雨降って地固まる
車の中で無言のコウ。
しっかりフロウちゃんを抱え込んだまま何か考え込んでる。
ユキ君がその緊張感を少しでもほぐすようにクラシック音楽を流した。
フロウちゃんがコウの腕の中から涙目で私に視線を向けると、コウが厳しい視線を私に送る。
…わかってるよ…。
「えと…とりあえず意識ははっきりしてたよ。
コウ達呼べって指示したのも葉月さんだし…
みんな動揺してる中一人でしっかり必要な指示出してた」
微妙に話をずらしつつ核心は避ける私の答えにコウは小さくうなづく。
なまじ整いすぎた容姿なだけに、厳しい顔するとめちゃ怖いんだよね…。
「…なにもん…なんだろうねぇ。ただの大学生にしてはめちゃ冷静だよな」
そこでそれをユキ君が引き継ぐ。
「いや、大学生じゃないぽいよ?フリーランスのプログラマーって言ってた」
私が訂正するとユキ君はまた
「ん~、どっちにしても普通の域超えてるよな」
と、続けた。
そこでフロウちゃんまた謎の発言
「それは世を忍ぶ仮の姿で、執事さんかお庭番だと思うんですけど…」
おいおい…。
ユキ君が運転席でため息。
コウもさすがに呆れた様子で
「姫…その発言はどこから…?」
と、ため息まじりに聞く。
「えっとね…」
みんなが呆れてる様子なのも気にせず、フロウちゃんは続けた。
「どなたかにお仕えする身分らしいですよ?
そのお仕えするべき人が自分がお仕えしたいような相手じゃなかったからすごく世の中空しくなったっておっしゃってましたから」
あ…もしかして…
「ね、フロウちゃん、それってフロウちゃんが自分の姫だったらって話だったり?」
「あらら?なんでそれを?」
きょとんとするフロウちゃん。
まさか立ち聞きしてたとも言えず困った視線を向ける私に気付いて、コウがその話を受け継いだ。
「その仕える相手ってどういう意味で?相手はどういう奴か聞いたのか?姫」
コウの質問にフロウちゃんはフルフルと首を横に振った。
そこで今度はコウが謎発言。
「姫…もしかして葉月も…青いのか?」
なにそれ?と思ったのは私だけでなく、ユキ君もらしい。不思議そうに少し眉をひそめる。
でもフロウちゃんには通じてるらしく、
「ですです」
とうなづいた。
「ふむ…」
考え込むコウ。
「んで、アオイは結局プロットは進んだのか?」
ユキ君が変なツッコミで周りがその考え込むコウを邪魔しない様に話題をふった。
私もそれに対して小次郎で遊んでてみたいな話で話題が途切れないようにする。
病院につくと、まずコウは受付へ。
とりあえず命より大事な奥様を守ってくれた恩人様だ。病室を移すらしい。
ま、権力行使もたまには…ね。
その手続きから戻ると、コウはフロウちゃんを向き直った。
「姫、これから病室行くけどな、俺は葉月と大事な話がある。
姫を助けてくれた礼もあるし、今後のことな、怪我の状態次第ではしばらく仕事とかできないだろうからその保障もしっかりさせてもらいたい。
相手は怪我人だし、必要事項はなるべく短時間で済ませたいが、事務的な話するのに姫に口だされるとはっきり言って進まん。
今手続きして最上階の個室へ移してもらったんで、姫はこっちの話がすむまで続き部屋の方でユキと一緒に待っててくれ。
それが約束できないんなら、ここから強制送還だが…どうする?約束できるか?」
さすがに筋の通ったコウの言葉にフロウちゃんはウンウンとまたうなづく。
そしてエレベータで一気に最上階。
すごいご立派な病室。病室っていうか応接室みたいだよ。
まず入ってすぐの応接セットのある部屋にユキ君とフロウちゃんを残して、一応間近で色々みてきた私を伴ったコウが病室のドアをノックすると、中から映ちゃんが出てきた。
「悪いが…映も席をはずしてもらえるか?」
一応質問口調だけど、有無を言わさぬ響きのコウの言葉に映ちゃんはうなづいて、フロウちゃん達の方へ行く。
「失礼する」
コウは一応声をかけて、病室へ入った。
広い病室。葉月さんはベッドの上で起きていた。
