オンライン殺人事件再来っ10

佐々木葵の物語


そして半年。なんだか企画やプロット練り、あとは取材を受けたりとか諸々で鬼のように忙しくなった。
前回の事で懲りたコウが白い家は旧友関係以外お出入り禁止にして三葉商事本社内にフロアを用意してくれたので、自宅にもなかなか帰れない。

楽しいとかやりがいとかも忙しすぎてわからなくて、とにかく時間に追われる日々。
ユートとはたまに会社ですれ違うけど、立ち話をする暇もない。
ユートとの距離を縮めるために頑張ってるはずの仕事が距離をどんどん離してる。
もうユートどころか忙しすぎて自分自身の生活ですら壊れて行ってる気が…。

逆に三葉商事自体は落ち着いてきたらしく、他のメンツは結構日々帰宅してるらしい。
まあ…みんながせっせと帰宅するのには他にも理由はあるんだけどね…。

今日も仕事でフロアでたのは10時。
まあそれでも早い方かな…。

「今日も頑張ってるな」
廊下をとぼとぼ歩いてると歩いてると、頭をポンポンと叩かれた。
コウだ。

「コウも今日はあがり?」
機嫌よさげなとこみると帰宅とみた。
「ああ。一緒に車乗って行くか?」
とやっぱり肯定するコウの言葉に私はうなづいた。



「ユートとの時間…ちゃんと取ってるのか?」
車が白い家に向けて動き出すと、コウが口を開いた。
「取ってない…取れないよ…」
疲れきって答える私にコウはフム…と少し考え込む。
「アオイは…昔から自己管理下手だよな…」
と小さくため息。

「確かに責任者とかいうとある程度の責任も出てくるし時間取られる事も多くなるんだが…
人間一人ができる事なんてたかだか知れてる。
仕事を任せられる人間を探したり育てたりっていうのも上の仕事だぞ。
それができないと上に立つのは難しいと思う。
そういう意味では映は上手い。
ヨイチを始めとしてたくさんの人間を上手に使ってるだろ。
最近では最低限の作画以外は手出すのやめて管理と進行に専念してるしな。
だからある程度時間もできる」

確かに…映ちゃんはそれなりに忙しくしつつもプライベートも楽しめてるみたいだ。
同じような事してるのになんでそんなに時間があるのか不思議だったんだけど…。

「俺も…その相手が見つかったり育つまでは時間取られたけどな、今は結構普通に帰れてるし…。
ま、仕事が人生って奴ならそれもまあいいんだろうけど、俺は違うから。
成り行きででも会社継ぐ事になって責任もあるし放り出すわけにもいかんからやってるが…本音言うと仕事より家族との時間優先したいしな。
支障がでない範囲で他に任せてこうやって時間作ってる。
アオイも…一度その辺りをもう一度少し考えた方がいいかもな。
俺の場合姫はある意味すごく特殊な女だから迷走中も黙って見守っててくれたけど、ユートはわからんだろ」

コウの言葉に私はため息をついた。
自分でもどうすればいいのかわかんない。

そんな話をしてる間に車は白い家に到着。
家に入るとランス君と葉月さんがそろって出迎えてくれた。

「ただいま。姫は?もう寝てるか?」
コウの言葉に葉月さんはうなづく。
「早めにお休みになって頂いた方がよろしいかと…」
「ああ、そうだな」
コウはうなづいて、鞄を葉月さんに預けた。

そしてランス君に
「何か軽くつまめるもの部屋に届けてくれ。部屋で食うから」
と言って2階に上がって行く。

それを見送ってランス君は相変わらず以前と変わらない様子で
「おかえり、アオイも飯にする?」
と私に微笑みかけた。
ホッとする。

「うん。お願い」
私はとりあえずリビングのソファに鞄を放り出すとダイニングに向かう。

「フロウちゃん…もうすぐだよね?」
席に着くととりあえずお茶をいれてくれる葉月さんを見上げて私が聞くと、それまで淡々としていた葉月さんがすごく柔らかな笑みを浮かべた。

「ですね。一応いつ産まれても大丈夫なように病院の手配も済ませてありますし、こちらの部屋の方も二部屋の間の壁を取り払って広い部屋を作りました。
私も出産育児については多少勉強しましたし」

