オンライン殺人事件再来っ05

新人X君


翌朝…気がつけばベッドの中。
絨毯の上で寝ちゃった気がしたんだけど、ユートが運んでくれたのか。
当然部屋の主はとっくに出社してて、テーブルの上には鍵とメモ。

『おはよう。俺仕事なんで鍵おいとくね~。ま、別にかけんでもいいんだけど念のため。
今日は俺遅いけど襲ってもいいなら部屋で待っててもいいよーw』

なんていうか…ユートらしいな。
私はちょっと吹き出して、服を拾って着ると自室に戻ってシャワーを浴びた。

「おはよう、アオイ」
下に降りて行くとランス君が立ち上がって食事の用意をしてくれる。
「フロウちゃんは?」
と聞くと、キッチンをさした。

「今日はほら、来客あるから姫様クッキーやいてる」
ランス君の言葉に少しキッチンに顔を向ければ、なるほど良い匂いが漂ってくる。

「10時くらいに来る予定だからあと1時間くらいかな。
ま、アオイがゆっくり朝食べて片付け終わる頃に来る予定」

あ~そいえば新人X君て…姿見かけてからは長いのに実はちゃんと話すの始めてだったよな~。
コウやユキ君なんかは社長室うろついてるから、結構しゃべってるみたいだね。
新人Xの○○日記シリーズは結構面白いから読んでるから、なんとなくこっちは初対面て感じはしないんだけどね~。

食事が終わるとランス君は手早く片付け、フロウちゃんはすでにお茶の準備をしている。
「何か手伝う?」
と一応声かけたんだけど、二人ともちょっと苦笑。
「とりあえず…椅子に座ってて」

はい…邪魔ですね…。

そうこうしてるうちにチャイムがなった。

「あ、私出るね~」
言って私は立ち上がった。
そのまま門のロックを解き、玄関の鍵を開けに行く。

「おお~~アオイさんだ~~初めまして!新人Xっす」
カメラ小僧が立っている。

「いらっしゃい。初めまして。どうぞ~」
私がうながすと、おじゃましま~すと入ってくる。

一人だ。

「X君て…私の事も知ってたんだ?」

まあ昨日のイベントでネット上では会ってるけど…他にもいっぱいいたし…。
私の言葉にX君は人懐っこい笑顔で答えた。

「当たり前っすよ。社長様の最初のお仲間の一人っすから。
姫様ほどじゃないにしても有名人ですよ?アオイさんも」

へ?そうなん??

「しかも…なんだかキャラそっくりっすね!社長様もユートさんもでしたけど…。
もしかして姫様もホンキであの美少女キャラそのままだったりっすか?」
「あ~、フロウちゃんはあのキャラ超えた美少女だよ」
「うっあ~、そりゃ楽しみっす!」

「それはそうと…あれから2年たつのにいまだ新人Xなの?」
「あ~、なんか有名になりすぎちゃいまして…
うち入ってくる新人とかにさえ”新人Xさん”なんつって呼ばれるんすよっ。
新人が新人言うなとっ」
「あははっ」

