ギル&アーティ、サンタのヘルプ_5_ファンの皆さんからの贈り物1

それは本当に偶然の事故の副産物で喜んでいいものでもないのだが、アーサーのキャリアからすると、一つ売りに出来るものが増えたという事で、喜ばしいものだった。


その日はクリスマスイブで、ギルベルト達はその年最後の【ギルとアーティの皆様の仰せのままに】の撮影を終えて、スタジオを出た。

長年芸能人などをやっているとクリスマスも…というか、クリスマスこそ仕事をしているのが当たり前。
そう言えばギルベルトは物心ついてからずっと仕事をしているので、クリスマスに家族でゆっくりしたことなどない。

それでも今年はアーサーもいるので極力夕方までにしてくれと前々からマネージャーに頼んでいたので、今日の仕事はこれでおしまい。

これから自宅に戻ったら数日前から色々買い込んで下ごしらえしておいた料理の数々を仕上げて、ささやかだがクリスマスを祝うつもりだった。

そのために昨日からベートメエンヒェンの生地を一晩置いて焼けば良いだけにしてあるし、カルプフェン・ブラウ用の新鮮な鯉だって買ってある。
その他、ご馳走…特にアーサーが好きな甘い菓子をたくさん用意したので、それを美味しそうに飲み食いするのを眺めながら、去年と同じく互いに手作りで、と、決めてあったプレゼントを交換する予定だ。

今年は彫金で作った、自身がいつも身につけているものと同じ形状のシルバーのクロスのペンダント。

最初のクリスマスではアーサーが子どもの頃に親に買ってもらっているのを見て羨ましかったと言っていたクマのぬいぐるみだったが、今年はアーサーの欲しい物というよりギルベルトが贈りたい物という感じだ。

恋人どころか親密な関係の誰かがいるという状態さえ初めてのアーサーにあまりプレッシャーを与えたりはしたくないので、なるべく表に出さないようにはしているが、許されるなら一生自分しか見られない所に拉致監禁したいくらいには、ギルベルトはアーサーの目に触れる人間全てに嫉妬している。

だから自分が常につけている物とお揃いの物をアーサーにもつけさせることで、彼が自分のものであることを主張したいのだ。


…と、そんな薄暗い野望を抱いていたのが悪かったのだろうか…
さあ、これから2日間、アーサーと二人きりのオフだ!と撮影を終えて張り切ってスタジオを出たギルベルトに向かって、災難が駆け寄ってきたのである。


廊下をノシノシとデカいスコップを担いで大股に歩いてくる幼馴染。
一番古くからの付き合いで、飽くまで文字通り悪友の域を出ないAkuyuの2人とは少し違って、普段は悪友だが互いに本気で悩んでいる時には互いに頼れる親友でもある男前な女性タレントのエリザ。

そのあとをマネージャーが青ざめた顔で追ってくるところをみると何かあったのだろうと引き留めてみると、このあとの生放送番組のメインゲストが乗った飛行機が雪で着陸不能になって引き返してしまったとのこと。

そのゲストというのがエリザがずっと憧れていたピアニストだということで、彼の乗った飛行機の着陸を妨げている雪を掻きに行くのだとスコップを担いでいるのだという。

それは無理だ。
いくらエリザが逞しかろうと人が一人で人力でなんとかなる雪なら、とっくに除雪車が出動している。
そう説得したのだが、番組は生放送だ。
メインゲストが来られませんということで、エリザ一人でどうするんだ?ということになったので、仕方なしに協力を申し出た。

他ならスルーして帰ってアーサーとクリスマスパーティーだが、相手がエリザでこの状況なら仕方がない。

料理は下ごしらえをしたところまでなので、帰宅が遅くなるようなら翌日。
早く帰ることができそうなら少し遅めの時間から食事にしよう。

そんな風に脳内で自分を納得させて、とりあえず披露することになったフルートと、あとは番組で着る衣装を用意してもらうことになった。


まあ自分のは普通にタキシード。
悪友の2人も色は違えどタキシードで、アントーニョなどは堅苦しいだのなんだの騒いでリボンタイを緩めてエリザに殴られていたが、ギルベルトは正直正装も嫌いではない。
なんというか、気持ちが引き締まって良いと思う。

特にクラシックの演奏をする場合は、やはり服装もきちっとして、気持ちを整えて望みたい派だ。

なので用意された銀のタキシードを着こんで銀色に光るフルートを手に、元々は仕方なく提案したヘルプなのだが、なんだか楽しい気分になってきた。

「…で?何を演奏すんだよ?」
と、少し試し吹きをしたあとに自身も何故かドレスではなくタキシードに身を包んだエリザに問えば、逆に
「ん~、何が吹ける?」
と、問いが返ってくる。

「なんでも?
難しいモンでも譜面があればイケると思うし、クリスマスソングくらいなら即イケる」
と、言うと、エリザは少し考え込んだ。

「ん~曲目は任せるわ。
伴奏入れるフランと相談して。
構成としてはまずあんたがソロで一曲。
その後にフランが伴奏入れて同じ曲。
で、トーニョが加わって別の曲。
最後にあたしとアーサーちゃんで『みははマリア』行きたいなと。
その後、あたしのトークで、今回のローデさんが来られなくなった理由とあんたたちの紹介。
で、そのあとに、Akuyuで30分くらい何か話持たせられると嬉しいかも。
そうして最後、あんたたち楽器&あたしとアーサーちゃんの歌で…そうね、『あめのみつかい』『アヴェマリア』『きよしこのよる』で締めかな。
全曲いける?」

「余裕」
「あんただけじゃなくて、3人ともよ?」
と、それまでギルベルトと話していたエリザはあとの2人にも視線を向ける。

それに
「麗しのマドモアゼルのためだからね。
愛あるクリスマスにするためならお兄さんも余裕よ?」
とぱちんとウィンクをして見せるフランシスと
「誰に言うとるん?
親分はいつでも情熱と愛を届ける準備は完ぺきやで?」
と片手を広げ、片手を胸にポーズをとるアントーニョ。

ファンなら絶叫しそうなその反応も、見ているのはギルベルトとエリザだけなので、
「ラテンズも大丈夫そうね。じゃ、そういうことで」
と、軽く流された。

一方のギルの方はその二人に全く反応することもなく、きょろきょろとあたりを見回している。

その理由はもちろんわかっているエリザは
「アーサーちゃんはもう少し支度に時間かかるから、音合わせを先にしちゃって」
と、ギルベルトをラテンズの方へと促した。

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