卒業_オリジナル_03

「…ようは…姫と藤さんの事だけ知ってるって事だよな」
金森さんが椅子の上で組んだ足を神経質に揺らしながら不機嫌な顔で言う。
「だけって?」
私が首をかしげると、金森さんはピッとポケットからカードを出してテーブルの上を滑らせる。

”ユナミちゃんにイヤらしい手で触るなっ!汚したら殺すぞ!”


…え~っと………

「どこぞの愚民がな、俺の部屋のドアにこのこ汚いカードを挟んでいったわけだ…まあやった奴の検討はつくが…」
金森さんはフンと鼻を鳴らすと、長い足を組み替えた。

ベッドの上でコウに抱えられるように座っていたフロウちゃんは、ソ~っと首を伸ばしてカードを覗き込むと、すぐピュ~っとまたコウの腕の中に逃げ込んだ。
まるで臆病な小動物みたいだ。

コウはおそるおそると言った感じで自分を見上げるフロウちゃんを見下ろすと
「大丈夫」
と、安心させる様に笑みを浮かべる。
それでホッとしたようにフロウちゃんはコウにすりよった。

相変わらずお人形さんみたいなフリルとリボンいっぱいの純白のドレスのフロウちゃん。
本人もまばたきしたらバチバチ音がしそうなくらい長い睫毛に彩られた澄んだ大きな目のあり得ない美少女なのでお人形さんみたいだ。
それを美形ではあるけど凛とした武士然とした硬質系の美形のコウが抱え込んでるとなんだか不思議な感じ。
金森さんの方が一緒にいても自然な感じはするけど、コウもフロウちゃんも二人とも美形なせいかコウといてもアンバランスな調和みたいなものがある。

「おそらく…さっきのカメラ持ってた奴らだな。姫を和馬に預けてたから…」
コウはフロウちゃんを抱え込んだまま言う。
「だな、でなきゃお前んとこだろ、このカード」
金森さんは言って、”一緒に持っとけ”とコウに向かってカードを飛ばした。

「今時手書きってありえんだろっ。
せめて筆跡鑑定されないようにワープロ打ちくらいしろよ。
まあ…変態ロリコンカメラ小僧じゃこれが限界なのかもしれんが…」
「なんでロリコンなんだっ」
「いや…藤さんいて姫にいくあたりが…。
どう考えても普通藤さんだろっ、スタイルいいし」
「それ単にお前の好みの問題だろっ。別に姫だってスタイル悪くはないっ」

あ~もう男二人、何意味のない争いを…。
そして…何故そこで二人して私をにらむかな?
いいじゃん、二人とも美形なんだからさっ…。


「藤さんは…女性として完璧なスタイルしてるけど…フロウちゃんは障り心地良いと思う…」

率直な意見を述べたらコウと金森さんが硬直した。
あ…誤解生んだかな…

「あ、あのね、もちろん藤さんも実際触ったら柔らかいけど、見た目はねっ、フロウちゃんのが柔らかくて気持ち良さそうかなと…
あ、もちろんフロウちゃんは実際触っても確かに柔らかいけどさっ…」

あわててつけたしたんだけど、あれ?余計になんか……

「「触り比べたのかっ?!」」
うっあ~~なんだかすごい形相でっ!!!
「いやっ、あの…わざとじゃなくて…」

ひゃああ!!!なんか怒ってるよ、二人ともっ!!!
真面目に怒ってる!!どうしようっ!!!
だって私に意見求めたんじゃないの?!!

