序章 (前日)
「私さ、木村君とつきあう事になった♪」
クラスメートの浅倉真由からの電話。
そう”クラスメート”。
その前に”仲の良い女の”という言葉がつくわけだが…
「今だから言うけどさ、私1年の頃は悠人の事ちょっと好きだったんだ。でも悠人ってみんなに優しいっていうか…私が特別だからなわけじゃないじゃん?んで、そんな時さ…木村君に会ったわけよ♪」
それからまあ延々とノロケ話をきかされたわけだが…。
と、俺は相手にわからないようにこっそりため息をついた。
真由だけじゃない。もう何人の”仲の良い女の”友達に同じ台詞言われただろう…。
身長182cm。顔は…すごいイケメンとかじゃないけど、まあ悪い方じゃないと思う。
成績中の上、人当たり◎、友人多し。
そんな俺の評価は”誰にでも優しい良い人”。
”モテそうだよね”と言うものの、じゃあ自分が彼女にって言う女はほぼいないというのがミソだよな。
そして今日も秘かに良いなって思ってた相手から彼氏げつ宣言されたわけで…
いつでも決して”主役(彼氏)”じゃなくて”脇役(良いお友達)”な俺…
近藤悠人、高校2年生17歳。家族は両親と姉妹。
彼女なし!つか微妙に失恋風味?
そんな最悪にして退屈な夏休みのはじめに小包が届いた。
…差出人は日本でも屈指の有名大企業、三葉商事だ。
なんだこれ???
開けてみたら入っていたのは手紙と一枚のゲームディスクとそのマニュアル。
とりあえずディスクは置いておいて、白い封筒の封を切ってみる。
【拝啓 近藤悠人 様】
今回当社はある試みのため、都内在住の12名の高校生の皆様に無作為に同封したオンラインゲームのディスクを送っております。
このゲームは魔王を退治する事を最終目的としたRPGです。
そして魔王を倒した一名様に賞金1億を差し上げます。
なお、この他にもミッションを一つクリアするごとに賞金10万円を進呈いたします。
もちろんネットにつなげる環境さえあれば、費用は一切頂きません。
◆受付開始日時
7月25日午後8時。
◆アクセス可能時間
開始日~目的達成時までの8時~0時(この時間以外はサーバーにアクセスする事はできません)
◆参加資格
この通知を送られたご本人様のみ。他者への譲渡は不可とさせて頂きます。
なお、ご本人様であれば一度不参加の意思表示を取られたあとでも再度の参加は可能。
キャラデータ等は目的達成時まで保存しております。
また、ディスクを紛失、破棄してしまった場合も再度送らせて頂きますので当社窓口までご一報下さい。
その他詳細につきましてはマニュアルをご覧の上、ご不明な点がございましたら当社窓口までお問い合わせ下さい。
※すみやかにゲームを始める為に、あらかじめゲームのインストール作業を行い、 マニュアルに目を通しておいて頂く事をオススメします。
はあ??
