オンライン殺人事件クロスオーバーN03

イルヴィス王国再び


ふと気付くと目の前に噴水があった。
なんだか見慣れた景色だ……どこでだっけ………

ボ~っと考えながら何気なく噴水を覗き込んでぎょっとした。
えええ???

水面に映るのは茶色の皮鎧……忘れもしない例のゲームの時のアオイキャラ。
呆然と自分の姿をあらためてみると、やっぱり見慣れた格好。
ただ一つ違うのは、あの時はディスプレイ越しに見ていたその姿が、今はまんま自分の姿になっている事。

ありえない…いくらなんでもありえないでしょ、これは。
さっきまでギユウちゃん家のサビトの部屋にいたはず。

そこでハタと思い当たる。
夢だ…私はあのまま寝てしまって、今夢を見てるに違いない。

「そっか、夢か」
言葉に出してみるとなんとなく落ち着いた。
夢だと思えば慌てる事もないな、このまま目が覚めるのを待てばいい。

「ん~~~~」
私が結論を出して噴水のふちに座って足をブラブラさせてると、いきなり目の前に現れた人影。
赤いマントを羽織ったやっぱり見慣れたその男の子は、少し眉をしかめて腕を組んで考え込んでいる。
もちろん、説明するまでもない、ユートだ。

「どしたの?ユート」
後ろから声をかけてみたら、それで初めてそこに私がいる事にきづいたのだろう、ユートが一瞬飛び上がった。
そして次に私の姿を確認して、ホッとしたように息をつく。

「アオイ…かぁ。」
「難しい顔してたけど、どうしたの?」
私がもう一度聞くと、ユートは
「俺…サビトの部屋にいたはずなんだけど……」
と説明を始めて、いや、と首を振った。

「たぶんこれ俺の夢なんだよな。夢の中のアオイにんな説明してもしょうがないし」
とブツブツとつぶやく。

なんだか面白い。
ユートも夢を見ていると思っているっていう設定の夢か。

さらにサビト登場。
「サビトも…夢オチ設定?」

結局…あの部屋にいた人間がみんな夢を見ているという設定の私の夢(ややこしいな)なんだろうと納得して声をかけた私に、サビトは
「……相変わらずわけわからない奴だよな、アオイ」
と、不思議そうな目を向けた。
サビトは…違うのかな?

最後はギユウちゃん。
きょろきょろと辺りを見回して、不思議そうに首をかしげる。
それから自分の格好を確認して、また首を…。

一瞬のち、ニッコリ可愛い笑みを浮かべると、嬉しそうにクルクル回った。
プリーストの真っ白いスカートがふわっと広がり、やっぱり白いブーツに包まれた綺麗な足がのぞく。
そのままクルクル回りすぎて足をもつれさせるギユウちゃんを慌てて支えるサビト。

「あ、さびともいるのね♪」
と、ようやく周りに気付いたギユウちゃんは、続いて私とユートにも気付いたらしく、ニッコリ手を振った。

「ふふっ、みんなイルヴィス王国の住人なんですね~♪素敵(^-^」
どこまで理解してるのかわからないけど、ギユウちゃんも夢落ち設定…なのかな?

「とりあえず…PT組んでおくぞ」
とサビトが言って、PTの誘いがくる。

目が覚めるのを待てばいいといっても何もしないでボ~っとしてても暇だしねぇ…
私はその誘いを受けてPTに入った。

『まあ…なんと言っていいかわからんが…』
4人PTが出来上がるとサビトがいつものようにため息まじりにつぶやく。

『例え俺の夢の中でも、お前達を放置して馬鹿な事されると多分ストレス溜まると思うから…PT組んで行動するぞ』
サビトの言葉に私とユートが吹き出した。

私の夢の中でもやっぱりサビトはサビトなんだね。
ていうか…やっぱり全員夢落ち設定なのか。

そして気付くと少し離れた所でポツリポツリと懐かしい顔ぶれが姿を現す。
イヴちゃん…はともかくとして、死んだはずのアゾットやショウ、ゴッドセイバーまでいるって事は完全に夢なんだね、これって。

そうと決まれば本気で気は楽なんだけど…さて何をしよう。


『で?なにするん?』
相変わらず以心伝心…ていうか私の夢だからそういうのもありか。

ユートが私の疑問をそのままサビトにぶつけると、サビトは
『俺に聞くな』
と、やっぱり大きく息をつく。

『とりあえず…やっぱり魔王退治なのでは?(^-^』
そんな男二人のやりとりに、ギユウちゃんが笑顔で言った。

あ~そうだよね、それが元々このゲームの目的だったわけだし…。

『ま、暇だしな。とりあえずそれいっとくか』
最終的にサビトの言葉で当座の目標は決定した。

私達のレベルは…サビトが10で他が4という私達4人が出会った時のレベルに戻っていた。
装備やアイテム、所持金もその時のまま…っていうことは、だ、私とギユウちゃんは無一文な初期装備。
まあ…前回同様サビトが装備買ってくれたわけなんだけどね。