コウの姿を見とめると、
「姫様は?きちんと護衛つけてます?」
とそれでも気になるらしく確認を取る。
それにコウは小さくうなづいて、今入ってきたドアの方にチラリと目をやった。
「隣の部屋でユキつけてるから大丈夫」
とコウが言うと葉月さんはちょっとホッとしたように息を吐き出す。
今更なんだけど…この人コウに似てるんだ…。
整った顔、高い知能と身体能力。一見愛想がないんだけど、フロウちゃんといるとなんだか優しくて心配性で…。
「聞きたい事あるんですよね?どうぞかけて下さい」
そんな事考えてると葉月さんが私達に椅子を勧める。
そして私とコウが座ると、小さく息を吐き出した。
「私の正体って事なら…ただの酒井の手下ですよ」
自嘲気味に…驚くべき発言をする葉月さん。
「正確には…酒井が三葉商事の社長に据えようとしてた酒井と愛人の間に出来た娘の側近候補というやつです。あなたの三銃士と同じ様にね」
なんと…。
さすがのコウも想像の範疇を超えてたようですぐには言葉が出て来ない。
「15年ほど前、私が孤児院にいる時話がありそれから様々な訓練を受けて育ちました。
おかげさまで大抵の事はできますが…1年半前…レジェンド・オブ・イルヴィスで前社長があなたにちょっかいかけた頃に未来の主になるらしいお嬢様に引き合わされまして…すっかりやる気が…ね。
側近候補として日々厳しい訓練に耐えてきた自分の15年間はなんだったのかと自問自答しつつも、それでも他にやるべき事もないのでなんとなく流されるまま、いつでも動ける様にレジェンド・オブ・イルヴィス内で社長の旧友というアキラのギルドに潜んでたわけですが…」
「それがなんでまた姫を?」
まあコウの質問ももっともだ。
普通なら…かばうどころか逆に危害加える側では?と思ってると、葉月さんは大きくため息。
「血迷いました…」
はあ……
「姫様の側は覚えてないでしょうけどね…
ランスがいない時にたまたまというか…なんであそこまで暴走するのかわからないんですけどとんでもないエリアまで来ていて…まあ私はあとをつけてたんですけどね。
モンスターに絡まれてる所を助けたら当たり前に何故かそのまま安全な場所まで送り届けるだけじゃなく、釣りのお供にされてまして…
なんというか…なんていうんでしょう…
別に高圧的に言われるわけじゃないんですけど、思いっきり上から目線で苦しゅうないって言われてる気分で従わざるを得ないような気に……」
……それって…以前コウが全く同じ事を言ってた気が……
葉月さんはそこまで言ってまたため息。
「ああ…この人はお姫様なんだなって思いました…。もう壮絶に…。
と、同時になんとなく自分が当座やるべき事がみつかったような気分にもなってきて…。
そんな時にアキラから今回の話がありまして、それを何故か知った酒井娘から姫様とアオイ抹殺命令がきたんです。
もう今更三葉商事をどうのというのは不可能なのは目に見えてますし、単なる私怨のようでした。
でも外部の噂にしては随分と具体的に時間とかも知ってたんで、おそらく今回のメンバーの中に私と同様酒井娘の息のかかった者がいるのは明らかかと思ったんですが、それが誰かまでは特定できなかったので。
とりあえず姫様に悟られて不安感を与えないように、その一方でいつでもフォローできるようにとくっついていたわけで…」
なんか…行動性までが誰かさんに…と、チラリとコウを伺うと、自覚あるのかコウもため息をつきつつ
「なんだか…昔の自分を見るようだな…」
と私に小声でつぶやいた。
葉月さんの告白は続く。
「で、まあ今日庭から戻ったら彩とランスがいなくて、姫がキッチンに向かった時に映が彩が私達がいない時にキッチンで何かしてたと聞いてピンときました。
普段ならランスか私が姫より先にキッチンへ入る可能性もあるわけですが、ランスを連れ出し、私に仕事与えたらもう姫しかキッチンへ行く人間いませんから。
…で、案の定だったわけで…」
うあ…あの一瞬でその状況判断て…ますますコウみたいだ。
