オンライン殺人事件再来っ08

謎の麗人


翌日…大人数で大騒ぎ。
昨日の3人に加えてあと3人。

昨日葉月さんは無反応だったけど、新たに追加の3人はランス君におおはしゃぎ。
もう打ち合わせとかそっちのけでまとわりついている。

「執事よ、執事~!!写真とっていい?写真!!」
大騒ぎの3人にランス君は営業スマイル…だけど内心少し引いてるだろうな、さすがに。

もう両手取られてギブス状態のランス君の代わりにお茶を入れにキッチンへと向かうフロウちゃん…をさらに追う葉月さん。
一応…コウの意向はプロジェクトに関わってくるというのは確かなので私もそれを追った。

「重いからいいですよ、持ちます」
キッチンをのぞくと聞こえてくる葉月さんの声。
お湯の入ったポットをワゴンへと運んでいる。

普通に笑顔。
最初の日に私に挨拶した時よりずっと柔らかい感じ。
淡々とした印象もなくて、美形なのは相変わらずなんだけど昨日よりずっとうちとけてる。
別に悪い人には見えない。

「あ…棚の上段にあるイタリアンフルーツのカップ…とって頂けます?」
手を伸ばしてみて挫折したフロウちゃんに
「了解」
と笑顔を向けると、手を伸ばしてカップを取ってシンクで洗う。

う~ん…やっぱり誰かに似てる…
整いすぎててきつい印象与える容姿で、硬質っぽくて、外部的には礼儀正しくて…でもフロウちゃんといるとなんだか柔らかい雰囲気になる。

……大丈夫…なんじゃないかな。
他にはとにかくとしてフロウちゃんに危害は加えない気がする。
まあ…私はコウやユキ君からみるとありえない暴走女らしいから、私が言っても聞いてもらえない気はするけどさ。

「ふ~ん…」
そんな事を考えてると、すぐ後ろに映ちゃんが立っていた。
「うあ、びっくりした。どうしたの?」
私の質問には答えず、映ちゃんは腕組みをしたまま
「葉月があんな風になごんでるの初めて見たなぁ…」
と言った。

あ、やっぱりそうなのか。
「普段は硬質?」
という私の質問に映ちゃんはうなづく。

「絡んでみてもさ…真面目な顔で一刀両断にされる。
全然のってくれないっていうか…さ。冗談も通じないし」

ふむ…。
二人でそんな会話を交わしてたら気付かれたっぽい。
葉月さんから笑顔が消えた。
一瞬警戒する様な目。
…で、また普通にポーカーフェイス。
謎な人物…。

「もう騒ぎ収まって打ち合わせできそうなのかな?」
いつもの淡々とした口調で、映ちゃんに声をかける葉月さん。
「う~ん…待ってたら一生できないっしょ」
と映ちゃんはニヤリと笑う。

「そうか…。じゃあすぐ行く」
無表情に言って、葉月さんはフロウちゃんを振り返り、
「では…何か手が必要なら呼んで下さい」
とにこやかに声をかけて、またこちらをクルリと振り返った。

振り返った途端に消える笑顔。
真面目に…変わった人だ。

新しい参加者はデザイン担当の彩さんと、映ちゃんの作画のヘルプさんの咲さん、奈々さん。
彩さんはHP内のデザイン担当で絵や文字の配置とかのバランスを考える人で、咲さんは得意は背景。建物とか景色とかめちゃうま。
奈々さんは映ちゃんが描いた絵に綺麗に色を塗って行く。

3人とも大学生とのこと。
そこでふと気になって聞いてみた。

「で…こんな時間に来れるっていうことは葉月さんも大学生なんですか?」
葉月さんは一瞬無言。

少し考え込んだあと
「フリーランスの…プログラマーってとこですか…」
と言う。
あの沈黙はなんだったんだろう…。


とりあえずその日は映ちゃんのHPで今回の『レジェンド・オブ・イルヴィス プロト秘話』の宣伝をするための打ち合わせ兼作業…のはずだったんだけど、もう女3人ランス君に夢中。

