温泉旅行殺人事件クロスオーバー_04

ギユウが身代金と引き換えに無事に戻った…そして新たな身代金の要求。
まあ…それでアオイも無事戻るんだろうな…と、ユートは自分達の離れに戻る錆兎とギユウを見送って自分も自分達の離れに戻ると、ベッドに身を投げ出した。

そして、ホントに…”凶”だったな、と内心苦笑いを浮かべる。
せっかくのお泊まりだというのにホントについてない。まあ…半分以上は自分のせいなのだが…。

毎年この時期には花火があがって、娯楽の少ない田舎だけに、この日だけは近隣の住民達もこっそり花火見物のために敷地内に入って来てしまうのも恒例で、今までは実害もなかったので黙認されていたというのは、あとで従業員から聞いた。

おそらく今年はその中に不埒な輩がいて、この高級旅館に泊まっているのが丸わかりの旅館が用意している浴衣を着た少女達が二人、無防備にいるのに目をつけて誘拐にいたった、そんなところだろう。

離れの方には母屋を通らなければ行けないし、母屋を通るにはフロントの前を横切る必要がある。
フロントに人がいない時には母屋から離れのあるエリアに行くドアは閉められていて、各離れの鍵と一緒に渡されるカードキーがないとドアは開かない。
ゆえに外庭に部外者が入って来ても離れの方には入れないため心配ないということだ。

ちなみにカードキーは各離れ1枚で、ユート達の場合はそれぞれ男が持っている。
だから露天へ続く外庭と離れのある内庭では安全度が全く違うのだ。

その辺を考慮して内庭から母屋まで普通にアオイ一人に鍵を返しに行かせていた錆兎を見て、その違いを理解していなくて外庭で女の子を二人だけで放置した自分の甘さが完全に今回の騒ぎの原因だとユートは深く反省する。


とりあえず…アオイが戻ったら何をしよう…と、ユートはうつらうつらしながら思いを巡らせる。

ギユウと同じく寝かされたままで怖い思いとかしてないといいなぁと、次に思う。
今日中に身代金の用意をという話だったなら、早ければ今晩には帰ってくるのではないだろうか…。

(落ち着いたら…まず錆兎にもう一度ちゃんと謝って…蔦子さんにも謝罪して…あとは……)
謝って謝って謝って…と考えているうちに眠りかけたが、その時内線がなる。




『あ、ユート君かい?わかるかな?氷川です』
相変わらず穏やかな声。

『今身代金と交換に人質の子が返されたって旅館の人に聞いてね、おめでとうだけ言いたくて…』
わざわざそれでかけてくれたのか、とは思うものの、手放しでは喜べない状況なわけで…。

そのままベッドに寝転びながらだと眠ってしまいそうなので、ユートは身を起こして苦笑した。

「一応…姫だけなんですけどね。犯人が二人同時に連れて来れなかったらしくて…というかもう一人分身代金が欲しかったのか…」

ユートの言葉に雅之が電話の向こうで
『どういうことかな?』
と不思議そうな声できく。

「あ~実は…」
ユートは事の顛末を雅之に説明した。


『なるほど…そういうわけだったのか。』
「はい。だからまだ完全に終わったわけじゃないんですよね…」
『でも…まあ身代金を渡せば無事に戻って来る事はわかったんだ、もうすぐだね』
「ええ、たぶん今日中にはなんとかなるんじゃないかと期待してるんですけど」
話しているうちに少し目が冴えて来て、それからしばし雑談。

『じゃあ疲れてるところに悪かったね。ゆっくり休んでね』
「はい、ありがとうございます」
電話を切ってユートはチラリと時計を確認した。

3時半…少し寝ておくか…。
寝転んでからはもう早い。錆兎同様前日は徹夜なこともあって、ユートも即眠りに落ちる。


ユートが目を覚ましたのも和田からの内線でだった。
錆兎と違うのは…

「犯人が身代金の受け渡しに近藤さんを指名しています」
という一言。
今度は自分なのか、と、少し驚くと共に、怪我人の錆兎にまた無理をさせずにすむ事にホッとする。

前回は犯人も身代金を二重取りをするために、身代金を受け渡すのと同時に無理難題なタイムトライアルをしかけてきたわけだが、今回はもう受け渡すだけのはずだ。
それだけなら怪我人の錆兎に重いスーツケースを運ばせるよりも自分が運んだ方がいい。