「…という事で真面目に血迷った結果の行動なので、別に気に病んで頂く事もありません。
必要なら警察でもどこでも連行して頂いて構いませんよ?証言もしますし。
どうせ…もうやる事もありませんから、刑務所でもなんでもどうぞ」
相変わらず淡々とした口調の葉月さん。
しかしそこでコウが唐突につぶやいた。
「寂しく…ないか?」
葉月さんは不思議そうな目をコウに向ける。
コウは少し考え込んで、言葉を噛み締めるように続けた。
「昔…俺は勉強と武道以外真面目に何もしてこなくて…何の為にそれをしてるのかも考える暇なくて…友人て言える人間もいなかった。
で、そんな頃出会った姫にそう聞かれてな…。
初めてそこで考えて見たら壮絶に寂しさが襲ってきて…すごく脆くなった。
で、同時にその脆さを埋める為に色々と向き合うようになって、色々な人材とも向き合うようになって、今に至る。
心が揺れるって言うのはつらいっちゃつらいんだが…何も考えなかった頃より楽しい。
全てがセルフサービスだった頃の人生より、誰かに何かしてもらって、自分が誰かのために何かできないかと考えてる今の方が数倍人生が楽しいと思う。
葉月も…それに気付き始めてるんじゃないか?」
コウの言葉に今度は葉月さんが考え込んだ。
コウが続ける。
「とりあえず…当分うち…白い家にいないか?
まあ俺達は当分じゃなければその方がいいんだが」
は?
石橋を叩いて渡らない男コウの決断にしてはすごい思い切りな気が…と、思ってると、葉月さんは渋い顔をした。
「そんな危機管理意識が薄くてどうするんです!
身元もわからない人間を姫様に近づけないで下さい」
って…他人事の様に…。
「俺も最初身元不明だったぞ」
コウはそれにあっさりそう返した。
そして少し思い出し笑い。
「身元どころか名前も住所も顔かたちもわからない状態で姫にいきなり姫のリアル情報流されて…翌日から夏期講習あるから自宅と学校の送り迎えしてくれって呼び出された。
姫父は姫父でそんな状態で知り合って1ヶ月もしない若い男に自分が夜に自宅帰れなくなって女二人だと不用心だから泊まりにいってくれって夜中に電話寄越すしな…」
「うあ…なんですか、その危機管理意識0家庭はっ…」
驚く葉月さんに、コウが真顔で言う。
「姫の家系の女には必要無いんだ、そういう意味での危機管理意識が。
あの家の女はな…代々オーラが見えるらしい。
自分にとって絶対的に無害で安全な人間をそのオーラで見分けるらしいぞ。
それがほぼ100発100中でな…。
姫のその嗅覚は100の理屈よりも確かなんだ。
ユキもそうやって選別された一人だしな。実は葉月、お前もそうだ」
コウの言葉に葉月さん目が点。
「まあ…そのせいなのか気をつけないといけない部分での危機管理能力ってのも欠如してて、放置すると危機管理よりしばしば自分の趣味優先する人種なんで、誰かが気をつけないとなんだけどな。
夜中に虫の音が綺麗に聞こえるからってだけで家中の1Fの窓全部全開にするような恐ろしい事平気でやってたし…」
「普通の家でもありえませんけど…
家中の窓強化ガラスにしてるような金持ちの家でそれって…」
葉月さんは額に手をやってため息。
もうため息しか出ないって感じだ。
「ん。だからな…信頼おける人間を増やしたいんだ。
たぶん…心休まる時はほぼないかもしれんし、疲弊は思い切りするとは思うんだが…
微妙な達成感は日々あって…
でも次の日にはそれが新たな義務感に変わるって感じなんだが…
給料ははずむから雇われないか?」
なんというか…微妙な勧誘文句…。
てか、コウって思い切り営業に向いてないよね。
これで勧誘される奴がいたら顔見てみたい…って思ってたら勧誘された。
「姫様が…私が側にいてもいいと言うなら」
という条件付きで。
その台詞を聞いたコウは一瞬目が点。
「お前は俺なのか…マジで…」
とボソボソっとつぶやいた。
もちろん葉月さんのことがお気に入りなフロウちゃんがそれを了承しないはずもなく…こうして白い家にもう一人住人が増える事となった。
