ラ○プラスをやってみた

「こんにちは~宅急便で~す!」
その声に部屋でソワソワしていたユートは玄関にダッシュした。

届いたものはネットで注文して予約待ちをしていたラ○プラス。
巷では独り者どころかリア彼女とかリア妻とかいる男すらはまりすぎて呆れられる事続出という噂の恋愛シミュレーションゲームだ。

品切れ続出、もちろん店頭になど並んでるところをみたことがないというその話題のゲームを手に、こっそり部屋に戻ろうとしたユートだが、リビングを通り抜けようとした時、
「ユート、それ何?ゲーム?」
と、そのパッケージを彼女のアオイに取り上げられる。

宅急便の包みのままでは大きくて目につくからコッソリ部屋に持ち帰ろうと包みを処分してパッケージを手にしていたのが災いした。
ごまかしようがない…。

しかしアオイは
「…ラ○…プラス?」
不思議そうに首をかしげた。

幸い…店頭にほぼないくらいで、しかも男向けのゲームなのでアオイは知らなかったらしい。
さらに幸いな事にパッケージの表面は白地にシンプルな文字でタイトルが書いてあるだけで、それらしいグラフィックはない。
裏を見れば女の子の絵がいっぱいだったりするのだが…。

「そそ、予約いれたゲーム」
裏を見られないうちにと慌ててパッケージをアオイの手から取り戻すユート。
セーフ!…と思ったのは甘かった。

「巷で評判の恋愛シミュレーションゲームだな」

きっぱりと真実を暴露してくれたのは、ユートがアオイやコウ、フロウ達と住んでいる自宅”に遊びに来ている金森和馬。
コウが高校生時代に生徒会長をやっていた頃の右腕で、容赦のない男だ。

「れ…恋愛シミュレーション?!!!」
案の定アオイの目が潤む。

さらにそこでフォローを入れてくれればいいのだが、自他共に認める空気が読めない男のコウが
「なんで今更恋愛シミュレーションなんだ?
そんな暇あるならリアルで恋愛してた方が良くないか?」
と、全く悪気はなく止めを刺してくれる。

「ゲームの…女の子の方が楽しい?」
アオイはその言葉に潤むのを通り越して目から涙。
顔面蒼白なユート。
これが怖かったから隠してやろうと思ってたのだが…

「ま、だからコソコソやろうとしてたんだろうなっ。
教えてやろう、愚民女子大生。
旧来の恋愛物だと告白したりされたりしてカップル成立で終わりなんだが、そのゲームのウリはな、カップルになってから、その2次元のキャラと恋人生活を楽しむというところなんだぞ。
そのゲーム内のキャラとの恋人生活が楽しすぎてリアルの関係を疎かにする男続出という話題のゲームだ」

金森和馬…他人の不幸は蜜の味な男である。

ニヤニヤという和馬の言葉にアオイ号泣。
ユートが言葉が出ずに口をパクパクさせていると、フォローは意外なところから入った。

「和馬だって持ってるしやってるじゃない。あんまユート君いじめないの」
と、ようやく普通にフォローを入れてくれた相手は風早藤。
和馬の3歳年上の彼女である。

「お前…忙しいくせにそんなものやってるのか…」
呆れたコウの視線に、和馬は平然と言い放つ。

「仕事の一環だ。巷ですごいブームだからな。
ちなみに…リサーチのため流行り物は一応一通り手をつけてるぞ。
ゲームだと…最近はこの他にド○クエ9とかな。
個人的には自分が楽しむなら株式シミュレーションか歴史シミュレーションなんだが、自分の好きな物はやってる暇がない」

和馬は現在、日本有数の大財閥である藤の実家、風早財閥の総帥で藤の祖父の風早老に見込まれて、将来風早を動かしていくべく秘書として勉強させられている超多忙な東大生だ。
ゲームも遊びではなかったらしい。

「それに…普通にリアル充実してる人間にはそれほど楽しいものじゃないぞ?そのゲーム。
やってみてわかった。世の中さびしい奴が多いってことだ」
と感想を述べる和馬に、
「そうなん?」
と、少し疑いの目を向けるユート。

いつも和馬の発言には微妙に罠があったりするので油断できない。
そのユートの不信な眼差しに和馬は大きくうなづいた。

「落とすまではな…まあ駆け引きも楽しめなくはないんだが…落としてからが退屈だ。
反応が所詮いわゆるネーちゃんゲーだな。
単にベタベタとうっとおしいだけで変化がない。
ちょっと放置してやったら泣き言言うわ、好感度下がるわ、からかえば怒るわでパターン化しすぎてて面白みがない」