問い合わせ先は確かにその企業の代表窓口だ。
念のためにこういう物が送られてきたんですが?と問い合わせてみたけど、確かにその企業でやっている試みだと返答が返ってきた。
嘘や釣りではないらしい。
一応本当らしいとの前提の元に、とりあえずマニュアルを開いてみる。
基本操作…はまあやりながら覚えた方が早いので、とりあえず先に即必要になるであろうキャラメイクに目を通してみた。
全ジョブ7種類。
1ジョブにつき選択できる人数は二人。
ようは…戦士というジョブをやりたい人が三人いても、二人までしか選択できないため、残った一人は別ジョブを選択しなければいけないと言う事だ。
ジョブの選択は早いもの勝ち。
ただし、キャラを作り変える事や、ジョブを変える事はできない。
んで、選択できるジョブは以下の通り
ただし、キャラを作り変える事や、ジョブを変える事はできない。
攻防の値の基本になっているのはウォーリアだ。
◆ウォーリア
攻守共にバランスの取れた近接アタッカー
◆ベルセルク
攻撃特化の近接アタッカー。攻=倍、防=半分
◆アーチャー
遠隔物理アタッカー。攻=倍、防=4分の1
◆ウィザード
魔法アタッカー。攻=倍、防=10分の1、範囲攻撃可、属性によって得手不得手がある。
◆プリースト
ヒーラー。治癒、蘇生魔法の使い手。攻=10分の1、防=5分の1
◆エンチャンター
攻防命をそれぞれ倍加する魔法の使い手。攻=4分の1、防=半分
◆シーフ
近距離&遠距離物理アタッカー。攻=半分、防=3分の1、回避=4倍
男女でパラメータの差はないから、外見はまあご自由にといったところらしい。
ミッションを一つクリアするごとに10万円かぁ…。
これあればバイトしなくても夏休み遊んで暮らせるかぁ…
一億円なんてどうせ取れないだろうけど、暇つぶしに遊びながら10万ももらえるなら御の字だよな。
一応大企業のやることだからおかしな事にはならないだろうし、ちょっとやってみるか。どうせ暇だし。
と、俺はとりあえずインストールするためディスクをPCに放り込んだ。
本当に何にも考えてなかった。
周りはどんどんカップルになってって欝だったし、暇だったし、かといって勉強するのもダルかったし。
普段だったらもうちょっと考えたのかな~とか思うけど、考えない方が時に幸運ていうのは転がり込んでくるのかもしれない。
まあ…この時の決断ていうのは、本気でついてない俺の人生を180度変えるものになったんだが、この時はそんな事予想だにしていなかったんだ。
キャラクタ作成 (初日)
ネットゲーはぶっちゃけ初めてじゃない。
ダチのつきあいでアイテム課金制のネットゲーを少しだけ…課金しなくてもつらくない程度の所までやったことはある。
まあ…始まっちゃうとあれってなかなか画面から離れられないから、なんかつまむもんでも買ってくるかと、俺がコンビニ行くため靴はいてると奥から
「悠人~、コンビニ行くならプリン買ってきてよ、プリン」
と姉貴の声。
あの野郎、絶対に俺が動くの待ち構えていやがったな。
外では優しく人当たりの良い気遣いの人として通ってる姉貴。うちでは暴君。
もう裏表ありまくりで…俺が女がいまいち信用できずに積極的になれない諸悪の根源。
「あとで利子つけてプリン代返せよ!」
とだけ声をかけて俺は暗くなった道路をチャリでコンビニまで疾走した。
コーラと厚切りのポテチと…姉貴のプリン。
それだけ買って大急ぎでまた家に戻る。
20時にまにあわね~!!
「あとで絶対金かえせよっ!!」
とだけ言って、大急ぎでプリンを渡すと、俺は自分の部屋にかけこんだ。
あわててソフトを立ち上げる。
そして立ち上がるジョブ選択画面。
さて、ジョブどうするかな~。
どうせ魔王倒すまでなんてやらんし、ある程度ソロできりゃいっか~。
ということで無難にウォーリア…ポチっと……
”そのジョブの受付は終了しました”
あっちゃ~、そいえば1ジョブ二人までだっけ。
んじゃ、ベルセルクか…ポチっ
”そのジョブの受付は終了しました”
うあ…もしかして…めぼしいのはみんな埋まってたり?