フロウちゃんがティーセットの乗ったワゴンを押してくると
「執事さんに入れて頂きたいですっ!」
と、リクエスト。
ランス君がいつものように優雅に高い位置から紅茶を注ぐのに歓声をあげてる。

「じゃ、私お花の手入れしてきますね」
とりあえず暇ならしいフロウちゃんが庭に向かおうとすると、淡々とPCに向かっていた葉月さんがまた
「手伝います」
と、立ち上がった。

「葉月~、仕事は?」
そこでヨイチが声をかけると、葉月さんはチラリとランス君を囲んで大はしゃぎな女3名に目を向け
「デザインできてこないと組みようないし、暇だから」
と、またフロウちゃんを振り返る。

「んじゃ、俺も行こうかな」
コウの言いつけもあって腰をあげかけるヨイチだが、それにも葉月さんきっぱり
「そんな暇あったら3人の尻叩いて。でないと先進まない」
と、まあもっともな意見を述べた。

…もう言い返す余地なし一刀両断って感じだね。
私が…っていってもそんな暇あったらプロトさっさと仕上げろって言われそうだし…。
映ちゃんも同じく作画を…だよね。

ヨイチが言葉なくしてる間に、これで決定とばかりに葉月さんは
「じゃ、行きましょうか」
とフロウちゃんをうながした。

そこでフロウちゃんが自主的にお断り…なんてはずもなく、二人はテラスから庭に出て行く。
ヨイチが青くなった。

「まあさ…」
私は丁度私の隣に座ってるヨイチに小声で言う。

「大丈夫…だと思うよ?
フロウちゃんに対しては多分無害な良い人だと思う、葉月さんて」
まあ…私が言っても気休めにもならないわけだけど…。

「どうしよう……」
ブツブツ青くなってつぶやくヨイチに映ちゃんがチラリと一瞬だけ目を向けた。
「ヨイチってさ…頭良いけど色々考えすぎ。ま、コウ君もだけどね。
気楽に行こう、気楽に」

まあ…そうなんだよね。

「でも…コウの機嫌損ねたらこの企画自体これで終わるよ?なんとかしなきゃ」
ヨイチは映ちゃんが反応した事にホッとしたように、映ちゃんを向き直る。
「ん~そうだねぇ」
深刻な様子のヨイチとは対照的にどっちでもよさげなのんきな口調の映ちゃん。

「アオイっち、誰か暇そうでしつこくてめげなさそうな人材って知らない?
うちの人材だと仕事やるために呼ぶ形になるからプラプラさせられないし」

いきなり振られる。
てか、その条件で紹介したら、相手に対してすごい失礼な気が……。
そもそも私もずっと白い家におこもりで…大学いってても他と交友持つ時間なんてなかったし…

「できれば…今回の事件関係者とかだとちょっと意見ききがてらって感じで不自然さもなくて理想なんだけどね。
あれだめなん?アオイっちが連絡取ったショウ彼女とか」
「あ~千秋さん?だめだめ、仕事あるもん」

一応…社会人なわけだしね。こんな時間にフラフラできるはずもない。
それに関係者っていったってショウは早い時期に殺されてるしね…。
…って…いたっ!
事件関係者で暇そうでしつこくてめげない奴!!

「一人…いるかも…」
ハタとある馬鹿の顔がちらついて私が言うと、
「ホントにっ?!その人呼ぼう!!」
と、ヨイチが乗り出した。

「真面目にぃ…?」
自分で言っておいて気が進まない。
「なにさ、アオイっち、その反応」
いかにも渋々といった私の言い方がおかしかったらしい。映ちゃんが笑う。

「いや…なんていうか…本気で馬鹿だから変に暴走しかねないんだけど?」
もうその図が目に浮かぶわけで…

「あ~いいのいいの、フロウちゃんの周りうろついてくれれば良いだけだからっ。
こっちのプロジェクトに関わらせなければ無問題っしょ」
映ちゃんがヒラヒラと手を振って言う。
コウの気持ちを収めるための方便て思ってるのが見え見え。
まあ確かに実際はそうなんだけど………