「金森…お前さ…女の子に何求めてるん?それリアルでも普通っしょ…」
きっぱり断言する和馬に呆れかえるユート。

しかし和馬は悪びれる事なく続ける。
「相手が拗ねてる時と動揺してる時の楽しさ、これが所詮0と1で出来たデータとリアルの彼女との圧倒的に埋まらない差じゃないか?」
ここで笑顔とかぬくもりとか言う言葉が出てこないのがやっぱり和馬だと、皆が納得した。

「…こんなこと言われてるんですけど…藤さん、こんな男でホントにいいんですか?」
呆れて言うユート。
それに対して和馬は
「何を言う」
と、また続ける。

「容姿や機嫌の良い時の状態というのは感じが良くて当たり前だろう?
その辺はバ開発でも当然考えてるし、ある程度ワンパターンとはいえ力も入れている。
だが本来はマイナスであるはずの時も魅力的であること、これがポイントだ。
拗ねたりした相手を面倒くさく思うか可愛いと思えるか、そのあたりで長く付き合えるかどうかがきまると俺は思うぞ。
そのあたりの魅力を表現できんあたりが所詮データだと言っている。
ただ調子良い事を言うかうっとおしく不機嫌になるかの2次元キャラ相手にダラダラと時間つぶしてるくらいなら、拗ねてる藤さんなだめてる方がよほどマシだぞ?
というか…拗ね方が可愛いからむしろ楽しいぞ、藤さん相手なら」

地雷を踏まないように務める自分とは違い、地雷があったらそれを掘り出して花火に変える男、それが金森和馬だ。

こ…こいつ上手いなぁ…
ユートは心の中で感嘆の息を吐き出した。
自分も人間関係は上手いと言われるが、和馬のそれには到底及ばないと悔しいが認めざるを得ない。

和馬の隣では藤が少し赤くなってるが、ご機嫌な様子だ。
対してアオイがますます落ち込んでいく。

「ま、やってみれば、藤さんみたいな完璧な女には程遠い、お前の愚民女子大生の彼女でも、2次元キャラよりは遥かにマシだと言うのがわかるぞ。
01データのキャラの相手してみてリアルの彼女のありがたさや楽しさを思い知っとけ」

しかし…どん底まで落ち込みかけるアオイを救い上げ、さらにユートに買ったばかりのゲームを無駄にさせないように計らったのもまた和馬だった。
まあ…善意ではない。
本気で再起不能になられるとつまらない…おそらくそんな理由だろうとユートは思う。

「そういうゲームってさ…初めて見るからやるの見てていい?」
そこでようやく浮上したアオイ。
その言葉には“やましくないならいいよね?”という言外の意味が込められている気がして断れない。
かくして…彼女の見守る目の前で恋愛シミュレーションゲームをやる羽目になったユートだった。

名前…近藤悠人…本名をそのまま。
誕生日も6月10日とそのまま。
呼び方だけ…リアルと同じくユートと呼ばせるのが嫌だと主張するアオイの異議でユウと呼ばせる事に。

黙々と設定をするユートの正面のソファでは
「セーブ3つまでできるし、俺の貸してやるからお前もたまにはやってみろ」
と、コウが和馬につつかれている。

それに対してコウは
「要らん。興味ない」
ときっぱり答えるが
「たまにはその女受けする面とか体格とかガキの頃から身につけた知識や身体能力なしで己の本当の才覚だけで他の人間の評価を得る訓練をするのも有意義だぞ」
と、もっともらしく真面目な事を言う和馬に騙されて、コウもしぶしぶ和馬のDSを受け取る。

そして男2人、それぞれ女性陣&和馬の見守る中、始める。

ターゲットの女の子は3人。年下、同年、年上。
それぞれの性格が格闘ゲーやロックが好きなそっけないタイプ、優等生だが出来すぎなため周りに馴染まれない生真面目なタイプ、人当たりが良く面倒見が良いタイプ。

「で?それぞれ誰狙いで?」
面白がって聞く和馬。

下手なことを言うとアオイの視線が痛い…かといってここで何も言わないと言わないでアオイが変な妄想で暴走しそうだ。
しかたなしにユートは答える

「ん~とりあえず同年?」
「その心は?」
「性格的に一番裏表なさそうな気がするから…ゲーム内だとしても玩ばれるの嫌だ」

その答えは和馬的には満点だったらしい。
爆笑しつつも注意点を教えてくれる。

ユートが一通り話し終わると、和馬は今度は
「お前は?」
とコウに降る。

その質問にコウは
「え?何の話だ?」
と心底不思議そうな顔をした。

「いや、“え?何の話だ?”って言われても…。お前このゲームの趣旨理解してるか?
一応な、3人の中の一人と仲良くなって告白されてカップルになって彼女との生活を楽しもうというゲームなんだが…。3人一緒にとかハーレムはできんからな、念のため」

