ギル&アーティ、サンタのヘルプ_1_スノーパニック

それはとある日の事だった。

その日の【ギルとアーティのファンの皆様の仰せのままに】はスタジオでの収録で、アーサーはギルベルトとAKUYUの2人と共に無事撮影を終え、廊下に出たところで、窓に駈け寄った。
そしてその口からは『ほおぉぉ~』とため息が出る。

外は雪が降り積もって綺麗な雪景色だ。
ぺたりと両手を窓につけ、一面真っ白ないつもと違った外の景色に見惚れるアーサーにギルベルトは苦笑する。

そうしてアーサーから困った要望が出る前に
「外で遊ぶのはダメだからな?
アルトはすぐ熱出すし、体調崩したら仕事に支障がでる。
まあ…それ以上に俺様が熱で苦しむアルトを見たくねえから」
と、釘を刺した。

それに太めの眉の眉尻をさげて、どこか落ち込んだ子犬のような表情を見せるところを見ると、本人はそのつもりだったのだろう。

「少しだけ…」
と、それでも往生際悪く言う可愛い恋人の願いを普段なら可能な限り叶えてやるギルベルトではあるのだが、それもアーサー自身の身の安全が保障されていることに限ってで、今回はその限りではない。

だからギルベルトに雪に飛び込んで人型を作ってこいとか、デカい雪だるまを作ってくれとかそういうことならすぐにでも叶えてやるが、アーサー自身が雪景色の中に飛び込むのはダメだ。

本当にすぐ熱を出すし、正式に恋人になる前、雪の日にいきなり家出をして、見つけた時には肺炎を起こして死にかけていたアーサーに号泣したのは、ギルベルトの人生の中で一番のトラウマである。

なので
「どうしても雪に触りたければ俺様が雪だるまでも作って持ってきてやるから室内で待ってろ」
と、それは本当にやるつもりで長袖のシャツの腕をまくって見せるギルベルトに、アーサーは
「そこまではしなくていい…」 
と、飛び出しかけるギルベルトの服の裾を慌ててつかんだ。


「お前ねぇ…寒い寒くない以前に自分が人気の芸能人だって言う自覚持ちなさいよ。
AKUYUのギルベルト・バイルシュミットがいきなりTV局の前で雪だるま作りはじめたら、記者やファンに囲まれてひと騒動よ?」
と、一歩遅れてスタジオを出てきたフランシスが、そんなやりとりに苦笑する。

「せやで~。
アーティが雪触りたい言うなら、親分がリヤカー借りてきてそれに積んで局内に持ってきたろか~」
と、さらにその横でアントーニョが言って駆け出しかけるのにも
「ま~ち~な~さ~い!!!!
お前、お兄さんの言う事聞いてないでしょっ!!
ギルちゃんじゃなかったらとか、雪だるまじゃなかったらいいとか、そういうんじゃないからっ!!
もう、なんで二人してそんなNOUKINなのっ!!
お兄さんもういやっ!!」
と言いながら、その襟首をつかんだ。

そんないつもの光景に思わず笑ってしまう。
本当に本当に彼らはアーサーが一般人だった頃にディスプレイの向こうで見たAKUYUそのままだ。

少し騒々しいが和やかなやりとり。
その穏やかな空気を破ったのは、かなり離れているところから聞こえてきた女性の声と、それからやや間を置いて近づいてくる足音。

「待って下さいっ!無茶ですっ!やめてくださいっ!!」
と、青ざめるマネージャーらしき男性を振り切ってスコップを担いで大股で近づいてくる女性はエリザベータ・ヘーデルヴァーリ。

アーサーにとっては同じ事務所の先輩で、AKUYUの3人にとっては幼い頃から一緒に仕事をしてきた同僚だ。

見かけはとても綺麗なお姉さんだが、中身は男前でそんじょそこらの優男よりもよほどたくましい。

「エリザも雪だるま作るん?」
と、のんきに声をかけるアントーニョに、彼女を追ってきた彼女のマネージャーは

「んなわけないでしょうっ!
みなさんもエリザさんを止めて下さいっ!!」
と、涙目で叫んだ。


>>> Next (4月27日0時公開予定)


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