ギユウちゃんのお宅拝見
翌日…いつもの場所、私の学校の最寄り駅の改札で待ち合わせ。
「アオイ、今日もデート?つ~かさ、それお泊まりセット?もしかしてっ!」
「お~、とうとうユート君と行くとこまで行きますかっ。ファイトだっ!」
駅まで一緒に帰る途中、いつもと違うボストンバッグにチェックを入れて盛り上がる二人。
「期待に添えなくて悪いけどね…ユートとはそんなんじゃありませんっ!
今日は別の友達の家に集まってお泊まりなのっ」
私が言うとエ~っと口を尖らせる二人。
そう…ユートとはほんっとにお友達の域を出る事もなく、もちろん二人が期待しているような事もなくただただ仲の良い友人として遊んでいる。
別に…そういう展開になったらなったでいいっていうか、むしろならないかなぁなんてたまに期待してみたりしないでもないんだけど、今の関係を壊してまで踏み込むほどの勇気があろうはずもなくって感じか。
ぼ~っとそんな事を考えつつも駅につくと、また二人のテンションの高い声が聞こえてくる。
「うっそ~。マジレベル高くない?モデル?アイドル?ね、アオイ見てみなよっ!
あそこにすっごいイケメンいるよっ。しかもあの制服って海陽学園?」
「あ~…サビト。早いね~」
はしゃぐアヤの指差す方向に目を向けると、一番乗りなのかな、サビトが立っている。
私が声をかけると、サビトはこちらを向いた。
「ああ、久々だな、アオイ」
と、向こうも言葉を返してくると、隣で二人が小さく悲鳴をあげる。
(ちょっ、まさかアオイ知り合い?!てかまさか泊まりに行くのって彼ん家とかオチないわよねっ?!)
アヤがこそこそ耳元でつぶやくのに
「あ~、それはない。別の友達」
と答えると、今度はエリが
(紹介してよ、紹介っ!)
と、せっつく。
無駄…だと思うけどなぁ…。
まあ断る理由もないんで、私は二人と共にサビトの前に立った。
「サビト…相変わらず良い男だねぇ」
確かに中身知らんと大騒ぎしたくもなるな。
学生でにぎわう駅前でも思わず人目をひくほど際立ったイケメン。
これとあんな事が理由で知り合いになるっていうのがまたすごいな。
そんな事を考えながらしみじみ言うと、サビトははあ?っという感じに眉をひそめた。
「いきなりなんなんだ?お前頭大丈夫か?」
「いや、文字通りなんだけど?学校の友達が紹介してほしいって」
「ああ?」
サビトは私の言葉に少し不思議そうに私の周りに目を向けた。
視線が二人に止まると、二人が黄色い悲鳴を上げる。
あ~内心引いてるかなぁ、サビト…。
それでも私が
「こっちが学校の友達のアヤとエリ。んで、こっちがネット友達のサビト」
と、紹介すると、
「よろしく」
と頭を下げた。そこでまた二人は悲鳴。
「エリです~よろしくぅ♪あ、あのぉ、質問いいですかっ?」
「どうぞ」
「サビト君は…彼女とかいるんですか?」
おい…いきなりそこいっちゃうか……
絶対にサビト呆れてる…。
それでもまあ表面に出さないのがよそ行き用だなと思ってると、後ろからクスクス笑いが振って来た。
「いるよ、もう絶世の美少女な彼女が。今日はサビトの彼女ん家行くんだ」
声に振り返るとユートが立っている。
「あ、ユート君、はろっ」
すっかり顔見知りになってるユートに気軽に手を振る二人。
それにユートは
「こんちゃっ」
と手をふりかえすと荷物持つね、と、私のボストンを持ってくれた。
「サビト、久しぶりっ。姫は?」
少し辺りを見回すユートにサビトは
「ん、そこの本屋…のはずなんだが…。
まさかまたどっかでひっかかってたりしてないだろうな」
と、改札正面、パン屋の隣の本屋へと足を向け、私達もそれに続く。
「んで?なんで二人がついてくるの?」
私が同じくついてくるアヤとエリに聞くと、エリはきっぱり
「あのイケメンの彼女がみたいっ!」
はいはい…、好奇心ね。
「あの…私待ち合わせが…」
本屋でも…ナンパってあるんだね。
つか、うちの学校の制服だ。
本屋に入ると目に入った、相変わらず一般人とは違うお姫様オーラを放つギユウちゃんに声をかけてるらしき男子高校生。
なんだかしつこく声かけてるぽくて、涙目のギユウちゃん。
あ…サビト怒ってるな……。
無言でツカツカ歩み寄ってギユウちゃんの腕を掴んでる男子高校生の手を無言で掴むと、ギユウちゃんから離して、無言で振り払う。
整いすぎた顔立ちゆえに怒ると迫力のあるサビトに、男子高校生唖然。
そのままギユウちゃんの肩を抱く様に私達の方へ連れてくるサビトをぼ~っと見送った。
「さびと……ありがと……」