結局…ランス君はあれから必死で彩さんを探しまわったらしい。
そしてなんとか見つけて尾行。
身元を調べて警察に連絡。
めでたく御用となった。
酒井の娘はその彩さんの証言で殺人教唆で同じく御用。
というわけでそっちは一件落着。
全治1か月…決して軽傷とは言えなかったんだけど、使命感に燃えやすい性格もコウそっくりの葉月さんは4日間で一部傷の抜糸も終わってないのに無理矢理退院してきた。
さすがに力仕事はあれなんで…てかフロウちゃんが泣くので控えつつも、仕事はきちっとこなす。
とりあえずは彩さんが残したデザインを元に日々淡々とHPで宣伝広告を組んでいる。
多少の動揺は残しつつも、咲さんも奈々さんも作業を続行してくれた。
もちろん、映ちゃんとヨイチは言うまでもない。
小五郎は…まあもうぶっちゃけお役目ごめんなんだけど、それでも目の前で起こった事件とか白い家へ出入り出来る事への未練とかフロウちゃん鑑賞とか、色々総合的な理由で通ってきては、女3人のおもちゃにされてる。
結構細かい作業になるし気晴らしも大切だから、これはこれでいいのかなとは思う。
まあ…無駄に食用以外でのヨーグルトの消費量は増えたけどね…。
白い家の一室にお嬢さん達用の衣装部屋なんてできて、そこに小五郎の制服やらお嬢さん達持参の小五郎に着せたい服やらなんやらがしまい込まれる事になった他はまあこれと言った変化も無し。
そして半月ほどたち、葉月さんは抜糸が終わるとランス君とお揃いのスーツですっかり執事に…。
なまじ身長170というスラっとした背の高い美形なだけに小柄で華奢なお人形のような格好のフロウちゃんと並ぶと本当に普通に綺麗で線の細い青年に見えなくない耽美な世界。
180のランス君と並ぶとそれはそれでまた耽美。
フロウちゃん以外には無表情で手厳しいその態度でランス君と絡んでると、お嬢さん達もう大喜び。
そしてさらに一ヶ月。
なんとか私の方の文章は仕上がり映ちゃんの作画付きで公式に…。
そこで今日は白い家全員での鑑賞会。
めっちゃ恥ずかしいわけですが…特に当事者の面々に見られるのは…。
全員ノートPCで読みふける。
「アオイ視点…面白いな…」
まずコウが言った。
「実際と全然違うあたりが…」
とその後の一言にがっくし。
「そりゃ、アオイは当時から可愛いお馬鹿さんだから♪」
とユートがそのコウの言葉を肯定するようにクスクス笑う。
もう…書き直した方が?なんて今更のように思ってると、コウのフォロー。
そう!あの俺様だったコウがフォローだよ?
「ああ…悪い。そういう意味じゃなくて、自分に対する評がな。
自分が思ってた自分と他人が思ってた自分て言うのが全く違うのがって事で…。
事実関係はまあアオイ視点で見ればそうだったのかと納得出来る事は出来る」
あ~なるほど。
まあそう言われてみれば私はユートやコウ視点だとどう映ってたんだろう…ちょっと気になるね。
「ね、みんなの視点でそれぞれ事件語ったのを比べたら面白いかもね」
私が言うと、コウとユートは
「自分のなんて当たり前すぎてつまらん」
と声を揃えて言った。
「アオイが一番奇想天外」
これも二人嫌みなほど声を揃えて…。
それにまたユキ君達3人が吹き出す。
そんな中一人淡々目を通してた葉月さん。
やっぱり淡々と
「確かに…別人みたいですね。現在の人格者と」
とつぶやいた。
「人格者?誰が?」
不思議そうに聞くコウとユート。
はもってる。
葉月さんが答える前にユキ君がきっぱり
「コウに決まってるっしょ」
と断言する。
「はあ?」
とやっぱり問い返すコウとユート。
「あ~そか…丸くなってから会ってるもんねえ…ユキ君達は」
私は吹き出した。
「昔はすごぃ俺様だったんだよね、コウ」
私の言葉にため息をつくコウ。
「そのへんの認識がなぁ…」
「何?なんか変?」
「当時は…単なる内向的なお子様だったぞ、俺」
「へ??」
うっそだ~~~!!!