「…楽しみ?」
あまりに嬉しそうな顔してるから思わず聞くと、葉月さんは
「私だけじゃなく皆さんそうみたいですよ。帰ると必ず姫様のお腹に声かけてますし」
とにっこり。

そう…フロウちゃんは現在妊婦さん。
白い家の中には本当に”家庭”が存在してて、それは日々確固としたものになっていってる。


なんていうか…寂しい…。
みんながきっちり仕事できてる事で疎外感に悩んで必死に自分ができる仕事みつけて、でも今またそんな幸せな家庭から遠のいてる気がして疎外感…。

なんか…いつからだろう…ずっと感じ続けてる寂しさ。
なにをしてても疎外感。埋まらない距離。
寂しくて…怖い。
いつもいつも皆との距離が縮まらない。
そもそも私以外ここの皆特別な人達だもん…埋まるはずないよね。


夢を見た……
白い家で…みんな集まってる。
フロウちゃんが中心で…コウがその隣でフロウちゃんの大きなお腹に手を当ててお腹の赤ちゃんに何か話しかけてて、ユキ君達も笑顔。
ユートはちょっと離れたところでそれをやっぱり笑顔で見ていて、その傍らには葉月さん。
何故かいつもの執事ルックじゃなくて、ユートが普段着てる様なセーターにジーンズ。
てか…あれってユートのじゃないかな…。
ユートの手は軽く葉月さんの腰にかけられてて…私が部屋に入ってきてもやっぱり気にする事なく
「ああ、アオイ久しぶり。いらっしゃい」
って笑顔…。
まるで来訪者をもてなす様な…。

それから葉月さんを振り返って、葉月さんの手にチャリンとキーを落とす。
「部屋で待っててよ。すぐ戻るからさ」

目眩がした…。
呆然とする私にユートの声。

「いつも家帰ると飯とか作って待っててくれてさ…なんとなくつきあうようになったんだ」

嘘…。私なんのために仕事頑張ったのよ。

「アオイは結局仕事選んだけどさ、彼女は俺を選んでくれてさ…。
なんかコウの気持ちわかった気がした。
やっぱり仕事から疲れて戻った時には家で迎えてくれる存在が欲しいよな」

涙が止まらなかった。
寂しいよ…寂しさから抜け出すために頑張った仕事がまた寂しさを作り出す。
寂しい、寂しい…寂しい……
胸が張り裂けそうな寂しさの中泣きながら目が覚めた。

暗い…静かな部屋。
夢…覚めてもやっぱり一人なんだ…。
なんだか胃がシクシク痛んだ。
心臓もバクバクして気分悪くなってきてトイレに駆け込んで吐く。
全部吐いて胃液まで吐いても吐き気が収まらない。
そんな時部屋のドアがノックされた。

「はい?」
慌ててタオルで顔を拭いてドアにかけよると
「こんばんは~、私です~」
と聞き慣れた優しい声。
って…今本当の真夜中だよっ。やばいって!
私は慌ててドアを開けた。

「どしたの?こんな時間に」
そこには湯気のたつマグカップ二つのせたトレイを手にしたフロウちゃん。
「えとぉ…なんとなく…。最近アオイちゃんとお話してなかったなと思いまして。
入っていいです?」
だめ…って言えるわけないでしょ、妊婦さん相手に。
「うん…どうぞ」
と、しかたなくトレイを受け取って中にうながした。

「おじゃましま~す♪」
と可愛らしい声で言って中に入ってテーブルの前に座るフロウちゃん。
私もテーブルにトレイを置くと、その前に座った。

「ホットミルク…ちょっとだけ蜂蜜入ってます、どうぞ」
勧められてマグカップの中身を口に含むとなんだかほんのり甘くて温かい…優しい味がした。

「コウさんの時には…カモミールだったんですけど、アオイちゃん胃に来てるみたいだからミルクがいいかな~って」
にっこりと微笑むフロウちゃん。
「コウの時?」
カップに顔をうめたまま目だけむけると、フロウちゃんはうなづいた。
「コウさんもね、すご~く寂しい時代があったんですよぉ。
なんていうか…アオイちゃんとコウさんて兄弟みたいによく似てます」

