卒業_オリジナル_05

翌朝…目が覚めた時にはすでにユートがいない。

キョロキョロとあたりを見回してバスルームも確認して、それでもいなくてちょっと不安になってパジャマの上に薄いカーディガンを羽織って外を見て来ようとする私の腕が後ろから掴まれる。

「ちょい、そんな格好でどこ行くの?」
振り向くとそこには呆れた顔のユート。
ホッとして涙が出た。

「ユート、どっか行っちゃったかと思ったから…」
「も~、こんな状況でアオイ一人残してどこも行けるはずないっしょ。
せめて少しでもリゾートライフを~って思ってバルコニーで浸ってただけっ」

「なんだぁ…もうっ、それならそうと誘ってくれればいいのにっ!」
私がふくれるとユートは
「アオイ寝てたでしょ。あんまり気持ち良さげに寝てたしさ…」
って笑う。

昨日の事が嘘みたいに穏やかな朝。
その穏やかさも全員集合するまでだった。

フロウちゃんは朝型っ子なので朝は元気。
「おはようございますぅ♪」
ってにこやかに挨拶してくれたけど、あとの3人は何故か寝不足気味っぽい。

「皆さん…なんだか眠そうですね?」
私が言うと、藤さんは
「姫と同室なんて嬉しすぎてついつい…寝顔堪能してたら朝になっちゃった」
と、もう女子校育ち丸出しな危ない発言。

それに普段なら反応するコウは、
「楽しそうでいいですね…」
と、今日はなんだか疲れた様子でソファに身を沈める。

「コウ、何かあったん?」
ユートも気付いたらしく声をかけるが、コウは両手に顔を埋めて小さく首を横に振った。
「いや…今の時点では話す事じゃない」

あたりこそ柔らかくなってきたものの、なんでも自分一人で抱え込もうとするのは相変わらずだ。
まあ、話す気がない時のコウにそれ以上聞いても無駄。
それはユートも同感らしくて、今度は金森さんに目を向けるとこちらは
「昨日が仕事の締め切りだったから」
と、あっさり。

「言ってくれれば…」
「言ってどうする?お前が手伝えるわけじゃなし。
お前達と行くってことは必然的に事件に巻き込まれるってことだから藤さん一人行かせるわけにもいかんだろ」

「あ~、はいはい。大事な彼女様なわけね」
「当たり前だろ。俺の人生の最大の娯楽なわけだしなっ」

なんか…えげつないんだか甘いんだかわかんない台詞…。
でも藤さんは例によってなんだか嬉しそうだ。

私達がそんなやりとりしてると、フロウちゃんがテケテケっとコウの横まで来てコウの首を引き寄せ、いきなりチュ~って……///
呆然とする一同。赤くなるコウ。
ただ一人フロウちゃんだけニッコリ。

「これ…?」
コウが出した舌の上には真ん丸のキャンディ。
「プレゼント♪最後の一個だったのでっ。疲れてる時には甘い物が良いんですよぉ♪」

天使の微笑み…昨日は白だったけど今日は淡い淡いピンクのフリルのワンピースにヘッドドレス付きで可愛さ絶好調。
言っている事も確かに正しいんだけど…行動性が…。
それ以前に…コウ甘い物ってすご~く嫌いなはずじゃ?