それについての説明をするからという和田にすぐ行く事を伝え、ユートは動きやすい服装に着替えた。

テーブルの上にはおそらく時間的に食事がとれないユートを旅館側が気遣ってくれたのだろう。
カプセル状のサプリメントと空腹を抑える系のグミ。
ユートはそれを急いで口に放り込むと部屋を出て母屋へと向かった。


ユートが母屋の取り調べ用の部屋につくと、すでにギユウを伴った錆兎は着いている。

「遅くなりました」
とユートは和田に軽く礼をすると、勧められた椅子に腰掛けた。
そこで和田が錆兎の時と同じく旅館が用意した携帯をユートに渡す。

今回は19:00に連絡があるらしい。
一応刻限は21時。それは犯人いわく単純に、警察が何か企むような時間を稼ぐ事態を避けるためだけに設定したらしく、受け渡しが終わった時点で人質を解放するとのことだ。

まあ危険はないだろうと、携帯とスーツケースを手に立ち上がるユートの腕をつかんで錆兎が
「やっぱり…俺が行く」
と、心配そうな表情をうかべた。

「錆兎…心配し過ぎだって。
今回は受け渡しだけみたいだし、前回みたいな事はないっしょ。
大丈夫、すぐもどってくるから」
とユートは、自分は平気で下手すると死んでもおかしくないような無理でもやってみせるくせに、仲間の事になると小さな怪我でも大騒ぎをするその心配性な友人に笑顔を見せる。

「でも…」
「相手は俺を指定してきてんだからさ。ただ受け渡すだけなんだし変に刺激しない方がいいって」
と、ユートはそれでもなお食い下がろうとする錆兎を軽く制した。

前回のようなタイムトライアルどころかサバイバルとも言えるような状況になるなら確かに怪我人だろうが素直に錆兎に任せた方がいいとは思うが、今回はただ多少重い荷物を指定された場所に置いて来るだけだ。

たいした事ではない…簡単な作業だ…

…のちに楽観的に考えていた自分を激しく後悔する事になるとも知らず、この時はユートはそう思った。



『まず確認しろ。携帯はマナーモードになってるか?
なっていなければマナーモードに設定しろ。着信音で警察に位置を特定されたくない』
部屋に戻ると携帯が鳴って、まず犯人からそう指示をされる。

ユートは指示に従ってマナーモードに設定し、その旨を告げた。
簡単なはずの役割でもいざ誘拐犯とのやりとりが始まるとなかなか緊張するな、と、ユートは内心苦笑する。

携帯をマナーモードに設定する。
その簡単な作業をするだけで手にうっすらと汗をかいていた。

『ではこの携帯を持って左側の道を通って露天方向へと向かえ』
そう言って返事をする間を与えず、携帯が切れた。

ユートはジーンズで手の汗を拭くと、少し落ち着こうと深呼吸をして、スーツケースを持ち上げる。
そのまま部屋を出るとユートは母屋を抜けて左の道を進んだ。


暗い…。

普段は電灯が照らしているのだが、今は犯人の指示で切っているらしい。
月明かりをたよりに暗い道を歩いていると、なんだか肝試しでもしているような気分になる。
まあ…ユートはあまり幽霊とかの類いを信じる方ではないので、それですくんだりする事はないのだが。

母屋から外庭にでて10分。携帯が振動する。

「はい?」
ユートが出ると、犯人からの指示。

『露天前の風よけ小屋の椅子にスーツケースを置いてそのまま戻れ。それで終了だ』

(なんだ、簡単じゃん)
ユートはホッとする。


暗くて若干歩きにくいものの、さすがに普通に歩いて30分の道のりが2時間かかるわけはない。
というか…遠く先からは明りが見える。
おそらくここに来るまでに警察に付けられないようにという事で電気を消していたのだろう。

ユートは明りを目指して駆け出した。
急に目の前がかすむ。
カクンと何かに足を取られた。

(…あ…れ…?)
そのまま…前のめりにユートは倒れた。


 
嫌な予感がする…。

犯人の指示で警察を含む全ての人間が外庭に出るのを禁じられているので、錆兎は不安な表情で母屋から外庭に向かうユートの後ろ姿を見送った。
まあ…おそらく自分は過剰な悲観主義者なんだろう、楽観的な方向に考える事などまずないわけだし…と思ってはみるものの、嫌な感じがぬぐえない。

