卒業_オリジナル_06

その後…いったん藤さん達の部屋に集合する私達。
フロウちゃんはお菓子持参だ。
応接セットのテーブルの上にお菓子の袋を置くとお茶を入れにいくフロウちゃん。

「なあ…金森…」
席に付くとまずユートが口を開いた。
「出来婚とかじゃないぞ?」
金森さんの言葉にユートはポカ~ンと口を開けて呆けた。
「なんで聞こうとする前にわかっちゃうかな」
「ふん!貴様のような凡人の考える事なんてお見通しだっ。」
鼻を鳴らす金森さん。

「じゃ、なんでいきなり結婚?」
そのユートの言葉にはソファに座る金森さんの首に後ろから腕を回した藤さんが上機嫌で答える。
「いつかするなら早い方がいいからって」
「まあ…海陽生徒会出の人間は大抵国の中枢行くか企業のトップに登り詰めるのが普通だからな。まあ青田買いされても不思議ではない」
それに金森さんが付け加えた。

そう…だった。
コウが生徒会長やってた時の学園祭、コウを将来引き込もうと色々な分野のすごい人達が訪ねてきてたっけ。

生徒会長ほどじゃないにしても、金森さんだって副会長なわけだから、当然そういう誘いがあってもおかしくないよね。本人もそう言えば強力なコネいくつか作ったとかいってたもんね。
日本で一番賢い高校の…歴代の中でも優秀だと言われてた生徒会のNo2なら不思議じゃないのか。

「というわけで…明日は全員で風早本家行きだけど、今日は全員この部屋泊まりな」
コウが最終的に宣言する。

謎…。

「なんで?」
せっかくロイヤルスイートなのに~って思ってるとコウはちょっと呆れた目で…でもそれをなるべく出すまいと努力してるんだろうなって口調で言った。

「えっとな…今回の一連の事件は風早の総帥の座を巡って起こってる訳な。
で、明日正式に藤さんと和馬が籍いれて総帥の座を藤さんが継ぐと、もう付け入る隙がないわけだ。
せめて藤さん単体なら自分達よりの配偶者を連れて来て遠隔操作もできるんだろうけどな。だから明日籍をいれるまでが犯人の正念場になるわけだ。
で、それまでにどっちかを消したい。
消せないならせめて人質を取って籍を入れさせない様にしたいって方向に行きかねないから、明日風早から迎えが来るまでは全員団体行動」

あ~そういう事もあるのか…。
納得。

「とりあえずアオイとユート、荷物まとめてこい」
コウは言って立ち上がる。
「和馬、鍵かけとけよ」
と、そのまま私達の部屋へ。

まあ…まだ荷解きなんてほとんどしてなかったから良いんだけどね…。
ちょっとがっかり。
私達は荷物をまとめて藤さん達の部屋へ移動。
クローゼットに荷物を放り込むと、今度はコウがフロウちゃんを伴って部屋へ。
二人も同じく荷物を持ってまた戻ってくる。
まあ正確にはコウが二人分の荷物かかえてっていうのが正しいんだけど…

「悪い、俺夕方まで仮眠取る。何かあったら起こしてくれ」
部屋に入ってきて荷物を置くなりベッドに直行するコウ。
1、2の3くらいでいきなり熟睡。

「え~っと…コウ何かあったん?」
普段は睡眠時間が少なそうなコウがいきなりこれだからユートがちょっと不思議に思ったらしくて、どうやら一番事情がわかってそうな金森さんに声をかけた。
金森さんは黙々とPCのディスプレイに向ける視線をそのままにそれに答える。

「ん~、昨日な、襲撃受けたらしいぞ。
で、事後処理で眠れんかったと。事後処理にどんだけ時間かけてんだとは思うがな」

しゅ、襲撃~~??!!!