その後とりあえずソロいけそうなアーチャーとかウィザードとか選択してみたけどだめ。
もう…ポテチ買ってるばあいじゃなかったか…。
あと残ってるのはプリースト…もだめ。
ってことは…これで5ジョブ10名埋まってる事になるから、残りシーフとエンチャンタ。
全部で12名って事は俺と@1名。
もう一人がどちらを選んでるにしても、もう人数制限にひっかかる事はない。
ゆっくり考えるか~。
どちらも攻防共に微妙なジョブ。
ソロは諦めた方がよさげだな。
となるとパーティーに入りやすいのは…まあ回避だけ高いシーフよりは支援系のエンチャンタだよな。
エンチャンタ…決定。ポチっと。
そして目の前には黒い画面に白い文字でデカデカと…
”あなたのジョブはエンチャンタに確定しました”
まあなんていうか…どこをどうやっても脇役っぽいのが俺らしいよな…。
ということで次へをクリック。
すると黒い画面が一転してブティックの試着室のような部屋の画面へ。
中にはまだ何も決まってないためマネキンのようなキャラがたっている。
性別は…男。
まあ女選んだ方が便利そうではあるけど、もしかしたら気が合う奴できてリアルで会おうとかいう話にならないとも限らんし、その時にあんまり違和感与えるようなキャラは面倒だよな。
ということで容姿もなるべく自分に近づけて…。
最後に名前はやっぱり呼ぶ時に違和感ないようにユート。
ポチッと完了ボタンを押すと、画面の中の自分にちょっと似た感じのキャラクタがクルクル回って光の渦の中に消えていき、プロローグ画面になった。
舞台はイルヴィス王国。
光の神を奉るその国を滅ぼそうと闇の魔王がモンスターを送り込んできているというありがちな設定。
参加者はその国お抱えの兵で、ミッションをクリアするごとにより重要なミッションを任せられ、最終的に魔王退治を命じられるっぽい。
プロローグが終わると、真っ赤な短めのマントを羽織った自分にそっくりなキャラが街の広場にたたずんでいた。
まずは…地道に装備代でも貯めつつ仲間探しか~。
このジョブソロで真面目に経験値稼ぎしようなんてありえんもんな~。
すでに出遅れてもう誰もいなくなった街中を一通り探索したあと、俺は他の参加者の姿を求めて外へと足を踏み出した。
パーティー結成 (3日目)
40…50…59……おしっ20時っ!
毎日毎日他のプレイヤーを探しまわる日々にさすがに飽き飽きして、今日こそはと20時ぴったりにインしたわけだが…なんで誰もいないんだよっ。
街でてすぐの所でインしてるんだけど、他のプレイヤーに会った事がない。
みんなもしかしてもうある程度レベル上がって現地でログイン、ログアウトしてんのか?
あ~もうチンタラチンタラやってんのも飽きてきたな~。
マジ爽快感もないし、つまんね~。
つかさ、他のプレイヤーいないオンゲーなんて意味ないよな。
好きなジョブ選べるだけオフゲーのがまだましだ。
ミッション達成金の10万の話なきゃとっくにやめてる。
しかたなしに近場の敵叩いてるうちにLv4になって装備も買い替えたわけだが…こんな事してる間にどんどん他との距離が離れてってんじゃないだろうか。
俺は決意した。
今日はLv上げ中断!意地でも他のプレイヤーみつけてやるっ!
そして歩き回る事10分。
ようやく人影発見!
見るからにシーフな茶色の皮鎧の女の子と見るからにプリーストの白いドレスの女の子。
協力してやってんのかと思ってみたら、名前の横にパーティーマークついてない。
二人それぞれソロやってるっぽい。意味あるのか、これ。
二人して通常会話を垂れ流しながらそれぞれ狩り。
お互いを無視してるわけでもライバル視してるわけでもなく、なごやかにやってる模様。
様子見がてらちょっと二人から見えない所で敵を狩り始める俺。
「ごめんね~。私魔法もないし何にも役にたてなくて…」
とシーフの子が言うのにプリーストの子が
「自分にだけ回復魔法かけても寂しいから…
私の魔法が誰かのお役にたてるのってそれだけで楽しいんです(^-^ 」
と答えてる。
俺はその微笑ましい会話で納得した。
たぶん二人ともパーティー機能知らないんだな。
行動開始。
説明するならパーティー会話の方が確実だし、と、俺は二人にパーティーの誘いを送った。
即パーティーに入ってくる二人。
不思議そうに周りをキョロキョロ見回してる。
