卒業_オリジナル_02

そんな事を話しているとユートも姿を見せて移動になる。

「じゃ、コウさん、これ」
フロウちゃんは立ち上がるとパーカーを脱いでコウに渡すが、
「だめ、着ておけ」
と、コウはそれでまたフロウちゃんを包む。

「なに?姫体調でも悪い?」
その二人に藤さんが少し心配そうに綺麗な眉を寄せた。

「いえ…蚊帳みたいなものです。本当は頭からかぶせたいくらいです」
きっぱり言うコウに藤さんはプッと吹き出す。

「ああ、わかる気が…。姫の周りって本当に寄ってくるもんね、変なのが」

「…さっきも来てたぞ。俺が飲み物買ってる一瞬の間に身の程知らない系がな。
俺が飲み物片手に戻って姫を連れて行ったらすごぃ目でにらんでて笑った」

そこに機嫌良く金森さんが言った。
この人は…絶対に楽しんでる。


フロウちゃんはその時の事を思い出したのか、可愛らしい顔を少し曇らせてキュウっとコウの腕にしがみついた。

「…ごめんな、放っておいた俺が悪かった」
それに気付いたコウはフロウちゃんの肩を抱き寄せた。
「怖い思いさせてゴメンな」
と、コウが少しかがむようにフロウちゃんの顔を覗き込むと、フロウちゃんは小さく首を横に振る。
その様子がめっちゃ可愛い。
同じ年には見えないよ、ホント。

そう言えば…初めてネットゲーで出会ってからもう2年…
コウは硬質だったのがかなりあたりが柔らかくなってきて、ユートはひたすら柔らかかったのがちょっと男っぽさが目立って来て、それぞれが少しずつ変わってきた気がするけど、フロウちゃんだけはホントに変わらない。
コウに大事に大事にお守りされてたお姫様の時のままだ。
私は…どうなのかな…ちょっとは変わった様に見えるのかな…。

その時ピカっと何かが光るのと同時に金森さんが動いた。
続いてシャッター音とほぼ同時にカメラの主の舌うちの音。
どうやら相手はフロウちゃんの写真を撮ろうとしてたらしく、金森さんがそれに割って入ったっぽい。

そして
「無断で写真撮るって良識疑われると思いません?」
と、にこやかにカメラを向けた相手に詰め寄った。
3人ほど固まってるカメラ小僧は口の中でモゴモゴ言い訳めいた事を言ってたけど、コソコソと離れていった。

「そそ。あいつら。さっき言ったの」
金森さんはそれを見送ってくるりと振り返って言う。
「まあ…自分の面みて出直せってやつだな」
と、さらに容赦ない。
そこまで言わなくてもなぁ…ってちょっと思うけど、反論怖いから黙っておこう。

「でも…フロウちゃん可愛いから撮りたくなる気持ちはわかるけど」
こそりとそれでもつぶやくと、金森さんにすごい冷ややかな目で見られた。

「誰かこの浅はかな凡人に、男が好みの女の水着姿の写真なんか撮ったら何に使うのか教えてやってくれ」
と、ちょっと怒ったような声で言われちゃったよ……どうしよう……。
私何かそんなに悪い事いった?

どう答えていいかわからず私がオロオロしていると、今度はコウがもっと怒りを含んだ怖い声で
「そういう馬鹿な話するのやめてくれ。吐き気がするから。
…ていうか…部屋帰るぞ、姫」
っていきなりフロウちゃん引っ張って帰っちゃったよ…。

どうしようっ……。
何がなんだかわからなくてパニックになってると、藤さんがフォローいれてくれた。

「和馬いきなりそういう言い方しないっ。
つか、和馬と弟の間だけわかりあってる会話されても…」
その藤さんの言葉に、金森さんはポカ~ンと口をあけてほうけた。
「まさか…あなたもわかってないとかじゃないでしょうね?」
「ん?何が?」
「いや…俺が最初に言った意味…」
「あ~、引き延ばして部屋の壁にでも張る?アイドルのグラビアみたいに」
藤さんの答えは外れだったらしい。金森さんはがっくりと肩を大きく落とした。
「えと…ここで口にするのはさすがにはばかられるので…」
と言いつつメール打ってる。

藤さんは防水加工が施された携帯ホルダーの中から携帯を出すとメールを見て
「なに、それはっ?!和馬っ!許すっ!あいつらはり倒してきてっ!」
と激怒。
なんか事態がどんどん険悪に……。