「このままじゃコウの気が変わりかねないよ?」
映ちゃんの言葉をヨイチが後押しする。
あ~、もうしょうがないかっ。

「一応…コウにお伺いたててから…ね」
しかたなしに私は言った。
自分で言い出しておいて、あれは嫌だなぁ…なんて思ったり…。


「小五郎を?」

夜…コウは今日も普通に夕食の時間に戻ってきてた。
フロウちゃんの心づくしの夕食を頂きながら相変わらずキッチンとダイニングをクルクルするフロウちゃんの隙を狙ってコウに事情を説明する。
止めとけって言ってくれないかなぁなんて期待しつつ言ってみたんだけど、やっぱり返ってくる了承の言葉。
しかた…ないのかぁ…。

連絡先知ってるのはユート。
自室に戻って久々にかけるユートの携帯。

『アオイ、どうしたの?』
ああ…ユートの声…って浸ってる場合じゃっ…
『ごめんね、仕事中だった?』
『いや、丁度打ち合わせ終わって帰るとこ』

わ~帰ってくるんだ♪
今会社だとしたら…家まで30分…ってことは…今8時だから8時半には会えるか~♪
『部屋で…待ってていい?』
実はあれから合鍵もらってたり♪
わくわくして聞くと電話の向こうでユートが笑った。

『襲ってもいいならね。んじゃ話は帰ってから』
と言うのを私は慌てて止めた。

『待った!!』
『なに?』
その勢いに少しびっくりしてるユート。

『あのね、小五郎のメルアド教えて?
今回の企画の事でちょっと呼ばないとな理由ができちゃって』
『今?』
と聞くユートに思い切り肯定。
『うん、今。
必要な雑用はユートが帰って来る前にすませちゃいたいもん。
戻ってきてからじゃ時間もったいないからっ』
私の言葉にユートはちょっと笑いつつため息をついた。
『もう…なんで毎度毎度そういう可愛い事言うかな。おっけ~、メールで送る』
『ありがと~』
そこでいったん携帯を切る。
そしてユートからのメール。小五郎のメルアドが届いた。

私は小五郎のメルアドに今の企画の話とプロットを練るのにちょっと話を聞きたいから参加してもらいたい旨を書いて送った。
小五郎からは即張り切り参加表明メールが返ってくる。
一応…明日から参加の旨を了承してもらって、とりあえず終わり。
あとはユート待つだけ~♪


「おかえり~♪ユート♪」
もう門の前で待ってたら、ユートはちょっと目を丸くして、次の瞬間
「嬉しいけど…不用心だからこれからはちゃんと中で待ってる事。
変な奴多いんだから襲われでもしたら大変でしょ」
と、ツンと私の鼻をつつく。

その言葉に私もいつもの台詞
「私なんて襲いたがるのユートだけだってっ」
私達はじゃれあうように中に入った。

「アオイね~、ほんっきで自覚なさすぎ。
俺まじアオイ一人にすんのやなんだけど、最近。
さっきも聞いてきたメルアドが他の男だったらもう俺が間に入って連絡とってたよ?」
その言葉に私は吹き出した。
「小五郎は論外?」
「論外っしょ、あれは」
と、ユートも苦笑する。
「さすがに…あれに取られたら、もう俺立ち直れんわ」

ということで…翌日。
そういえば小五郎ってリアルどんな子なんだろう…。
すごい子供のイメージなんだけど今…確か高校卒業して4月から大学だよね。

まあなんていうか…期待はしてないけど好奇心。
一応事情を説明しないとだから、映ちゃん達よりは早く来てもらうようにアポを取っている。
だから今日はいつもよりちょっと早く昼食にして12時半。
待っている時間ぴったりにチャイムがなる。