ちなみに…会話方法は全員に伝わる通常会話の他にパーティーだけに伝わるパーティー会話、あとは特定の個人にだけ話すウィスモードがある。
まあこのままだとただの怪しい奴なんで、おれは姿を現してパーティー会話で
『こんちゃ。急にごめんね』
と挨拶をした。
シーフのアオイと、プリーストのギユウ。
案の定パーティー機能知らなくて、でも二人仲良くなったから一緒にって感じで隣で狩ってたらしい。
そこでパーティー機能とか基本的な事説明してやったら、すごく尊敬の目で見られた。
ネットゲーの中のキャラとはいえ、女の子二人に感心されるのは悪い気はしない。
まあでも二人ともゲーム自体にうといし、俺の予想だとリアル女の子かな。
アオイは…シーフなとこみると、たぶん俺と同様出遅れ組。
キャラの容姿も普通っぽくて、自分に似せたのかななんてそんな気がした。
素朴っぽくて素直で可愛い。
ギユウはいかにもファンタジーのお姫様。
まあRPGなんだろうな。リアルでこんなお姫様オーラふわふわ振りまいてる人間みたことないし。
でもRPGにしてもよくできてるっていうか…オフゲーの仲間キャラだったら多分ヒロインとして大事に連れ歩いてる、そんな感じのキャラ。
どっちにしてもこれでようやく落ち着いて経験値稼ぎができる。
プリーストいるとマジ楽。
このゲームはHPやMP減ると座って徐々に回復するの待たないとなんだけど、彼女がヒールかけてくれるおかげで、俺とアオイはエンドレスに殴れる。
もちろん、回復魔法をかける時以外はギユウはお座りで回復魔法使って減った回復。
贅沢言えばあともう一人純アタッカー欲しいとこだけど、エンチャの火力不足もシーフのアオイと二人で殴る事である程度補えるし、もうソロには戻れんね。
『私達…結構すごいよねっ!このまま魔王に一直線?』
アオイもシーフだからそのあたりのダルさは似た様なものだったんだろうな、やっぱりテンションあがってる。
ギユウはニコニコと…ペース上がってもあんまり変わらない。なんだろう…やんごとない感じの不思議ちゃん。
まあ確かに3人集まって強くなってきた。
魔王は当たり前に無理だけど、そろそろミッション1くらいはできないかね。
それで10万もらえるわけだし…。
というわけで、俺は二人にミッションの説明をした上でミッション1に誘ってみる。
受託自体はプロローグで強引にさせられてるから、ちょっと離れた山の麓の衛兵に手紙とどけるだけ。
道沿いに行けば敵には絡まれないとは思うんだけど、そんなに街から離れた事ないから実際に遠くても道沿いなら絡まれないかは本当の所は謎。
倒せない敵に絡まれて死ねばデスペナルティで多少経験値が減ったりするんだけど、まあこのレベルだと痛くもないしな。逆にそのあたりはあんまりレベル上がらないうちに試した方が良いかも知れない。
てことで、二人を連れてミッションの山へご~。
……たるい…。
山までは直線距離だとたいした事ないんだけど、道はクネクネ曲がってて、道沿いに行くとすごい距離だ。
『もうさ…道沿いいくと一日終わりそうだし、直線つっきっちゃうか~』
俺が提案すると了承する二人。
かくして…俺らはモンスターに絡まれるの上等で草むらをつっきる事にした。
まあ…倒せるはずだったんだ、”地上の”モンスターなら。
ところが俺達はいきなり草むらに隠れてた落とし穴に落っこちた。
ズザザザザ~って感じで転げ落ちるとそこは暗い洞窟。
やばいよな…。
どうみても上級者向けの狩り場。
地上の敵はRPGでは最初の敵としておなじみのスライムとかだったんだけど、こっちコウモリだよ。
強さはわかんないけど、まあスライムより数段強いのは確か。
『ねえ…ここどこ?ユート』
少し心細げにアオイが聞いてくる。
こういう時にふと出る女の子っぽい言葉って、やっぱりリアルの地なのかなぁなんて、こんな時なのに広がる妄想。
ここで一発カッコいいとこみせて株あげたいとこだけど、マジこの攻防共に微妙キャラなエンチャンターじゃどうしようもない。
『死んで戻るしか…ないのかな…』
なんてヘタレな台詞吐くなさけない俺。
言ってから思い切り自己嫌悪に陥る俺を尻目に
「ん~でもさすらってればいつかはどこかに辿り着くのでは?(^-^ 」
と、いきなり元気になって歩き出すギユウ。
おいおいっ!!!