どうしよう?!
私がオロオロとユートを見上げると、ユートは苦笑。

「ま、女の子にはわからないかもしれないけどね…」
と言う。
「女の子にはわからないって??」
私が聞き返すと、ユートはちょっと困った様に考え込んで、やがてポンと手を打った。

「そそ、以前さ、コウが映からwis送られて動揺したって話あったじゃん?
あれよ、あれ。たまった時にどういう相手想像してやってる?ってやつ。
ようは、写真の子をその相手として想像するってこと」

うっひゃあぁぁ!!!
それは…なんというか…大激怒だね。
というか…すっごぃ気持ち悪いっ!

「もう…これは風呂巡りどころじゃなくなってきたな…」
金森さんがつぶやいた。
「当たり前だよっ!そんな不埒な輩がうろつく所で姫の水着姿なんて晒せないっ!」
藤さんはものすごいご立腹だ。

あれだね、彼氏いても藤さんにとってはフロウちゃんはやっぱり永遠のジュリエットなんだね…。
私は共学育ちだからそのあたりの女子校のノリってよくわかんないけど…。

「でも…せっかくここまで来て何もしないのも寂しい気が……」
毎回何かしらあって旅行を満喫できないんでついつい言うと、金森さんがまたすごぃ冷ややかな目
「さすが…”そういう意味で”女として見られない凡人は言う事が違うな」

うっ……確かに…私にそういう気起こすのなんてユートくらいだし…そ、そうなんだけどさ…そこまで言わなくてもいいじゃない…。
ジワっと熱い物がこみ上げて来て、視界が潤み始めた私をユートがひきよせる。

「あのねぇ、アオイにやつあたんないでくれる?!
姫や藤さんは確かに一般人離れした美形だけどさ、アオイだって普通の子の中では充分可愛いんだからなっ。
上と下に姉と妹、学校では女友達に囲まれて育った俺が言うんだから間違いないっ!」
ユートの言葉になんだか堪えてた物がまたこみ上げて来て私はユートに抱きついて泣き出した、

「あ~悪かったな。
俺は一流の凡人なんで”普通の女”なんて目に入れない主義だったから気付かなかった」
フイっとソッポを向いて、金森さんが言った。
それでも一応謝罪しているらしい。

「あ~、ごめんね。アオイちゃん。和馬口悪いからさ、悪気はないんだけど」
藤さんが私の頭をなでてくれる。
「そうだね、せっかくだから姫誘って女湯の露天風呂でも入ってみる?
水着は着れないけどさ、眺めはいいらしいから」
その藤さんの提案に男二人が嫌そうな顔をした。

「それやられると俺らすっごぃ寂しいんですけど…」
ユートが思わずつぶやくと、藤さんは当たり前に
「男は男で行ってくればいいじゃない?」
と言うが、金森さんは
「子供やジジイじゃあるまいし、男3人仲良く風呂なんてすっごく気味悪いです。
そのくらいならまだ一人で内風呂の方がマシだ」
と思い切り嫌悪感をあらわにする。

そういうもの…なんだ…。

「ごめん…女3人仲良く風呂とか前も行ったよ、普通に…」
「女性は良いんです、女性は。男がやったら気持ち悪い。
世の中女性同士なら許されても男同士だと犯罪ってものがたくさんあるんですよ」
「犯罪…ってまで言わなくても…」
「犯罪ですっ!
少なくとも俺はそこの凡人やコウと仲良く風呂なんて絶対にごめんですっ!」
きっぱりと断言する金森さんに目を丸くする藤さん。
「まあ…そっちは無理にとは言わないけど…」
と、それでもそこをおさめた。

結局…男二人はそれぞれ部屋に待機で藤さんがコウの部屋にフロウちゃんを迎えに行って、女3人で露天風呂へゴ~する事にした。

スパの更衣室からプールや水着エリアのお風呂と分かれて普通の大浴場へ。
なんか…男性陣がいないとホッとするなぁ…。
洗うのは部屋の内湯でゆっくりということで、かけ湯だけして露天風呂へ。