「この変態女がっ!!!不気味カード送るならこいつに送りつけろよっ!愚民がっ!!!」
「もうお前は絶対に姫とは風呂行かせん!!」

そ、そんな事言ったって……。
別に好きで触ったわけじゃないもん、事故だったんだもん。
もう私は涙目で救いを求めて藤さんに目をやった。
自分のベッドに座っていた藤さんは視線に気付いて苦笑する。

「まあまあ、別に女同士なんだしそんな目くじらたてる事じゃないっしょ」
ヒラヒラと手を振ってそういう藤さんに
「同性だって変な趣味の奴はいるんですっ!
あなたはいい加減自分に対する危機感てものを持ちなさいっ!」
と金森さんが言い返し、コウはブチブチと
「俺だって直接なんて触ってないのに…」
とコウらしからぬことをつぶやいている…。
やっぱり…触りたい事は触りたいのか…。

それに対してはフロウちゃんが
「触りたかったら触ってもいいですよ?コウさん」
と普通に答えてたりするんだけど、そう言われると動揺するんだね。
真っ赤になって絶句するコウ。

それを見た藤さん、ジ~っと金森さんを見た。

「和馬も…触ろうよ…」
「あなたねぇ!!」
あ、なんだか珍しく焦ってる。一応金森さんも青少年なんだ…。

とりあえず男二人黙り込んだところで、藤さんが考え込むように天井に視線を向けた。
そしてまた戻る話題。

「あ~、なんかさ、気のせいかな~とも思ったんだけど…こうなってみるとそうなのかな~って思った事が…」
話題がとりあえずそれたところで少しホッとしたように
「なんです?」
と聞くコウ。

「うん、あの3人組のうちの一人さ、私会った事あると思う」
「は?!どこでです?!つか、そういう事は早く言って下さいっ!」
金森さんが言うのに、
「だって…昔の事だから」
と答える藤さん。

「3年以上前だから確証は持てないんだけど…ほら、私が木を蹴り倒して脅した姫のおっかけいたって言ったじゃない?あれ、そうな気がしてきた…」

うはっ…そんな昔からまだ?!

「そう考えると、私と姫の名前知ってても不思議じゃないしねぇ。
姫あの頃と全然変わってないから、久々に姿見かけてまた暴走した?」
「…やっぱりロリコンじゃ…」
ボソボソっとつぶやく金森さん。

それでまた言い争い勃発かと思ったけど、コウは藤さんの話で不安げな表情を浮かべるフロウちゃんに気を取られてて気付かないっぽい。

「とりあえず…ここいる間は姫を一人にしないようにって方向で…」
コウがフロウちゃんをぎゅっと抱きしめる。
フロウちゃんは膝立ちでコウの首に腕を回して抱きついている状態で…なんていうかこの二人はホントに…

「いちゃつくなら自分の部屋帰れ」
金森さんも同じ事を思ったらしく、溜め息をついて言う。
「羨ましいなら和馬…」
そこで喜々として口を開く藤さんの言葉を金森さんはきっぱり
「藤さんが真似したがるからっ」
と容赦ない言葉で遮った。
ショボ~ンとする藤さんに、金森さんはまた溜め息。
「俺はまだ青少年なので、その素晴らしいプロポーションで人前で密着されるのは色々困ります」
その言葉にまた即立ち直る藤さん。

「人前じゃなかったらいい?」
「あ~、はいはい。勝手にして下さい」
金森さんは投げやりな調子で肩をすくめた。
それでもまあ…了承…なんだね。

やっぱり…密着したら”したくなる”よね?男の人は。
正直フロウちゃんが羨ましい。
私だってベタベタはしたいけど…それでその気になられたらと思うと出来ない自分が…。
男心って…難しい…。

思わず溜め息…。
藤さんがそんな私にチラリと心配そうな目線を送ってくる。
私の気持ちしだい…ってフロウちゃんには言われちゃった訳なんだけどさ…。
じゃあ私がまだしたくないって言ったら?どうなるの?
好きじゃないんだって思われる?

