オンライン殺人事件再来っ04

結婚記念旅行


そしてその日のちょっと早めの夕食はやっぱりランス君の手作り&給仕。
普段はフロウちゃんもやるらしいけど、今日は色々お疲れらしくランス君におまかせ。
食事後のお茶を飲んでる所に続々と会社組が帰ってきた。


まず最初はユート。

チラリともの言いたげにランス君に視線をやるが、フロウちゃんが
「おかえりなさい♪」
とにこやかに言うと
「ただいま~」
と苦笑した。

「おかえり、ユート。お疲れ」
続いて私が言って鞄を持とうとすると、
「ただいま。大丈夫、すぐ着替えてくるから待ってて」
と上に着替えに行く。

「そろそろPCの用意お願いしますね~♪」
ユートが帰ってきたのを合図にフロウちゃんがランス君に言うと
「ウイ、姫様」
と、ランス君は手早くテーブルを片付けてPCルームに消えて行った。

次に戻ったのはまだ不機嫌さをにじませたユキ君。

「ただいま」
とそれでも言いつつリビングに入ってくると一瞬キツい目で私を見たけど、フロウちゃんが
「おかえりなさい。お疲れさま」
とにこやかに迎えると、急にシュンと肩を落とした。

「姫様…ごめんね、俺の力が足りなくて…」
本気で滅入ってるユキ君に、フロウちゃんがにっこり
「今日ね、皆さんに早く帰ってきてもらえるようにお願いしたの私なんです♪
どうしてもみんなでやりたい事があって…協力して下さいね♪」
と微笑みかけると、ユキ君はちょっとホッとしたように
「うん、俺にできる事ならなんでも♪ちょっと着替えてくるから待っててね」
と、ユートと同じく2階に消えた。

そして最後にカイ君を伴ったコウが帰ってくる。
「ただいま、姫」

もう私なんて目に入ってないね。
一直線にフロウちゃんに歩みよってハグ~。

「おかえりなさい。急いで着替えてきて下さいね♪」
というフロウちゃんの言葉に名残惜しそうに体を離して
「すぐ着替えてくる」
と、軽く口づけてやっぱり2階へと消えて行った。


そうこうしてるうち大量のノートPCを抱えて戻ってくるランス君。
フロウちゃんは飲み物を用意しにキッチンへと消える。

先に降りてきたユートと共にPC設置を手伝う私。
ユキ君が降りてきた時点で、ランス君とフロウちゃんがチェンジ。
…したのは良いけど、ことPCとなると…見事なまでに役にたたないフロウちゃん。

まあ…色々な意味で人間関係の潤滑油だから、それでもいる意味はあるんだけどね。
フロウちゃんなしで今ユキ君となんて絶対にいられない。
ランス君とユートの間の空気も微妙だしね。

「ねえ姫様、早く帰って協力ってまさかネトゲ?」
ユキ君も設置を手伝いながら不思議そうに聞く。
「えと…ね、ちょっと権力の私的流用しちゃいましたっ♪詳しい説明は全員揃ってから♪」
ニッコリと可愛らしい笑顔でそれに答えるフロウちゃん。

「お~、やってるな」
そのうちコウが降りてくる。カイ君も一緒だ。
「コウ、何の騒ぎさ?これ」
ユートも不思議そうに聞く。

「ま、公式見てみろ」

は?

飲み物を用意してるランス君以外、全員リビングのソファや絨毯の上に落ち着いて、設置が終わったPCで公式につなげる。


☆☆ 社長様ご成婚特殊イベント ☆☆

イルヴィス国民の皆様こんにちはっ。
またまたゲリライベントだっ!

このたび我らイルヴィス国民の王様コウ社長がめでたく癒しの姫様ことフロウレンス姫とご結婚なさいましたっ。
そこでなんとお供の従者君達と共にイルヴィス王国中を空飛ぶ絨毯で新婚旅行に旅立たれます。
そして空の上から花嫁のブーケを配られます!
このブーケ、もちろん記念に取っておいてもよし、使えば24時間経験値50%アップ!