「コウほど内向的なお子様と程遠い男はいないと思ってたよ、私っ!」
同意を求めるようにユートを振り返ると、ユートは苦笑した。
「なんていうか…大人の中で育った世間しらずではあったな。
自分より確実に頭良くて強いのは重々承知なんだけど、放っておけないとこはあった」
うあ…私とユートとコウ、それぞれ印象違うんだね。
私は最後の一人、フロウちゃんに目を向ける。
フロウちゃんは視線に気付いてきっぱり
「今と変わってませんよ?全く。コウさんは本質的にコウさんです」
と、にっこり深淵な答えを返してくれた。
「ユートは…当時良くも悪くも当たり障りがなくて淡々と落ち着いてて良い人だったよね」
という私の言葉にもコウが意義申し立て。
「色々…悩みつつ画策する奴だった気がするぞ。悪い意味じゃなくて。
アオイが単なる良い人扱いしてるの見て真面目に報われなくて気の毒だった気が…」
そして最後の一人
「今と変わって…(ry」
フロウちゃんにしてみたら全部本質的には変わってないですまされちゃうんだね。
「でもさ…こんなんでよく立ち直れたよな…てか俺だったら再起不能になってそう」
ユキ君がしばらくして自分の方がしょんぼりとして言った。
たぶんアゾットの辺りの話。
「ん~、だから言ったろ。
ユキが最初に一条家に来た時今があるのはこいつらのおかげだって。
正確には…直接的には今生きてるのはユートと姫父のおかげ」
へ??
ユートを見るとユートもぽか~んだ。
「なに?何よ?俺なんかやったっけ?」
今語られる衝撃の事実?
コウは淡々と、まあ過去の事だしな、と前置き
「俺が和の日記みたのって魔王倒した日の夜でな…
まあ…色々気が抜けてホッとしてた所になかなか衝撃的で…なんだか発作的に死にたくなって包丁目の前にしてて手伸ばそうとしたその時いきなりユートの電話で中断」
「あ~あれ?!うっああ~~~~こええ~~~!!」
ユートが叫ぶ。
身に覚えがあるらしい。
「ん。んでな、気勢削がれた所に姫父から事故で家帰れんから自宅泊まってくれって泣きつかれて…。
落ち込む暇もなく姫ん家いったら女二人、せっかく強化ガラスまで入れて用心に用心を重ねてる家で…虫の声が綺麗だからってだけの理由で1Fの窓全部無意味に全開にしててな…もうだめだと思った。
この家、姫父いない時は俺が戸締まりしないと強盗殺人の現場になりかねんと…なんか強迫観念に近い義務感が…もう死んでる場合じゃないぞ、自分て感じで」
そこまで言って額に手をあててため息をつくコウ。
うははっ。
みんなが笑ったり呆れたりする中、唯一葉月さんだけが
「わかります…」
と、生真面目にうなづいた。
「て感じで結局…高校2年までほぼ一人で生きてきたのがゲーム始めて初っぱなにいつのまにか姫にPTの一員として頭数に入れられてて、いつのまにか姫にリアルで送り迎えさせられてて、そのままなし崩し的に何故か一条家の居候兼用心棒になってて…2年後ユキ達と出会ってなんだか保護対象者が増えたみたいになって…どさくさにまぎれて三葉商事まで背負う事になって、そのまま大家族時代に突入して今に至る」
なんか…ある意味すごい人生だ。
「もうな、なんで巷では自分の事がそんなに華々しく語られてるんだろうと不思議に思うぞ。挫折と成り行きに流されただけの人生なんだが…」
心底不思議そうな顔でコウが言う。
華々しい活躍とかも確かに事実なんだけど、コウ自身が語る自分て言うのも確かに事実なのが面白い。
見た目も経歴も能力も華やかなのに、中の人の性格が地味なのがコウだよねぇ。
ギャップっていう点では一番ある気がする。
「まあさ…それ言ったらみんな多かれ少なかれそうじゃね?