スパエリアがウリなだけに夕方の普通の露天はほとんど人がいない。
いくつかあるうち岩風呂みたいな露天に3人で浸かる。

ハラリとタオルを取って足からゆっくり入る藤さんを思わず凝視。
なんていうか…スタイルいいよ…藤さん。
スポーツやってるからかなぁ。

「どうしたの?」
長い髪をバレッタで上に止めた頭を少しかしげて聞く藤さんに、思わず
「スタイル…めちゃくちゃいいですねぇ」
と感心して言うと、
「なに?急に。前も一緒に入ったじゃない?」
と藤さんは笑った。

そうなんだけど…あの時は夜だったから…。
日の光の下で見るともう完璧だ。
美人でスタイル良くて頭良くてスポーツ万能で…おまけにお金持ちって…ホント完璧だよ。

それも口に出して言ってみると藤さんは少し考えこんで…溜め息。
「それが仮に万人にとってそうだったとしてもさ…空気読めなさがもう完璧に利点をぶちこわしてるから」
藤さんの言葉に、私は思わず吹き出した。

「なんか…ホント言う事為す事コウそっくりですよねっ。ホント姉弟みたい」
「あ~、うん。なんかそうだねぇ。
他人なのが自分達でも不思議だねぇってよく言ってるよ」

やっぱり。

「なんかさ…距離取られちゃうんだよねぇ、周りに。
空気読めない上に偉そうでおっかないのかもしれないけど…。
どうせさ、我が道行くなら姫がいいよ、姫」
「我が道…行ってます?」
いきなり名前を出されてきょとんとするフロウちゃん。
自覚…ないのか…。

「なんかフンワリしてるのに流されないでマイペースでしょ。
そそ、スタイルっていう意味でも私は姫のがいいな。ほわほわっと柔らかそうで」
「あ~確かに。藤さんは綺麗なんだけどフロウちゃんはプラス障り心地が良さそう♪」
私はうなづいた。

髪とかも細くて柔らかくて、肌は真っ白。
日本人とかだと色白でもちょっと黄色がかった白が多いんだけど、フロウちゃんは薄桃色なんだよね。
うなじから肩にかけてのラインは柔らかなカーブを描いてて、肩から全体的に華奢なイメージなんだけど、意外にちゃんと胸がある。
大きいってほどじゃないんだけど…すごい柔らかそうな真っ白な美乳で、ちょっと触ってみたいかも。
コウ…日々こんな気持ち良さそうな胸触ってるんだよね…きっと…声とかも可愛いし…

「コウ…いいなぁ…」
思わずポツリとつぶやいた私の言葉に藤さんがむせて咳き込んだ。
「なんでコウさんです?」
言ってしまって自分でもしまった!って思ったんだけど当のフロウちゃんはポカ~ン。

「いや…あのっ…違ってっ…日々触れていいなぁってっ…気持ち良さそうだしとかっ…あわわっ…」

…っじゃないっ!うあ…もうパニックで自分でも何言ってるんだかっ!
もうユートとのことで本気で頭がそっち言ってるよ、恥ずかし~~!!!
慌ててワタワタ手を振ったらお湯がバシャバシャはねまくった。

「あ、アオイちゃんっ!わかったから落ち着いてっ!」
なんとか咳がおさまった藤さんが私の背中をポンポンって叩いてくれた拍子に今度は振り回してた手が藤さんの胸に…意外に柔らかい…じゃなくてぇっ!!!うっあああ~~~~!!!!

「ご、ごめんなさいぃぃっっ!!!」

バッシャ~ン!!!ってひっくり返った。
お湯の中に沈み行く頭…頭の上…お湯の外で声がする。
ワタワタブクブクしててまた手が…柔らかい丸みにサワっとしたら…遠くで悲鳴がして飛び退かれた。
フロウちゃんの…お尻…ああ…コウに殺されるかも…つか、その前にお風呂で溺死しかね…ブクブクブク…

「アオイちゃん、大丈夫?!」
なんとか溺死寸前、藤さんに救出された。
もう…8回目の事件は自分の溺死になるとこだったよ…。

「とんだご迷惑を…」
うなだれる私に藤さん爆笑。

「いやいや。アオイちゃん本気で面白い子だよね。姫とは別の意味で和むっていうか…」

藤さんも…気さくな人だ。
なんか本気でお嬢様っぽくないっていうか…すごい家ですごいお育ちなのに全然人を見下したりした所がない。
これ見よがしに高級品身につけたりとかもないしね。
私がそれを言うと、藤さんはちょっと俯き加減に苦笑した。

