラスの人気者になった。

それでも相変わらず義勇に優しく特別な友人のような扱いをしてくれるので、自分の方が最初からいるのに、義勇は後からクラスに入ってきた彼を介して少しずつクラスに溶け込めるようになったくらいである。

義勇はそんな錆兎が友人でいてくれることが嬉しく誇らしく…いつだって彼のことが大好きだった。

彼のおかげで自分が危険な状態であるなんてことには全く気付かないまま、今までにない幸せな生活がずっと続いていくと信じていたあの日々。

それが終わりを告げたのは、錆兎が転入してきて半年あまりが過ぎた頃。
義勇が錆兎と寄り道をしつつ自宅に戻ると、家族が殺されていて、まだ現場にいた暴漢達は義勇へと向かってきたが、錆兎に全員倒された。

…が、そこで義勇が背にかばってくれていた錆兎の後ろから飛び出して事切れている姉の遺体に駈け寄ったところに、隠れていた賊が斬りかかって来て、それをかばって錆兎が頬に傷を負いながらもなんとかそれも倒してくれたのである。

そこで血だらけになった錆兎に義勇がパニックになって号泣したので、錆兎が実は自分は義勇を守るという任を受けていて、これは仕事だから義勇は何も気にすることはない、責任を感じたりはしないで良いのだ…と、打ち明けてきた。

今にして思えば仕事とはいえずっと義勇を守ってくれていて、下手をすれば自分が死ぬところだったのに義勇をかばって大怪我を負った錆兎に礼を言わなければならないところだったのだが、その時の義勇は錆兎が仕事で義勇と一緒にいてくれたのだという事の方にショックを受けてしまった。

ああ…義勇のことが好きで義勇と居たいからではなかったのだ……
そう思うのは、自分の方は本当に無条件に錆兎が大好きだったので、悲しかった。

そしてその悲しい事実を正面から受け止めるのが辛すぎて、仕事なら何故家族まできちんと守ってくれなかったんだ!と、錆兎を責めてしまった。

今思えばとんだ恩知らずだ。
彼は義勇を守るという仕事はきちんとこなしていて、その仕事だって別に義勇が報酬を払っている物でもないのだから、義勇が偉そうに言うべきものではない。

それどころか義勇が勝手に錆兎の後ろから飛び出したせいで、彼は大怪我を負って頬から血を流しているのである。

お前にそんなことを言われる筋合いなどない!と怒って良いところなのに、錆兎は少し困ったような…悲しそうな顔をして、ただ、──未熟でごめんな…と、義勇に謝罪してきた。

それからすぐ、錆兎の所属する裏教育委員会のスタッフが来て、錆兎は彼らと去ってしまい、同時に義勇もいったんその組織の本部へと連れて行かれる。

そして義勇が普通の生活をするには組織のことを知りすぎてしまったので、今後は裏教育委員会で働くことになった旨を伝えられた。


なし崩し的に…と言えなくもないのだが、家族が全員亡くなってしまうと、どちらにしても義勇に行先はない。
親戚の間で迷惑な存在としてたらいまわしにされるよりは、一応公務員、腐っても公務員、なんと中学生にして安定した将来を約束されている職につけるなんて、恵まれていると言って良いと思う。

学生のスタッフはだいたい大人が介入しにくい学校内で起きる事件のために学校に潜入することが多いのだが、義勇が配属されたのは事務見習い。
それは本当にわずかな定員の、安全で待遇も現場のスタッフと変わらないという、とても恵まれた部署なのだが、あとで聞いたところによると、組織のことを義勇に漏らしてしまったのは自分の責任だからと、錆兎がそう頼んでくれたらしい。

彼は通称学園警察と呼ばれる現場スタッフの中でもトップクラスの実力で、実績もあげている分発言権も強いのだと、内勤のスタッフに聞いた。

義勇を危険な現場に出さないこと。
どうしても出さなければならない時は自分を護衛につけること。
それが錆兎が要求した条件で、現場のエースに速やかに仕事を続けてもらえるなら、事務方に1人放り込むくらいはなんでもないことと判断されたようだ。


錆兎からは義勇の居所は当然わかっているので、そのうち会いに来てくれるだろうか…と、そんな期待をしつつ、少しずつ仕事を覚えていく。
しかし、1ヶ月が経ち…半年が過ぎ…1年後になっても会いにどころか連絡一つ来ない。

これだけ色々と気にかけてくれたのにどうして…?
そう考え始めた時にハッとした。

こうして義勇が健やかに生きて行けるように手配してくれたのは、実は好意ではなく、一流の学園警察スタッフである錆兎が護衛対象者である義勇に組織のことを漏らしてしまったことに対するリカバリのためだったのかもしれない…。

そう言えば自分は最後に会った時、感謝をするどころか暴言を吐いたんだった。
もともと錆兎は任務のために義勇に近づいていただけで、好意をもってくれていたわけではないのかもしれないのに、恩をあだで返すような事をしたのだから、ニュートラルどころかマイナスの感情を持たれている可能性だってある。

もしくは、優秀なだけにこなす依頼も多いので、義勇にとっては特別な思い出でも錆兎にとってはたくさんある案件の1つで、義勇のことなどもう忘れているかもしれない……

そう思うと悲しくて悲しくて、それから1年泣き暮らして、そして思った。
錆兎に会って2年前のことを謝ることから始めよう!
そうして出来ればその後も定期的に会えるよう、錆兎に好きになってもらう努力をするのだ!

そう決意はしたものの、組織の一員となってみると、事務方は待遇的には恵まれているが、学園警察のエリート中のエリートに声をかけられるような立場ではない。

もちろん事務方でもトップ近くに昇りつめればまた別だが、義勇は新米どころかまだ見習いだ。

それでも…錆兎と会って話したかった。
どうしても話したかった。

そこで組織に入ったばかりの頃、スタッフから聞いた話を思い出す。

錆兎が依頼したのは、

義勇を危険な現場に出さないこと。
そして…どうしても出す時は護衛として自分をつけること。

もちろん2年も前のことで、出さない前提で話されたことなので、実際義勇が出るからと言って、忙しい学園警察のエースがその護衛についてくれるなんてことがあるとは限らない。

それでもその一縷の望みに縋りたかった。
なので何度も現場に出ることを希望して却下されてを繰り返し、何十回目かの希望で、とうとう上も諦めて現場にだしてくれることになった。

ただし、錆兎が護衛についてくれるとか確約が取れたわけではない。
現場に出るだけでこれだけ却下されるのだから、エースを一緒になんて条件を出したら確実に聞いてもらえなくなる。

だからこれは一種の賭けだった。
安全安定の事務の身分を捨てて、危険な現場の仕事に就く。

それでも…今回会えなかったとしても現場に居ればいずれ錆兎に会える時がくるかもしれない。
そう思って、義勇は学園警察としての初任務に身を投じたのだった。


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