「…全員良い友人でいいんだが…。
極端に誰かに嫌われる事なく平穏な学生生活が送れればいい

「お~ま~え~な~~~!!!!」
和馬が叫んでがっくりと肩を落とした。

「それじゃぜんっぜん意味ないからっ!
誰にも告白されず100日経過するとゲームオーバーだぞ!」

「ん~じゃ、それでいい」

「お前が良くともゲーム的にぜんっぜんよろしくないっ!
やるからにはちゃんとやれっ!」
「ちゃんとやれって言われても…」

「誰が好みだ?」
「…姫」
「誰がリア彼女の話してる!このゲームのキャラ3名の中でだっ!」
「………」

「もういい!比較的マシでも、こいつだけはそばにいたくない2名を省いた残り1名でもなんでもいい!」
キレる和馬に困った顔のコウ。
しばらく真剣に考え込んだ。

「個人的好みからいうと…自分より年上というのはなんとなく…なんだが…」
ぽつりと話始める。

「んじゃ、同年か年下選べ」

「なんか…柔らかさを感じられないのが…」
コウの口から漏れる意外な言葉にユートとアオイが同時に飲んでいた紅茶を噴出しかけてむせこんだ。

「や…柔らかさって…ゲームだからさ…つか肉感の問題持ち込んじゃ…」
ユートがさすがに苦笑すると、コウはやはり不思議そうな顔で
「にくかん?」
と首をかしげた。

「何をエロイ想像してんだ、凡人二人!性格の問題だろ?性格の!」
和馬の言葉にコウはぽかんと
「エロイって?性格が柔らかいとエロイって事なのか?」
と聞き返す。

あ~そっちだったか…そうだよな、コウだもんな…と今更ながら内心焦るユート。
アオイも同じくらしい。
しかしあまりにそれを突っ込んでいると前に進まないと思ったらしい。
珍しくそのあたりをスルーして、和馬は強引に話を進めた。

「性格は気にせんでいい。
カップルになった後で性格も髪型も服装もある程度変えられるから」
その言葉にコウはまた悩んだ。

「…じゃあ何を基準に選ぶんだ?みんな」

言われてみればそうなわけだが…。

「参考までに和馬は?選んだ相手と理由は?」
「俺は…同年にしたぞ」
「その心は?」
「理由は…生真面目な奴の方がからかった時の反応が面白そうだったから」

…こいつに聞くだけ無駄だったか…とコウは嘆息した。

「もう…いい。誰とか決めないでなりゆきで。今の時点だとどうしても感情移入ができん」
最終的にコウがそう決断すると、和馬もそれ以上の追及は無駄と思ったのか納得した。

こうして黙々とプレイを始める二人。

「これ…意外にむずいな。つか、評価基準同年の子だけ高くね?」
「ああ、自分が勉強もスポーツもできる優等生っていう設定だからな。
相手に求めるものもそれなりだ」
「うげ。違う子にすりゃよかった」
眉をしかめるユートのつぶやきに
「なさけない。志のないやつめ」
と即つっこむ和馬。

それにユートは
「たかだかゲームに高い志持ってどうするよ?」
ともっともな意見を述べる。

しかし和馬はそれにも
「これはな。
だがやると決めた物に対して最良の結果を勝ち取る努力をする習慣はつけるべきだろ」
と、これもまたもっともな意見で返した。

「あ~、はいはい。そうでございますね」
口では勝てないと、ユートは無駄な努力は止めることにしたらしい。
ユートはその和馬の言葉に軽く肩をすくめてそう言うと、また黙ってディスプレイに目を落とした。

「…これ…面白いの?」
そんなユートの隣でやっぱり黙ってディスプレイを覗き込んでいたアオイはおずおずとユートに声をかける。

元々あまりゲームをやる習慣が無い上、淡々とコマンドを選んでたまにイベントを含みながらも基本的に淡々とデータが上下するそのゲームの面白さがアオイにはわからない。

それでもユートが自分に隠してまでやりたがったゲームだ。
自分にはわからない何かがあるのだろうと思って聞くアオイの聞きたい真意は、察しの良いユートにはその、ともすればこのゲーム、そしてこのゲームをやっていることに否定的とも取られそうなその微妙な質問の仕方でも十分伝わる。
その空気の読めない不器用さがむしろ可愛いと、ユートはクスリと笑った。