「いや、そういう家に生まれるっていうのはさ、自分が何かしたわけじゃないしね。
自分が優れてるとかじゃないじゃない?
それよりさ、そういう家に生まれ育った人間と普通につきあってくれる人間の方がすごいと思うよ?
近藤姉弟とかアオイちゃんとか。
私や弟や姫とかといるとさ、…そういう一般的じゃない環境にたまたま生まれた事がすごいって思ってる人間に色々言われたりするでしょ?」

「あぁ…私はそうでもないけどユートなんかはあったみたいですねぇ」
「うん、それでもさ、一緒にいてくれる人間てさ、本当の意味で懐が深くてすごい人間なんだと思う。
和馬とかもさ、私の家の周りではすごい言われ方してるしね」

「金森さんが?」
全然…そんな風に見えなかったけど…。

「うん、すごいよ。
うちは代々直系が継ぐからさ、今総帥の祖父さんの跡って長男の娘の私が継ぐ事になってるんだけど、たまたま和馬が家まで送ってくれた時に叔父や叔母がいてさ、財産目当てだのなんだのグダグダと面と向かって和馬の実家の事までさ、庶民のくせにとか色々。私が何か和馬にしてあげたとか言うんじゃなくて、むしろ逆なのにね。
もうあの時点で普通の人間なら見捨ててると思う…」

見捨てるってより…そんな事言われたら怖くて近づけないよね…
私なら絶対に逃げる。

「…で?あの金森さんが黙ってそれ聞いてたんですか?」
「いや…」
そこで藤さんは思い出し笑い。

「そのいけ好かない中年男女相手にね、当時まだ高校生だった和馬がさ『俺はたいした援助もしてもらえない庶民の家に生まれ育ってもちゃんと自力で東大合格して、今後自分の身くらい誰の援助もなく養っていけるので余裕ですけど、いくらでも金かけてもらえる家に生まれ育っても姪のお金をあてにしないと暮らせないくらいの無能な人間にしかなれなかった人種は必死にならざるを得なくて大変ですね』ってにこやかに言い放ったよ」

うっあ~~~
「あと…大変じゃなかったです?」
金森さんらしいと言えばらしいけど…さ…。
「大変と言えば大変だったね」
藤さんはそう言いつつ少し楽しそう。

「まあ…比較的良識あって話がわかる一番上の叔父さんがさ、『高校生相手に大人げなく失礼な事を言った挙げ句に倍にして返されただけでも充分大人としてはみっともないし、その辺でやめたほうがいい』って言ってくれたんで、渋々引き下がって言ったけどね。
まあ…他の叔父や叔母は元々そういう輩でもめたらもめたで私の方は全然構わなかったから放置上等だったんだけど、それより私はもうその時点で和馬は完全に怒ってると思ってさ、目の前真っ暗」

「でも…和解したんですよね?今全然普通にしてる気がしますけど…」
行きの車では将来の生活の話までしてた気が?と私が聞くと、藤さんはにっこり
「いや、怒ってなかった。全然。
私さ、普通におやすみなさいって挨拶して門出る和馬をもう半泣きで追って平謝ったわけなんだけどさ、和馬はいつものあの調子で”なんで俺に謝ってるんです?愚民にひがまれる身分まで登り詰めたと思うとすごい気分良いですよ”って」

うはっ!なんというか…
「金森さんらしいと言えばすごいらしい台詞ですね」
「うん。和馬の言葉はいつも私を楽にしてくれるんだよね…。
そこでさ、罵られて見捨てられてももう泣いて諦めるしかないし、普通に気にしてませんよなんて言われてもすごく申し分けない気分は消えないし、今度またこんな事あったらどうしようとか気になるんだけどさ…和馬は普通にその状況を何でもない事みたいに許容してくれるから…言い方はまあ例によってあれなんだけどさ」

すごい男だ……。真面目にすごい。
伊達に風早財閥の跡取りにして美貌のスーパー女子大生と言われる藤さんの彼氏やってないな。

「そう言えば…訂正しておきます。日々じゃないです…触ってないですよ?」
会話が途切れたところで、熱くなってきたのか風呂からでて足だけ湯につけてたフロウちゃんが言った。
うあ…また話戻ったか…。真っ赤になる私。

「そんなに…してないの?」
って聞いちゃって良いのかな…と思いつつも、後学のためにと聞いてみると、フロウちゃんは真顔で
「全然してません。コウさんは責任持てるようになるまでしない主義だそうです」
と、はっきりきっぱり答えた。

「ええ~?!!」
と声を揃える私と藤さん。

「だってあれだけいつも二人きりでいるのに?!責任て?!」
なんていうか…するのとしないのとどっちが普通なんだろう??