結局カードの犯人ははっきりして…対処も話がついて…ここにいる意味はすっかりなくなったわけなんだけど…どうしよう…部屋戻るのが怖い…。

「あ、あのさっ、コウ」
もう…男の人にこんな話するのめっちゃ恥ずかしいんだけど…他に相談できる相手がいなくて私は金森さんと共に自室へ戻ろうとするコウを呼び止めた。
「ん?」
足を止めるコウ。
金森さんはもう部屋を出て行ってる。

「私達…席外す?」
藤さんはそこで気をきかせてくれるけど、コウは
「いえ、俺らがちょっとバルコニーお借りします。」
と、私をバルコニーにうながした。


優香さんが取ってくれただけあってすごく良いお部屋なせいかバルコニーも広くて、ゆっくりすごせるようにテーブルと椅子なんてある。
コウは私を椅子に促して私が座ると、自分も正面の椅子に座った。

「で?ユートの事で何か悩んでるのか?」
って…お見通しなのか。

伊達に2年もつきあってないなぁ…。
というか…変わったよね、私達。

最初の事件でユートが刺されて病院の待合室でコウと二人になっちゃって雑談する中、お互いが意外に似た者同士だと気付いて以来、それまでほとんどユート通しての会話だったのが、すっかりユートの事を相談する相手になった。

私も共学な割に男の友達ってほぼいなくて、ユートが初めての彼氏だったからわからない事だらけで、それでも今までこうやってつきあってこれたのはコウのおかげだと思う。
本当に友達ってより同じ年なのにお兄ちゃんて感じで、いつも色々助けてくれるし、安心して相談もできるんだよね。

「あのね…エッチ怖い…」

もうどう切り出していいかわからなかった私は、言ってしまってからありえない切り出し方だよねってうんざりしたわけなんだけど、コウは笑いもせず引きもせず、腕組みをして真剣に考え込んだ。

「まだ…してないんだよな?」
「…うん」
「ふむ……」
そう言ってまた考え込む。

「ユート…したがってるもんな」
「…うん」
「で…アオイはまだしたくない、と、そういう事だよな?」
「…だと思う…」
私が言うと、コウは
「男は…したいものだから。なんとなく…だとつらいんだよな」
とぽつりと言った。

「…でも…コウはしないんでしょ?同じ理由じゃ…だめ?」
「あ~、子供か。無理だろうなぁ」
自分で言っておいて、コウはあっさり否定した。

「ちゃんとしたコンドームをきちんと正しく装着すればほぼ妊娠する可能性なんてないに等しいし」
…って……じゃあコウはなんで?とチラリと表情を伺うと、コウは私の視線に気付いて苦笑。
「俺は…生まれてから運が良かった試しなんてないから。ほぼじゃ安心できん」

「じゃあね、もしそういう心配がなければしてる?」
私の言葉にコウはあっさり
「してないな」
と断言した。

「どうして?!」
思わず身を乗り出す私に、コウは小さく溜め息。
「姫は…まだそういう意味で大人じゃないから。
一度俺も暴走しかけた事あったんだけどな…応えるどころか拒否する事もなくてきょとんとしてる姫見て、すごくひどい事してる気がしてやめた。
しても良いと言いつつ、何されるのかわかってない、そんな感じでな」

「えと…つらくないの?」
「ん~、つらいな」
コウは苦笑。

「優香さんも孫孫言うならせめて性教育くらいしといてくれと」
あはは、確かに…。

「まあ…怖いという意思表示はしておいた方がいいかもな」
「でも…それで実は好きじゃないんじゃ?とか思われない?」
それが一番心配なわけなんだけど…

「あ~それはないんじゃないか?初めての時は怖いのは怖いだろ、普通。
俺は男だからわからんが、痛いらしいし、する事でなくす物があるわけだからな。
その重みや不安を理解できないで、怖い=愛情がないなんて考える男は止めといた方が良いと思うぞ。
ユートに限ってそれはないと断言できるが…」
「怖いって言ったら…しない…かな?」
少し希望が出て来て聞くと、コウはきっぱり断言。
「いや、するだろ」
「しちゃうの?!」
「あ~、俺はしないけどな」
「……」
「別にユートが冷たいとかそういうんじゃないぞ?
単に俺は姫がそんな感じで全然わかってないから今強行したら完全に犯罪だし、22歳で結婚っていう一つの区切りがあるから。
その時期まで待てば出来るって言うのがあるしな」