(やっぱり俺が行けば良かったな…)
ロビーのソファに座ってため息をつく錆兎。
ギユウが側にいてくれるのがせめてもの救いだ。

もう1時間たっている。
犯人にしてもユートにしてもいい加減何か言って来てもいいじゃないか、露天までだってゆっくりゆっくり行ったとしてももう着いてるだろうし一体どこまで行ってるんだと、錆兎は落ち着かない。

待ってるのは苦手だ。
目の前の困難を打ち砕くのは得意でも、不安を抱えて待つのは本当に苦手だと思う。

ソファに座る錆兎の足の間に抱え込まれる様に座って旅館側が用意してくれた軽食をつまんでいたギユウは、相変わらずそんな錆兎の不安を汲む事もなく、
「そう言えば…ちゃんと離れによって全部お香変えてるんだね」
と、緊張感のない話を始めた。

「さっき他の方々が通った時に色々なお香のかおりがした。
私は私達の部屋のお香が一番好きだけど…」

なんで…こんな時にそんな事に頭がいくのかがわからない。
まあ…さっき立ち止まっていたのはそういう事だったのかとは納得したが。

「あ…そういえば、それで思ったんだけど…」
錆兎の反応がない事も気にせずギユウがとりとめのないおしゃべりを始めようとした時、フロントの電話がなった。

『どうなってるんだ?何か画策してるのか?
前回身代金を受け取る前に人質を返す手配をしたからといって、今回も同じだと思わないで欲しい。おかしな真似をしたら人質の命は保障しないぞ』
和田がオンフックにした電話から流れる犯人の声。

その言葉に錆兎がはじかれたように立ち上がって電話にかけよった。

「どういう事だっ?!
こちらは指示通り身代金を持たせて外庭に出るのを見送っただけで何もしてないぞ!」

不安で心臓がバクバクする。
まさか…ユートに何かあったのかっ?!

『こちらはもう受け渡し場所は指示した。
だが、もういくらなんでも着いていても良い時間だが一向に来る気配がないぞ。
連絡をいれても出ない』
その犯人の言葉で錆兎の顔から血の気が引く。

『まあ…いい。刻限まであと1時間は約束通り待つ』
そう言って犯人からの電話は切れた。


一体何が…?
周りのざわめきを他人事のように遠くに聞きながら、錆兎は可能性を探った。

事故…はないだろう。
真ん中の道には例の吊り橋がかかっていた崖があるが、左右の道はそういう意味では何もない。
道を外れたところで草や土、せいぜい小川で足や服を汚す程度だ。
暗くても月あかりもある。道を外れない限り迷う事もない。

ユートが大金を持って歩いている事を知った第三者に襲われた?

しかしユートがこの時間に身代金を運ぶ事を知っていたのは警察関係者と自分とギユウ、それに旅館の支配人くらいだ。
ルートは自分達ですら母屋からユートが進むのを見て初めて知ったのだ。
待ち伏せなんてできるはずがない。

わからない…一体何があったんだ?
錆兎は頭を抱えた。


やっぱり自分が行くべきだった!

アオイやギユウは…放置すると危ない目に遭う事もあるという認識は常に持っていたが、ユートに関してはそういう意識が薄かった。
ユートに何かあるなどと考えた事もなかった錆兎は後悔すると同時に動揺した。

あと1時間…。
犯人いわく1時間もあれば着く距離なら、ユートが無事なら辿り着くだろう。
もしたどりつかなかったら……

錆兎の不安をよそに時間は刻々と過ぎて行く。


そして…21時。
フロントの電話が鳴った。

『時間切れだ。身代金を払う意志がないものとみなす』
とだけ言って、反論する間も与えずに電話が切れた。

青ざめる一同。
和田が即ユートに持たせた携帯に電話を入れるが当然出ない。


アオイもだが…ユートは一体…
和田は即ユートの捜索指示を出す。

自分もジッとしていられない、とは言うものの…
錆兎はリスのような大きな青い瞳で自分を見上げるギユウを前に悩んだ。

探しに行きたい…が、ギユウから目を離すのは怖い。
かといって連れて行くわけにも…

「和田さん、姫お願いします。絶対に目を離さないで下さい」
錆兎は悩んだ挙げ句、それでもギユウを和田の方にやると、反論する間も与えず外へ飛び出した。


唯一の…同年代の同性の友人…親友だ。
最初の事件の早川和樹の時の様に死んでしまってから後悔はしたくない。
錆兎は先を行く警官達を追い越して、暗い夜道を走る。

「ユート!!どこだっ?!!!」
そして足場の悪い暗い道を走り抜けながらも、たまに立ち止まって草が踏み荒らされた跡がないか探した。

やっぱり自分が行けば良かった…と先ほどから何度も思っている事をまた思う。
物理的な事はできるもののしばしば冷静さを失って、あるいは普通に空気が読めなくてもめそうになる自分にユートはいつでも当たり前にフォローを入れてくれていた。