「下手すれば…いじめだよな…」
隣でコソコソっとユートが言うのに私も無言でコクコクうなづく。

それでも…コウは
「さんきゅ~、姫」
と少し複雑な笑みを浮かべた。
苦手な物でもありがたく頂くあたりが、もう涙ぐましいというかなんというか…。

「元気になりましたっ?」
ニッコリともうそれはそれは可愛らしい美少女の笑顔に否定なんてできるわけない。
「ん。なった」
と答えるコウ。

「……。天使の奴隷……」
ボソボソっと金森さん。
やっぱり皆にそう見えるのか…。

とりあえず…また危害を加えられるかもしれないと思うと人ごみには行けない。
一応フロウちゃん達の部屋に集まってるままなんだけど食事終わるとほんっとにやる事がない。

「コウさん…退屈ですっ」
フロウちゃんが真っ先にシュタっと手を上げて叫んだ。

金森さんと同じく持参してたノートPCで黙々と何かやってたコウはそんなフロウちゃんにチラリと目を向ける。

「人ごみ出ると危ないから」
「そんなの、コウさんいたら大丈夫っ!」
小さな拳を握りしめて当たり前に力説するフロウちゃん。

「…俺が姫の前後左右囲める様に4人いたらな…」
溜め息まじりに言うコウに、フロウちゃんはプ~っとふくれた。
「退屈すぎて死んじゃいますっ!」
「…大丈夫。人間退屈なくらいじゃ死なん」
「大丈夫じゃないです~!
私実は人間じゃなくて退屈だと死んじゃうウサギ星人だったんですっ!」
「ウサギって…退屈だったらじゃなくて…寂しかったらじゃなかったか?」
「だ~か~ら、ウサギじゃなくてウサギ星人だから、寂しかったらじゃなくて退屈だったらなんですよぉ!」

二人の会話に金森さん爆笑。
「あれだな…本人は退屈かもしれんが、周りは退屈せんな」

「…姫、どこ行く?」
ふくれたまま部屋の奥へ歩を進めるフロウちゃんにコウが声をかけると、フロウちゃんはウルっと
「バルコニー。お部屋飽きちゃいました」
と言ってベランダへ。
コウは苦笑まじりに溜め息をつくと、再びPCに目を落とした。

藤さんと私とユートはトランプを始め、コウはPCに向かいながら時折どこかへ電話をかけてる。
金森さんは例によって仕事らしい。

そんなこんなで30分後、コウがPCから顔を上げて
「藤さん、少しお時間いいです?」
と、藤さんに声をかけた。

「うん、何?」
ちょうど7並べが終わってカードを切っていた藤さんはトランプを置くと、コウの正面に座る。
凛とした美貌の二人の意志の強そうな視線が交わる。

「大変立ち入った事お聞きするんですが…」
「うん、いいよ。もう今更でしょ」

お互い整いすぎているがゆえにきつい印象を与える人間で、笑みを浮かべてない時だと慣れているはずの私達でもちょっと直視するのが怖くなる事がある、そんな視線なんだけど、お互いしっかり目を見て話す。
知性の中に硬さと生真面目さが見え隠れしている。

「風早家の家督の事なんですが…」

って…いきなり立ち入りすぎに思えるような聞きにくい事をズバッと口にするコウ。
でもその声音に迷いはない。聞き出すべき事を聞き出すんだという強い意志だけがそこには感じられた。

「うん?」
藤さんはそれに驚きも不快感も見せず、コウに先を促す。
「万が一…ですね、藤さんに何かあったらどうなるんですか?」
「あ~、その場合はね、上から順かな。
もし私に兄弟いればまたその兄弟の一番上って事になるんだけど、私は一人っ子だから、一番上の叔父になるな、当主」

「例の下の叔父さんというのは…何番目です?」
「えっとね、私の父親、上の叔父、叔母、で、下の叔父。相続的には最後だね」
「なるほど…」
コウは聞いてまた考え込んだ。

「もう一つだけ」
「なに?」
「藤さんのご両親が亡くなった時って藤さんはまだ1歳だったんですよね?」
「うん」
「お祖父様より叔父さんや叔母さんが引き取るとかいう話があったりとかはしました?」
「あ~、あったらしいねぇ。何故か叔母と下の叔父がね。
ま、ほら所詮赤子だからさ、その頃から躾ければ自分達の自由になるとでも思ったんだと思うよ」
「上の叔父さんは?」
「いや、あの人はそういうの興味ない人だから。
むしろ上の叔父にだったら任せたのかもしれないけどねぇ、祖父さんも。
下の二人は魂胆見え見えだから、結局祖父さんの保護下で育てられる事になったんだ」

なんか…ドロドロ系のドラマみたいな話だ…。

「他に何か聞きたいことある?」
そこでいったん言葉を切って考え込むコウに藤さんが聞くと、コウはさらに
「和馬の事を知った時のそれぞれの反応は?」
と聞く。

本人いる前でそれ聞いちゃうコウもあれだけど、藤さんも全然気にする事なく
「下二人はもうボロクソ。
特にさ、下の叔父は諒さんとくっつけて自分が操作とか考えてたから、もうすごかったよ。財産目当てとかさ…」
「…上の叔父さんは反対はしなかったんですか?」
「ん~、まあまだ彼も高校生なら即将来決めないとってわけじゃないし、男の子との交際も経験だしいいんじゃない?って。
あの人は結構絶妙な距離を取ってくれる人だから。
せいぜい和馬が送ってきてくれた時の下の二人とのやり取り見て、和馬の事少し賢すぎるみたいだから大丈夫?とか言って来たくらいかな。他には?」
「いえ、そんなところですね、ありがとうございます」