ワクワク。
速攻で門のロックを解除すると、ドアを開けに行く。

「いらっしゃいっ」
勢い込んで出た私の前には黒ぶち眼鏡の少年。

え~っと…なんというか…頭でっかちの子供を大きくしたような…というか…嫌味な秀才優等生を絵に描いた様なというか…

「ここ大企業の社長宅だよね?
相手も確認しないで出るってあまりに無謀だと思うんだけど?
君の辞書には危機管理能力って文字がないのかな?アオイ」

…しかも…まあ…その容姿のイメージを体現したような嫌みな性格?
私はフルフルと拳を握りしめる。
怒っちゃだめ、怒っちゃだめ…。

「今日は来てくれてありがとう。上がって」
なんとか笑顔を浮かべてうながす私に、小五郎は後ろでボソっと
「…笑顔ひきつってるね。平常心という文字も辞書にない?」

「こっこの!!!」
思わず振り向いて怒鳴りつけかける私に奥からかけつけてきたランス君が、
「アオイっ、姫様手伝ってきて」
とあわてて声をかけた。

う…

(落ち着いて。これ利用するしかないんだからさ)
と小声でささやくランス君に渋々うなづいて先にリビングに戻った。

「小五郎さんいらっしゃいました?」
にこやかにワゴンを押してキッチンから出てくるフロウちゃん。

「…いらっしゃいましたなんて上等なもんじゃないからっ、あれは!
もうティーとはじゃなくて雑巾の絞り汁でも飲ませてやって」
私の怒りの言葉をフロウちゃんはポカンと
「変わった…ご趣味なんですね。でもお腹壊しちゃいますし…。
今日はティーで我慢して頂きましょう」
と、真にうけてくれる。
なんというか…うかつな事言うとマジやりそうで危ない…。

とりあえずフロウちゃんのその態度に逆に怒りが収まってきて平常心が戻ってくると同時に、廊下とリビングをつなぐドアが開いて、ランス君と小五郎が入ってくる。

「いらっしゃい。ごきげんよう♪」
あの馬鹿にもにこやかに声をかけるフロウちゃん。

相変わらず神々しいまでのお姫様オーラ…に私達はいい加減慣れてるんだけど、なんと小五郎固まった。
真っ赤になってパクパク何か言おうとしてる、
まあ…しかたないけど私に対するのと随分の差だよね…。

「どうぞ、おかけ下さい♪」
にこやかにソファにうながすフロウちゃんに向かってガバっと90度頭を下げた。

「初めましてっ!今日はお招きありがとうございます。芳賀小五郎ともうしますっ!」

…どうしてその挨拶を私にできないかね…招いたのは私なんだけど…と、思わず私は冷ややかな視線を送りながら
「そのまま立ってても邪魔だから座れば?」
と小五郎に声をかける。

「し…失礼しますっ!」
フロウちゃんにもう一度ペコリとお辞儀をしてソファにかける小五郎

「ようは…ね、このあと腐ったお姉さん達がきて、ランス君を囲んじゃうから、プロト書く時に色々聞きたいってのもあるんだけど、普段はランス君がやってるフロウちゃんの雑用とかをね手伝って欲しいわけ、小五郎に」

私が小五郎にだけ聞こえる程度の小声で言うと、小五郎はぶんぶんと首を縦にふった。
視線は当然フロウちゃんに釘付け。

「あのね…みとれるまでは良いけど…変な気起こしたら白い家の怖いお兄さん達にボコられるからね?念のため」
と、からかってやると、小五郎はさらに真っ赤になって
「僕はそんな人間じゃありませんっ!」
とムキになって私に詰め寄ってきた。
ま、生意気な口叩いても、まだまだ子供かねぇと、ちょっとスッキリ。

そうこうしてるうちに映ちゃん達が来る。
今日も腐ったお嬢さん達はにぎやかだ。

「うっそ~男の子増えてるよっ!可愛いっ、高校生?」
どこが可愛いのか私にはぜんっぜんわからないけど、小五郎をつつきまわす。

「次からは制服ねっ、制服!」
目の色が変わるお姉様方にびびる小五郎
「ぼ、僕はこの春から大学に…」
おそるおそる言い返すが、
「ってことは、ついこの前まで高校生よねっ!制服まだあるよねっ!!」
と、勢い込んで言われて黙り込む。

哀れ…探偵少年…。


「今日もこの様子じゃ作業は進みそうにないし…何かあればお手伝いしますよ」
フロウちゃんににっこりと言う葉月さん。
小五郎の役立たず…てか、むしろ邪魔?

