「結局…世の中は運が良い人間、悪い人間に分かれていて…運が悪い人間はどこまでたっても不幸から抜け出せたりはしないのよね…」
瞳は自嘲気味につぶやいた。
優れた凡人であるというのは、愚民よりは恵まれた資質であるとは言えんかね?」
「その才能を搾取されるだけなら…ないほうがまだましだと思うわ」
瞳はキッと和馬をにらんだ。
「あなたみたいに海陽卒業して東大なんて通えてるお坊っちゃまにはわからないと思うけどね。
親が資産家の娘だった、そしてその資産家の跡取りの息子が無能だったって時点で私の人生終わってるのよ」
瞳はそう言って自嘲気味に笑った。
「小川家は代々男の直径子孫だけが家を継げるの。
女はいくら優秀だって継げないし、男はどんなに無能だって当主になれるのよ。
母はずっと実家に対して権利も与えられないのに兄である太一の父親の尻拭いさせられて苦労してきたわ。
父は代々小川の傘下の企業の社員。逆らえるわけもない。
そんな中で同じ年に生まれた私と太一。
母と伯父の関係はそのまま私と太一にも引き継がれた。
私は小さい頃からずっと太一の尻拭い。
太一がクラスで揉めたといえば仲裁に入り、宿題をやってやったりは当たり前。
こっそり受けて受かった一橋大だって太一のフォローができなくなるからってだけの理由で辞退させられて、太一が受かった城上大に通わされる事になったわ。
そんな中で太一を好きだって言う紗奈に出会って…仲取り持ってくれれば太一の事全部引き受けるって言うから協力したのよ。
私は何も要らないから、ただ小川の家から逃げ出したかった。
だから紗奈を私の友人として紹介して、他の友人、中田やアオイを引き込んで一緒にいる時間を多く作るように努力したの。
なのにある日…紗奈が私がいないところで他の友人と話してたのよ。
太一は資産家の息子だから彼を落とせば…面倒な事はこれからずっと私に任せればいいから、余裕で楽して暮らせるって。
許せないと思った。
これ以上寄生が増えると思ったら絶望的な気分になった。
でもたぶん…紗奈を遠ざけても太一によってくるのなんて、しょせんそういう事なのよね…。
だから最初はね、太一を犯人にしたてあげるつもりだった。
太一に氷割らせて…割ったあとのピックは私が布巾に包んでキッチンに持っていってあとは同じで…。
紗奈に部屋に呼び出させることも太一相手なら簡単だしね。
太一が捕まれば私は寄生虫連中から逃げられる、そう思った」
思わぬ瞳の告白に、小川は顔面蒼白で震え上がった。
「中田とアオイには最初は本当に他意はなくて…特にアオイは太一の我が侭に振り回されてて他人の気がしなかった。
唯一私の気持ちがわかる相手だと思ったし、ずっと仲良くやっていけると思ってたのに…違ってた。
アオイには守って助けてくれる彼氏がいて…しかも相手はエリートで…大事にされてて…
アオイは私の側じゃなくて恵まれた運の良い側の人間だったと思ったら私の中で何かが切れちゃった。
太一を犯人にしないなら何の意味もないのよね、冷静に考えてみれば。
でもその時本当にカッとしちゃったのね…気づいたらアオイを犯人に仕立て上げてた」
真実は必ずしも正義ではない…
それは事件の真相を明かす時、しばしばコウが辛そうにつぶやいていた言葉だ。
犯罪においては被害者は被害者として、加害者は加害者として扱われるが、被害者が必ずしも完全に善で加害者が必ずしも完全な悪とは言い切れない場合があるという意味らしい。
そして今風子の脳裏にはその言葉がふとよぎった。
幼い頃から他の人間のために自分の希望、可能性、全てをつぶされて使役させられる人生…そんな人生を送らされてきた人間が人並みの幸せを求めることを、果たして否定できるんだろうか…。
もちろん…これもコウが言っていた事なのだが、いかなる理由があろうと法治社会の中で生きる以上、法律の範囲を超えたやり方で目的を達成しようとする事は許されないわけだが…。
そんな事を考えつつ沈み込んでいた風子は
「あまりに馬鹿馬鹿しくも、愚かだな」
という和馬の声で現実に引き戻された。
「確かに…なんのために殺人を犯すのかって忘れた時点で、馬鹿よね…」
同意する瞳に和馬は
「そっちじゃない」
と言うと、少し頭をかいた。
「その程度で殺人に走る事が愚かだと言ってるんだ」
その和馬の言葉に、それまで力をなくしていた瞳の目に、怒りのためか光が戻る。
「その程度の事ですって?!