さらに…使用済みのものでもこれから1週間これをお城のフローラ姫の間に持って行けば姫様からエンジェルウィングのレプリカ、形は同じだが銀色のバードウィングと交換してもらえます!
☆☆☆☆☆☆


おお~~~
すごい面白い!

「ゲーム内で新婚旅行とは考えたね」
ユートがクスクス笑うと、
「まあ…軽い宣伝にもなるしな」
とカイ君。

そんな中で一人浮かない顔のユキ君にフロウちゃんが声をかけた。

「ユキさん…黙って会社の人員私的に使っちゃったの怒ってます?もしかして」
フロウちゃんの言葉にユキ君はフルフル首を横に振る。

「そうじゃなくて…ごめんね、姫様。
ホントに旅行に行かせてあげる事もできないのに、仕事のネタみたいにゲーム内で旅行って……」

言ってズ~ンとさらに沈み込むユキ君の肩をポンポンと軽く叩くフロウちゃん。

「えっとね、ちょっと違います。
昔ね、最初のゲームが終わった後、コウさんやアオイちゃんやユートさん、映ちゃん、ヨイチさん、み~んなで私の実家の別荘行ったんですけど、すご~く楽しくて、それでね、ホントはね、家族みんなで旅行行きたかったの。
どうせ旅行行くなら二人きりよりみんなで行った方が楽しいでしょう?
でも今はまだ全員で仕事お休みするのは無理だから…これはその代わり♪
いつか全員でお休み取れる様になったら、絶対家族全員で旅行行きましょう♪」

「家族…全員…で?……家族旅行?」
うつむいてたユキ君が少し顔を上げて言うのに
「うんうん♪」
とフロウちゃんが楽しげに微笑んだ。

「…そっか。そうだよなっ…。
そのために俺また死ぬ気で働くからっ。絶対行こうなっ」
ユキ君泣き笑い。
ホント…泣き虫なんだ…。

他の人がこんな状況でそれ言っても嘘くさいんだけど、たぶん…フロウちゃんは本気でそれ楽しんでるから楽しく温かい気持ちが伝わるんだろうなぁ…。

インすると運営を代表してX君が出迎えてくれた。
あのカメラ小僧の容姿のキャラでちょっと笑う。

「今回は無理言って悪かったな。開発大変だっただろ」
コウが言うと、
「いえいえ!もう大盛り上がりです!
3日前から公式で告知してたんですけど、今日アクセス数すごい伸びてますよっ。
なんといつもの3倍!
開発自体はまあ不定期ではありますけどちょくちょくイベントやってるんで、その一環くらいな感じでそんなに特別大変でもなかったみたいですけど、反響がすごい分マジやりがいあります!
もともとこのゲームのユーザー数がここまで伸びたのって社長とその周りの方々の影響っすからっ!」
と、ほんっとに興奮した様子でX君が拳を握る。

「ということで…リポーターとして大変恐縮なんですが、俺も端っこに乗せて頂く事になりましたので、みなさんよろしくお願いしますっ」

一般ユーザが入れないお城の屋上に飛ばされると、そこにはまあ実に大きな空飛ぶ絨毯。
一応落ちないように手すりつき。
あれないとフロウちゃんとか絶対にお約束のように落ちるよね。
中央にはブーケがたくさん積んだ籠。
X君いわくそこからは取っても取っても無限にブーケが湧き出るらしい。

私達全員が乗り込むとゆっくり動き出す絨毯。歓声をあげる一同。
それと同時にお城に花火があがった。

「すっご~い、空の上から街みたのなんて初めてだよ♪」
思わず言う私にフロウちゃんは
「ランスさんの竜さんに乗ってならありますけど、やっぱりみんな一緒の方が楽しいですね~(^-^)」
と微笑む。

あ、そっか。ドラゴンウォーリアの連れてる竜って人乗せて飛行できるんだよね。
もともとそれが理由でネット内でのフロウちゃんの護衛をまかされて、そのままリアルも~だったんだけど、あんなにそれが様になる人間になろうとは…偶然とはおそろしや。