「えとね…赤ちゃん出来ちゃっても大丈夫になるまで?なんだっけ…色々聞いたんですけど…避妊?そう、赤ちゃんが出来ない様にする方法もあるけど100%じゃないから、基本的にそういう事するっていうのは赤ちゃんができる可能性があるから、困らない環境になるまでダメなんだそうです」
あ~、そういえば去年のお正月に温泉旅行行く前にそんな話してたような…。

男の子ってすごい”したい”らしいというのはユート見てるとわかるけど…それでもフロウちゃんのためにしないんだ…。大学入ってからの時間の過ごし方とかもまずフロウちゃん優先だし…。

ユートは…その辺どう思ってるんだろう…。
私…ホントにしちゃっていいのかな…。
それが目当てとかはないだろうけど…でもしちゃったら態度変わっちゃったりとかないかな…。
ちょっと不安になってきちゃったよ…

「コウは…大事にしてるんだね、フロウちゃんの事。なんかちょっと悩んできちゃった…」
「悩み?」
私が溜め息をつくと、藤さんが反応する。

コウも金森さんもそれぞれフロウちゃんや藤さんの事すごく大事にしてる気がする事、ユートがしたがるのはわかるけど、なんとなく流されてしちゃっていいのかわからなくなって来た事などを告げると、藤さんは
「なるほどねぇ…」
と腕を組んだ。

「うちの別荘にお泊まり旅行来たの一昨年の年末だしさ、とっくに”してる”と思ってたよ」
「いえ…なんか旅行とかの度に事件が起こってそれどころじゃなくなって…」
本気で…2年の間に7回もの殺人事件に巻き込まれるなんて本当にありえないよ…。

「それすごいね…」
藤さんは目を丸くした。

「結局…しようとするとそれだけ何かが起こるって…もうしない方がって事かと…」
「あ~、それはユート君可哀想だって。彼のせいじゃないんだしさ」
「でも…旅行の自体がもう”そう言う事”する目的で行ってる気がして…旅行ってほら、もっと色々楽しむものじゃないですか…別に体だけが目当てとかじゃないんだろうけど…」
「…う~ん…難しいところだねぇ。確かに男の子は性欲が激しいお年頃みたいだけど…」
「そそ、だからね、気持ちがどうなのかなぁって…」
私と藤さんが考え込んでいるとフロウちゃんが唐突に言った。

「独占欲…」
「は?」
聞き返す私。
するとフロウちゃんがまた言う。

「独占欲…らしいですよ?
アオイちゃんはする事で相手が目的を達成したという事で冷たくなったりとかを心配してるみたいですけど…コウさんは相手を抱え込んで近くなって安心したいから、そういう事したいらしいです。
まあ…結局さっきも言った通り状況を考えちゃって実行に移せないわけなんですが…」

「そういう…考え方もあるのか…」
感心する私と藤さん。
フロウちゃんは続ける。

「だから…もしかしたらユートさん的にも”そう言う事”して初めて完全に彼氏彼女という認識を持っている可能性もあるかも?
ユートさんはユートさんでコウさんはコウさんですし比べても仕方ないですしね。
ユートさんの場合は普通に女性に限らずお友達に囲まれるのが好きで、でも本来はアクセサリーと一緒で気分で相手は替えるし、執着もしない。
そんな中でそういう枠を超えて”特別”な女性として”選んでる”のがアオイちゃん。
だから極端な話、周りにいる人をアオイちゃんが嫌だって言えば、そう?って遊ぶ相手を替えてくれると思いますよ。
アオイちゃんとコウさん以外にははっきり言って人間関係にこだわりもってない人です、ユートさん」

「うあ…なんだかすごい話だね。」
「フロウちゃん…もしかしてユートの事嫌い?」

あまりにあまりなフロウちゃんのユート評に思わず聞いてみると、例によって本気で他意のないらしいフロウちゃんは不思議そうな視線を私に返して来た。

「どうしてです?」
「なんか話聞いてると…ユートすごぃ情がない人みたいな…」
「そうです?
単にコウさんは”大切な人間関係”以外は作らない主義で、ユートさんは”大切な人間関係”を確保した上で切っても差し支えない程度の軽い人間関係をあえて切ったりしようとしないと言っているだけなんですが。
それでも優先順位はちゃんとつけてるので、大切な人間関係が壊れるくらいなら、切っても差し支えない方を切る、それだけだと思います。
だからその部分が違うだけで大切な人間関係に対する対峙の仕方は根本的にコウさんとそう変わるものじゃないという事です」

