ギル&アーティ、サンタのヘルプ_3_Akuyu+αのクリスマス

ローデリヒとのクリスマスの共演はとても楽しみにしていた人生最大のクリスマスプレゼントだったのだ、と、絶叫すると共に、いつもは強気のエリザの目からポロポロ涙が零れ落ちるのを見て、基本的には女性に優しいAkuyuの3人はそれぞれに固まった。

最初に口を開いたのはギルベルトで、
「…チッ。悪かったよっ」
と、舌打ちをしつつも両手をあげて距離を取って謝罪する。

「…悪いじゃすまないわよっ…。
謝る気があるなら雪かき手伝いに来なさいよ…」

と、それにこぶしで溢れ出る涙をぬぐいながら言うエリザに、ギルベルトは

「もう俺様は撮影終わったから俺様が手伝って何とかなるもんなら手伝ってやるけどな?
でもよ、どう考えても無理だろ。
雪はかいてもかいても降ってくるし、お前が雪かきして何とかなる程度のモンなら除雪車出してなんとかしてんだろうよ」
と、苦笑。

それにエリザがさらに
「無理でも出来る限りの事やるしかないでしょ…。
生放送なのよ。
…主役がいなくてどうすんのよ…」
と、鼻をすすった。

それににこやかに
「ほならローデの代わりに親分がギター弾いたろかぁ?」
と言ったアントーニョの顔面にいきなり綺麗な形の足が飛んできて、ギルベルトが慌てて間に入ってそれを防ぐ。

「お前ねぇっ!」
と、収まりかけた怒りをまたはたはたと煽る発言をするアントーニョに苦言を呈しかけるフランシスの声を

「お前はァ…空気よめやっ!!」
と、どすの聞いたエリザの声が遮った。

え?ええ???

アーサーが見ていたエリザはいつもニコニコした綺麗なお姉さんだったわけなのだが、思わぬ姿に声も出せずに硬直する。

そんなアーサーに、
「アルト、大丈夫だからな。
あいつも蹴り入れていい相手と悪い相手はちゃんとわきまえてるから」
と、ギルベルトがその肩を引き寄せて、よしよしと頭を撫でてきた。

それに気づいたエリザは少し平静を取り戻したらしく、
「…驚かせてごめんね、アーサーちゃん。
一応クリスマス企画だったから…トマトのギターとかありえないとか思ったら、少し理性が…ね。
普段はこんなことはないのよ?」
と、焦ったようにアーサーに向き直って言う。

それにギルベルトが、──仕方ねえ…と、ため息をついた。

「まず大前提で、ローデの代わりになるとか思って言ってるわけじゃなくて、生番組だから何もありませんじゃまずいんで提案してんだから、逆上はすんなよ?」
と、前置き。

そして、
「時間つぶしに俺様がフルート吹くってどうよ?
一応学生時代には国際コンクールのフルート部門で入賞したことあるしよ。
まだ披露してねえ特技だから多少の話題性はあると思うぜ?」
と、提案する。

え?ええ???
と、それにはアーサーが食いついた。

「き、聞きたいっ!ギルのフルート聴いてみたいっ」
「おう、いいぜ?アルトが聴きてえってんなら、家にフルートあるしいつでも吹いてやるよ」
と、優しい笑みを浮かべるギルベルト。

実は可愛い男の子が大好きというエリザの機嫌は、そんなギルベルトの提案というより、それにはしゃぐアーサーの姿で少し戻りかけたようだ。

「うん、ないよりはマシよねっ。
アーサーちゃんが聴きたいって言うんだから、ローデさんのピアノの足元にも及ばなくても、少なくとも馬鹿トマトのギター発言よりは価値がある提案だわっ」
と、口元に少し笑みが戻ってくる。

しかしその毒舌に先ほどまでエリザと立ち回りを演じていたギルベルトだとか、善意の申し出をぼろくそに言われているアントーニョだとかはキレたりしないのかとアーサーはまだハラハラするわけなのだが、それに気づいたのは人の感情の機微に聡いフランシスで、

「大丈夫。ギルもトーニョもエリザちゃんがいま、ずっと楽しみにしてた撮影がダメになって、さらにその穴をなんとか埋めないとっていう余裕のない状態だっていうのは、幼馴染だけにわかってるからね。
2人ともホッとした顔してるでしょ」
と、耳打ちをしてきた。

なるほど。
どちらもちっとも不快な表情ではなく、むしろ気づかわし気な笑みを浮かべている。

その方向で進められるように…と、そこでフランシスが
「じゃあローデみたいに主役にはなれないけど、お兄さん、伴奏くらいならいけると思うから頑張っちゃおうかな。
トーニョもせっかくだからギターじゃなくてバイオリンならいいでしょ」
と、提案し、アントーニョもそれに

「親分、ギターの方が得意なんやけど…」
と口を尖らせながらも了承した。


こうして3人がそれぞれ楽器の演奏をすることになって、アーサーは迷った。
なにしろ楽器を習うような裕福な育ちではないので、自分だけ何も協力できない。
別に誰に何を言われるわけでもないが、なんとなく気まずくてうつむく。

しかしそんなアーサーの前で
「まあ…クリスマスにしてはいつものメンツで代わり映えもしないし、あたしのメンタル的にはやや寂しいところだけど、番組的には助かるわ。
3人ともありがとね」
と、3人に言うエリザの言葉にハッとした。

そうだ!クリスマスならっ!!

「あ、あのっ、俺、孤児院の教会で聖歌隊やってたから、聖歌なら歌えるけどっ」
と、顔をあげると、全員の視線が自分に…。

あ…ダメだったか…やっぱり楽器みたいに一芸がないと歌なんかじゃ…と、アーサーは内心泣きそうになるが、そこでエリザが嬌声をあげる。

そして
「いいっ!!それ、いいっ!!
ね、服も良い?!あたしが選んで良い?!
アーサーちゃんの歌声聴けるなんて、テンション上がるわ~!!!」
と、目を輝かせてぎゅっとアーサーの手を握った。

「え~、ほなら、親分一緒に歌おか~?」
「ざけんなっ!アルトと一緒っつ~なら、俺様だろっ!」
「ギルちゃんフルートやから歌えへんやん」
「てめえだってバイオリン弾きながらって無理あるだろっ」
と、争いだすアントーニョとギルベルト。

しかしエリザの
「アーサーちゃんとデュエットすんのはあたしに決まってるでしょっ!
番組は【エリザの部屋】なんだからねっ!
さ~、マネージャー、忙しくなるわよっ!
時間までに衣装急いで揃えて頂戴っ!
可愛いやつをねっ!!」
という鶴の一声で双方の言い分は却下され、マネージャーは現実的な方向性に決まったことにホッとして
「わかりましたっ!
衣装と楽器、手配してきますっ!!」
と、嬉しそうに駆け出して行った。

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