小さなホントに小さな華奢な手でサビトの上着をつかむと、相変わらずどこぞのヒロイン役の声優さんみたいな可愛い声で言ってサビトを見上げるギユウちゃん。
驚くほど長い睫毛にふちどられた大きな青い瞳は涙でうるんでいる。
サビトもイケメンなんだけど……ギユウちゃんもやっぱり美少女だなぁ。
「何かの…ドラマの1シーンみたいだね……」
コソコソっとつぶやくアヤとエリ。
「負けたね…ってか勝負とかいっちゃまずいレベル?」
二人の言葉にユートがクスっと笑う。
「うん。あそこはもう放っておくのが正解。
まあ…サビトの方がベタ惚れ状態だから特にね」
「なあんだ、そうなのか~」
がっくりと息をつくエリ。
「まああれだけの美少女ならね…納得。んじゃ、私ら帰るね~、また月曜」
とりあえず好奇心が満たされたのか、ヒラヒラと帰って行く二人。
それを見送って私はサビトとギユウちゃんを少し離れた所で眺めた。
サビトとギユウちゃん、それぞれ単体でも思わず周りが振りかえっちゃう美形なのに二人くっついて見つめ合ってるともうね……人目引きまくりってか、何かの撮影なんじゃない?とか言う声まで聞こえてきますが?
「みんな…振り返るね」
「だね」
隣のユートに声をかけると、ユートが答える。
「二人とも一般人のレベル超えて美形だもんね…」
「だね。でもさ…」
そこでちょっと言葉を切るユート。
「?」
「アオイも普通に可愛いと思うよ?」
へ?
一瞬何を言われたのかわからずポカ~ンとしてる間にユートはスッと私の隣から離れて二人の方へ歩を進めた。
「サビト~そこでさラブシーン繰り広げられると、俺ら所在なさ過ぎw」
ユートの言葉にギユウちゃんの涙を拭きつつ何か言ってたサビトが振り返った。
「誰がだっ!」
あ、顔赤い。
「サビトと姫がっ。つか、そろそろ行かね?周りの視線が痛いんだけど」
そのまま軽いジャブをかわす二人。
サビトといると…微妙に私といるのと言葉使いとか変わるんだな、ユート。
サビトといるとっていうか、男の子同士だとそうなのか…。
意外な一面発見。
サビトがユートと話し始めて、初めて回りに気付いたギユウちゃんは、
「アオイちゃん♪お久しぶりです」
と、私の方にかけよってきた。
「おひさ~ギユウちゃん、元気だった?」
「はいっ♪アオイちゃんもお元気そうでなによりです」
ゲームの時のままその場でピョンピョン嬉しそうに跳ねるギユウちゃん。
最後に会った時と全く変わってない。
「じゃ、行くか」
とりあえず再会の挨拶が終わったところで、いつものようにサビトが行った。
そして………
「……ここ?」
「はいっ、普通の家でしょう?」
某高級住宅街の一角。
充分大豪邸だと思うのは私だけなんだろうか…。
これが普通の家なら…ごめん、うちは大貧民だ。
キーロック式の門を開けるとギユウちゃんがチャイムを鳴らす。
「ただいま~」
と、ギユウちゃんがインターホンに向かって言うと、ガチャっとご立派なドアが開いた。
「おかえりなさいっ、義勇、錆兎君♪」
すでに…おかえりなさいって言われる立場なんだね…サビト…。
…っていうのはおいておいて、中から聞こえて来るのはギユウちゃんそっくりの可愛らしい声。
「こちら、アオイちゃんにユートさん♪で、こちら母です♪」
と言いながら中にうながす私達を迎えてくれたのは……
「姫のお母さんて……若くない??」
ユートが思わずつぶやくほど、可愛い感じの女性。
20代前半って言っても充分通用するような…てか、ギユウちゃんにそっくりだよ。
「ただいま帰りました」
と一人挨拶をしたあと、サビトは小声でうながした。
「お前達…挨拶が先だろ」
あ、そうだった。
思わずぽか~んと見惚れてた私とユートは慌てて
「初めまして、お邪魔しますっ」
と挨拶をする。
それにギユウちゃんママはコロコロと笑った。
「錆兎君たら、みんなのお父さんみたいね。
皆さんお気遣いなく、ゆっくりしていってね」
なんかフンワリした雰囲気がホントにギユウちゃんママって感じだ。
「とりあえず…ゲストルーム二部屋用意しておいたけど、久しぶりのお友達なら義勇と錆兎君のそれぞれのお部屋にお布団運んだ方がいいかしら?」
廊下を通ってリビングについた時点で、ギユウちゃんママが振り返って聞く。
「あ…うん。その方がいいですよね?アオイちゃん」
クルリと振り返るギユウちゃん。
ごめん…つっこみたい…って思ってたら、ユートがつっこんだ。
「錆兎君のお部屋あるわけねw」
その言葉にいや~な顔をするサビト。
それに気付いてか気付かないでかギユウちゃんママはにっこりと天使の笑顔。
「だって…一日とかならとにかく、数日いてもらうとなると、義勇の部屋じゃ狭いでしょう?
