寮生はプリンセスがお好き9章_6_出陣

──じゃ、そういうことで行ってくるわ。

と、青銀のマントを羽織ったギルベルトが、金の揃いの手袋をした金狼の兵とメイド部隊に囲まれた花嫁を引き連れて陣地を後にする。

敬礼してそれを見送るルートを始めとする銀狼寮の寮生。
さらに奥の部屋には金狼の寮長香とプリンセスのアル、そして銀竜のプリンセスのフェリシアーノが待機していた。

「…あれ、騙されるかな?」
と窓からギルベルト達を見送りつつ誰にともなく呟くフェリシアーノの言葉をしっかり拾って、アルは
「まあ、奥の隠し部屋のアーサーの所へ行くには俺を倒さないとだからねっ!
騙されても騙されなくても、少なくとも銀狼のプリンセスの腕輪は守られるよっ」
と、親指で自分を指して笑う。

そんなアルフレッドに、
「あんたね…隠し部屋はマジ隠してるから隠し部屋だから。
口にするのはNGだから。
体格ゴリプリでも脳みそくらいゴリラを超えて欲しい的な?」
と、腰に両手を当てて俯き加減に息を吐き出す香。

「まあ…ここに敵方の寮生が攻めてくる時は、ギルベルト兄ちゃんが連れてる花嫁がアーサーじゃないってバレた時だから。
万が一があってもかなりの時間が稼げるんじゃないかな」
と、フェリシアーノはそんな二人に苦笑した。


そう。
ギルベルトの連れている花嫁はプリンセスではない。
フェイクだ。

銀狼は寮長がプリンセスも連れ歩いているならば、陣地に攻め入る意味はない。
そう思ってくれれば、こちらに敵が来る可能性が低くなるだろうという目論見だ。

銀竜が同盟の打診を受けた時の条件から予測をすると、敵方はおそらく3年組の寮が2寮でギルベルトに対峙。
金竜は同盟している3寮にそれぞれ兵を分散。
他寮が自軍側の寮に攻めてきたらその旨を金銀虎寮長軍と他2寮に報告。
寮長軍から割けるだけ割いて援軍を送るというものだと思う。

ただ、それは飽くまで金銀虎の寮長のたてた計画であって、金竜はしたたかな寮だ。
3年組の思う通りに動くとは限らない。

彼らにしてみれば、万が一自軍側の陣地に敵が攻め入ってきたとしても、自寮が失うのは自寮のプリンセスの分のブレスレット一つだけだ。

それなら一番面倒な銀狼の寮長を3年寮長達が抑えている間にそちらに一兵とも割いていない自寮の寮生達を使って他寮に攻め入って他寮のプリンセスのブレスレットを総取りしたほうがいいと考える可能性もあるとフェリシアーノは思って探ってみたら、やはりそういう計画でいるらしい。

一応同盟関係で銀竜からは得た情報の提供もその条件であったため、当然ながら仕入れた情報はギルベルトと香にも伝えている。


…っていうことだから…隠し部屋に残してるのはアーサーじゃない可能性もあるよね…

と、フェリシアーノは敵を欺くにはまず味方から…とやられている可能性も考えてみるが、まあそれはそれで構わない。

少なくとも金狼のとてもとてもお強い寮長副寮長、そしてギルベルトの実弟で銀狼のとても硬く頼もしい一枚の盾であるルートは隠し部屋にプリンセスがいるということを微塵も疑っていないようなので、この陣地は死守してくれるだろうから、フェリシアーノ的には全く問題はない。

ギルベルトは戦術を駆使するタイプではあるが、それと同時に約束したことは守る誠実な男だ。
だからその経過で多少の情報の差異があったとしても、結果が同じなら本当に問題はないので、そのあたりは追求せずに黙っておくことにした。


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