あなたみたいなお坊っちゃまに何がわかるっていうのよっ!!」
叫ぶ瞳。
だがそれに対して和馬は
「俺も似たような愚民に囲まれて育ったが、俺ほどのトップレベルの凡人になると、周りを華麗に踏みつけて自分の人生を切り開くくらいの事やってのけることできたぞ」
と、親指で自分を指差した。
「貴様は小川のために試験のたびわかってる問題をわざわざ白紙のまま出したりとかしたか?
相手を追い越さないように馬鹿な振りしたりとかまでさせられてたのか?
俺はしたぞ」
思わぬ和馬の告白に瞳を含めた一同がポカ~ンと和馬に目をむけた。
「俺の親兄弟は小学校4年生の時に俺以外綺麗さっぱり死にやがってな、俺を引き取ったのは母方の叔母一家だ。
その家には俺と同じ年の従兄弟がいて…そいつをエリートコースに引っ張り揚げる踏み台にするために優秀な俺を引き取ったってわけだ。
それからはマジすごいぞ。
そいつを追い越さないように…だが、そいつから遥かに引き離されたらフォローができんからいかん。
常にそいつと勉強をして、そいつの学力を把握した上でそいつが解ける問題か問題じゃないかを気にしながら試験を受ける。
海陽は学力別クラスでな、そいつは当然一番上のAクラスだから自分もAクラスをキープ。
だが、そいつを抜かさないように適度に手を抜くなんて高等技術を求められるんだぞ?
全てにおいてフォローをしているという事を周りには気づかれんように細心の注意を払いながらフォローをいれるなんて俺ほどの一流の凡人でないと出来んぞ。
ま、俺はトップクラスの凡人だから軽々やってのけたがなっ。
もちろん、俺は一生そんな生活するほど酔狂じゃないからな。
高校に入った頃、勉強みてやるといって有力な人間につながる交友関係作りつつ、そのコネでPC借りて自力でシステム勉強して、同じくコネでシステム関係のバイトを始めた。
大学になったら逃げ出すためにな。何をするにもまず金だからな。
ところが高校二年の夏、その馬鹿従兄弟が公にこそならなかったものの、すごい犯罪の黒幕になるなんて事しやがった挙句に、自分が操ってた人間に裏切られて死にやがってな。
俺だってそいつを一日24時間見張ってるわけじゃなし、そいつが夜に自室のPCでコッソリやっていた事まで把握しきれるわけもないと思うんだが、その家では俺のせいらしくてな、まあ愚民が煩い事煩い事。
おまけに…そいつが犯罪まがいの事をしつつ陥れようとしていた相手が、俺らの通う学校の生徒会長ときた。
公になってないとはいえ当然そいつはそれ知ってるし、学校のOBにもその生徒会長の事を気に入ってる警察関係者がゴロゴロしてる。
事実を知っている人間から他のOB達にその事実が広まれば、その生徒会長がOB中の人気者なだけに、俺は財界、政界、学会、その他、ありとあらゆる方面を牛耳っている海陽OB連中を全て敵に回すってわけだ。
さすがの俺でも全分野のトップを敵に回したら乗り切れん。
そいつの一言でもう人生終わりって言う状況で、俺に残された道はもうその生徒会長に取り入って口止めさせるしかない。
…ってことで…自活のためのバイトで超多忙な中、状況的に自分に対して思い切り不信感もっていて、自分の事を思い切り嫌っているであろう人間に取り入るために、生徒会副会長なんて暇人のやる事をやる羽目になったわけだ。