「えとね…俺はゲーム好きだけど、恋愛系に関しては金森と一緒でゲームよりリアルでやったほうが当然楽しいとは思ってるんだけどね、それでもこれ取り寄せたのは金森と同様に好奇心。
もう社会現象って言われるくらいはまってるらしいから、やってる人間。
俺の仕事は対人関係だから流行物はチェックしておいたほうが話題の幅も広がるしね。
それでもアオイは良い気分はしないかなと思ってこっそりやってみようと思ってたんだけど…
ま、俺ははまりはしないと思うよ。アオイいるし。
これはさ、万人受けしやすい性格のパターンを3パターン集めたものだからさ、所詮。
すごくたくさんの中から特別に選び出した自分が好きになれるタイプのリアル彼女とは比べられないっしょ。
さらに言うなら…俺ってさ、告白されるよりしたい人だし、色々に対して自分が主導権握りたい奴だからさ。
女の子に告白されて、ひたすら女の子の方に愛語られて自分のほうは自由に語れないっていう状況は…あんま好きくないかも。
もちろん自分のこと気にしては欲しいけど、彼女のことは自分のほうも能動的に構いたい」
言ってユートはアオイの頬をサラっと軽くなでた。
「ユート…」
すっかり機嫌が直って赤くなるアオイ。

「一応構えるぞ…カップルになれば…」
そこでもうそろそろ落としても平気と判断したのかまた和馬が始めた。
「えっ…」
その言葉にまた見事に動揺するアオイ。
わたわたと視線が泳ぐ。

そういう反応をするから和馬に面白がられていたぶられるという自覚は当然ない。
しかし今回は和馬が存分に楽しむ間も与えずユートがその動揺を遮断した。

「知ってる。さっきカップルになって今デート中。
だけどさ、所詮タッチペンでディスプレイグルグルするだけだし…リアルでアオイ触ってたほうが楽しいし」
まあ…もっともにして当たり前の意見だ。

「それにさ、キスするためにタッチペンでグルグルしてるとさ、なんかエロゲみたいな声出すからさ、エロゲならともかく往来の真ん中って設定だから実際こんな場所でいきなりこんな喘がれたらナチュラルに引くって。つか、わざとらしくね?
それならラブホでも入らせろよと」

「いや…それやると本気でエロゲになってDSじゃ出せんぞ」
「もういいじゃん、エロゲで。DSじゃなくてもさ。
なんかわざとらしく誘ってるような声出すくせにキスまでって中途半端すぎて…」

飽きた~とDSを放り出すユートとホッとした様子のアオイ。


「これってさ、やっぱり普段女の子に構われてない奴用だな。
リアルでそういう機会ないから、ゲームでもいいから女に好き好き言われてればそれで幸せって感じの…」
「だから最初からそう言ってるだろうが」
うんざりした口調のユートに、やはりうんざりした顔で言う和馬。

「金森対戦やらね?やるならソフト2本あるけど…」
「だから…俺のDSはどこぞの馬鹿が使用中だ…と…おい…手,とまってる」

ユートとのやりとりで自分のDSを貸しているコウに目を向けた和馬。
自分のDSを持ったまま硬直してるコウの手からDSを取り上げる。
それを特に制するでもなく、コウは青ざめた顔で和馬に目を向けた。

「…なんでだ…?」
がっくりと力なくつぶやくコウ。

「…友好的どころか3人以外の…姿も見えないようなクラスメートや教師から評判悪いとか態度気をつけろとか言われるんだが…。
俺、何か失礼な事したのか?だから嫌われるのか?だから避けられるのか?」

成績優秀、スポーツ万能なだけじゃなく、生真面目で正義感の強い性格なため、学級委員やら生徒会長やらに祭り上げられ敬われる事多数だが、それこそ性格に柔らかい部分が皆無だったため、高校2年でユートに出会うまで気安く近づいてくる者もなく、唯一友人らしくしていた相手は影でコウを陥れて取って変わろうと企んでいたというリアルの古傷とゲーム内の状況が交差しているらしい。
アオイと違って落ち込み方が深い。

これは…つついてはいけない部分をつつくことになったか…と、ドSだが基本的に空気はユート以上に読める和馬は内心少し後悔した。
まあそれを素直に表に出すことをしないのが、和馬の和馬たる所以だが…。

「お前…これ何やってんだ…。
知力と運動だけは恐ろしくあがってるが、魅力とセンスがほぼ0なんだが…。
態度悪いって言われるの当たり前だろう?」

コウのデータに視線を落としてわざとらしくため息をつきながら、それでもさりげなく上手くいかないヒントをつぶやいてみる和馬。

その言葉にコウはしごく真面目な表情で
「何って…一応高校生なんだろ?
おしゃれとかする以前にまず勉学に励むのが普通じゃないか?
もちろん、受験に耐えうる体力は必要だから運動も必須だし」
と主張する。