ベッドは広いから良いけど、勉強机一つしかないし」
ギ…ギユウちゃんのママだ~~~!!!!
思わず吹き出す私とユートに、頭を抱えるサビト。
ギユウちゃんとギユウちゃんママはキョトンと同じような顔で同じ様な感じに首をかしげている。
「蔦子さん…」
眉間に手をやりつつサビトが口を開いた。
ギユウちゃんママ、蔦子さんなわけね。
「はい?」
「気にする所が違います……」
「え~っと?あ、そうね。ゲストに相部屋は失礼よね、まず」
別荘でのギユウちゃんを彷彿とさせるボケっぷりに、サビトが深く深くため息をついた。
なんというか…この親にして…というのが壮絶にわかったよ。
「ギユウちゃんママって…面白いね」
そしていったんはサビトの部屋に行くユートと分かれてギユウちゃんの部屋で制服から私服にお着替えする事に。
着替えながら言う私の言葉に、ギユウちゃんは不思議そうに聞き返す。
「そうです?」
「うん。なんていうか…ギユウちゃんそっくり。可愛くて…若いよね」
「あ~若いっていうのはそうかもですね。私、母が18の時の子供ですし」
ええ???ヤンママとかには見えないけど……
「お嬢様…っぽいよね?結婚早かったの?」
あのふわふわお嬢様キャラが出来婚ってあり得ない気がするし……
「えっとぉ…3月の終わりが誕生日で、高校卒業してすぐ結婚したので…」
すごいな…
「政略結婚とか?」
思わず聞くと、ギユウちゃんはまたTVの見過ぎですと言ってきゃらきゃら笑った。
「ちゃんと恋愛結婚ですよ♪母が12の時に当時16の父に出会って、もうこの人と結婚するんだって心に決めたそうですよ~。もう何十回も聞かされましたっ、その話」
なんというか…政略結婚よりそっちの方がTVドラマのようだと思うのは私だけ?
可愛いピンクのワンピースに着替えて、白いドレッサーの前で髪を梳くギユウちゃん。
10畳くらいはあるのかなぁ…淡いピンクの絨毯が敷き詰めてある部屋にはダブルくらいありそうな広いベッドと勉強机、それに猫足のアンティーク調のドレッサー。
片方の壁は一面クローゼットでもう片方は本棚。
そこにはファンタジー小説やそれっぽい画集がぎっしり。
窓は出窓になっていて、レースとフリフリのピンクのカーテンがかかってる。
本当にイメージ通りだ。
「この部屋って本当にギユウちゃんのイメージにぴったりなんだけど…サビトの部屋ってどんな感じなんだろう」
もうわき上がる好奇心が私の口から漏れだすと、ギユウちゃんは
「行ってみます?」
と言いつつ、机の上のやっぱりアンティークっぽい電話の受話器を手に取った。
「さびと、そちら行っても大丈夫?」
と、どうやら内線で聞いてるらしい。
家庭内でも内線で連絡なんだね。うちなんて大声で怒鳴ってるわけなんだけど……。
「もう着替え終わったそうなので行きましょう♪」
確認が取れたのかギユウちゃんは受話器を置く。
そのままギユウちゃんと共に廊下に出て、隣の部屋のドアをノックすると、ガチャっとドアが開いてサビトが顔を出す。
「入れ」
とうながされるまま入ると、広さこそギユウちゃんのと変わらないけど意外に普通の部屋。
まあ…家の住人としては…なわけだけど。
普通…ゲストってレベルではありえないな。
広いベッドは良いとして……勉強机がちゃんとあって、本棚には参考書がぎっしりなわけですが?