ところがまあ…その生徒会長がとてつもない馬鹿でな。
もう俺がこの世の中で出会った中でダントツぶっちぎりの馬鹿の2大巨頭だ。
そいつはなんと、自分のせいで俺本人のせいではないのに主に警察系のOBに不当な評価を受ける事になった可哀想な俺を、力いっぱい全身全霊をかけてフォローし、守り、その不当な評価を撤廃させなければならないなんて、もうお前は頭大丈夫か?って訊ねたくなるような義務感に燃え始めたわけだ。
で、俺は当然それに応えてやる義理なんかはこれっぽっちも感じてないんでな、その馬鹿なNOUKIN男に思い切り世話を焼きまくってそれに慣れさせて、そいつに必要不可欠な人間になって優位な立場をキープしようと画策してみたんだ。
だがな、そんな美味しいポジション他が放って置くわけもなく…すでに先客がいたんで、たまたまそいつの関係で知り合ったそいつにそっくりなそいつの姉貴分で…本人達も周りも実は姉弟なんじゃないかと悩むような、そいつと同じく馬鹿だがカリスマ性のある女性に寄生する事にして現在に至っている。
あ、もちろん当たり前だが、そんな失礼にして馬鹿馬鹿しくもありえない事を考える愚か者はいないとは思うが、その女性というのはそこにいる愚民じゃないからな。
これでもうわかったと思うが…俺とそこの愚民の交際中の男とは別人だ。
その男は俺が依頼した簡単な用事をこなそうとしていた最中に怪我しやがってな。
で、愚民一人旅行にやるのが心配だとこともあろうに、その俺が寄生中のカリスマ女性に泣きつきやがった。で、俺に拒否権はなく…今の状況というわけだ。
ちなみに…そこの愚民が交際しているのは…俺が最初にキープしようと思ったポジションにどっかり居座っている男だ」
アオイを除く全員がポカ~ンだ。
もちろん風子も含めてである。
まあでも、ようやく色々な疑問の答えが明らかになって、全ての状況が繋がった気はする。
「結局…逃げたいなら建設的な方向で能力を駆使して全力で逃げろということ…ね」
苦笑しつつも顔をあげる瞳に和馬は
「ま、そういうことだ。能力があるのは認める。
が、それを有用に活用する術を知らなかったな。
幸い…現役で大学一年ということは19歳以下で少年法の保護範囲内だから、実名報道されることもないわけだし、罪を償うついでに少し頭を冷やして、俺のようにどんな状況でも強かに生きる術を身につけてくるんだな」
と、そう締めくくった。
こうして事件は解決した。
田原瞳は殺人事件の被疑者として拘束されて移送され、警察も現場検証組以外はほぼ引き上げ、大学生組は帰り支度をしている。
風子は一応責任者という立場上、少なくとも民間人の学生達が帰るまではと、居残り組だ。
すでに夜明け近くなって少し眠い。
リビングのソファに腰をかけたままついついうつらうつらしかけた風子だったが、不意に騒がしくなった玄関に気づいてあわてて立ち上がった。
そして…立ち上がって様子を見に向かった風子は、思わず目をこする。
…自分はまだ目が覚めてないのかもしれない…と立ちすくむ風子の後ろから、声が聞こえる。
「貴様は今頃何しにきたんだ。来るならさっさと来い。
それともあれか?面倒な事が全部終わってから美味しいとこ取りしようとでも思ったのか?