先陣を切って突っ込む人間ではなく、いつでも暴走する仲間に後ろでフォローを入れてくれるタイプの人間なのだ。
そんな人間を危険かもしれない場所に放り込んだ自分のミスだ。
あの時ユートがどんなに言っても、殴ってでも止めて自分が行くんだった。

かけがえのない親友…それを判断ミスで取り返しのつかない状態にしたかもしれない。
ギユウがいなくなった時とはまた違った、それでもどうしようもなく大きな不安感。

「ユートっ!!どこだ~~っ!!!」

潤みかける目をシャツでぬぐって、錆兎はまた走り出しては止まって目を凝らす。
遠くに明りが見える…。
あそこまで行けば少し視界が良くなるか…と、錆兎はまた走りかけて、ハッとした。

「ユートっ!!」
草むらにぼんやりと浮かぶ人影。
錆兎は走りよるとユートを抱き起こし、もう条件反射で脈を確認する。

…生きてる……
安堵で力が抜けた。
気が抜けて放心していると、警察が集まって来た。


「…脈はあります…」
放心しつつもそう報告する錆兎の周りでは、警察が放り出されたスーツケースを回収している。
暗闇で…明りに向かって急いだ時に転倒したようだ。

意識がないというのは…打ち所が悪かったのか?!
また新たな不安がわきあがってくる錆兎。

「とりあえず…旅館に…」
と、声をかける。
そしてユートは担架にのせられて母屋に運ばれた。



眩しい…。
ユートは眩しさに腕で明りをさえぎった。

「ユートっ!!気がついたか…」
明りと自分を遮るようにできる影。
聞き慣れた声がそう言って、大きなため息。

「…錆兎?」
いぶかしげに目を細めるユートに錆兎は
「平気か?どこか痛んだりとかはないか?」
と心配そうに言うと、顔をのぞきこむ。

何してるんだ、自分…と一瞬考え込むユート。
そして…思い出したっ。

「錆兎っ!受け渡しはっ?!!」
ガバっと起き上がって錆兎の腕をつかむユートに、錆兎は無言。
「俺……失敗…した?」
呆然とつぶやくユート。

「暗闇で足を取られて転倒したあと、そのまま意識失ったっぽい…。
お前…部屋帰っても寝てなかったんだって?
雅之さんが心配して聞いて来て…責任感じてた…」

確かに…寝不足だったかもしれない…でも…こんな状況で寝てしまうのは…
言葉もなく青くなるユート。

「身代金は転倒したお前の近くにあった。手つかずだった…」
「まじ…か…」
ユートは頭を抱えた。

「それでっ?!次の受け渡しはっ?!」
自分の腕をつかんだまま揺さぶるユートに言葉がない錆兎の代わりに、和田が答える。

「22時の時点で犯人から身代金を払う気がない認定の電話が入りました。
が、まだ遺体が見つかったわけではありませんし、気が変わって再度の身代金の要求があるかもしれません。
警察としても全力をあげて解決に向けて動いてます」


ありえない…自分のせいだ…。
さらわれたのも自分のせいなら、戻れなくなったのも…。

茫然自失のユート。
錆兎は少し身をかがめてそのユートに視線を合わせる。

「アオイは絶対に助ける」
ユートの腕をつかんで錆兎が言う。

無理だ…とユートは思う。
身代金を払う意志がないと見なされたのだ…。

当たり前だ。
2時間…普通に歩けば30分の距離を2時間かけてたどりつかなければそう思われても仕方がない。
錆兎みたいに妨害があったわけじゃない。
犯人は辿り着かせる気満々で、思い切り時間の余裕を持たせたのだ。
それを自分は……

「…無理だ…」
虚ろな目で言うユートに錆兎はきっぱり言い切った。

「無理じゃないっ!遺体確認するまでは絶対に無理じゃない!
助けよう!諦めるなっユート!」
「無理だろっ!普通に考えてっ!」
ユートは錆兎の手を振り払って叫ぶが、錆兎はそのユートの声を上回る大きさで叫ぶ。
「俺は諦めないっ!絶対に諦めないから、お前も諦めるなっ!!」