嘘だぁ…私とコウほど対極の人間ていないって。
と思ってると続くフロウちゃんの言葉。

「二人ともね…自分が周りの人と違うってことで疎外感に悩んでるんですよね、いつも」
と、まるで私の心を読んだような発言。

私の驚いた言葉を肯定と受け取ったのか、フロウちゃんはフフっと笑った。

「二人に限らずね…本当はみんな違うんですよ。
全く同じ人間なんて世界中探したっていないし。
でも違う事がイコール壁とかになるわけじゃなくて…違うから面白いと思って近くなる人もいるし。できる事が違うから協力しようって気にもなるでしょう?
コウさんはだんだんそれがわかってきて…自分と違う仲間を探す事で落ち着いちゃったんですけどね。アオイちゃんはまだ迷走中…かな?」
「…うん…」

もうなんていうか…隠しごとするのも無駄な気がしてきた。
すごく見抜かれてる気がする。

「ユートさんはそれを息をするのと同じくらい最初から理解しててそういう事で迷う事はなくて、たぶん…ね、そういう事でアオイちゃんが不安に思ってるのがわからない。
すごくすごく他人の気持ちが読める人なんですけど、それは自分や自分が他人と接した時の相手の反応の蓄積で判断してるから…経験した事ない事までわかるわけじゃないんです。
つまり…気を使わないんじゃなくてわからないの。
だからアオイちゃんは自分の気持ちをきちんと口にしてユートさんの知識として蓄積させてあげないと。
一度ちゃんと知識として蓄積出来れば次からはちゃんと考慮に入れてくれますよ。
ユートさんはアオイちゃんの事好きだから」
すごくわかりやすい言葉で思わず納得するような説明をしてくれるフロウちゃん。

「ユートさんはそういう意味で頭がいい人だから…思ったままをまとまりなく話してもわかってもらえると思いますよ。
ユートさんの気持ちはアオイちゃんが考え込むよりも本人に聞く方が確かです♪」

確かに…そうだよね。
一人で悶々と悩むより聞いちゃった方が……

「ありがとう!フロウちゃん」
なんか…気が楽になった気がする。

フロウちゃんはそれにいえいえ、と笑顔で応えて、それからきっぱり
「実は…気晴らしなので、私も…」

はあ?

「今…実は陣痛で…でも病院に行くにはまだ間隔が長くて。
コウさんや葉月さんといると二人とも死にそうな顔するので…」

うあああ~~~~言ってよ~~~!!!!

あわてる私にフロウちゃんはきっぱり
「まだ…態度にあらわすアオイちゃんの方が気が楽なんですよね。
悲痛な表情で真っ青になられるより…」

変なところで役にたってる?私。
少し波がきたみたいで顔をしかめるフロウちゃん。

そして…何故か
「どうしましょう…名前…。皆さん…ものすごいネーミングセンスで…」
痛みのせいか話題が飛ぶ。

「そんなにすごいの?」
ついついのってみると
「いくら私でも…フローラとかは…子供に恨まれるんじゃないかと思います」

「それ…コウが?」
「いえ…ユキさん」

確かにフローラ姫ってレジェンド・オブ・イルヴィスの姫様なわけだけど、リアルでそれはありえないでしょ。
フロウちゃんの言葉に、悪いとは思いつつ吹き出す私。

「他にはどんな名前が?」
と、思わず聞く私。

「さららとか…これは葉月さん」
「え?ダメ?普通に可愛くない?」
「えと…ね、持統天皇の名前なんですね…。宇野讚良(うののさらら)姫って。
でもって…漢字が難しいかなと、子供が自分で書くのに。
私…ごめんなさい、書けません」

うあ…なるほど。私も書けないや。

「意外に…難しいよね、名前って。一生ついて回るものだしねぇ」

「優しいに希望の希で優希。これはユートさん。
でも漢字だといいんですけど、それだとユキさんとまぎらわしいですし」

「コウは?父親なんだしさ、考えてないの?」
「コウさんは…女の子だとわかった時点で自分がつけたら絶対に娘に一生恨まれるからって真っ先に挫折しました」

ごめん…あまりにありがちで吹き出した。

「ランスさんは優しいに姫で優姫。これもユートさんと同様の理由で却下」
「カイさんは確か優しいに花で優花。
でもこれも漢字だと良いんですけど音が母と一緒になっちゃうんで…」

そんな話をしてるうちに陣痛の間隔が短くなってきたらしくて、コウと葉月さんを呼んでそのまま病院へ。
夜中の3時にも関わらず、留守を預かるランス君以外の白い家のメンバーが全員集合したよ。