「これがさ…例の夢みたいな状況でだったらすごく面白かったかもね」
ユートも珍しく機嫌良く思い出し笑いをした。

「例の…夢、ですか?」
それを聞き留めてX君が聞くのに、ユートは
「言って良い?」
と私達3人の顔を見合わす。
もちろん別に隠す事でもないのでうなづくと、ユートは話し始めた。

「最初のかの有名な殺人おこったネトゲが終わって4ヶ月くらいかな、俺ら姫ん家にみんなで集まったんだけど、その時さ、同じ夢みてるんよ。夢共有したっていうのかな。
4人してそれぞれこのゲームやってた時のキャラになって実際にこのゲーム内にいる夢。
夢のくせにさ、生意気に歩くと疲れるんよw」

懐かしいなぁ…あれきっかけにつき合い始めたんだよね、ユートと。

「それすごいですねっ!明日インタビューの時にお話聞かせて下さいっ!」
X君は勢い込み、
「いいな~~俺もその時いたかったな~」
とユキ君はうらやましがる。


(あれがきっかけでさ…つき合い始めたんだよな、俺達)

いきなりwisがきた。
リアルで吹き出す私にみんなが不思議そうな目をむける。

「あ、なんでもない、ごめん。思い出し笑いだからきにしないで」
と、あわてて言うと、みんな視線をPCに戻す……ユート以外は。

(いまさ、私も同じ事思ってたから。思わず吹き出しちゃったよ)
wisを返してチラリと隣のユートを見上げると、ユートも小さく笑う。

ユートの笑顔見るの久々な気がする…。

(どうした?アオイ)
私を見て私を気遣う言葉をかけてくれるのも……

「あ~、ユート、お前何アオイ泣かしてるわけ?」

ランス君の声でふと我に返る。
うあ…無意識に泣いてたらしい。
あわてて来てハンカチを差し出してくれるランス君の手をピシっとはたくと、ユートが自分のハンカチで涙をふいてくれた。

「ごめ…別にユートのせいじゃなくて…」
ちょっと気まずくなりかける空気に私は慌てて手を横に振った。

「ただなんだかこうしてユートが側にいてくれるのすごい久々だなぁって思ったら…」
「………」

え???
一同大きなため息。

「お前な…」
ユキ君がその中でもひときわわざとらしく大きなため息をついて呆れたように言う。

「もう誰の結婚イベントだかわかりゃしない。
何やっててもお前の頭ん中ユートしかないのか。…ったく」
その言葉はみんなの心の声だったらしく、一同苦笑い。

うああ~~~。
だってさ、ホントに本気で久々だったんだもん、こんな風にユートが声かけてくれたの。

(ごめん。最近俺アオイの事放置しすぎてた)
そんな中ですました顔でPCに向かってたユートがwisを送ってきた。

(まあ…でもアオイって…なんでそんなにも俺の萌えポイントついちゃうかねぇ)
そしてため息。

へ?

(俺もコウじゃないけどちょっと閉じ込めておきたくなった…ランスとかちょっかいかけてくるし…)

ええ??

(ランス君はそんなんじゃないよ?単に…フロウちゃんの護衛ない時は暇だから…)
(暇なら一人で好きな事すればいいの。
…ったく…アオイも自覚なさすぎ。可愛いんだからさ、ちょっとは気をつけなさい)

………ユートだけだって…私の事可愛いなんて言うのは……。
どう答えていいやらわからず無言でうつむく私。
たぶん…顔真っ赤だ。

私達が裏でそんなwisのやりとりを交わしてる間に絨毯はみんなが投げるブーケを振りまきながら街中を進み、門から外に向かう。
街の外にも人人人。
みんなが必死にブーケ拾ってる。

おめでと~の声に手を振るコウとフロウちゃん。

「すみませんっ!真面目に両思いになりたい人いるんで、花嫁の姫様の手からブーケ欲しいです!(>_<)ノ」
なんて女の子もいて、フロウちゃんがそちらにブーケを投げたりとかして、それを機に投げる人ご指名の声があちこちからあがった。