コウがいったん話を切り上げ、
「そう。じゃ、また何かあったら言ってね」
と、私達の方に藤さんが戻って来た時、今度は金森さんがPCから顔を上げた。
「なんか…姫、気味悪いほど静かだな…。
俺がお守りしてた時はチョロチョロチョロチョロしてたんだが…」

その一言でコウがガタっと立ち上がった。
そのまま無言でバルコニーに駆け出していく。
そしてバルコニーに出て5秒後…

「やられたっ!!」
叫んで戻って来た。
「な、なに?!」
私が聞くと、
「バルコニーから木を伝って抜け出したっ!!」
と、コウは今度はドアに向かう。

うあ…ここ2階だからって舐めてたね…。
てか、運動神経は良くはないのに意外にお転婆なんだよね、フロウちゃん。
前もマリア像によじ登ったりしてたし…。

「まじかっ!」
金森さんも額に手をあてて溜め息をつく。
「とりあえず俺が探しにいくから、和馬ここ頼むっ」
他が何か言う間も与えず、コウはそれだけ言って部屋を駆け出していった。

「私も探しにいくっ!」
コウが出て行ったあとすぐ上着を羽織ってドアに向かいかける藤さん。
その腕をつかんで当然のように止める金森さん。
「あなたは~。現状把握してますかね?」
「してるよっ!」
「じゃ、大人しくしてなさい。」
「現状わかってるからこそしてられるわけないでしょ?!
私のせいで姫に何かあったらどうすんのっ?!」
「もう彼女は、俺としてはそんな非科学的な事信じるのは大変不本意なんですが、この世の中には神様というものが確かに存在していてその絶対者に溺愛されていると信じるしかないくらい幸運な人間だから大丈夫ですよ。
あなたがここでウロウロ暴走してもまた手間暇かかって迷惑なだけですから、大人しくしてて下さい。
万が一俺の推測が外れてたら一緒に詰め腹切ってあげますから」

もう…思い切り動揺してる藤さんと、彼女とは対照的に全然落ち着きはらっちゃってる金森さん。

「…絶対…?」
「あ~はいはい、絶対大丈夫っ。なんなら指切りでもして針千本飲みましょうか?」
そこまで言われて藤さんはようやく落ち着いたようだ。
大きく息を吐き出してソファに腰を降ろした。

決して優しい言い方とかじゃないんだけど…金森さんも他人を安心させるの上手いよねぇ…。
なんていうか…冷静。
藤さんも一人でいると冷静で強い大人の女性のイメージなんだけど、金森さんといると途端に子供になる。

結局…金森さんも仕方なしに加わってトランプ。
もう…この人はいると7並べは勝負にならないよ…
ありえない!えげつない!!手加減なしっ!!
止めて止めてパス使い切らせて自滅させてニヤニヤするタイプ。
かといって…神経衰弱は藤さんがね…鬼の様な記憶力見せるし。

う……勝てないぃぃ……
何にも勝てないよ、これ。

私が涙目でトランプ握る事1時間…フロウちゃんがコウによって強制送還されてきた。
きゅうぅって涙目でコウにしがみつくフロウちゃんの手に下げた袋には山の様なお菓子…。

「もう…さすがに懲りただろ?」
ヒックヒックしゃくりをあげるフロウちゃんを見下ろすコウ。

フロウちゃんはそれに対して
「ううん…。コウさんがね…ちゃんとついてきてくれれば次は大丈夫なの…」
と大きな潤んだ瞳でコウを見上げた。

何があったかわからないけど…懲りてはいないらしい。
コウは後ろ手にドアを閉めるとがっくりとその場にしゃがみ込んだ。

「あのな…確かに今回みたいなただのナンパ野郎集団だったらな…そうかもしれないけどな…。
もう姫は思いっきり気にしてないかも知れないけどな、まだユート刺した犯人とか捕まってないわけだ。
そういう輩がな、どこから刺そうとしてくるかわからんだろ?」