「それってっ…誘拐目的とか?!」
「…わからん。詳しい事は例によって口にせんから。
どういう形で誰に襲撃されたとか全く口を割らん。
ただ昨日寝てないのと、今晩徹夜で見張るつもりなのがあるから今仮眠なんだろうな」

金森さんの言葉にフロウちゃんが可愛い顔に難しい表情を浮かべて
「コウさんを誘拐なんて…とんでもない人達ですねっ!」
とご立腹。

いや…とんでもないっていうより無謀?って思うんだけど…。
よりによって一番誘拐できなさそうな相手をターゲットにするなんて……。
ユートも同じ事を思ったのか苦笑い。

「連れて行かれないように見張っておきますっ」
フロウちゃんは断固として主張するとコウの横にちょこんと座ったけど、5分後にはコテンと横たわって熟睡…。
だめじゃん。ま、フロウちゃんらしいけど。

「結局…黒幕は下の叔父さん?」
二人が脱落した所でユートがソファで私がいれたコーヒーをすすりながら金森さんに話かける。
「犯人特定は俺の仕事じゃない」
金森さんは一瞬キーボードを叩く手を止めてコウが眠っている寝室の方に目をやるが、すぐまたディスプレイに視線を戻す。

「たぶん…最有力候補?叔母の可能性もあるけど…」
と藤さんは一応それに答えてくれる。

「明日はね、どちらにしても風早本宅で話するらしいよ、弟。
彼には多分ある程度犯人見えてるんじゃないかな。ぎりぎりまで教えないだけで…」

あ~いつもそれだよね、コウ。
確実に自分の中で図式ができるまで言わない慎重派。
それがそれでなくても少ないコウの言葉数を少なくさせて、ぶっきらぼうな印象を与えるんだよね…。

出会った当初は怖かったなぁ…。
今は始めの頃に比べればだいぶ言葉数も多くなって来て当たりも柔らかくなってきたけど、その辺の慎重なところは本当に変わらない。
でもその与えてもらえない言葉に不安を感じる事は少なくなって来た。
言葉に出さなくても十分その善意をわかってきたから。

私とユートと藤さんは例によって暇なのでトランプ。

夕方…そろそろ夕食かなって時間でコウを起こそうかと思ってたらいきなり
「うわああぁ!!」
って寝室から悲鳴。

何事かと思って暇人3人組がかけこむと、すでにベッドから跳ね起きてるコウと、コウの声で目が覚めたらしく小さな拳で目をこすっているまだ眠そうな様子のフロウちゃん。

「なんで姫がっ?!」
あ~気付いたらフロウちゃんが隣で寝てたからか。
フロウちゃんはほにゃ~っとした顔でちょっと小首をかしげ…それからポンと手を叩いた。
「あ~…コウさんがね、連れて行かれない様に見張ってようと思って…寝ちゃったみたいです~」
その言葉に脱力してがっくりうなだれるコウ。
「姫…いてどうなるもんでもないと思うぞ?」

ま、そりゃそうだ。それでも
「ん~でもね、連れてかれちゃいやだから…」
と、半分寝ぼけた、ちょっと潤んだ様な目でコウをボ~っと見上げるフロウちゃんにコウは
「そか」
とちょっと嬉しそうにフロウちゃんの頭をなでた。

「ちょっと眠気覚ましにシャワー浴びてくる」
コウは起き上がるとそう言ってバスルームへ。
フロウちゃんはまだ眠そうにベッドで子猫みたいにコロコロしてたけど、そのうちまたコテンと眠りについた。

コウがバスルームから出て来たくらいのタイミングで手配された食事が運ばれてくる。
フロウちゃんまだお休み中。
しかたなしにコウが起こしに行くけど起きなかったみたいで、お姫様抱っこでソファへ。
半分フニャフニャしながらもコウが食事を口に放り込むとモグモグゴックンしてる。
ただし野菜と果物だけ。
お肉とかだと口つぐんだままイヤイヤというように首を横に振る。
寝てるんだか起きてるんだかよくわかんない…。

「いいなぁ…私もあげたいっ」
「ペットみたいだな」
などと藤さんや金森さんがあげようとしても口を開かないから、やっぱり意識はある??
でも放置するとすぐコテンとコウにもたれたまま動かなくなるから寝てるのかも??