2年前まで普通の大学生だったのが今じゃ三銃士とか言われてんのよ?俺ですら」
とユートが言えば、ユキ君も
「それ言ったらさ、俺なんかフリーターよ?フリータ」
と自分をさして笑う。
「みんな有名になるに連れて美化されてるんだよね、否応無しに」
カイ君もうんうんとうなづいた。
今の三葉商事の一番の売り物って実は夢なのかなぁ…って私はそれを聞いてちょっと思った。
若くて美形のスーパーカリスマ社長とそれを取り巻く若い側近三銃士。
社長の自宅の豪奢な白い洋館には目をみはるような美しさのお姫様。それをお守りするやっぱり若い執事二人。
「恋愛…シミュレーションゲームとかできそうだよね…絵的に…」
なんとなく思った。
私の言葉にほぼ全員はぁ?っといった目を向ける。
「女の子ウケしそうな男がいっぱいで…主人公の友人になってくれそうな女の子もいて…」
私が言うと、コウがジ~っとユートを凝視しながら言った。
「まあ…モテるといえばモテそうだよな、ユートとか」
いや、自分の事棚にあげないように…って思ったのは私だけじゃなく…
「コウ…自分て女の子の夢と希望が詰まってると思わん?」
と、ユキ君が突っ込みをいれるが、コウは
「思わん!」
ときっぱり。
「俺とつきあってもはっきり言って楽しくないぞ」
「唯一の妻帯者が何いってるんだか…」
ランス君もそれに肩をすくめる。
「姫並みに自分を持ってて他の人間の反応とか関係ない女はまずいない」
あ~それは確かに…。
コウの言葉に全員納得。
「まあ…あれだろ、ユートやユキは会話楽しいし気が利くし、ランスなんてそれこそ執事できるくらいだからな。
至れり尽くせりのお姫様状態なら女も楽しいだろ。
いいんじゃないか?これの反響しだいではそっちの方向で映に話ふってみれば。
実績ができればゲーム開発部の方にも話持ち込めるし」
「やるなら…あまり現実に即してもなんですし、とりあえず主人公がこのゲームの参加者になって、いかに危険をかいくぐって生き残るかを模索しながら、他の参加者と恋愛みたいな感じがいいかもしれませんね。
変わったあたりでは犯人達との恋愛エンディングとかまできっちりと」
コウの提案をさらに葉月さんが発展させる。
「おお~それ面白いねっ!いってみようぜっコウ!」
ユキ君がそれを聞いてはしゃぐと、やるのは俺らじゃないけどな、と、コウが苦笑。
一ヶ月後…元々大企業三葉商事の社長でしばしばテレビとかにも出演するコウとその側近の最初の出会いという事もあって、読みにきたのはレジェンド・オブ・イルヴィスのユーザーだけじゃなかったらしい。テレビとかにも紹介されたりしてすごい反響。
テレビのインタビューとかでやる気満々のユキ君がポロリとこれをモチーフにした恋愛シミュレーション作るかもみたいな事をもらして、また大騒ぎ。
まあそれに関しては先走った事でユキ君はあとでコウに思い切り怒られたらしいけど。
でもおかげでそれに対する問い合わせが会社の方に殺到しちゃって、引くに引けなくなったらしい。
さらに1ヶ月後プロジェクトチームが組まれる事になった。
とりあえずイメージ戦略を重視ということで考えられたのが、女の子の女の子による女の子のためのチーム。
企画から作画、宣伝、システムまで全部女性オンリー。唯一ヨイチだけが映ちゃんの秘書という形で付き従ってる。
チームに加わってくれる事になった元ゲーム開発部の女性や一般公募の女性も加わって大所帯。
どうせ女のための女によるっていうなら、やるとこまでやっちゃおうということで、映ちゃん達のたっての希望もあって主人公が女の子のノーマルヴァージョンと主人公が男の子の腐女子ヴァージョンと同時作成する事になって、ものすごい話題になってる。
ノーマルヴァージョン責任者が私、Aoiで、腐女子ヴァージョン責任者が映ちゃん、Akiraってことで、A&Aプロジェクトという名前で売り出すことになった。
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