なるほど…。
どうやら抜け出してお忍びで(?)遊び回ろうとして、例のごとくナンパ目的の男にしつこく迫られて泣いたのか、フロウちゃん。

ユートは泣いてる理由がわかったところで、袋にいっぱいのお菓子が気になったらしく口を開いた。

「で?その大量のお菓子は何?」
「…泣き止まないから…」
コウの言葉。

なんか…コウの思考って………変!!!
もうさ、子供じゃないんだからさ、泣いてるからお菓子ってありえないでしょっ。
どんだけ女心読めないのよ…って……コウだしねぇ……。
さすが幼稚舎から15年間男子校育ちの自他共に認める空気の読めない男。
金森さんもさすがにあきれ果てて突っ込む気も起こらないようで、ただ溜め息。

「でもねっ…リベンジ果たしてきましたよっ」
泣きながらそれでも力説してコウを見上げるフロウちゃん。
「…なんだよ…リベンジって……」
疲れきって言うコウ。
「ジャ~ン!これですっ!」
シュタっとフロウちゃんはポシェットから携帯を取り出した。

それを何やら操作すると流れる二人の男の声…


*****

男A「なんだよっ!こっちだって女装までして危ない橋渡ったんだぞ!いくらかは寄越せよっ!」
男B「何を言ってるのかね?私が殺して欲しいと言ったのと別の人間を刺して報酬をくれというのはあり得ないだろう?おかげで警戒されてやりにくくなったんだ。返って損害賠償して欲しいくらいだ」
男A「しかたねえだろっ!奴がプールサイドで着てたのと同じパーカー着てグラサンまで同じ奴が奴の部屋の側うろついてたんだから、本人だと思うだろうがっ!」
男B「君がどう勘違いしようとそんな事こちらの関知する事ではないっ」

*****


私を含めて全員ぽか~ん…。

「姫…これって…ユートの?」
コウがそれでも口を開くとフロウちゃんはきょとんと首をかしげた。

「ユートさん?何がです?」
「いや、リベンジって言わなかったか?」
「はいっ!私だっていつもいつも追い回されて怯えてるだけじゃないんですっ!
向こうが写真撮ろうとするなら、こっちは倍返しで動画ですっ!!」

自慢げに胸を張るフロウちゃん…。
ブ~っと金森さんが飲んでいたミネラルウォータを吹き出してむせた。
なんていうか…うん、何から突っ込んでいいのかわからない。
ゲホッゲホッと咳き込みながらも金森さんが突っ込んだ。

「ひ、姫…よもや…話してる内容全然気にしないで、ただ写真撮ろうとした男の動画撮ってみただけだったりとかです?」
フロウちゃんはその言葉にムゥっと可愛らしい眉を寄せた。

「”だけ”って何ですかっ、”だけ”ってぇ!写真より長くかかるんですよぉ、撮るのにっ!」

金森さん絶句…。
彼を絶句させられるのはこの世でただ一人、フロウちゃんだけだと思う…。

「うん…まあ…ある意味お手柄だ。頑張りましたね、姫…」
やがて金森さんが引きつった笑顔を浮かべながら言うと、フロウちゃんは”でしょう?”と得意げに微笑んだ。

「とにかく…見つからないで良かった…。
これからはこういう場面に遭遇したら絶対に逃げろよ」
コウは顔面蒼白。
フロウちゃんはやっぱり意味がわかってないっぽくてハテナマークを浮かべてる。

「コウさん…やっぱり疲れてます?顔色悪いですよ?キャンディ食べます?」

袋の中からキャンディを取り出して一つを自分の口に、一つをやや強引にコウの口に放り込むフロウちゃん。
コウ…可哀想すぎ…泣きそうだ。

「あれだな…あいつやっぱりマゾだよな…」
金森さんが近くでボソボソっとつぶやいた。


「で、これは警察に?」
我に返ったユートが言うと、金森さんもコウも頭が切り替わったのか怜悧な表情に戻る。
「馬鹿一人捕まえてもな…」
と金森さん。

「風早財閥相手だと”大人の事情”発動でトカゲの尻尾切りで終わってまた同じ事おきそうだな…。
まあ一応警察には渡してはおくが…」
と、コウが考え込む。
「藤さん、ちょっと…」
コウが手招きをすると、藤さんがスルリと私達の所から抜け出して、コウにかけよる。