『さびと……』
PTを組んで装備買ってもらって、さあとりあえずレベル上げと外に続く門に足を向けかけた時、ギユウちゃんがサビトを見上げて言った。
『エンジェルウィング…欲しい』
『………』
まあ…急がないわけなんだけど…マイペースだなぁ、ギユウちゃん。
サビトは一瞬考え込み、それからユートを振り返った。

『俺ミッション1終わってるから、3人で行ってきてくれ』
『サビトは?』
『あ~…その間に…取ってくるから』

………
………
………

まあ…サビトがギユウちゃんに甘いのは今に始まった事じゃないけど、夢の中のサビトはさらに甘い?

『おっけぃ。道沿いに行けば絡まれるわけじゃないしね』
ユートも同じ事を考えてたのか少し苦笑して了承する。

こうして私達はミッション1を終わらせるため、手紙を手に兵隊さんのいる山を目指す事にした。

なんか…さ、遠いっていうか…真面目に疲れるんですけど……
目的の山へ行くためウネウネ曲がりくねった道を進む私達3人。
何故だか普通に感じる疲労にうんざりしてきた。
ネットゲーでキャラ操ってる時は当たり前だけど疲れなかったのに…所詮夢なんだからそこまでリアルにしなくても……あ~直線距離を進みたいっ。

落とし穴……気をつければ避けられないかな……
チラリとユートの顔を伺うと、ユートも例によって同じ事を考えていたらしい。

「行っちゃおうか……」
あえて…PT会話で言わない所がミソ?

コソコソっと脇道にそれる私達。
そして気をつけて歩く…気をつけて気をつけて……落ちたっ!
いったぁ………本気で痛い……痛覚もあるのかぁ…。


「いてて。アオイ、大丈夫?」
並んで歩いていたため、同時に落ちたユートがやっぱり腰をさすりながら私に聞いてくる。
「うん…なんとか」
こういう時は皮鎧いいね。
ギユウちゃんやユートみたいに布装備だと薄くて痛そうだし、サビトみたいに金属鎧だと固くて痛そうだ。

ともあれ…さてどうしよう……。

サビトに始めて会った時みたいに少し離れた所にコウモリ。
たぶん今の私達じゃ倒せない。
夢とは言え痛覚あるから、死ぬような傷負ったら痛いだろうなぁ…っていうか死んだらどうなるんだろう。

「お二人とも大丈夫です?」
一人一歩後ろを歩いていたため落ちなかったギユウちゃんが、落とし穴を心配そうに覗き込んで言う。

「うん…でもギユウちゃんは落ちない様にね」

それでなくても落とし穴あるってわかってて直線距離突っ切ろうとして落ちちゃったんだし、ここで無事に帰れるあてもないのにギユウちゃんまで巻き込んだらサビトが大激怒だ。
どうしよう……私は途方にくれた。

「俺の肩に乗れば上に届かないかな…」
途方にくれて膝を抱えていたら、ポツリとユートがつぶやいた。
その言葉に私は自分達が落ちて来た穴の入り口に目をやる。

リアルと同様にユートは背が高い。
確かにその肩に乗って立てば届くかもしれない……でも

「私がそれで上に上がれたとして…ユートどうするの?」
穴の上から手を伸ばして届く高さじゃないし、そもそも私とギユウちゃんじゃ大の男を引き上げるのは無理だ。

「俺?俺はいいよ」
ユートは何でもない事のように言う。
「いいって?」
「まあ…行ける所まで行ってみて、駄目なら死に戻りするから」
死に戻りって……

「穴落ちた時、痛いって…言ったよね?ユート」
私の言葉にユートは不思議そうな目を私に向ける。

「ネットゲームの時と違って痛み感じるってことでしょ?
死ぬほどのダメージ受けたら落ちた時どころの痛みじゃないよ」
「だから?」
「だから?じゃないでしょっ!
そんなのわかってて一人で置いてけるわけないじゃないっ!」

あ~、もう!ユートは夢の中でも嫌になるくらいユートだ。
てか、これ私の夢だから私のユートに対するイメージってやっぱり果てしのないお人好しって事なのよね。
まあ…あの殺人事件の一連の行動を見れば、そういう印象もつのも当たり前なんだけど…。

と、まあここまではなんとなく想像つく反応だったんだけど、その後が予想と外れてた。
私の言葉にいきなり爆笑するユート。
どうしちゃったの?