「なんだか不思議生物だよな…相変わらず…」
私の隣でユートが小さく息を吐き出した。

食事が終わるとコウはそのままフロウちゃんをベッドに運んで戻ってくる。
そして応接間のソファで寛いでいた私達に言った。

「今日は俺と和馬は徹夜。
女性陣はベッドを適当に使ってもらって、ユートは眠けりゃ寝室のソファな。
何か来たらなるべくとばっちり受けない様にベッドの影にでも非難しててくれ。
極力そっちにはやらないように努力はするけど、万が一寝室まで行った場合はできるならバスルームとかトイレとか鍵のかかる部屋に避難で」

厳しい顔で注意するコウにユートが
「まあコウいりゃ大丈夫だろ」
と気楽な感じで言うけど、コウはさらに表情を厳しくする。

「絶対に携帯を放さないようにして、もし俺がやばそうなら即警察呼んでくれ。
相手は今までみたいに”たまたま殺意を持った一般人”じゃない可能性も高いから。
仮にも風早財閥の人間が人を殺すために雇った相手だ」
いつもなら気軽に守ると言ってくれるコウのその言葉に私もユートも凍り付いた。

「和馬も捕まえようとか思うなよ?
捕まえられればまあそれに超した事はないが、捕まえる事が目的じゃない」
コウは次いで金森さんにも注意をうながす。

「ずいぶん意味深な言葉だな」
金森さんはいつもの皮肉な笑みを浮かべたけど、それでも
「ま、俺も命は惜しい。
せいぜい寝室に向かいそうになったら邪魔するくらいにして、あとは旗振って勇者を応援しといてやるから頑張れ」
と了承した。


……眠れるわけない……。
何かあっても大丈夫な様に寝間着は着ないで部屋着のままベッドに横たわるけど、当然あんな話聞いて眠れるわけない。

藤さんはフロウちゃんの寝てるベッドに一緒に寝てて私一人で一つのベッド使ってるんだけど…こうなると一人って妙に心細いよね。
かといって一つのベッドに3人てのもね……

しかも…夜だからって理由で明り消しちゃうし、コウ。
真面目に怖いんですけど?

「藤さん…寝てます?」
「…起きてる…寝れるわけないよね…」
「…ユートは?」
「…同じく……」
寝てるのは…フロウちゃんだけか…。

空気が凍った…。
そう感じたのは多分コウが緊張した気配を見せたから。
「…和馬、PC閉じろ…」
暗闇の中でもPCをいじっていた金森さんにコウが緊迫した小さな声で指示する。
金森さんはその声に黙ってPCを閉じて立ち上がった。
応接間の方で発する緊張した空気。
私だけじゃなくユートも藤さんも当然それに気付いている。

それから本当に10秒もしないうちに、変な音がしてドアが開く。
廊下の明りが暗い室内に差し込んだ。
影は二つ…男性…。
ドアの影で息をひそめていたコウが動いた。

本当に…アクション映画みたいに綺麗な蹴りが男の一人の胴にクリーンヒット。
アクション映画と違うのは…嫌な鈍い音が響いて、男が前のめりになって吐いた事。

「こっちは折ったっ!頼むっ!」
コウは恐らく金森さんに言ってもう一人の方に…。
折ったって…折ったって骨っ?!!!
もう一人は何か持ってる。
パンっ!って乾いた音…え?ええ?!ここ日本だよっ?!なんで銃?!!

「アオイちゃん、ベッドの影へっ。流れ弾とか来たら危ないからっ」
藤さんの小声の指示で我に返った私は慌てて寝ていたベッドから飛び降りてベッドの影へ。
藤さんはすでにフロウちゃんを抱えてベッドの影だ。
ユートもソファからあわてて私の方へ避難してくる。

でも銃はその一発っきりでその後撃たれる事はなかった。
即コウが足で叩き落としたから。

こちらからは廊下の明りに照らされる応接間が見えるわけなんだけど…あまりにあり得ない光景すぎて現実感がなさすぎて…怖いとかいうのもなんだかもう麻痺しちゃってて…私はただコウって体柔らかいなぁなんて、その蹴りみて思ってたり…。

叩き落とした銃は金森さんが拾ってこっちへ投げて来て、藤さんがコソっと一瞬ベッドの影から飛び出してそれを拾うとまたベッドの影へ。

コウが対峙してる相手は銃が無くなるとすかさず今度は刃物。
不意打ちできたもう一人と違って、なかなか手強いのかコウがしばらくやり合ってる間、金森さんはあらかじめ用意しておいたらしい紐で最初に攻撃した男を縛ってる。