「あ~、奥様っ!もしかしてプレーンヨーグルトなんてあったりしません?!」
シュタっと彩さんが手を挙げて聞く。
それに対してフロウちゃんはちょっと考え込んだ。
「えっと…無糖でよろしければ…」
「ぜんっぜんおっけぃですっ!」
と、彩さん。

はしゃぐ奈々さんと咲さん。
苦笑するヨイチ。映ちゃんはクスクス笑ってる。
なにが始まるんだ??

フロウちゃんが不思議そうな顔でヨーグルトを持ってくると、葉月さんがそれを取り上げてヨイチに押し付けた。

「姫様には席外して頂くから。
変な物見せたらそれこそお出入り禁止になるでしょ?」
にっこりと…なまじっか綺麗なだけに有無を言わせぬ迫力のある笑顔で断言して、
「じゃ、庭木に水でも…」
と、フロウちゃんと庭に消えて行く。
青ざめるヨイチ。

「じゃじゃ~ん!はいっ、小五郎君、シャツ汚したくなければ脱いで♪」
いきなり抵抗する間もなく押さえつけられてシャツのボタンをドンドン外されていく小五郎。

「相手どうする?相手。ヨイチ?執事様?」

……なんの…相手ですか?
恐怖で引きつった顔で硬直する小五郎。
お嬢さん達…目つきがもう違ってきてる。

「申し訳ない、俺姫様見て来ないと…」
ランス君がスルリと自分の腕をつかんでる奈々さんの手をすりぬけて逃げた。
「んじゃ、ヨイチでいっか~。絵的には執事様の方がいいんだけどね~」
ちょっと舌うちをしながらもそう宣言する彩さんに青くなるヨイチ。

「大丈夫、大丈夫!さすがに本当にやれとは言わないから」
本当にって……なにをやるんですか?

「はい、小五郎君はここに座って」
フローリングの床に引き倒される上半身裸の小五郎。
そして…おもむろにその口元から胸のあたりにぶちまけられるヨーグルト……

うああああ~~~~

…ごめん…直視できないよ…てか、そんな目で私を見るのやめてくれ…。
泣きそうな顔で私に救いを求めるような視線を送る小五郎に、思わず視線をそらして私も逃走。
成仏してくれ、小五郎。


とりあえず…逃げた先はランス君と同様、フロウちゃん達がいる庭。
フロウちゃんと葉月さんを二人にするなというコウの命令を遵守するため…という言い訳がたつ。
修羅場からは逃げられた…と思ってた私には実はこのあと別の修羅場が待っていた。


白い家の庭は結構広い。
綺麗な花々の咲き誇る花壇。
バラのアーチなんかもある。
どれもフロウちゃんとランス君が丹精込めて世話をしてる。
そんな花々の中に大きなパラソル。そしてその下に白い華奢なテーブル&チェア。
中の恐ろしい修羅場と対照的にそこでは優雅に談笑する美しい二人。

フロウちゃんがお姫様オーラ満載の究極美少女なのはもちろんなんだけど、葉月さんはスラリと背が高くて凛とした雰囲気の美人で…フロウちゃんと並ぶと宝塚の男役みたいにも見える。
本当に美しい一枚絵のような二人。

それを木陰からこっそり伺うランス君。
私に気付くと、ため息をついた。

「あれ…どうしよう…」
「どうしようって?」

別に二人きりに見えて実は私達いるから無問題と思ってると、ランス君はぽつりと…
「俺さ…実は昔さ唇読む訓練とかしててさ…」
え~っと……
「何かやばい会話が?」
「聞きたい?」
と聞いて来るランス君に”聞きたくない”と即答したいとこだったんだけど、そういうわけにも行かず…
「何?」
と聞いてみるとランス君は真面目に青ざめた顔で爆弾発言。

「彼女…たぶんそっちの趣味なんだと思う…
姫様が自分の姫だったら良かったのにとか話してた…」

うっああ~~~~~!!!
ちょ、それコウ達が心配してたのと別の意味でやばいって!!