旧知の仲のように話しながらリビングに辿り着きドアを開けると、

「いらっしゃいませ。当館の執事でございます」
と、なんときっちりスーツ着こなしたランス君がお辞儀をする。

ぽっか~んと惚ける私とX君。
「は…はまりすぎっ!!」
次の瞬間私はぷ~っと吹き出すが、ランス君はすまして立っている。


「ランスさん、お客様にかけて頂いて下さいな」
キッチンの奥からお茶のワゴンを押してフロウちゃんが出てきた。

「あ、奥様、私が致します」
慌ててかけよってフロウちゃんとチェンジするランス君。

フロウちゃんはそれに
「ありがとう」
とそれはそれは麗しい笑顔でお礼を言うと、今度はその笑顔を私とX君の方に向けた。

「いらっしゃいませ。どうぞおかけ下さい」
と、またそれはそれは優雅な仕草でうながされ、X君は硬直する。

私が座ってもまだカチンコチンで直立不動のX君に
「…Xさん?」
と、フロウちゃんは不思議そうな目を向けて少し首をかしげた。

「は…初めまして!!新人Xっす!このたびはおねまき…おね…おまねき頂いて…」
「X君…噛んでるっ」
カッチンコチンのX君に吹き出す私。

「良いからすわって」
笑いながら彼の上着を引っ張ってソファに座らせた。

「す、すいません、アオイさんっ!」
X君はようやく我に返った様子でそれでも緊張した面持ちでソファにかしこまる。

「ごきげんよう♪初めまして。碓井優波です」
相変わらず本気で可愛い声のフロウちゃん。

今更だけど名字変わったんだよな~。奥様になっても相変わらずホワホワしたお姫様オーラ出してるけど。

「X君…大丈夫?」
本気で手に汗かいて硬直してるX君に声をかけると、X君はぶんぶんと首を横に振った。

「ま、気楽にしていいよ。気楽に」
それでも硬直してるX君。
私はしかたなしにランス君にリクエストした。

「ランス君。とりあえずティーとかじゃなくてさ、コーラとかあげてよ、コーラ。
間違っても花とか浮かべないでね。
普通のコップに普通のコーラね。私とX君の分よろっ」

「かしこまりました」
ランス君は言ってキッチンに戻り、普通のグラスにコーラを入れて私とX君の前にどうぞ、と置く。

「さんきゅ~♪」
言って私は
「ま、とりあえずこれでも飲んで落ち着いてっ」
とX君にすすめてあげた。

「は、はいっ!ありがとうございます!」
X君は一気にそれを飲み干してむせる。
あ~あ…。こりゃだめだ。


「あ~、ねえフロウちゃん、X君めちゃ緊張してるぽだから落ち着くまでバイオリンでも弾いてあげて?」

たぶん…緊張の原因であろうお姫様をとりあえず彼の正面からさりげに遠ざけようと言うと、フロウちゃんはにっこりうなづき、ランス君に目で合図を送る。

「お待ち下さい」
と、ランス君は一礼。
おそらくフロウちゃんのバイオリンを取りに離席。

「バイオリン…弾かれるんですか?」
ようやく動き出すX君にフロウちゃんはにっこり。

「コウさんがいる時はコウさんのピアノと一緒にあわせたりもするんですよ。
今日はいないので…ランスさんに弾いて頂きましょうか」
言って戻ってきたランス君からバイオリンを受け取った。
ランス君も当たり前にピアノの前に座って蓋をひらく。


「というわけで…X君、落ち着いた?」

二人が素晴らしく美しいメロディーを奏で始めると、私は横でポカ~ンとしてるX君に声をかけた。
そこでようやく我に返ったらしいX君。

「俺…こんな可愛らしい人初めて見ました」
と、視線はフロウちゃんに釘付け。
まあ…よくあることだ。

「ほんっきで雲の上のお人っていうか…現実の人じゃないみたいです。
お姫様なんですね…」

「うん。オーラだしてるよねっ。
実家もさ、すごいお家だし、名門ミッション系お嬢様学校育ちだし、私らとは生まれやお育ちからして違うから。
4年前の三葉商事のゲームがなければ絶対に知り合う事なかったね」

「あ~、それ!その話聞いていいっすか?
噂が噂呼んでるんすけど、結局社長様もユートさんも詳しくお話して頂く時間なかったんで。
ぜひお聞きしたいっす」

まあ…もう4年前の事だしねぇ…。
いっか~と思って私はディスクが送られてきた日からの事をずっと話してあげた。

途中フロウちゃんがお茶を入れにきてくれたりして、随分長い時間かけて最後に交通費を残さずお金全部お賽銭にいれちゃってコウに怒られたところまでしっかり話すと、時に笑いながら時に真剣な顔でひたすら聞いていたX君が大きく息を吐き出して言う。

「なんだか…すごい話っすね。つか噂ホントだったんすね、殺人犯素手でって」
「あ~、うん。あれはマジ格好良かったよ。
本気でアクション映画の1シーンみたいだったっ」