おまけに…ギユウちゃんの部屋にはない小型の冷蔵庫がある。
ここで…しばしば夜遅くまで受験勉強してるって事だよね、これって。
とりあえず絨毯の上に落ち着いてるユートの隣に座って、そのあたりの突っ込みを入れようとすると鳴り響く内線。
当たり前にそれを取って
「はい。俺が取りに行きます」
と、答えるサビト。
内線を切ると手慣れた様子でクローゼットから座卓を出して
「ちょっとお茶取りにいってくる」
と、部屋を出て行った。
「え~っと……」
もうね、以心伝心?
たぶん私と同じ事を聞きたくてウズウズだったみたいで、ユートが口を開いた。
「もうさ、単純に思いっきり好奇心なんだけどさ、姫、」
「はい?」
「サビトってさ、この家に住んでたりするの?
なんかこの部屋って本当にゲストルームをサビト仕様にしたってより、もう思いっきりサビトの私室の気がするんだけど…」
そう!それなのよ、聞きたかったの!
私もユートの言葉にうんうんとうなづく。
ギユウちゃんはその言葉に私とユートの顔を交互に見比べ、それから考え込む様に視線を上にむけた。
そしてギユウちゃんのお答え…
「えっと…コンスタントにというのではなくて…父がいない日は父がさびとに泊まりにきてくれるようにお願いしてるんです。
なんかね、父に言わせると私と母を二人きりで家に残すのが怖すぎるからって。
これまではどんなに無理でも無茶でも睡眠削ってでも自宅に帰ってたんですけど、最近はさびとに留守任せて仕事先で宿取ったりするようになったんですよ」
うあああ…グレイトな判断だ、ギユウちゃんパパ。
確かに…あのギユウちゃんと瓜ふたつのママさん蔦子さんとギユウちゃんだけだと心配っていうのはわかる気はするけど……。
だからと言って娘の彼氏にそれ頼んじゃうのかぁ……
お茶の乗ったトレイを持って戻って来たサビトにギユウちゃんから聞いた話をすると、
「そりゃあな…、見てわかるだろ?一人でも暴走する姫が二人だぞ?」
と肩をすくめた。
「お父さんは…普通の人なの?」
私の質問にサビトは
「普通じゃない」
と即答。
「普通の人間には無理だ」
補足する。
なるほど。
「あの人は…すごい人だぞ」
さらに続けるサビト。
「強くて頭良くて仕事できて良き家庭人で人格者。
すごい人なんだが相手を威圧するような所がない」
「大絶賛だね…」
珍しく嬉しそうに語るサビトにユートが言うと、サビトは
「会ってみればわかる」
と締めくくった。
ようは…ギユウちゃんパパはサビトを信頼してて、サビトはギユウちゃんパパを尊敬してるって感じなんだね。
なかなか良好な婿と姑の図ですな…ってまだか。
その後私達は座卓を囲んで近況を報告しあった。
まあ立ち聞きで知ってはいたものの、サビトはやっぱり東大>警察庁目指すらしいし、ギユウちゃんはそのまま付属の女子大に進むらしい。
驚いた事にユートは偶然私と同じ大学を目指してるらしく、お互い受かるといいね~なんて
エールを送り合った。
夕方…夕飯前になるとギユウちゃんとサビトがそれぞれソワソワし始めた。
「えっと、ごめんなさい、席外しますねっ。私夕飯の支度手伝うので…」
ギユウちゃんが言ってワタワタと下に降りて行く。
そいえば別荘にいた時も外食以外の食事は実はギユウちゃんが作ってた。
意外や意外、彼女は料理が上手かった。
カレーくらいしか作れない私と、もはやそれは料理と言っていいのかわからないけど、料理はカップ麺しか作れないと豪語する映ちゃんを尻目に、まあ本格的なシチューやら和食やらと、それはそれは素晴らしい料理の腕前を披露してくれた。
ただ味が美味しいだけではなくて見た目にも麗しく、みんな、特に映ちゃんを感動させていた。
そして…ギユウちゃんが部屋を出て行くとサビトがおもむろに
「着替える」
と言って立ち上がった。
「なんで?」
と座ったままサビトを見上げるユート。