「この人物は…見覚えあったりはしませんよね?」
コウがフロウの撮った男の画像を見せる。
「う~ん…ないなぁ…。つか、調べさせようか?人雇って」
「調べる事は確かに必要なんですが…どうするかな…」
コウがあごに手を当てて考え込む。

「藤さん…すごい無茶言って良いですか?」
「うん、何?」
「藤さんのお祖父様に…話させて頂けませんか?」
「話?弟が?」
意外な言葉に藤さんはちょっと目をまるくして聞き返す。

「はい…。まあ…和馬との事はバレる前提で…。
二人の命かかってますし、相手が風早財閥となると俺のレベルの小細工じゃまず黒幕いぶしだすの無理なので」

「私はいいけど…」
藤さんはそこで金森さんの表情を伺う。
腕組みをして何か考え込んでいた金森さんはその視線に気付くと、
「俺に聞いちゃいます?あなたもいい加減学びなさいよ。
俺がそんな面白そうな事反対する様に思うんですか?」
とニヤリと笑った。

「でも…祖父が反対したら和馬に色々迷惑かけるかも…」
「まあ最低限の生活は一応いくつかの強力なコネ作ってあるんでなんとかなりますし、一介の大学生の身分で天下の風早財閥総帥に必死に嫌がらせされるなんてすごいじゃないですかっ。日本屈指の財閥の長がどんな嫌味言ってくれるのか楽しみですよ?」
クスクスと本当に楽しそうに笑う金森さん。
その様子に藤さんも少しホッとしたように小さく笑った。

「あのさ…いざとなったら和馬のマンション駆け込んでいい?」
「どうぞ。でも炊事は当番制ですよ?」
金森さんは動揺もせず当たり前に答える。
すごい人だ…。

結局藤さんから藤さんのお祖父さんに連絡してもらって、コウが事情を話し、何か相談している。
私達は落ち着かないもののする事もないので、フロウちゃんがコウに買ってもらった大量のお菓子をつまみながらトランプ。
1時間弱くらい話し込んだコウが電話を切ると、私達を振り返った。

「一応話はついた。で、各自荷物整理して部屋移動な。
そのうちホテル側からボーイ来ると思うから。なるべく急いで」
「移動?」
私が聞き返すとコウがうなづく。
「風早総帥が最上階のロイヤルスイート3部屋とってくれるそうだから。
部屋割りは俺と姫、ユートとアオイ、和馬と藤さんな」

私とユートは念のためにとコウに送られて部屋に戻り、コウも自分の荷物整理に戻っていく。
なんだか大変な事になってきたんだけど、でもロイヤルスイートルームなんて一生泊まる事ないだろうし、ちょっと楽しみだったり…。

やがてボーイさんが来て荷物を運んでくれる。
私達以外の4人は当たり前な顔してるけど、私もユートものぼっていくエレベータ内でワクワク感を隠せない。

そして着く最上階。
なんだか廊下の絨毯まで立派な気がするよ~♪
コウや藤さん達と分かれてドアを開けてくれるボーイさんに促されて中に入るともう別世界!

すご~~~い!!
今までのお部屋も私にしてはかなり豪華だったんだけど、ここはもう本気で違うよっ!
なんとね、部屋にジャグジーやサウナまでついてるよ?!

「すごいねっ」
ユートも部屋歩き回って声を上げる。
「う~ん…サウナとか入れないのが残念だけど…腕濡らさない様にすればジャグジーならいけるかな…」
「じゃない?入って来ちゃえば?」
私が言うと、ユートは
「そうする~」
と、バスルームに消えていった。

私はすごい広いベッドにダイブっ。
幸せ~♪

あ~あ、こうなってみるとユートが怪我してるの超残念っ!
一生に一度、今回くらいしか多分泊まる事ないロイヤルスイートで初めてなんて思い出になったかもなのに。
まあしかたないけどさっ。

そんな事を考えてると、ユートが出てくる。
私は片手しか使えないユートの髪にドライヤーをあてて上げた。
ユートの髪が乾くと私も入れ違いにジャグジーにゴ~。
サウナも満喫。
お風呂あがって髪乾かして部屋に戻ると涼しくて気持ちいい。

「私さ…2年前皆と出会わなかったら絶対にこんなに旅行してないだろうなぁ…」
パフンとまたベッドに寝転んで私が言うと、隣のベッドに寝転んだユートが
「俺も、俺もっ」
って笑う。

