ギル&アーティ、サンタのヘルプ_6_ファンの皆さんからの贈り物2

それから十数分後のことだった。

いきなり開くドア。
そこから見える光景に、ギルベルトは固まり、フランシスは唖然とし…そして、アントーニョは跪いた。

え?ええ??
…と、その3人の反応に着替えを終えて来たアーサーは淡いグリーンの目をまん丸くする。

そんな互いに驚き固まる中で、エリザだけが満足げに大きく頷いた。


ふわっとした真っ白なチュニック。
その背につけられた羽は柔らかな羽毛でできていて、アーサーが歩くたび軽やかに揺れる。

「…一瞬、本物かと思った…」
と、ようやく事態が飲み込めたギルベルトが言うと、
「ギルちゃん、何失礼なこと言うとるんっ!!
ちゃんと跪かなバチが当たるでっ!!」
と、アントーニョがまだ跪いたままで叫んだ。

「いやいや、何言ってるってのはお前のほうだよ、トーニョ。
俺ら、本物の天使様が来てくれるほどの清い生き方してないでしょうがっ。
あれは天使は天使でもギルちゃんの天使ちゃん。
アーサーだよ」
と、それにフランシスが苦笑すると、アントーニョはそこで初めて顔をあげ、元々丸みのある濃いグリーンの目を大きく見開いて、それから2度3度と瞬きをした。

「ほ、ほんまやぁ!!あ~、びっくりしたっ!」
と、ようやく立ち上がるアントーニョに
「びっくりしたのはお前の対応の方だぜ」
と、ギルベルトは呆れた視線を向ける。

しかしまあ、アントーニョの気持ちはわからないでもない。
アーサーと言う人物を知らなければ、ギルベルトも一瞬信じてしまったほど、天使の格好をしたアーサーは清らかで透明感がある。

これを何度も抱いたことがあると思うと、なんだか背徳感のようなものを感じてしまうほどだ。


そんなAkuyu側の反応にエリザは今日はクリスマスなので頑張って調達させたのだ、ローデさんの代わりなのだから最高の仕上がりにと苦心したのだと嬉しそうに言う。

確かに…悔しいが世界的に有名な新進気鋭の若き天才ピアニストの代わりとなると、自分達では役不足だろう、と、ギルベルト自身も思う。

しかし、これは勝つ!本気で勝つ!!
…と、また、目の前の天使を見れば思うわけで……



こうして始まる撮影。
まず最初にエリザがゲストであるローデリヒが悪天候で飛行機が着陸できずにスタジオに来られなくなったことを謝罪。

別のゲストを呼んで番組を進行することを説明後、いったんスタジオのライトが消え、暗闇に。

そこでギルベルトがスタンバイ。
最初はフルートソロで聖歌【み使い来たり告げん】から静かに入り、しばらく曲が進行したところで少しずつギルベルトにライトが当たっていく。

1曲目の途中からフランシスの伴奏が入り、後方でピアノを弾くフランシスにもライト。

2曲目の【久しく待ちにし】から、今度はアントーニョのバイオリンが入って、そちらにもライトが当たり、暗い室内を3つの柔らかな明かりが照らしながら、粛々と曲が流れていく。

そして2曲目が終わったところで、全体に明かりがついてエリザ登場。

改めてローデリヒが来られなくなって急遽Akuyuが友情出演することになったこと、そしてギルベルトが実はフルート奏者としても学生時代にそれなりに実績があったことなどを語り、Akuyu3人にトークをチェンジ。

Akuyu達はまずエリザがスコップを担いで廊下を闊歩するのをマネージャーが追っていたところに遭遇した話から、各々が演奏していた楽器の思い出などを語り、その最後でいきなり消える照明。

そして響くエリザの
「そろそろ本日のメインゲストの登場よっ」
の声と共に、スタジオの後方からアーサーをエスコートして歩いてくる彼女にスポットライトが当たった。

そこでギルベルトは正直もやっとする。
いや…別にアーサーがメインゲストなのは全然かまわない。
むしろそうだろう!俺のアルトならローデにも負けずとも劣らねえ!…と、心の底から思って……そこで少し…そう、状況はわかっているので少しだけ、──”俺の”アルトなのに…な……と、肩を落とした。

アーサーの歌声は本当に澄みきった美声で、天使の歌声といっても差し支えないものだと思うのだが、その主旋律によりそうように歌うのが自分ではないのが少しだけ面白くない。

それでもこれはエリザの番組で、自分達はエリザを助けるために出演しているので文句も言わずジッと我慢どころか、隙あらば自分が取って代わろうとするアントーニョを止めさえもしつつ、なんとか番組が終わる時間まで持たせて、エリザに珍しく素直な礼を言われた。


それにきちんと答えようと思うのだが、笑顔が引きつってしまう。
ああ、公けでアーサーと最初にデュエットするのは自分でありたかった…なんて、そんな気持ちを引きずるなんて、自分らしくないと思うのだが、普段なら完璧にコントロールできるはずの感情が上手く制御できない。

もしかして番組内でもそんな感情が表に出ていたらまずいな…と思うが、まあ終わったことなので。

「…ギル…俺、やっぱりちゃんと歌えてなかったか?」
と、アーサーにさえそんな気遣いをさせるくらいの有様で、
「いやっ、本当に天使の歌声かと思ったくらいだぜ?」
と、慌てて言いつつ、みっともないなと思いながらも
「ただ…俺様が一緒に歌いたかったなと思っただけだ」
と、ぎゅうっと恋人を抱きしめて言った。

しかしそんなギルベルトの声に出来ない声、言葉に出来ない願望は、思わぬ方向から叶えられることになる。


次年度最初の【ギルとアーティの皆様の仰せのままに】のリクエストの圧倒的トップは、『ギルとアーティのデュエット』で、その回は大好評。
そして、その後には二人で音楽ユニットを作ろうという話まで出ることになったのだ。

こうしてクリスマスには叶えられなかったギルベルトの望みは、ファンの皆様からの少し遅れたクリスマスプレゼントのように、思っても見なかった規模で叶えられたのである。


ギル&アーティ、サンタのヘルプ完






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