いつからそんな怠惰な男になったんだ?」
そんな和馬の皮肉にも
「相変わらずなとこ見ると、大丈夫だったみたいだな」
と、穏やかな笑みを返して、風子が夢にまで見たその人物は、まっすぐ風子を向き直った。
「お疲れ様です、常田さん。今回は友人達がお世話になりました」
思わず見惚れるほど美麗な微笑み。
怖い嫌味殿下にいびり抜かれた疲れが一気に吹き飛んでいく。
「こ、こちらこそっ。いつもお世話になってますっ!」
風子は思い切り真っ赤になって敬礼した。
碓井頼光、通称コウ。風子の憧れの人物である。
「で?なんでこんな時間にいきなりなんだ?」
和馬はさらに聞いてきて、コウは今度は和馬を振り返った。
「ああ、電話があってからすぐ戻ろうと思って色々…な、ツテを探してみたんだが…結局某ツテで軍用機の隅っこにのっけてもらってなんとかこの時間だ」
某ツテ…軍用機……
まあ…普通の大学生…という認識は消しておこう…と、秘かに心のメモ帳に書き留める風子。
これに関しては和馬も同感だったらしい。
「まあ…どういうツテかは怖いから追及せんでおく。
ただ…貴様は無害な顔して実は日本で一番恐ろしい大学生とだけ記憶に追加しておくぞ」
その和馬の言葉にもコウはただハハハッと笑うにとどめた。
「で?俺は針千本飲まずにすみそうか?」
笑顔のまま聞くコウに
「残念ながら…な」
と、答え、詳細を説明する和馬。
「そっか…」
コウは言って一瞬の沈黙。その後
「助かった。アオイ打たれ弱いから。今回は本当にありがとな」
と、続けて和馬の肩を軽く叩いた。
それに対して和馬はフンと鼻を鳴らし、
「恩は…その腐るほどある馬鹿みたいに強力なツテをちと使わせる事で返せ」
と言う。
「ツテを?」
コウはその和馬の提案に少し目を丸くした。
「優秀な弁護士の手配と…ちょっとばかり検察に手心をな」
「あ~…今回の事件のか?」
「他に何がある。
切り捨てるには少々惜しい優秀な頭脳と良い度胸の女だったんで…
これで恩をきせて手足としてこき使いたい」
その和馬らしい言葉にコウは苦笑する。
「了解。お前に借り作ったままだと利子がトイチで増えていきそうだしな」
と、返すコウに、和馬は
「よくわかったな」
と不適な笑みを浮かべた。
「和馬は口は悪いけど…すごく良い奴でしょう?」
その後和馬はまた自分の荷物整理に戻り、風子はコウに現場を実際見せたり和馬の説明よりさらに詳しい状況説明をしたりしていた。
それがひと段落ついた時にコウからそう問いかけられて、風子は引きつった笑みを浮かべる。
憧れの相手の言うことだ。“はい”と答えたいところなのだが…感情がその言葉を飲み込ませていた。
「あ~、もしかしてかなりいびられました?」
その風子の様子にコウは苦笑した。
「俺もしょっちゅう馬鹿馬鹿罵られてますよ」
と、語るコウ。
(碓井さんみたいな優秀にして美麗、性格も極々穏やかな人格者が、なんであの嫌味殿下と親しくしているんだろう??)
風子には本気でわからない。
「でも…口で罵りながらも必要な事や再起不能にならないような気遣いはしてくれてたでしょう?」
その疑問に答えるかのようにコウはそう続けた。
確かに…本気で風子が動揺しすぎて動けない時はなだめてくれていた気がする。
まあ…そのあとにまたすごい嫌味が振ってくるわけではあるが…。
「本当はトップに立てる器なんですよ、あいつは。
俺よりよほど空気読めて頭いいですし。
苦労して育ってきてるから他人の痛みにも人一倍敏感ですしね。
今回も…なるべく自白する方向に持っていこうとはしてたんだと思いますよ」
「あ…それはそうかもしれません…」
確かに途中、瞳がアオイを友人と呼びつつ陥れようとしていた事を認めるような発言をするまでは、そういう方向に持っていこうとしていたようだった。
風子がそれを言うと、コウは
「あいつらしいな」
と笑みを浮かべた。
「自分の従兄弟がそれやって俺が目いっぱいへこんだとこ見てるから…アオイの気持ちを考えたんだと思いますよ。