『うあああ~!!ギユウちゃん、待ってっっ!!!』
またも情けない俺の悲鳴。
だってさ、コウモリに突っ込んでますよ?このお嬢さん。
アクティブかどうかも確認せずに……
マジ、RPGじゃなくて天然なのかよっ!!
案の定絡まれる。一撃でHP真っ赤。
あ~あ…って半分あきらめのため息ついてたら、ザクっと一刀両断にされるコウモリ。
かっけ~!
闇に浮かびあがる青白い大剣を担いだベルセルク。
俺もやっぱりこういうジョブ取りたかったな、ちきしょ~!
ギユウは…助けられて安全になったにも関わらず、回復もせずその場をクルクル回ってる。
なんつ~か…マジ不思議キャラ。
例のベルセルク、サビトはそんなギユウに
「とりあえず自分を回復しとけ」
と声をかける。ま、もっともな意見だ。
そろってレベル4な俺らと違ってレベル10。
3日でLv10か~。
やっぱりジョブ格差でけ~とか思ってると、サビトは俺らにも気付いたらしくビシっと指をさして叫んだ。
「そこの馬鹿二人っ!!いますぐコウモリの群れに特攻して100回死んで来いっ!!」
あ~そうきたか~。
確かに攻防微妙とは言え一応このパーティーの中じゃ前衛な俺ら二人がいて、一番柔い後衛のプリーストを前面で歩かせてたら外道だよな、俺ら。
でもまあ…初対面の人間にそこまで言われる筋合いはないわけだが…。
「初対面でそれってあんた何様よっ?!!」
俺は心の中で思ってただけなんだけど、アオイはそのまま口に出した。
まあ…気持ちはわかる。
つか、俺もそう思うけど、今の現状考えたらさ、突破口になるのは、おそらくこの辺りの敵撃破できるLvと力があって、とりあえずギユウの事は助けてやってもいいって思ってるらしきこのベルセルクだけなわけで…。
喧嘩しても良い事ないよな、なんて非常にあざとい考えの元に俺はそれをなだめる事にした。
「パーティーメンを助けてくれてありがとう。俺ら慣れてない上に、落とし穴に落ちてここにきちゃって戸惑ってるうちに絡まれちゃって…」
ヘラっと表でベルセルクに言いつつ、パーティー会話では
『とりあえずお礼が先。助けてもらったんだし、ねっ(^^)』
とアオイをなだめる。
「ギユウちゃんを助けてくれた事は…お礼言うわ。ありがとう。
でもいきなり100回死んでこいはないんじゃない?」
一応説得されつつも不満が隠しきれないアオイ。
これじゃ相手の機嫌取るの無理ぽ~。
最悪…やっぱり死に戻りかなぁ…なんて考えてると、ベルセルクのサビトはもうカチカチの硬質で生真面目な感じで、でも今度はいくらか冷静な感じに
「敵から後衛守るのが前衛の仕事だろうが。後衛は装備できる防具も柔いし受けるダメージも違うんだからな。前衛がちゃんと守んないとすぐ死んじまうだろっ」
と、諭し始める。
そんなのわかってるんだけどさ~、しかたないじゃん?
とか思ったのは俺だけだったらしい。
なんとアオイはあっさり
「ごめんなさい…ゲームってほとんどした事なくて、パーティー組んだのも今日初めてだったから全然知らなかったの。これから気をつける」
うあ…なんていうか…やばい、可愛い。
いかにも女~みたいな風に振る舞わないのに、変なとこで妙に女の子っぽい。
それがいかにもリアルな感じでもうやばいかも、俺。
そこでチラリとサビトを伺うと、サビトは
「わかればいい、覚えておけ」
と、これまたあっさり収めた。
…けどまあ…別にアオイに興味持った風もないかな。ちょっとホッとする俺。
怒りはとりあえず収められたみたいだから、これで交渉可?とか思ってると、サビトはなんと自分の方から
「とりあえず…いれろ。送ってく。
お前らだけじゃ帰れないだろ。そんなLvで来る所じゃないしな、ここ」
と申し出てきた。
もちろん俺らの方に異存があろうはずもなく、謹んで申し出をお受けする。
そこでまあわかった。こいつ…あれなのか。いわゆる委員長タイプ?