「あ~わかるっす!俺も初めて社長様拝見した時、あまりの格好良さに感動しましたもん!
んで、三銃士の皆さんから、そのメチャカッコいい社長様が実はフロウレンス姫にベタ惚れで自宅に大事に大事にしまい込んでいらっしゃるって日々聞いてたんで、姫様にお会いできるのめちゃ楽しみにしてたんですよ。
社長様やユートさんがあれだから、姫様もあの美少女キャラそのままなんだろうな~っとか思ってたんすけど…マジ超えてますよねっ!そこにいらっしゃるだけで空気変わります!」

「うん…それよく言われるね~。
フロウちゃんはね~、外見だけじゃなくて中身もやんごとないから。
幸せと夢のいっぱい詰まったビックリ箱みたいな子だよ。
すごい最悪な状態でも一人で夢と幸せばらまいてる。
だから…あの最悪な状態の三葉商事引き継いで立て直す決心ついたんだよ、コウも」

「幸せと夢のいっぱい詰まったビックリ箱ですかぁ…すごい的得た例えですよね。
なんかさっきのお話聞いてる時も思ったんですけど、アオイさんて話上手いですよねぇ。
すごくわかりやすくて…なんかその時の状況が目に浮かぶようっす」

へ?

「文…とかは書かないんすか?商業的な物じゃなくてもブログとか…」
「ぜんっぜん」
「あ、そか…。社長様の周りの方々は皆忙しいんですよね」

いや…忙しくはないんだけど…さ。

「いや、私は忙しいわけじゃないんだけど…」
話上手いなんて初めて言われたよ…。

「え~、じゃ、うちの公式に記事書いてもらえたりしません?
イルヴィス王国王様側近が語るレジェンド・オブ・イルヴィス、プロト秘話みたいな感じで。
ぶっちゃけ…うちのゲームって半分は公式の盛り上がりで持ってるとこあるんで、社長様だけじゃなくて側近の三銃士の皆さんとかもそのための顔っつ~か商品キャラクターみたいなとこあるんすよ。
今一番古参で有名なアキラさんとこの”コウ君追いかけ隊”とかの他にも三銃士の皆さんのファンギルドとかもあって、ゲーム内だけじゃなくて、アオイさんもご存知の通りマイルームからもかける公式から覗けるブログとかHPでも盛り上がりを見せてますし。
元々ゲーム部門て今回のネットゲームのために作られててまだ新しいっちゃ新しいんですけど、おかげさまで順調に評判伸ばしてるんで、最終的にオフゲーなんかにも手を出せたらいいな~、そのためには我が社独自のキャラとして社長様のキャラの”コウ”や三銃士の方々のゲーム内キャラとかも使いたいな~とか色々話でてんですよ。
だからそういう意味での知名度あげる宣伝もかねて色々な試みを試したいなと試行錯誤中なんです。
実はすでに主任になってる俺がいまだ”新人X”として記事書いてるのも、その一貫みたいなとこもあって…」

「へ~、面白そうだね~」
「でしょでしょ?どうです?やってもらえます?」

なんか…ちょっとワクワクしてきた。

「とりあえずフロウちゃんはダメって言わないと思うから、コウとユートに相談してみるね。一応当事者だからさ」
「はいっ!ありがとうございますっ!」

そうこうしてるうちX君もだいぶ慣れて落ち着いてきたみたいなんでフロウちゃんとランス君も席へ。
そしてしばらく自宅でのコウやフロウちゃん自身のこと、ランス君や私、ユキ君やユートやカイ君の事を聞いてX君は帰って行った。

X君が帰った後、私は一応フロウちゃんにさっきX君に公式に4年前の出来事の記事を書かないかと言われてる事を告げると、やっぱり気持ちよく了承してくれただけでなく
「じゃあコウさんには私から伝えておきますね」
とまで言ってくれる。

「やったね、あとはじゃあユートだけだ♪コウはフロウちゃんの言葉には絶対だもんね」
浮かれて言う私にフロウちゃんは苦い笑いを浮かべた。

「そんな事ないですよ。
私は提案はしますけど…最終的な決定権は全てコウさんにありますし」

なんだか…このお姫様は……

「コウは…丁度その真逆な事を言ってたんだけど…
んでもって、私もコウが正しいと思ってたり」

一応告げる私の言葉に、フロウちゃんは真顔で言う。

「別れ話だしたのも取り消したのも…結婚決めたのもコウさんですし。
いつか離婚なんて事があってもそれ決めるのは絶対にコウさんです。
私個人の決定権は私にあっても、二人の事に対しての決定権はやっぱりコウさんですよ」