「それに対してフロウちゃんはなんて?」
「唇ってこっちむいてないと読めないからさ…。
かろうじて読めたのが葉月のその一言だったんだ」

マジぽしゃるって、そんな事コウにバレたら……

「それ…ランス君の読み間違いとかじゃなくて?
今フロウちゃん普通に引いてる様子もなく話してるみたいだし、そんな事言われたら普通引くでしょ」

もう、真面目に間違いだと信じたい一心で言うと、ランス君はやっぱり青ざめたまま…

「姫様ってさ…女子校育ちじゃなかったっけ……」
と不吉な発言……
なんというか…図的には中の惨状よりは良いんだけど、物理的には中より深刻……。

「と…とりあえず…引きはがさないとね…。
とりあえずランス君は中を止めてきて。私フロウちゃんに声かけるから」
言ってランス君が戻って行くのを確認してしばらく待ち、私は二人の方に歩を進めた。


「ね、二人とも、そろそろ中も落ち着いたみたいだし、戻ってお茶にしよう?」

普通に…言えたかな。

内心ドキドキの私を葉月さんはキツい目で見てるけど、フロウちゃんが
「そうですね~。じゃ、戻りましょうか」
とにこやかに言うと、それに従う。
ひとまずホッとした。

ゆっくり中に戻ると、とりあえず惨状はなんとかなってたらしい。
茫然自失といった感じで放心してる小五郎は放置で、他ヨイチ、映ちゃん、咲さん、奈々さんが談笑してる。

「彩さんとランス君は?」
と聞くと、
「ん~、彩がさ、ちょっと離れた店でどうしても今回の作業に使う欲しい物あるっていうんで、ランス君に車だしてもらって買いに行ってる」
と、映ちゃんが答え、さらにヨイチが
「とりあえずね、デザインできてるらしいから、葉月にあとよろしくって」
と、ノートPCを指差した。

「おっけー。んじゃ始めますか」
葉月さんは淡々とPCに向かう。
とりあえず一安心か。

「じゃ、私はお茶いれなおしますね♪」
フロウちゃんがキッチンへ向かう。
その後ろ姿に映ちゃんが
「あ~、さっき彩がなんかそっちでやってたから、キッチン惨状になってたらごめん」
と声をかけると、淡々とマウスを動かしていた葉月さんの手がピタっと止まった。

「彩一人で?…何してたって?」
「ん~わかんない。掃除道具でも探してた?」
映ちゃんは言って自分も作画に戻ったが、葉月さんがはじかれたように立ち上がった。
「姫様!キッチン入るの待って下さいっ!!」
言って自分の上着を脱ぎつつすごい勢いでキッチンに向かって走っていく。

ガラガラガッシャ~~ン!!!!
キッチンの方からすごい音がした。

「どうしたのっ?!!」
全員が一斉にキッチンにかけつける。

悲鳴を上げる咲さんと奈々さん。
「ヨイチっ!救急車っ!!」
映ちゃんは青くなってそれでも指示をする。
目の前では倒れかけた食器棚。

「早く…姫様を安全な場所に…」
フロウちゃんをかばうようにそれを体で支えてる葉月さんが言うのに、私はようやく我に返って、頭から葉月さんの上着をかけられて保護されてるフロウちゃんをそこから引きずり出した。