「その何回もした旅行で毎回殺人事件とか起こるのもあり得ないけどねぇ」
「確かにっ。俺2度刺されてるのに、アオイ4回も拉致られてて無事なのがすごいよね」
「うん、ある意味フロウちゃん並みの運の良さだよねっ」

私達はしばらくそのまま思い出話に興じてたんだけど、部屋に入って3時間くらいかな、内線があった。
なんと…藤さんのお祖父様がいらしてて日本料理店借り切ってお食事だとか…。

どうしようっ!服っ!
私は着替えの入ったボストンをひっくり返した。
そんなすごい服なんて持って来てないよぉ!
即携帯でフロウちゃんにお伺いをたてる。

『別に今日は風早財閥総帥というよりは藤さんのお祖父様としていらっしゃっててプライベートなんですし、普段着で良いんじゃないでしょうか~。私も普段着ですよ~』

って…そりゃあフロウちゃんの普段着って普段着じゃないからっ。
参考にならない~~!!
しかたなしに藤さんに電話。

藤さんもやっぱりプライベートだし普段着でって言うんだけど…
「私せいぜい普通のキュロットとシャツくらいしかないんですけど…」
って言ったら藤さんは
「あ~大丈夫。私も綿シャツとジーンズで行くからっ」
って言ってくれてとりあえず一安心。

それでも一番マシそうな服に着替えていったんフロウちゃんとコウの部屋へ。

……タイしてるし…コウ。
つか、なんでそんなもの持って来てるのよ…。
フロウちゃんはさきほどの言葉通り普段着…ただし…”フロウちゃんの”普段着。
ええ、ええ、高級そうな素材のフリルやレースいっぱいのそれは普段着?って聞きたくなる様な普段着なわけですよ。
もうお育ちの差をはっきりと感じながらも、お祖父様と先に向かった藤さんと金森さん以外の4人で高級そうな日本料理店へ。
コウが名前を告げると店員さんが奥の個室に案内してくれる。

襖をあけて立派な個室に入ると、そこにはすでに本気でご立派な感じのお祖父さんとその隣に金森さん、そして金森さんの隣に藤さんが座ってる…。


「お待たせしまして申し訳ありません。失礼します」
と頭を下げてまずコウが入る。

「いや、今回は本当に迷惑をかけた。座りたまえ」
と、逆にお祖父さんが頭を下げた。

「はい、失礼します」
コウは答えて私達にうなづく。

「失礼します」
ニコリと微笑んでフロウちゃんがコウの隣に、それに続いてユートがもう片方のコウの隣、私がユートの隣に腰をかけて、最後にコウがそのままお祖父さんの正面に腰をかけた。

全員座ったところで、藤さんがお祖父さんに私とユートを紹介してくれる。
コウとフロウちゃんはどうやら私達がお風呂に入ってはしゃいだりしている間にすでに会っているようだ。
で、紹介が終わったところでお祖父さんが口を開く。

「君達には一族の事で大変迷惑をかけた。
特に近藤君。怪我までさせてすまなかった。
だがなにぶん急に呼び出されたので申し分けない。
キチンとした詫びは後日またという事で…」
「いえ、風早さんのせいじゃないので…」
いきなり振られてさすがに焦るユート。

その後お祖父さんから爆弾発言。
「今回の事もあり、私も藤の立場をきちんと表明する事にした。
今一族の方には使いをだしたのだが…明日、和馬君を藤の婿に迎えて、正式に藤に風早コンツェルンの跡を継がせる事にする」

うっあああ~~!!!なんだか急展開がっっ!!!

「もちろん当座は私が後見人と言う事になるが、和馬君が大学を卒業する4年後をめどにある程度事業を藤に引き継がせるつもりだ。
風早財閥を率いるということはそれなりにプレッシャーとの戦いにもなるだろうし、今後とも孫達と仲良くしてやって欲しい」

なんというか…反対どころか、超取り入りました?金森さん…。
その後、お祖父さんと日本の経済状況の話とかを楽しげに交わす藤さん、金森さん、コウの3人。
それについていけずに黙々と超豪華な懐石を頂く私とユート。
そして、全然付いていく気もないみたいで、むしろお店の人に調理法なんて聞いちゃうフロウちゃん。
異様な食事風景…。
食事を終えると帰っていくお祖父さん…。
なんだか一気に疲れたよ……。







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