まあ…元々社長就任前からこのゲームで遊んでてイベントで優勝したりしてるから有名人だし、今でもたまに降臨したりするから皆コウやユキ君なんかは友達感覚らしくて、なかなか盛り上がってる。
いまだにしょっちゅう遊んでるフロウちゃんも言わずもがなだ。

街から絨毯は最初のミッションの兵隊さんのいる山へ。
外にも溢れてた人達もこの辺までくるとだいぶまばら。
でもその分ブーケを拾いやすいと踏んだのか、それでも待ち構えてる人はいる。

山を登ると懐かしいミッション4の門。
そのまま山の頂上を超えるとキノコの森。
綺麗な泉も見える。
雪原や滝に海!
ほんっきで来た事もない場所までくまなく回ってくれる絨毯。

「温泉!あれ温泉ですね~♪」
フロウちゃんが湯気の立つ泉のような物をみつけて指差す。

それにX君がうなづいた。

「はい。秘湯です。入ればHP全快状態異常全回復しますよ」

「おお~本当に効能あるのか~、今度来よう」
唯一…ここまで来る手段のあるランス君が言う。

「みんなで…リアルで行きたいな」
ユキ君がちょっと目を細めてつぶやくのに、フロウちゃんがうんうんとうなづいた。

「大丈夫っ!ユキさん達がこれだけ頑張ってるんですもん。
近いうちに温泉旅行くらい行ける時間は取れるようになります」

その言葉にユキ君が嬉しそうに微笑む。
なんのかんの言って…浮上して機嫌が戻ったらしい。

本当に…なんだか楽しい。
みんな一緒で…昔みたいに…。

(アオイ…明日から姫お預かりだって?)
ブーケを拾う人の姿もいい加減途切れたので景色にみとれてると、またユートからwisがきた。

(会社で働くの諦めた?)

コウから…きいたのか。
どう答えていいか悩んでると、それを肯定と受け取ったのか、ユートがさらにwisを送ってきた。

(アオイさ…2年前の話覚えてる?)

(2年…前?)
色々ありすぎて何をさしてるのかわからない。

(うん。コウがさ、バイトしてるとか話聞いて部屋戻ってさ…将来ってもう考えないとなのかな?って話したの)
(あ~、あれね)

確か不景気だから就職も大変だね~なんて話したような…
その後…ユートは要領良いから大丈夫だと思うけど私はやばいって言ったら…女の子は永久就職あるから~みたいな事話したよね…
ユート自分甲斐性ないから共働きできないならパートくらいは頑張ってね~みたいに言って…将来一応考えてくれてるんだな~なんて嬉しかったな…。

(うん…あれ…)
ユートは言った後、一瞬の沈黙
(あれ…さ…取り消す)

へ?
取り消すって…何を?
クルクル混乱して考えがまとまらない。

…私が…結局何もできなかったから?…嫌に…なった?
私…フロウちゃんになれない…。
やっぱり泣けるし…。
そんなんだから嫌になられるんだろうけど…。

「ちょ、ちょっと待った!!なんでそこで泣くかな?!またなんかクルクルしてる??」
リアルでユートの慌てた声。

ヒックヒックしゃくりをあげる私の様子に慌てて立ち上がりかけるランス君を制してコウが
「とりあえず…もうあとは城戻るだけだし、アオイとユートは部屋帰っとけ」
とちょっと自キャラをカイ君に任せてユートに耳打ち。
神妙な顔でうなづくユート。

そして…コウが席に戻ると今度はユキ君がまたカイ君に任せて立ち上がると、ツカツカユートの所に。

そしてユートの襟首をつかむと、にっこり。
「このドアホ。放置した挙げ句泣かせるだけならさっさと別れてこいっ。
思いっきり迷惑っ。
アオイは仕方ないから俺が責任持って引き取ってやるから心配すんな」

え?ええ~~????
ユキ君何言ってんの?????