「ユート?」
唖然として問いかける私に、ユートは笑いすぎて出た涙を拭きながら答える。

「いや…アオイだなぁって思って。俺の中のアオイのイメージにぴったりの言動してくれちゃうから…」

ユートも…夢落ち設定なんだっけ。
どのあたりがユートのイメージなのか、そもそも私のイメージするユートがイメージする私って…
ああ、もうややこしいなっ!

「でもさ、ホントに俺の事気にしないでいいよ、アオイ。
どっちにしてもさ、俺が上がるの無理なわけだからアオイだけでも無駄に痛い思いしない方がいいって」

理屈では…そうかもしれないけどさ…。

「確かに…ユートが上がるのって無理だよね…」
「でしょ?というわけで…」
言いかけるユートの言葉を私は遮った。
「じゃ、一緒に痛い思いしようっ!」
「はあ??」
「だってさ、やっぱユートだけ痛い思いするのやだしっ」
ぽか~んとするユート。

「…もうさ…なんでそういう可愛い発言するかなぁ…」
次の瞬間いきなりソッポを向いてボソボソっと言う。

へ?

「俺の夢なわけなんだけどさ…てことはこれが俺の持ってるアオイのイメージって事で…まじやばくない?」

へ?
意味不明だ、ユート。

「というわけで…」
ポカ~ンとしている私を振り返ってユートが言った。

「俺の夢なわけなんだからさ、夢でくらい良いカッコさせなさいっ」
何が、というわけで、なのかよくわかんない…。
「はい、アオイ、ちゃんと立つっ!」
ユートは自分も立ち上がって、私の手を取って立たせた。

そして私が立つと、ユートは今度は私の前にしゃがみこむ。

「ほら、肩車。で、俺が立ち上がったらゆっくり肩の上に立ってね。
出来る限りフォローはいれるからゆっくり無理しないようにね」
言われてハタと我に返った私。

肩車ってさ…あれだよね…太腿とかがユートの頭に触れるわけで…
ひゃあぁぁ…無理!無理過ぎだよっ!

「……無理…」
「なんで?」
「絶対に無理だからっ」
「大丈夫、ホント落ちない様にフォローいれるし」

あ~、もうわかってない。そういう問題じゃ……

「アオイ…なんでそこで赤くなってるかなぁ…」
いつまでたっても硬直したまま首だけ横に振ってる私の様子に、ユートが不思議そうに上を見上げた。

「ホントに。重いからとか思ってるんなら、サビトほどじゃないにしても俺だって一応男なわけだからさ、アオイくらいなら軽いもんだよ?」

いや、そういう意味でもなくて…あ、もちろんそれもあるけど…
「いや、それも…だけど…それ以前に…肩車って…格好というか…密着部分が…ね…」
さすがに具体的には言えない。これが精一杯の説明。これだけでも顔から火が出そうだ…。

「あ~…そっちか…」
それでも勘が良いユートには充分通じたらしい。
納得したようにつぶやいた後、考え込むようにうつむいた。

「アオイってさ…」
唐突にまた独り語り。

「夢の中だとそうやって一応意識してくれちゃったりするわけね…。
ま、俺の夢で多分俺の願望が作り出したアオイなわけだから当たり前なのかもだけどね……」
指先で足元の土をいぢりながらつぶやくユート。

夢の中のユートは意味不明の独り語りが多い。
ユートの理屈で言うと、このユートは私の願望が作り出したユートなわけだから、ここまで意味不明じゃなくても良い気がするんだけど…。

「このままじゃやばいな…」
お互いしばらく無言の後、また唐突にユートが口を開いた。
「やばい?」
「俺さ…アオイの事襲っちゃうかも?」
ユートは立ち上がって私の真ん前に立つと、私を囲む様に両手を私の後ろの壁についた。

たぶん…180くらいあるユートが目の前に立つと、160の私でも完全に視界が遮られる。
それでなくても光が届きにくくて薄暗い洞窟内での視界がさらに暗くなった。
なんだかいつもと違うユート。
これが…私が望んでたユートなのかな…。
いつも笑みを絶やさないユートが笑ってないと、なんだか…すごく変な感じ。
緊張で握りしめた手に汗がにじんだ。口の中が妙に乾く。