ふ~…結局…さけられないのかな…。
肩を落とす私にコウが言う。

「それでも…最終的にするにしてもアオイが怯えてるっていうのは考慮にはいれてくれると思うし、伝えるだけは伝えておいた方が良いと思うぞ」
ああ、よく漫画とかである”優しくして”とかそういう奴か。

…コウがユートを説得してくれないかなぁ…なんて甘い考えだったか…。
それでもまあ…怖いという意思表示をするくらいは問題ないらしい事がわかっただけでも収穫だったかも。
怖い…という事を伝える事ができるなら、それでやめるという選択がなかったとしてもユートなら怖いという気持ちの方をなんとかしてくれる術があるかもしれないし…。

コウにお礼を言って部屋に戻ると、なんと部屋にはユートの他に金森さんも来てた。

金森さんは目を丸くする私に
「なんでここにいる?とでも言いたげな顔だな」
と、まさに私が思っていた事を言い当てると、私の返事を待たずに
「例のカードの事で一応忠告をな。
まあ姫がターゲットならお前らは何にも起こらんとは思うが、一人だけ事情を知らされないと凡人はひがむだろうし」
と説明をする。

言い方はともかく…確かに良い人なのかもしれない。
というか、マメだ。

「ということで俺は戻る。夕食は6時に藤さんと姫の部屋集合な。遅れるなよ」
と、帰っていく金森さん。

パタン…とドアが閉じるのを見送って、そのままなんとなく立ち尽くしていると、ユートが苦笑した。

「ホントに…毎回何かしら起こるよな」
「うん、そうだよねっ」
話しかけられた事にホッとして私がうなづくと、ユートはクルリと反転。

お茶の乗った棚とか冷蔵庫とかの方へ行って
「俺コーヒー飲むけど、アオイなんか飲む?」
と聞いてくる。
「あ、うん、何がある?」
そっちの方向に話題が行かない事にさらにホッとする私。
「ん~、紅茶と煎茶と焙じ茶…あ、あと昆布茶なんてのもあるよ」
「あ、昆布茶いいね~、昆布茶!」
「おっけぃ」
ユートは言って昆布茶とコーヒーをテーブルに置いて座る。
私もお礼を言って座って昆布茶をすすった。

「知り合って1年半かぁ…」
不意にユートが口を開いた。
「そんな短期間にさ、殺人事件7回遭遇って普通にありえないよなっ」
「だねぇ」

ホントに…すごく密度の濃い1年半だった気がする。
だからかな、知り合ってまだ1年半なんて気がしない。もっとずっと昔から一緒にいるみたいな感じ。

「あのさ…アオイ、今後不安?大学に入ってからとか…」
唐突にユートが切り出した。
「えと…どういう意味?」
「いや…ほら、コウとか金森とかさ…もう将来設計とかしちゃってて、姫なり藤さんなりをその設計の中に組み込んで考えてる訳じゃん?
でもさ、俺正直まだ大学卒業後にどんな職に就くとか社会人になったらどんな家庭作るとかそんな事まで考えられんのよ。
もちろん今後アオイと別れる事なんかないだろうなぁとか思うし、普通にさサラリーマンになって普通に年頃になったら結婚するんだと思うんだけど、あまり先の事すぎて具体的にと言われると困っちゃうんだよな。
つか、俺的には高校卒業したばっかりだったらそれが普通だと思うんだけどさ…なまじ他二人がそんなんだからアオイ不安になってたりするのかなぁと」

「…すごい…ユートお見通しなんだ…」
さすが…って言うより他ないよね。本気でいつも鋭いよ、ユート。
私が感嘆の溜め息をつくと、
「そりゃ、アオイの事だからねぇ」
と、ユートはクスクス笑った。