「いや、ドSのユキじゃ心配っしょ。
大丈夫っ!そうなったら俺が優しく癒してあげるからっ」
と、今度はランス君。

「ん~ドSのユキやドMのランスよりはまだ、変な性癖ないだけ俺がいっちゃんまともで良くない?
ちなみに…今彼女絶賛募集中っす」
と、カイ君は絶対にノリで言ってるんだと思うんだけど……

「お前ら~、ほんっきで大きなお世話だっ!アオイは俺んなの!ほっとけっ!」
ユートは言ってユキ君の手を振り払うと、私を引き寄せて
「行くよっ、アオイ!」
と、2階へと私をうながした。


そして久しぶりに入るユートの私室。

「もうほんっきで皆油断も隙もないっ」
適当に座ってて、と、部屋のミニ冷蔵庫を探るユート。

一条家と同様に…キッチン立ち入り禁止の男性陣の部屋だけにミニ冷蔵庫ついてるんだよね、白い家も。
一条家でお借りしてた部屋よりここはずっと広くて…一応仕事机と別に普通にテーブルと椅子くらいはおけるスペースあるんだけど、ユートは椅子より床に座るのが好きでミニテーブルだけ。
服とか荷物は備え付けのクローゼットの中なので、あとは大きなベッドと本棚くらい。
一応各部屋にユニットバスとトイレつき。
キッチンないことのぞけば普通の1ルームマンションみたいだ。
もちろん…全員の部屋の造りは一緒で各部屋鍵付き。

フロウちゃんは…コウ不在の時こっそりコウの部屋で寝てたって言ってたっけ…鍵…もらってたんだね。
私はほんっきで久々だよ、ユートの部屋入るの。
そこからしてすでに違う。

私がベッドの上に腰をかけてぼ~っとしてると、冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを出してテーブルを振り返ったユートは一言
「アオイ、そこだめ。テーブルのとこに座って」

……そっか…彼女じゃないってことは…やっぱりプライベートの場所に触れちゃだめってことなんだよね…。
私は小さく息をついて立ち上がると、テーブルの前にペタンと座った。

「アオイ…平気?顔色悪い。気分悪い?医者呼ぼうか?」
ユートが何故かすぐ目の前で心配そうな目で私の額に手をあてる。

「話…ちゃんとして」

気分…いいわけない。
ランス君やコウと話して、今までとは違う方向で自分の道をみつけようってようやく思えた前向きな気持ちがドロドロした泥沼の中に沈み込んで行く気分だ。
それでも…もう決定事項ならトドメさして欲しい。

「やっぱ話はあとで良いから医者呼ぼう」
ユートがいきなり立ち上がる。

なんていうか…コウが妙に空気読めるようになったと思ったら、今度はユートがお馬鹿さんになっちゃった?
別れ話でショック受けてる人間に医者なんか呼んでどうすんのよっ!

「お医者さん呼んだって治るわけないでしょ…」
「へ?」
ユートが私を振り向いたまま硬直した。

硬直後30秒経過……

「だめじゃん!アオイちゃんと医者に行った?」
「だ~か~ら~病気じゃないと何度言ったら…」
「病気じゃなくても行かなくちゃだめなもんなの!」

4年前のあの夢の中でのユートくらい意味不明だよ、ユート。
付き合い始めるときも意味不明なら、別れるときも意味不明なんだね…。

「ごめん…俺このところちょっと仕事たて込んでて…真面目にアオイの事気にかけてなかった」
ユートは言って私の隣に座った。

「ホントにごめん。
明日どんな事しても仕事休むから、ちゃんと病院行こう。俺もついてくから」

本気で何が言いたいのかわからないんですけど…。

「別に病院なんて行ってもしかたないし…いい加減別れたいんならそう言って…」

もう…なんかやけくそ。
意味不明のやりとりも楽しい時ならともかく最悪な気分のときだと続けるのつらい。

「…アオイ…俺、そんないい加減な奴だと思ってた?
確かにさコウほどキチンとはしてないけど、俺なりにちゃんとアオイの事は真面目に考えてたつもりなんだけど…」

声が…すごく怒ってる。
恐る恐る顔をあげて見ると、本気で怒ってるユートの視線にぶつかった。

「とにかく…アオイが俺の事もう嫌いになったんだとしても俺は絶対にアオイと別れない。
ちゃんと病院には行かないとだめ。
とりあえず…今日はもう寝る事。夜更かしは体にさわるから。
明日朝一で病院行くよ」