「お前……」
あまりにコウらしい言葉に和馬はがっくり肩を落とした。

「絶対にこのゲームの主旨理解してないよな?
これな…一応永遠の高校生ゲームだからな?
受験とかないし、中間期末とかの試験もない。
俺らのリアルの高校生活想像するな。
試験結果を1位からビリまで廊下に張り出すとかいう事もないから安心しろ」

「うあ…海陽だとビリまで張り出されるのか?!ありえねー」
今いる3人の男の中では唯一普通の都立高校出のユートが驚きの声をあげた。

「毎回な。
ま、全員分張り出されても学生が見るのはトップ3くらいだから、それに入ってない人間は全く気にする意味もない。
つか、俺らの学年はたぶん注目されてたのコウくらいだな。
入学して以来毎回トップなんて取る奴いたら、そいつがいつトップからコケるかくらいしか気にしなくなるからな、周りも。
ま、その愚民共の期待を見事裏切って卒業までトップ突っ走ったわけだが…」

「日本一の進学校でそれだもんな…今更ながらすごいよな、コウ」

「成績トップでも…感じ悪いとか言われたら……」
感心するユートの言葉にも暗く答えるコウ。

「だ~か~ら~、所詮ゲームのデータだからな?
単にこのゲームでは魅力のパラメータあげないとそう言われるってだけで別にプレイヤーの人間性とかそういう問題じゃないからっ。
つか、お前それだけスペック高いくせにどんだけ打たれ弱いんだっ!
本気で落ち込むコウに半分呆れ、半分焦る和馬。

「本人の才覚だけで評価を勝ち取ってみろって言ったのはお前なんだが…和馬。
で、結果がこれなわけで…」
空気が読めないわりに言うことは正論すぎて、和馬も思わず言葉に詰まる。

「大丈夫♪姿も見せられない人達に言われた事くらいたいしたことないですよ♪
それでも嫌ならこれから魅力のパラメータあげればいいだけですし…
でもね、ゲーム内で魅力上げるよりは私のおかしくなったPC直してもらえば私から見た魅力がさらに上がってリアルで夕食やお茶菓子が豪華になるんですけど……」

その時自分のノートPCを抱えて姿を現したフロウがジ~っとつぶらな目でコウを見下ろしながら可愛らしい声で思い切り空気を無視して自己都合を主張した。
しかし…大抵その思い切り空気を無視したフロウの発言はコウを泥沼から引き上げる事になる。

「どうおかしいって?」
コウは顔を上げてフロウの方に手を伸ばした。
フロウはその手にPCを預ける。

「えと…ね…」
動作がおかしい部分を説明するフロウ。
それを聞いたコウが作業を終えると正常に動作を始めるPC。

すっかり元通りになったPCに満足げな笑みを浮かべてフロウが
「さすがコウさん♪なんでも出来ちゃう魔法の手ですね~♪」
とコウの手を取って頬ずりする。


「…やっぱり…姫を超えるキャラは居ないな。
あれは最強のチートキャラだ」
と、すっかり立ち直って機嫌よくフロウと話しているコウを見て、和馬は呆れた顔をした。

一同、色々思うところはちがうものの、最強のチートキャラという点だけは揃って同意で、うんうんと思いきり頷く。

「フロウちゃんがゲームのキャラだったら…」
と口にするアオイに、和馬がきっぱり
「すべての不都合を自分の都合で消し去る女神以外なかろう」
と言われてこれにも一同同意するしかない。

「姫ってさ…世界征服できそう…」
と、ため息をつくユート。
「なんのために?」
「うーん…」
悩むユートに、和馬がため息をついて言う。

「まあ、あれだ。
某〇ンリオキャラの世界をピンクに染めたいって言う野望くらい、物理的にはなんの影響もなさそうで、メンタル大打撃受けそうな野望を持ちそうだな…」
と言うのに苦笑する一同。

「某〇ンリオキャラと違って姫が怖いのは…」
「怖いのは?」
「世界に散らばる政財界の大物のコネを持っていて自身もとんでもなく高い能力を持つ勇者が、だな、もしそれが姫の仰せとなれば全身全霊を持って叶えようとするところだな」
「うああああぁあ…それ笑えなくねっ」

恐ろしい、全くもって恐ろしい事実に気づいた一同は、とりあえず無敵の女神さまの関心がおかしな方向に行かないように、ゲームはサクっとしまって、美味しいお茶菓子でティータイムを楽しむことにしたのだった。






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