相手…強いのかな…。
私が初めてコウが犯人とやりあうのを見たのは高校2年。
皆と出会うきっかけになった連続高校生殺人事件の時で、犯人のナイフを持った高校生をあっという間にのしていた。
そのあまりに見事な立ち回りに、”もうこの人なんだろう?勇者?”とか感心したものだ。

その後も別の事件で犯人とかではないものの空手部所属の高校生が4人掛かりで向かって来るのをやっぱりあっという間にのしてたりとか、コウがいれば大抵の悪者は一瞬でやっつけられるって思ってたんだけど…。

「警察呼んでっ!」
金森さんが叫んだ。
藤さんが慌てて電話をいじる。

その声が男を若干焦らせたみたいだ。
一瞬躊躇するように動きが止まった所をコウがナイフを蹴り上げる。
でも敵もさるもの、ナイフが手から離れた瞬間決断を下したようだ。
即ドアに向かって駆け出した。

それを見て立ち上がりかける金森さんにコウは即
「追うなっ!」
と指示。
金森さんは浮かせかけた腰をまた沈めて紐で縛った男の見張りに戻った。

「ユート、警察くるまでドア閉めてチェーン」
コウの言葉でユートが立ち上がる。
「女性陣は寝室からでない様に。藤さん、姫よろしく。こちら見せない様に」
「らじゃっ」
言われて藤さんはうなづいてワタワタするフロウちゃんを抑える。

「コウさん、コウさん、大丈夫ですっ?!」
「ああ、大丈夫だから。片付くまでそこいろ」
少しコウの息が荒い。
「…悪い…ユート、着替えとってくれ…」
ドアを閉めて戻って来たユートに言うコウ。

言われてコウに目を向けたユートは一瞬息を飲むけど、すぐ
「鞄ごと持って来た方がいい?」
と聞く。
「ああ、さんきゅ。そうしてくれ」
コウがうなづくと、ユートはクローゼットからコウの鞄を持ってまたコウの元へ戻った。
ユートが鞄を側に置くと、コウは今着てるシャツを脱いで鞄の中から紐のような物を出して体に巻いてる。

「…お前、それどうした?今…じゃないよな?」
「ああ、昨日の襲撃ん時ちょっとな。」
…って…怪我してるの?コウ!

「苦戦か?」
「ん。辛勝ってやつか…。一歩間違えば負けてたな」
当たり前にそんな会話をしつつ、たぶん包帯なのかな、巻き終わると、コウは鞄の中から新しいシャツを出してはおった。

そんな事をしている間に警察到着。
なんと担当はまたもう事件で一緒になる事3度目の赤井さん。
コウの高校のOBでコウの事をお気に入りの本庁所属の加藤警視の部下らしい。
毎回色々融通を利かせてくれる便利な人だ。

「これ…侵入者二人いて、刃物はもちろん一人は銃持ってて二人同時に相手は無理だったんで、こっちの男をとりあえず動けないようにと骨折っちゃったんですけど…正当防衛になりますよね?」
電気がついたところで顔を見て第一声、コウが苦笑すると、赤井さんは青くなった。

「当たり前ですよっ!大丈夫ですかっ?救急車呼びますかっ?!」
その声に恐る恐る応接間に目をやって私は絶句。
床に血で真っ赤に染まったシャツが無造作に脱ぎ捨てられてる。

…そんな…大けがしてたの?!

藤さんもそれを見てフロウちゃんには見せられないと、フロウちゃんをさらにぎゅうっと抱き寄せた。

コウはその言葉にちょっとホッとしたように息を吐き出すと
「…いえ…まだやらないといけない事残ってるので…」
と、シャツを拾い上げ、鞄からビニールを出してその中に放り込んでそのビニールをさらに鞄に放り込むと、ソファに身を投げ出した。

「アオイ…藤さんから拳銃受けとってこっちに…」

うあ…言われちゃったよ…。
私は藤さんの側に放置してある拳銃を持ち上げた。
本物持つの初めてだけど意外に重い…。
それを恐る恐る赤井さんに持って行く。
そのついでにチラリとコウに目を向けた。
大量出血のせいかかなり顔色悪い。

赤井さんもそう思ったみたいで
「風早財閥相手ですからね…上からも慎重にと言われてますし昨日はご指示通りにしましたが…今日はこちらの指示に従って下さい。
ちゃんと手当しないとさすがに死にますよ?
他の方々は警察の方で責任を持って護衛しますので病院できちんと手当受けて下さい」
と青い顔で眉をひそめた。