きっぱりと断言するユート。
なんか……話がずれて……

「ユートさん、質問なんですけど…」
私は恐る恐る手をあげた。

「なに?」
「なんで私いきなり病人として病院に行く事になってるんでしょう?」

もう…別れ話始めて置いて別れないとか言ってるのはおいておいて…まずききやすいあたりから…。

「妊娠は確かに病気じゃないけどさ…ちゃんと病院行って異常ないかとか調べて検診とか行って経過みないと…」

へ??

「誰が妊娠?」
なんでそういう話になってますか?

「へ?違うの?」
「どこからそういう話が……」
「いや、だってアオイ医者行っても治らないとか言ってたから…てっきり……」

そこかいっ……って……ユートも暴走?

「単に…精神的に気分が悪いだけなのを医者に行ってどうするのかって事で言ったんだけど……」
「なんだ…そうなんだ……」
ユートは大きく肩を落として脱力した。

「いきなり泣き出したりとかして情緒不安定で顔色も悪かったし…それであの台詞だったし、マジつわりかなにかかと…」

なんというか…私並みの暴走だよ、ユート。

「でも…子供できてたらどうするつもりだったの?」
私が聞くと、ユートは当たり前に断言した。
「とりあえずアオイの親に挨拶して殴られる」

その返答に思わず私は吹き出す。

「でも最終的に娘持つ親としては中絶させたりとか未婚の母とかは嫌だろうし、それくらいならって結婚は許してくれると思うから…
コウに2年前に避妊だけはちゃんと気をつけろって言っただろうとか嫌み言われながらも休みもらって籍いれて…あとなんだろ~。
とりあえずアオイ暴走して怖いから検診の日と出産の日も休みもらわないとだな~」

いちいちおかしなユートの言葉に笑いが止まらない。

「んで?結局アオイは何をいきなり青い顔して泣き出したりしてたん?」

なんか…あまりにいつも通りなユートに私も勘違いな予感がしないでもないけど、しかたなしに言う。

「だって…いきなり別れ話だったから…」
「へ???」

案の定ユートが目を丸くした。
そして大きくため息をつく。

「アオイさん…今度はどの辺でグルグル暴走しましたかね?」
「えっと……2年前の……取り消すって。永久就職云々の話かなって………」

ユート沈黙。

「そっちじゃなくて…俺が甲斐性なしだからパートくらいはしてねって方だったんだけど…。
意外な事に俺甲斐性あったっぽいから。
つかアオイぜんっぜん危機感とかないからパートなんか出したら変な奴がひっかかってきそうだし」
「…フロウちゃんじゃあるまいし…私なんかにひっかかるのユートくらいだよ……」
「アオイさん…さっきの3馬鹿の言葉聞こえてませんでした?姫並みのスルーですか?」
「いや…あれ絶対に冗談だから…」
きっぱり断言する私にユートは肩を落とす。

「まあ…そう思ってんなら良いけどさ…
…カイあたりは冗談かもだけどさ…
…なんつ~か……ま、いいや。アオイの方にその気ないなら」
最終的には納得して頂けたらしい。

「んで?いかがでしょうね?いつアオイが暴走するかわからないからとハラハラする俺の心の平安のために籍入れて大人しくしていて頂けますかね?」

「無理っ」

数日前なら飛びついたんだけど…今も嬉しいんだけど…無理。
ユートは私が断ると思ってなかったらしくて唖然。

「すご~く嬉しい!
もう飛びつきたいのは山々なんだけど…籍は嬉しいけど…大人しくは無理!」
「あ…えと…何も家にずっと閉じこもってろというわけじゃないけど?
買い物くらいは…楽しくできるくらいは稼げると思うし、映画とか、色々遊びに行ってくれるのは構わないけど…」