でも同時に…今回の加害者の気持ちも本当にわかったんでしょうね。
自分と境遇が似てるから。
それを素直に出せなくてこういう形になったんでしょうけど」
あの嫌味殿下のやることだ…本当にそんな裏美談があったりするんだろうか…単に自分が楽しみたいようにしか思えなかったが…と、やっぱり無言の疑いの表情を浮かべる風子に、コウはまたクスリと笑った。
「奴はね、風早財閥の跡取り娘の藤さんと付き合い始めて、その祖父である財閥の総帥にかなり見込まれて風早を動かす前提での英才教育を受けさせられてる現在でも、高校時代からやってるバイト続けて、自分の亡くなった親の…つまり自分に遺された実家を売って自力で用意したマンションに住んでいるんですよ。
何不自由ない衣食住を全て用意するという風早老の申し出を蹴ってね。
どうしてだと思います?」
「…プライドですかね?鬼のように気位高そうだから」
風子の言葉にコウは小さく首を横に振って苦笑した。
「そういう意味では…無駄なプライドは捨てられる男です。
でないとこれまでやってこれなかったし。
奴がそうやって以前の生活を捨てない理由は一つだけ。
恋人である藤さんが万が一風早から離れたくなった時、風早以外の生活基盤がないと支えきれないから。
もちろん大学はそれなりの生活できちんと卒業しないといけませんし、風早の方の勉強も並みの人間の並みの覚悟じゃこなせない。その上で別の仕事ですよ?
俺も睡眠とか多いほうじゃないし、時間の余裕を持ってすごすほうじゃないんですけど、あいつは本気でいつ寝てるのか不思議です。
それでも…結局自分で自分の身を養う手段がないうちに誰かに頼ろうと思ったらその相手の意向に背いた行動はできなくなるということが本当に身にしみてわかってるんです。
だから…相川さんにしても放って置けば “小川の家“ が弁護士くらい用意するんでしょうけど、それをすると彼女は小川家の意向に背けなくなるし、彼女がこれから小川家で飼い殺しになるって事を心配して、わざわざ俺に弁護士調達を依頼してるわけです。
和馬だって現在それこそ風早に言って弁護士を調達するなんて事も簡単にはできない総帥付き秘書見習いですからね。
それでなくても一般人が風早の跡取りと婚約なんてだけで風当たり強いのに、殺人事件起こした人間を下につけたいなんて言った日には、総帥は認めるだろうけど、風当たりがさらにとんでもなく強くなってボロクソ言われますよ。
それでも…自分と同じ境遇の人間を放置できなかったんでしょうね」
“偉そうな大学生”だと思っていたが訂正。“偉い大学生”だったらしい、と、風子は思った。
嫌味殿下じゃなくて…本当はとんでもなく良い人???
混乱する風子。
鑑識と話をし始めるコウと別れて大学生組の様子を見に二階に上がった風子は、ちょうど自分の荷物を手に降りてくる和馬と鉢合わせた。
「お~、ポチ。今回は世話になったな」
上機嫌で和馬のほうから声をかけてくる。
最後に本心が出たのだろうか…やっぱり本当はコウが言うように良い人だったのか…。
風子は思って
「いえ、こちらこそありがとうございました。色々と勉強になりました」
と、心から礼を言うと頭をさげた。
(戻ったら…加藤警視に報告しなきゃ。
金森さんは素直じゃないだけで本当はすごく良い人なんだって)
笑顔のまま顔を上げた風子はそこで見た。
和馬のいつもの悪魔のような笑顔を…。
一瞬硬直…そして引きつる風子の満面の笑顔。
そして…魔王の宣告……
「これで加藤に貸し100回分くらいだな。
お前が駄犬で迷惑かけまくってくれたおかげでこれからは警察あごで使い放題だ♪
本当にお前はお役立ちな駄犬だ。また何かあったら呼んでやるから覚悟しておけよ」
(誰が…良い…人??
ああ、尊敬してるけど、敬愛もしてるけど、思いっきり大好きだけど…これだけは言わせて下さい…)
風子は心の中で叫んだ。
『碓井さんの…碓井さんの…大嘘つきぃぃぃ!!!!!』
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