おいおい…新婚のうちから離婚て……

「社長様から離婚はないっすよ。
マジ姫様行方不明になった時、社長様心労で倒れたくらいっすから」

同じく一緒にそれを聞いてたランス君が苦笑しながら紅茶を注ぎ足した。
私もそれに苦笑するが、フロウちゃんは相変わらず真顔。

「まあ…記事を書く件については反対はしないと思いますけどね」
と、それでも次の瞬間少し微笑んで言った。

……?

「ユートさんも…たぶん駄目とは言わないでしょうし言ってもコウさんが動いてくれると思いますので…具体的に動いても大丈夫だと思いますよ。
今回の事は…アオイちゃんにとって大きな転機になります。
仕事運は大きく上昇、旧友を尋ねると吉、ただし同時に内外にトラブル発生。
外に向けてのトラブルは…普通に動いてても最終的には解決。
内についてはアオイちゃん次第です」

うあ…また随分と具体的なお告げを…。
だんだん占い師じみてきたよ、フロウちゃん。
なんか降りてきてんのかな、真面目に…。
隣でランス君もぽか~んとしてる。

そんな私達に構わず、フロウちゃんは
「私も…ちゃんと仕上げにかからないとですね…」
と意味深な言葉を残して、キッチンへと消えて行った。

結局…その日の夜話をすると、コウは普通に賛成してくれて、ユートも渋々認めてくれた。
フロウちゃんのお告げの効果は絶大だ。

ユキ君まで”姫様のお告げなら”と前向きに協力を申し出てくれて
「どうせならさ、仕事につなげるステップにできるくらいに持って行こう。
とりあえず先行してる新人Xとの差別化も考えて行った方がいいし、そうだな…絵付けるか。
今の時点でプロに依頼とかもちょっとあれだし、旧友が吉なら映にでも連絡取ったら?
2年も大規模ギルド率いてて、HPでギルド宣伝とかもしてて慣れてるしさ、知り合いに絵とか描ける人材も多そうだし。
一応4年前の時も渦中とまではいかなくても参加してたなら少しは相談できるでしょ」
なんて具体的なアドバイスまでくれる。

おお~なるほど。
さすがユキ君。
とりあえず…X君には許可取れた旨を伝えて、決行が決まった時点で私は映ちゃんの連絡を取る事にした。




「おお~~~!アオイっち快挙だっ!もっちろん参戦させてもらうよっ♪」

事情を話すと相変わらずハイテンションな映ちゃんはすごく乗り気みたいで、

「さっそく打ち合わせしたいよねっ。善は急げだっ!
とりあえずヨイチともう二人ほど一緒でいいかな?
アオイっちの都合が付く時間と場所でいいけど、決めちゃって。
私らは別に明日でもいいんだけど…」
と勢い込んで言う。

「あ、時間は私も今は暇だから…、場所どうしようかなぁ…」
リビングのソファにふんぞり返りながら考えてると、
「場所…ここじゃ駄目なんです?」
と、上から声が振ってきた。

「ここ?いいの?」
一応…居候の分際なんで家主様にお伺いをたてると、
「皆さんがよろしければ」
と、女神様の声が振ってきた。

「映ちゃん、うちじゃだめ?」
絶対者の許可が出たんで映ちゃんに提案すると、おお~と映ちゃんが歓声をあげる。

「いいん?いいん?!!やったねっ!!噂の白い家か~!!
私らの間では行って見たい場所No.1なんだよ~」

「んじゃ、明日1時くらいって無理?」
「ぜんぜんおっけ~!どんな用事あってもキャンセルしちゃうよっ!」

相変わらずだ…映ちゃん。

「ヨイチも連れてくねっ」
ということで大乗り気の映ちゃんとの交渉終わり。
明日から新生アオイの誕生!……だといいな。






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