…ユートって…絶対に私をフロウちゃん並みの勘違い人間だと思ってるな……。
いくら私でもそういう意味には取らないって……

「そういう意味でもなくて…私も自分に出来る事探さないと…」
「主婦じゃだめなん?」
私がうなづくと、ユートは少し表情を厳しくした。

「それは…ランスに言われて?」

うあ…なんかユート、完全に披露宴の時の事誤解してる?
どうしよう……
その時内線がなった。

「…ったく、なんだよっ!」
不機嫌に出るユート。

「コウっ、邪魔!!あ?やってない!話してるだけ!」

なんか…2年前にも似た様な電話してたような……

「アオイ、コウからちょっと確認したい事があるって」
ユートが私に受話器を渡して自分はテーブルの前に戻ってドスンと腰を下ろした。


(もしもし、私だよ)
(あ~アオイ。もしかしてもめてるか)

なんで…お見通しなんだろ…。
てかいつのまにかすごく空気読める男になってるよ、コウ。

(うん)
(仕事諦めろって話でなら…姫のお告げって事にしておけ。超自然現象だから納得するしかない)

あはは…確かに。

(で、礼とか言うなよ、ユート勘ぐるから。そだな、明日のXの来訪の時間の確認の電話で、わかったくらいの事言って電話きっとけ。じゃな)

至れ利尽くせり…

(うん、わかった)

言って私が電話を切ると、当然ユートは
「なに?」
と聞いてくる。
嘘つくのは心苦しいけど……

「明日ね、フロウちゃんとこにX君がインタビューにくるんだって。
私明日からフロウちゃんのお預かりになるから、一応時間をね。
んで、ユート、さっきの続き」
もう勘がいいユートにこれ以上つっこまれないうちに、私はさっさと話題を戻した。

「私さ、フロウちゃんにはなれない。
家事特別好きなわけじゃないし、実際ここにいると必要もないしね。
なんにもさ、建設的な事しないでず~っと家にいると多分いつもいつも不安だと思うんだ。
もうユートの一挙一動チェックするくらいしかする事なくなっちゃうし…。
でもさ、もう聞いてると思うけど私いくらやっても総務も事務も営業とかもお茶汲みすら駄目でさ…でね、フロウちゃんがね、他に何かあると思うからユキ君の指導からちょっと離れて別の方向から探した方がいいって…」

「姫のお告げか……」

「うん…。あのね、今大学2年じゃない?
だから…2年間、大学卒業するまでは試させてもらっちゃだめ?
それで芽がでなかったら…仕事は諦める…っていうのは…ずるい?」

恐る恐る上目遣いにユートの様子を伺うと、ユートは苦笑。

「もうさ…その提案じゃなくてその目がずるい。
そんな目で言われたら俺許すしかなくなっちゃうじゃん」

は?

「許してくれるの?」
思わず顔がほころぶ。

「そのかわり…一つ約束」
「うんうん♪」
「ランスと一緒の仕事とかは駄目。
一緒に姫から家事教わるとかさ、そういうのは却下。
どうしても同じ事するなら第三者一人以上いれること」

「え~っと…それは…?」
「俺が嫌だからっ!それだけっ!」

なんか…どうしよう…ちょっと嬉しいかも。
もう…本気で興味なくされてるって思ってたもん。

「あの~なんでそこで泣きますかね?アオイさん。
そんなに奴と一緒に何かやりたいわけ?」

若干声にとげが出てくるユート。
でも今はそれも気にならない。
フルフルと首を横にふる。

「…嬉しい…」
「はあ?」
「…もう…ね、ユート私の事興味なくなったと思ってたから……」
「あのね~~」

ユートが抱き寄せてくれる。
久々の感覚。

「…ベッド座ったら…だめとか言ったし…」
「当たり前っしょ。そんな鴨ネギ様な事されたら俺話なんて放置で押し倒しちゃうもん。
疲れてるから理性ない。
…つか、もう限界。アオイ可愛すぎ」
そのまま…自称理性がないユートが覆いかぶさってきて唇を重ねた。






0 件のコメント :

コメントを投稿