「姫様…無事?怪我ない?」
フロウちゃんは気を失ってるだけで無傷…だけど…他人の心配してる場合じゃないよ、葉月さん。ガラスの破片がつきささって自分が血だらけだ。

「咲、奈々、小五郎君っ!食器棚起こすの手伝って!」
映ちゃんがまた指示。
皆がはじかれたように動きだし、映ちゃんと共に食器棚を起こす。

「アオイ…ランスに…連絡…。彩…確保…」
4人掛かりでようやく起こした食器棚の下から救出されるなり、葉月さんはひどい出血のせいか肩で息をしながら言った。

「え?」
「早く連絡っ!」
聞き返したら怒鳴られて、私はあわてて携帯を取りにいく。

『もしもし?どうしたん?』
『あ、ランス君…えっとね…』
私が話しかけると葉月さんが血だらけの手で私の携帯を奪い取った。

『今彩そばにいる?いたら殴り倒してでも確保っ!』
うあ…なんかすごい事言ってるよ…。
『分かれたのどのくらい前?5分?…一応探して…もうみつからないかもだけど』
葉月さんは言いつつ、食器棚の周りをうろついてる小五郎に
「そこっ!いじるなっ!現場確保は基本だっ!」
と、どなりつけた。
びくん!と硬直する小五郎。

「アオイは三銃士に連絡。ランスいない間姫様の護衛させて」
「らじゃっ!」
私はあわてて突き出される血だらけの携帯を受け取って会社に電話をかけた。
ユキ君が出てすぐ戻ると即答。
そうこうしてる間に救急車来たけど、葉月さんは乗るの拒否った。

「三銃士の誰か来るまでは待つ。このメンバーじゃ何かあった時に姫様守れないから」
いや、そうかもだけど…。
あなたすごい出血…下手すれば死ぬよ?と、たぶん私だけじゃなくてみんな思ってる。
さらに数分後、コウ達到着。

「姫はっ?!!」
リビングに入ってくるなり顔面蒼白なコウにソファに寝かせてるフロウちゃんを指差す映ちゃん。
「フロウちゃんは無傷」
と言うと、ようやく救急車に乗る葉月さんにつきそう。

コウはフロウちゃんにかけよるとぎゅっと抱きしめて大きく息をつき、カイ君はキッチンの様子を見にいった。
ユキ君はヨイチに詳しい事情をきいている。

なんだかなにがどうなってるやら…。
咲さんも奈々さんも呆然としてる。
もちろん私もだ。
小五郎は現場を調べてるカイ君の周りをうろついて怒られた。

「コウ…わかんないけどやばかったのは多分彩ってデザイナーの方っぽい」
ユキ君が事情を聞き終わってフロウちゃんを抱きしめるコウに声をかける。
「葉月は?」
コウはフロウちゃんの無事を確認して少し落ち着いて、それでもフロウちゃんを抱え込んだままコウが聞き返すと
「わかんね。でもとりあえず姫様の事は助けてくれたっぽ。
何か事情ありそうだけど…。本人にきくべ」
と、ユキ君は軽く肩をすくめて首を横に振った。

そんな事を話してるうちフロウちゃんがパチリと目を開ける。
きょとんとした目で自分を抱きしめてるコウを見上げ、次にあたりを見回した。

「え~っと…」
考え込むフロウちゃん。
「どこも…痛いところないか?」
と聞くコウにうんうんとうなづく。
それにホッとするコウとユキ君。
当のフロウちゃんはさらにキョロキョロ辺りを見回した。

「えっと…葉月さんは?」
その言葉に顔を見合わせるコウとユキ君。結局コウが口を開く。
「あ~…ちょっと怪我して…病院」
「ひどいんです?」
ちょっと目が潤むフロウちゃんにユキ君はオタオタ。
コウもちょっと動揺してるっぽ。
それでも少し息をついて
「まあ…どちらにしても俺は礼言いにいくから…姫もついてくるか。
あわせられるとは限らんが」
その言葉にフロウちゃんは涙目のままウンウンとうなづく。

結局あとの事をカイ君とヨイチに任せて、コウとユキ君、それにフロウちゃんと私はユキ君運転の車に乗り込んだ。







2 件のコメント :

  1. 小五郎君が時々小次郎君になってるのでご確認お願いします。🙏

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😄

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