「俺さ、上と下と女に囲まれて育ってるじゃない?
んでもって近所も女多くてさ、必然的に幼なじみとかもみんな女なんだけど、これがまあ皆見事に油断のならない人種でねぇ…。
アオイに会うまでってはっきり言って女性不信だったんよ。
自分で言うのもなんだけどさ、俺結構人当たり良いからモテそうだね~とかも言われてたんだけど、騙されるの怖くてさ、踏み込めないわけ。
で、見事に彼女いない歴イコール年齢だったんだけどね。
だからさ、常に人間関係で油断できない俺にしてみれば、もう馬鹿みたいに人が良くて考えてる事丸わかりなアオイやコウって心のオアシスなわけよ。
たぶん…つか、絶対に大学行ってもそんな人種まずいないからっ。
その場その場で遊ぶ友人ってのはもちろんせっかくの機会だし作ると思うんだけどさ、彼女や親友ってのとは全然違うからさ。
そいつの事嫌だって言ってくれれば、ちゃんと遊ぶ相手は替えるよ?
優先順位はちゃんとつけるからね」

なんというか…フロウちゃんすごいよ。
言ってた事ピッタリ当たってる。

「なんかさ、今までちゃんとそういう事話してなかったよね」
「うん。落ち着いて話できそうな時って必ず事件起こってたもんね…」
そう言えば私のどこが好きなのかなんてユートから聞いたの初めてな気がする。

「ホントさ、よく今まで無事だったよな、俺達」
「うんうん」
「つかさ、今まで旅行って結局満喫した事なかった気が…」
「でしょ~?」
ほんっとだよ、もう激しく同意っ!

「ね、せっかくだからさ、夕飯まで二人でスパ行かない?たまにはさ」
「え?」
なんか意外なユートの誘いにポカ~ンとしていると
「いや?」
とユートが顔を覗き込んでくる。

うあ…どうしよう…う、嬉しいっ!

「ぜんっぜん!嫌じゃないっ!行くっ!」
もう思いっきりブンブンと首を横に振りすぎてクラクラしちゃったけど、そんなの気にならないくらい嬉しい。
「着替えてくるっ!」
ユートの気が変わらないうちにと私は水着を持ってバスルームにかけこんだ。

急いで水着に着替えて出てくると、なんとユート金森さんみたいなサングラスにパーカーでキャップをかぶってる。
「何それ?」
「金森の忘れ物のグラサンとパーカー。
髪はあれだけど、まあキャップでごまかせば金森ブリッコ~」
おどけるユートに吹き出す私。
「本人知ったら怒るよ~」
とケラケラ笑いながら言うと、ユートは
「いいの、いいの。忘れていく奴が悪い」
と、そのまま部屋を出た。
私も自分のパーカーを取って部屋を出ようとした瞬間…鈍い音がした。

私が開いたドアから赤く染まったユートが倒れる様に部屋に入って来て、血まみれの手でドアを閉める。

…ト…?
…ユー…ト…?
…え?
青い顔…流れる血…。
目の前が真っ赤に染まっていく錯覚に襲われ目眩がした。

何かの映画の1シーンのように現実感がない…。
自分が上げる悲鳴すら遠くに聞こえる。

「…イ…。コウ…に…」
ユートが乱れた息の下で言うのにコクコクうなづいて、即震える手で携帯をいじる。

『もしもし、どうした?アオイ』
「助けてっ!コウ!ユートがっ!!」
もう言葉にならないで嗚咽に飲まれる言葉。
『すぐ行く!』
コウは言ってすぐドアが乱暴にノックされた。
私がドアに飛びつく様に開けると、コウが飛び込んで来て、部屋を一瞥すると怒鳴る。

「アオイ!フロントに電話っ!!」

…フ…フロント……
私がモタモタしてると、コウは舌打ちして私の押しのけ、自分が内線を取って何やら電話してる。
私は怖くてユートを見る事できなくて、その場に頭を抱えて座り込んだ。
もう全てが悪夢みたいだった。
頭を抱えて気が狂ったみたいに泣いてる間に、なんだかざわざわと人がいっぱい来てユートが担架で連れて行かれる。
それで私は初めて血だらけのユートを振り返った。
血の気の失せた顔と対照的に真っ赤に染まる体。
色々が遠くに遠ざかっていって、気がついたら目の前が真っ暗になっていた。





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