結局コウは病院、フロウちゃんもそれに付き添って行き、翌日風早家で集合となった。
その後は朝まで赤井さんを始めとする警察の方々の護衛付き。
そこでいくらお馬鹿な私でもわき起こる疑問…。
なんでコウは最初からこうしようとしなかったんだろう?
確かに警察は事件が起こるまでは動かないのが常とは言っても、ユートに続いてコウまで刺されてるんなら動いてくれるよね、普通。
それでなくてもコウは警察と親しいわけだし…。

それを赤井さんに聞いてみても
「捜査上の機密でもありますし、碓井さんにも口止めされてますので…」
と、答えてくれない。

コウが怪我させられるくらいの相手って?と思っても
「それも申し訳ありませんが…」
って返ってくる。

だから夕方相手が殺意を持った一般人なわけじゃないみたいな事言ってたんだね…。
不安…。

ユートも藤さんも真っ青で…金森さんだけは
「まあ、あいつは殺しても死なんから。
というか…死んだら針千本とか無意味な脅しかけられて青くなってるぞ、今頃」
といつもの淡々とした口調でPCに向かってる。

どっちにしても眠れない…。
一睡もできないまま朝…。
朝食も…普通に食べてるの金森さんだけだ。

「よくこんな時に普通に飯食えるよな…」
やっぱり眠れないまま朝日を見たユートが青い顔で言うと、金森さんはいつもの淡々とした口調で
「コウでもそうすると思うぞ。
これでもう全て終わりというならとにかく、まだ続いてるわけだからな。
次の事態に備えて体調を出来る限り整える、それが動ける人間の義務だろ。
そこで無意味に起きてたり食事抜いたりとか非建設的だ」
ともうこれ以上ない正論を唱える。

この人って…本当に感情ってものがないのかな…。
確かにそうなんだけどさ、人ってそこまで論理的なだけにはなれないと思うんだけど。

「まあ…企業でもなんでも上に立とうとする人間にはそういう冷静さって必要なわけなんだけどさ…」
藤さんはうつむいた。
長い髪がサラリと流れる。

「私…子供の頃からそういう教育されてるはずなんだけど…そのあたり打たれ弱いんだよね…。
前回の事件の時も弟いなかったら、ただ感情的になって暴走してたと思うし…上に立つのにさ、向いてないんじゃないかな…」
藤さんは言って両手に顔を埋めた。

金森さんはその言葉に淡々と食べ物を口に運んでいた手を止める。
そしてゴクリとコーヒーと共に食べ物を飲み込むと、口を開いた。

「あ~トップはそれで良いと思いますけど?人間味ないと愚民はついてこんから。
そういう意味ではコウも世話焼ける男でしたよ?
で、それを物理面でフォローするためにNo2がいるわけで…。
トップ以外はこういう時に暴走するのは人間失格だと思いますが」

うあ…人間失格烙印押されちゃったよ……。
私以上に…私の横でその言葉にさらに青く厳しい表情になるユート。
無言で金森さんをにらみつけると、パンをちぎって苦い物でも飲み込むように牛乳と一緒に流し込んだ。

食事を終えて風早家からお迎えが来た時、正直ホッとした。
これ以上重苦しい空気に耐えきれない。
警察とガードマンに囲まれて車に乗り込む私達。
車は私は詳しくないからよくわかんないけど、ドラマとかでお金持ちが運転手付きで乗ってるすっごい大きい黒塗りの車。ロールスロイスとかそういうのなのかな?

でもさすがにはしゃいだ気分にはならない。
車の中でも皆無言。

こういう時…フロウちゃんがいればなぁ…。
彼女の全く周りの空気に影響されない明るさは、こういう時は特に貴重だ。

コウの具合はどうなんだろう…。
怪我してたの…ユートと違って腕とかじゃなかったよね…。
大丈夫なのかな…。
結局犯人の一人は逃げたままだし、黒幕もわかってないし、本気で心細い。

そんな風にボ~っとしてるとご立派な車はすごいご立派な門をくぐってすごい豪邸の前に横付けされた。
そして背広の男の人がドアを開けてくれる。
藤さんが当たり前にまず降りて次に金森さん、私、ユートと続いた。






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