顔面蒼白のコウと葉月さんとユキ君。

「立ち会い出産とかしないんだ?」
最近結構流行みたいなんで聞いてみると、
「無理…絶対に無理…」
とコウが真っ青な顔で首を横に振った。

もうその後は3人無言で硬直。

「ぶっちゃけ…みんな役立たずなのに集合してどうすんだよな」
呆れた声で言うカイ君。

「そういうカイだって来てんじゃん」
その言葉にユートがクスっと笑うと、カイ君は
「だって…3人硬直してるし、誰か面倒みないとだろ?」
と肩をすくめた。

「ユートもそうじゃないん?」
とそのままカイ君が言うと、ユートはきっぱり否定した。
「いや、俺はアオイに会いにきただけっ」

うあ……

「最近忙しくて会えなかったしさ~。
もう自分の彼女に会えないのに他の男の奥さんの出産どころじゃないって」
といってユートは私を抱きしめた。

「ね、どうせ出産てここからが長いんだよね?
つか、産まれたからって俺らいて何かできるわけじゃないし…拉致っちゃだめ?」

ユートが私の顔を覗き込む。

「もうさ…しばらくしてないし、俺限界なんだけど…」
な~にをこんなとこで口走ってるのよっ!
「ここで…始められても困るから、拉致られてやってよ、アオイ」
その言葉にカイ君が大きくため息をついた。


そして一路タクシーで白い家にリターン。
「おかえり~。つか二人でどうしたん?」

まあ…ランス君の疑問はもっともなわけで…

「病院でアオイ待ち構えて拉致ったとこ。久々なんだから邪魔したらキレるぞ」
と、ユートは言ってぽか~んとするランス君を放置で私を自室へ促した。

色々話さないとなんだけど、目の前にユートがいるだけでもう胸がいっぱいになる。
ぎゅ~っと抱きつくと、ユートが優しく頭をなでてくれた。

「一応…会えなくて少しは寂しかった?」

優しい声。ユートだぁ!
もう涙がとまんない。うんうんとただうなづく私にユートは小さく笑った。

「もうね…だめかと思ったのっ…。振られちゃうかと思ったよぉ!!」
それだけ言うとワンワン泣き始めた私にユートは吹き出す。

「アオイ~。今度はどの辺りでグルグルまわったん?
もうさ、アオイの判断て合ってた試しないんだから、いい加減本人に直接聞こうよ」

「それ…フロウちゃんに今日言われて…んでねっ言わなきゃって思って…」
しゃくりを上げながら言う私をユートはやっぱり優しくなでてくれる。

「ユートがねっ葉月さんとね、つき合い始めちゃった夢とかみてねっ」
私の言葉にユートは硬直…そしてため息。

「どういう暴走してんのかね?アオイさん。
ありえんでしょ…あれだけはありえんっ。コウとつき合うようなもんよ?
俺にはそんな趣味ないって…」

「だって…家戻ったらいつもご飯作って待っててくれるから…」
さらにヒックヒックしゃくりをあげる私に、ユートはがっくり肩を落とした。

「あの…さ…もうアオイの暴走には慣れたと思ってはいたけど…アオイはあれ?ご飯作って待っててくれるなら姫にでも欲情しちゃうわけ?」

「だって…私…ずっと家に帰れなかったし。
ユートに何もしてあげてないし…ユートと近づきたくて仕事始めたら余計に離れちゃうし…
もうどうしたらよかったのかわかんなくてっ…」
もう頭ん中ぐちゃぐちゃでひたすら泣く私にユートは少し考え込んだ。

「アオイは…今の仕事楽しい?」
静かにきいてくる。

「正直に言って良いよ」
言われて私は悩んだ。

「最初は楽しかったんだけど…」

初めて4年前の事件について書いてた時は確かに楽しかった。
今のプロジェクトも発足当初は楽しかった気がする…。
でも人が増えて考えなきゃいけない事も増えて…色々が手一杯になってきて…よくわかんなくなってきた…。
私が本当につたない言葉でそう説明すると、ユートは苦笑した。

「なんかわかった気がする…。
たぶんねこういうこと。
アオイは文章書くの好きで、まあそれに関してはそこそこ上手いんだと思う。
だから最初の事件の話書いてるのも、プロジェクトでプロット練るのも楽しかったんだ。
でも逆に事務的な事や管理的な事がすごく苦手で…なまじプロジェクト任されて管理する側になっちゃったからすごく今色々が上手くいかない上に苦手な事やってるせいでストレス溜まってる」