あれだけぶっきらぼうで俺様な感じの初対面とは裏腹に、帰る道々、聞きもしないのにこのあたりの敵についてとか、このゲームでの注意点、ひっかかりやすい罠の事など色々親切に教えてくれる。
ジョブ格差とかもあるけど、こいつの知能的なスペックが高くてこのLvなのかも。
最初の時点では同じだけの情報しか与えられてないのに、すごい必要な情報ピンポイントで集めてる。
その一方で、たぶんこいつなら1億狙えるかもってくらいな感じなのに、それとは裏腹に1億取る気ないんだなってくらい人がいい。
『ここはだいたいレベル10くらいで少し強めに感じるくらいの敵がいる場所だ。
だから道々絡まれたらとにかく俺の近くにこい。敵のタゲをとってやるから。
で、敵が一度に2匹以上来たら、俺がタゲをとって出口と反対方向に走るから俺と反対方向に逃げろよ。
そこからはなるべく敵から距離とって絡まれない様にな』
って。
それに対してアオイがさすがに
『んで?サビトはどうすんの?死んじゃわない?』
と聞くと
『そりゃあ死ぬな』
『いいん?』
『それが前衛だから無問題』
うあ~お前勇者かよって感じだ。
もうあれだな、クラスの安全は俺が守るくらいな感じ?
こいついると今後楽だよな~なんて思いつつも、でも接点なさすぎな現実。
Lv倍以上だし、俺らは便利でもこいつにしてみたらずっと行動共にするメリットなさすぎ。
たまにみっそん関係の質問ウィスでも送って関係つないでおくか~なんて思ってると、いきなりギユウ
「あの…何故帰るんですか?」
え~っと…ここで何するんですか?
サビトいないと俺ら即死しますが?
つか、サビトが俺ら送ってくれる気があるうちに帰っておかないと死に戻りなんですが?
色々な質問が頭を回って、何から切り出していいかわかんない。
もう…なんだか可愛いんだけど不思議ちゃんすぎてついて行けない、彼女は。
アオイもどう反応していいかわからないらしく無言。
でも使命感に燃えるサビト君は頑張ってその電波につきあうつもりらしい。
『意味がわからん。帰らないでどうするんだ?』
と、答えた。
まあ…すごく端的にして的確な質問だ。
やっぱりこいつ頭いいや。
「せっかくここまできたんですし…
ここでレベルあげすれば良いんじゃないでしょうか?(^-^ 」
まあ…ゲームやったことないらしいし…わかってないんだなって納得するギユウの答えに、サビトはまた答えた。
『えと…な、さっきも言った通りここはレベル10くらいの狩り場なわけだ。
んで?レベル4の3人がどうやってそこでレベル上げするって?』
そこまで律儀に説明せんでも…”ここの敵強いんだからお前らに倒せるわけないだろ”で、オッケーな気がするんだが…。
こいつ…マジ良い奴。
だが…その後のギユウの言葉…
「大丈夫っ!サビトさんがいますし♪(^-^」
はあ?
ある意味すげえや。
理屈とか関係ないっつ~か…もうここまで周りが見えてないのってお見事としか言いようがない。
『へ?…いや…あの……いますしって……』
さすがのサビトも戸惑って口ごもった。
「サビトさんが倒して下されば全員にちゃんと経験値入りますからお気になさらず♪(^-^」
『ちょっ…ちょっと待った…お気になさらずって言われても……』
「私も一生懸命回復しますねっo(^-^)o」
サビトはがっくり膝をついた。
もう…どうしようって感じだよな。
理由説明してもおもいっきり無駄っつ~か、意味ねえよ、多分。
どうする四角四面の委員長。流されるか?って思ってたらホントに流されたっ。
『…負けた……どこの……やんごとなきお姫さんなんだ?
思い切り上から目線で苦しゅう無いって言われてる気がしたぞ………』
こうして…半ば強引に(?)サビトは俺らのパーティーに引きずり込まれる事になった。
まあ…お手柄だっ、お姫さん。
天然最強伝説!
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