「な~んてね♪」
硬直していた私の鼻の頭をツンとつつくと、ユートはニコっといつもの笑みを浮かべた。

「冗談♪本気にした?」

じょ…冗談だったのかぁ……心臓に悪い……
どっと力が抜けてヘナヘナとその場に座り込む私の横に腰を下ろして、ユートは
「でもね、俺以外にそういう発言しちゃだめよ?アオイ。マジ襲われかねないからっ」
と、いつもの明るい口調で言った。

「アオイが一人で上行くの嫌なら、まあ怒られちゃおうかっ」
ユートは言ってPT会話に切り替える。

『サビト~、ごめん、俺とアオイ落とし穴に落ちちゃった。救出プリ~ズ』
そのままの笑いを含んだ声でユートが言うと、
『お前って奴は~~!!!』
と、サビトの怒鳴り声が聞こえた。

『ごっめ~ん。だってさ~、山まで遠すぎじゃね?
ネットゲームの時と違って普通に疲れるんですけど?』
『お前な~、男が一番最初にヘタるなっ!』

いつものやりとり。いつものユートだ。
こうして私達は結局ロープを手に飛んで来たサビトに救出され、無事ミッション1を終えたのだった。




何を見たい?


夢落ち設定…って事ですぐ目が覚めて終わるはず…と思った私が甘かった。
終わんないよ、これ。

なんと今回はネットゲームの時にはなかった時間の流れがあるらしい。
ミッション1を終えてお城で報告をした頃には夕方になっていた。
たぶんこのままだと夜になるんだろうな。

幸い…お城のお抱えの兵扱いになっている私達は、どうやら城下町の宿屋には無料で泊まれるらしい。
野宿はせずにすみそうだ。
それでもまあ…どこまで夢が続くのか、終わりが全く見えないわけで…。


「シャレにならんぞ、これ…」
おそらくやはりその点はタカをくくっていたのだろう、サビトも額に手をあてて大きく息を吐き出す。
そんな深刻な顔のサビトとは対照的にギユウちゃんは楽しそうだ。

「ね、夜はお城に花火があがるそうですよ♪みんなで見に行きましょうね(^-^」
と、これまたネットゲーム時代にはなかったイベントの情報をどこからか仕入れて来て、ピョンピョン飛び跳ねている。
その様子に難しい顔をしていたサビトが、表情を和ました。

「どんな時でも姫は本当に姫だな。いつでも楽しそうで羨ましいな」
サビトの言葉にギユウちゃんはニコォっと可愛らしい笑みを浮かべて、クルリと振り返る。

「だって…せっかくみんなが一緒にまた遊べるなんて素敵な夢みてるんだし。
今を楽しまなくっちゃ♪」
ふわりふわりと揺れながら、軽やかに歩を進める。
「それもそうだなっ」
その様子にサビトが微笑んだ。
なんだか幸せそうだ。

サビトはそのまま少し歩を速めてギユウちゃんに並ぶと、腕を差し出す。
ギユウちゃんは当たり前にその腕につかまった。


その時…
「じゃ、そういう事でっ」
また唐突にユートが口を開いた。
そのまま私の腕をつかむ。

「俺ら消えるねっ、ごゆっくり」
言ってサビト達に反論の間を与えず、走り出した。
え?ちょっ…ちょっと…??

ユートは私の手を握ったまま走り続け、街外れの丘までくるとようやく止まった。
しばらくは二人ともゼ~ゼ~と息を切らしている。

「ごめんね、ちょっと疲れた?」
先に息が整ってきたのはユートだった。
私の様子を伺う様に、膝に手をやってまだゼーゼーしている私の顔を覗き込む。
息が整わず返事のできない私にちょっと微笑みかけると、ユートは自分の赤いマントを脱いで下に敷いて
「座って」
と私をうながした。

当たり前だけど…装備って脱げるんだ~なんて変な事に感心しながら、遠慮なく座らせてもらう私。
そこで悪いからとか言っても、口調は柔らかいくせに意外に頑固な所のあるユートが譲らないのはなんとなく想像つくから。
それなら無駄な抵抗しない方がいいと、いい加減私も学習した。
私が座るとユートも私の隣、草の上に腰を下ろす。