あ~…そう言えばユートの学校の子達と旅行行った時は、ユート、コウのために学校の交友関係切ろうとしてたっけ…。

「なんか…わかった気はするけど…」
「だからユートさんの気持ちが薄いわけじゃなくて、アオイちゃんの気持ち次第です」

それが…なぁ……。

「フロウちゃんなら…どうする?」
そこでまた振ると、フロウちゃんはちょっと困った顔をした。

「私の気持ちを知っても…私とアオイちゃんは違いますし…」
「うん、わかってるんだけどさ、参考までに」
「全然参考にならないとは思いますけど…」
と前置きをした上で、それでもフロウちゃんは答えてくれる。

「コウさんはすごく抑圧的な人で…滅多に自分が何かしたいとか言わない人なんです。
そんなコウさんが何かしたいという時って、もうものすご~く考えて悩んで、その上で勇気振り絞ってるわけなので…それが何にせよそこで拒否したら次に何かしたいって意思表示をするのは多分10年後20年後になりかねませんし…
私の側にはそこまでしたいという気もしたくないという気もないので、コウさん次第ですね」

……本気で…参考にならなかった…。そうだよね、相手も違うんだもんね…。

「ね?参考にならないでしょう?」
というフロウちゃんに、がっくりと肩を落とす私。
そこでチラリと藤さんに目を向けると、藤さんはきっぱり
「私はむしろ子供の一人でも産んで縛り付けたい人だからっ」
と断言。

……こちらもあまり参考には……。
はあ…どうしよう…。

「まあ…さ、ユート君が本気でアオイちゃんの事考えてるんだとしたら、拒否るんでも拒否り方考えてあげないとかなり傷つけるかもよ?
それこそなんでここに来て急に?とかさ」

あ~それもあった…。
もう…色々どうしよう…。
ユートと二人きりの部屋に戻るの怖いなぁ……。

思い切りのぼせるくらい露天で過ごしたあと、結論が出ないまま部屋に向かう。
溜め息をつきつつ重い足を引きずっていると、藤さんが金森さんの部屋の前で足を止めた。

「ごめん、ちょっと和馬に用あってさ、姫お願い出来る?
一人にしておくと弟がめちゃ心配するから」
と、私を振り返って手を合わせる。

「あ、はい。もちろんっ。じゃ、フロウちゃんと部屋で待ってます」
と私は心底ホッとしてうなづいた。

「お風呂…長く入りすぎちゃいましたねぇ…」
ほわほわっと湯上がりのフロウちゃんも可愛い。
いつも持ち歩いているポシェットからカードキーを出してガチャっとドアを開けてさっさと部屋に入るフロウちゃんの足元、気付かずに踏みつけるフロウちゃん。
フロウちゃんが奥へ行くと私はその足に踏みつけられたカードを手に取った。

”ざけんなっ!風早藤っ!!ユナミちゃんに手出すなっ!変態女っ!!”

って……何???!!!!
カード持ったままドアの所でワタワタしてると、
「アオイ…何踊ってるんだ?」
と、手の中のカードを後ろから取り上げられた。

「あ…コウ、どうして?」
「いや、なんだか姫の声聞こえたから帰ってきたのかと…それよりこれどうした?」
コウはポケットから、もういつも事件に巻き込まれるため持参する事にしているらしい証拠物件をいれる用のビニールにカードを放り込む。
「えっと、今ドアの所に挟んであったんだけど…」
コウは私の言葉に
「ちょっと待ってろ」
と、反転して金森さんの部屋のドアを叩いた。
即顔を出す金森さんに黙ってビニールをちらつかせる。

金森さんはそれを凝視。
「…なんだ、それはっ」
見る見る間に険しくなる表情。

「ん、姫達の部屋のドアにはさんであったらしい。
いいから姫達の部屋に集合。藤さんもいるんだろ?」
「わかった…」
金森さんがチラリと部屋の中に合図を送ると藤さんも出てくる。
そして3人もフロウちゃん達の部屋へ。




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