「とりあえず…二人ともご飯。お腹すいてると余計に悲観的になると思う。
お部屋にもって帰って良いそうなんで、お部屋でゆっくり食べよう?」

怒鳴りあう男二人とは対照的に、相変わらずぽわわ~んとした口調で言ってギユウが食事を指差す。
一瞬…あまりにこの空気に似合わないそのお気楽なギユウの様子に呆然とする男二人。

「たぶん…大丈夫だ…。
アオイに何かあるなら…いくらぎゆうだってあれはない…と思う」
「…うん…そんな気が…してきた…」

そう…100の理屈よりも確かな勘。
冨岡家の女はそれを持っている。
あの落ち着きっぷりは…その超能力並みの勘の良さでアオイの無事を確信しているのかもしれない。
幽霊の類いを一切信じないユートですら…そのギユウのありえない確かさな勘は信じざるを得ない。

そして…男二人、大人しくお姫様の言う通り食事を離れに運び込む。
3人で食事…。


「もう、やる気足りないよねっ」
食事を摂りながらギユウが唐突に言った。

「すまん…」
「ごめんっ」
それに即謝る男二人に、ギユウはきょとんと首をかしげた。
サラっと艶やかな髪が肩を流れる。

「誘拐犯の事よ?」
不思議そうに言うギユウに不思議そうな顔をする二人。

「やる気の…問題なの?」
彼女が不思議ちゃんなのはいつもの事で…それでも突っ込みを入れずにはいられないユートに、ギユウは真顔で首を縦にふった。
「だって…身代金欲しければ取りにくればいいじゃないですか…ユートさん寝てたわけですし…

ズッキ~ン!とくる事を言われて胸を押さえてため息をつくユート。
普段ならそこでさすがにフォローが入るわけだが…錆兎は無言。

「わざわざ2回にわけるくらい欲しいなら、少しくらい自分も頑張らないとですよ!
欲しくないとしか思えませんよっ?!」
ぷぅっと頬を膨らませるギユウに、それまで無言で考え込んでいた錆兎は
「…そう…だよな」
と、まだ何か考え込みながらうなづいた。

「サビト?」
何か真剣に考え込んでいる親友にユートが問いかけると、錆兎は何か思いついた様にもう一度、
「そうだよなっ!」
と、今度ははっきりと口にした。

「どう考えてもおかしくないか?!」
箸を放り出して錆兎はユートに詰め寄る。
「お、おかしいって??」
その勢いにちょっと戸惑うユート。

「考えてみろっ。
2回も受け取りにくるなんて危ない橋渡んないでも、1億欲しければ最初に二人で1億って言えばいいわけだろ?
二人を同時に返すのが無理なら別に同時に返さないでも別々に返せばいいわけだしな。
考えてみれば、なんだか色々がおかしい気がして来た…」

「そう言われてみれば…」
勢い込んで言う錆兎にユートもそんな気がしてくる。

そうだ…二人さらったなら返すなら二人とも返すはずだし、返さないなら二人とも返さないはずだ。

(…よく考えるんだ…何かひっかかる…)
錆兎は腕組みをして考え込んだ。

最初の受け渡しの時…犯人は元々ギユウしか返す気がなかった。それは確かだ。
一人しか返す気がないなら何故条件をクリアしたら二人とも返すと言ったのか…。

さらに言うなら、一人しか返せないなら何故見るからにお金持ちのお嬢様のギユウを返してアオイを残したんだろうか…。
本当にもう一度金が欲しいなら、確実に金をだせそうな親を持っていそうなギユウを残さないと意味が無い。

犯人は…アオイを返したくなかった…あるいはギユウを返したかった…いや、両方なのか?
最初の受け渡しの時に条件をだしたのはフェイクだ。
犯人はアオイを返す気がないのを隠したかった。

だがそれなら物理的に返せない様に殺してしまえばいいだけなのに何故隠す必要があったのか…
それはおそらく…ギユウを返す事によって犯人が他にそれと知られる事なく恩恵を受ける事を隠すため。

普通にアオイだけ殺してギユウだけ返せば、”犯人がギユウを返さなければならなかった理由がある”のを悟られる可能性が高かった。
アオイは”犯人が返しては困る何か”を知っていて、ギユウは”犯人が返さないと困る何か”を知っているのか…。

今…こんな新たな犯罪を犯してまで隠さないと困る事と言えば…小澤の殺害…。






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