「ここさ、特等席」
少し遠くに見下ろせるお城を指差してユートが言った。

確かに…ここなら花火もよく見えそうだ。

「サビト達も…連れて来てあげれば良かったのに」
別に4人いたら狭いとかいうスペースでもないので言うと、ユートは肩をすくめる。

「サビトは…花火見る気ないし、姫がいると俺が見れないから」

はあ?
夢の中のユートは本当に意味不明な発言のオンパレードだ。

「たぶん…サビトも俺と同じだと思うけど?」
謎………

「全く意味わかんないって顔してるよね、アオイ」
まあ、顔に出てたんだろうな、ユートがクスっと笑いを漏らす。

「姫もさ、一人でいれば見るのは花火と…サビトなんだけどさ、アオイいるとアオイの方向いて話すからサビトから顔見えなくなるじゃん」

「はあ…?」
ますます謎なわけですが……

「つまりさ、サビトが見たいのは花火じゃなくて、花火を見て楽しんでる姫の顔なわけ」

あ~なるほどっ。
確かに…あれだけの美少女の楽しそうな笑顔なら花火以上に見てて楽しいだろうな。
さらに言うなら、溺愛中(?)な彼女の顔なわけだからなおさらだよね。
思わず納得する私に、ユートは何故か複雑な視線を向けた。

「……?」
私が目で問いかけると、は~っと大きく肩を落とす。

「やっぱさ…リアルよりは若干俺の願望入ってるから察しはいいかなとは思うんだけど、結局アオイはアオイなんだよな…」
またまた謎の発言。

「ま、所詮俺の夢だからいっか…」
うつむいてボソボソっとつぶやいたあと、再度顔をあげて私の顔を覗き込んだ。


「さて、ここで問題です。さっき俺はサビトも俺と同じって言ったんだけど、そこから答えを導くと、だ、俺は何をしたくてここに来てるんでしょう?」

はあ?……え??ええ???
カ~っと顔が熱くなってくる。たぶん…てか絶対に真っ赤になってるよ、私。

「いい加減…わかった?
俺もね、別に花火なんて見えないでもぜんっぜん構わないんだけど、とりあえずさ、花火楽しむアオイの顔を堪能したかったわけよ」

「な…なんでえぇっ??!!!」
ユート絶対におかしいっ!

ギユウちゃんみたいな美少女ならとにかく、私の顔なんて見ても絶対に楽しくないってっ!
半分パニックでワタワタという私に、ユートは
「そこで…なんで?って聞いちゃうのか、マジで」
と、がっくりとうつむいた。

あ…なんか怒ってる…のかな?

「もうさ…アオイも俺に関しては姫並みの鈍さ?
…あ…でも、そか、これって俺の夢なわけだから…
俺の認識してるアオイが天然記念物なわけで…でもリアルもそうだよな……」
ブツブツとつぶやくユート。
なんか随分な事言われてる気が……

「もう…いいや…どうせ夢だし……」
なんかだんだんユートが壊れていく。

「あのさ、」
また復活して顔を上げるユート。

「アオイの俺に対する認識ってさ、もう馬鹿みたいにお人好しな男って感じ?」
突然核心をつかれて言葉につまる私の様子を肯定と受け取ったのか、ユートはため息をついた。

「あのさ~、俺だって別に誰彼構わず命がけで助けちゃったりしないわけ。
誰彼構わずそんな事してたら今頃生きてないっしょ?
サビトが姫にしてた質問、俺もアオイに投げかけてみたいんだけど…アオイはさ、俺が男で自分が女だって自覚してる?」

し…してなくはない…けどさ……
動揺してると真剣なユートの顔が近づいてくる。
細く見えて意外にシッカリしているユートの手が、頬に触れた。
ドンドン距離が縮まって、唇が触れるまであと数ミリ……

………
………
………

いきなりユートが離れて笑い出した。
な…なに???
花火があがるボ~ン!ボ~ンて音が響く中、笑い続けるユート。
どうして良いかわからず私は呆然とそのユートを見つめる。

やがて…ふと笑うのをやめたユートは
「…なっさけねえ…俺って…」
と、小さくつぶやいた。

「……ユート?」
「こんな所でさ、自分に都合の良い夢の中で自分に取って都合の良いアオイ相手に色々言っててもしかたないよな?」

な?って言われても……そもそもこれは私の夢の中なわけで…

「リアルでちゃんと言わないとぜんっぜん意味無い。ま、それで玉砕しても、だ」
何か噛み締めるようにまた独白。
しばらくそのまま俯いてブツブツと独り言をつぶやいていたけど、やがて何か吹っ切れたように顔を上げて言った。

「よしっ!はやいとこ目を覚まそう!」

はあ…唐突だなぁ……
なんというか…ユートは私の事をギユウちゃん並みって言ったけど、今のユートの唐突さの方がギユウちゃん並みだよ……。

わけがわからずポカ~ンとしている私に
「んじゃ、花火鑑賞再開っ」
と、ニカっと笑うと、ユートは一人すっきりした顔で眼前の花火に目をやった。




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