「私…やっぱりダメなのかな?」

ユートの言葉でようやく色々が見えてきた気はする。
ようは…今の仕事にもやっぱり向いてないって事だよね…。
沈み込む私の頭をユートは軽く引き寄せた。

「もう…ホントに可愛いお馬鹿さんだよね、アオイは。全否定なんてしてないでしょ、俺。
ようは…管理は映に投げちゃってシナリオライターに戻りなさいって言ってんの。
せっかく社長様の旧友なんだから人事くらいは権力使ってもらおう。
大丈夫。役に立たないわけじゃないよ。」

なんだかすごくホッとした。
そっか…そうなんだ…。

「それなら…打ち合わせの時以外は家でできるしね。
俺も最近は結構家に帰れてるから会えるでしょ?」

ユートの言葉にまた涙があふれてきた。
ホントに…フロウちゃんの言う通りだったかも。
考えがまとまらないからって自分で抱え込んでるより、まとまらないままでもユートに言っちゃった方が良かったな。
私の訳わかんない説明でもユートはちゃんとわかってくれる。

「んじゃ、そういうわけで…おしゃべりは終わりでいい?
俺も結構アオイに飢えてるんだけど」
ユートがそっと額に口づけてきた。

「アオイは?」
と聞いてくる。そんな事…いうまでもない。

「私だってずっとずっとユート不足だったんだよっ」
私は自分からユートの胸に飛び込んだ。




フロウちゃんの赤ちゃんはやっぱり女の子で…もうママそっくりの目を見張るくらいの可愛い子だった。
名前は優羽ちゃん。命名…ユキ君&葉月さん?

産まれたその日にもうフロウちゃんの病室のベビーベッドに運ばれた彼女をそ~っと抱っこしたユキ君
「天使みたいだ。羽みたいに軽いな~」
と大感動。

それを聞いた葉月さん。
「羽…も可愛いですね。優しい羽でゆうはちゃんてどうでしょう?」
「うああ~~~それめっちゃ可愛いなっ!!
それいい!イメージにぴったりじゃん!そうしようっ!!」
とユキ君がコウに詰め寄って決定…だったらしい。


1週間後白い家に戻ってからはもうお祭り騒ぎ。

「もう子姫は絶対に嫁には出さないっ!婿取ろうっ婿!」
「まあ…うちの優羽様に手を出すなら、それ相応の力を示してもらわないとですね。
最低でも私に勝てるくらいの人材じゃないと…」
と、特にユキ君と葉月さんはもう誰が親なんだかわかんないような発言してる。

未来のコウもどき頑張れ~と、私はいつか優羽ちゃんが連れてくるコウに似てるであろう男の子に密かにエールを送ってみたり…。


そんな赤ちゃんパニックの中、ユートがコウに私についての見解を説明した上で今後の交渉をしてくれた。

結果…私は実質的にはシナリオ書きに。
ただ今の時点で最初に書いた話が本になってたりとか、今回のゲームのシナリオをほぼ書いてたりとかして名前が結構売れちゃったのもあって、名前だけはAoiブランド。
プロジェクトもA&Aプロジェクトのまま。
まあ…X君が主任になっても新人Xのままなのと同じような感じだ。

そして打ち合わせ以外は自宅作業で、締め切り前以外はそれなりに落ち着いた楽しい日々を送ってる。

最近では優羽ちゃんのために子供用のお話みたいな物も作り始めてて、それをフロウちゃんに声を吹き込んでもらってDVDにしたら、それが意外な事に商品化されちゃったりとかして、どんどんAoiブランドが増えて来た。

いまだにたまに寂しさを感じる事はあるけど、他の人がいるから寂しさを感じ、他の人がいるからそれを乗り越えられる。それを知ったからもう必要以上に沈み込む事はない。

事務も総務も営業もダメだったけど…今でも一人じゃなんにも作れないけど…できない部分を埋めてくれるたくさんの仲間に囲まれて、私もまた自分にしかできない部分を埋められるかけがえのない一人になる事ができたらしい。

極々平凡で少し内向的な佐々木葵のお話はとりあえずこれでおしまい。
いつかまた会う日まで…





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