まさか食事だから正装とかいうわけじゃないよね?とか私も思って見上げると、サビトはきっぱり
「もうすぐ貴仁さんが帰ってくるから」
と言う。
「姫パパ?」
とユートが聞くとうなづく。
「正装しないと会えないとか?」
さらに聞くユートをちょっと呆れたような目で見るサビト。
「なんだよ、それ」
と、言いつつ、クローゼットの中からトレーニングウェアを出して来た。
「何故にトレーニングウェア?」
目を丸くするユート。
「ん~、だいたい戻ると組み手の相手してくれたり、一緒にトレーニングしてくれるから。んじゃ俺隣で着替えてくる」
と、サビトは答えて部屋を出て行った。
パタンと閉まる扉。
それを見送ると、私とユートはちょっと息をついた。
「なんだか…すっかりギユウちゃん家になじんでるよね、サビト」
「だねぇ」
なんというか…サビトって固いイメージあったんだけど、この家にいるとちょっとあたりが柔らかい感じがする。
そうユートに言うと、ユートもうなづいた。
「なんかさ、姫ん家ってお金持ちって感じはするんだけど、アットホームで暖かい雰囲気だよね。
リラックスできるっていうかさ。サビトは父親もほぼ仕事場近くのマンション住まいで自宅に帰らないって言ってたからこういうのってさ、なんか惹かれるんじゃない?この家の幸せオーラーみたいな物に感化されちゃったっていうかね…」
あ~そうかも。
今までは結構固くて隙のない感じだったけど、ギユウちゃんパパの話する時なんて、尊敬するパパの話する子供みたいな顔してた。
こうなると…断然楽しみ、ギユウちゃんパパに会うの。
サビトをしてすごい人と言わしめる人って、ホントどんな人なんだろう…。
しばらくするとサビトが着替えて戻って来て、一階のリビングへ私達をうながした。
フカフカのソファがなんとなく落ち着かなくて、絨毯の上にぺたんと座る私とユート。
サビトはソファに座って私達の雑談に加わりつつ、たまに味見に呼ばれてキッチンとリビングを往復する。
テーブルもソファも絨毯も家具も…たぶん全部が高級品で、普通なら緊張でガチガチになりそうな気がするんだけど、キッチンから可愛らしい笑い声やら話し声が聞こえてくるため、なんとなく空気が柔らかくて、リラックスできる。
ユートの言葉じゃないけど、本当に暖かい幸せ空間て感じだ。
そんな空間でまったりしていると、廊下につながるドアが開いた。
「あ、パパ♪おかえりなさいっ」
パタパタとギユウちゃんがキッチンから出てくる。
「ぎゆう~、ただいまっ」
言ってギユウちゃんを抱きしめてホッペにチュって…外国の家庭みたいだ。
「おかえりなさい」
と、あわてて立ち上がったサビトの肩をポンポンと軽く叩いて
「錆兎君もただいまっ。毎回留守番頼んで悪いな」
と、笑顔を向ける。
さすがに…あれだけ可愛い蔦子さんに一目惚れされただけあって、目を見張るほどのイケメンだ。
ともすればサビトみたいに美形だけど近寄りがたい印象をあたえそうな感じなんだけど、さわやかな笑みを浮かべてるせいか、すごく親しみやすい雰囲気だ。
「パパ、お友達のアオイちゃんと、ユートさん。で、こちらが私の父です♪」
とギユウちゃんに紹介されて挨拶をする私とユートにも、
「義勇の父です。ちょっとずれた子なんで色々迷惑をかける事も多いとは思うけど、仲良くしてやってね」
とにっこりと優しい笑みをうかべた。
そして最後に…
「おかえりなさ~い♪」
とキッチンから駆け出してくる蔦子さん。
「ただいま~」
勢いよく抱きついてくる蔦子さんを受け止めるとそのままハグ~っとしばらく抱き合って唇にチュって……
当たり前にそれを見てニコニコしてるギユウちゃんと、ちょっと困った顔のサビト。
なんか…高校生の娘がいる親に思えない。ラブラブ新婚家庭って感じ。
しかもそれが不自然に感じないから不思議だ。
うちの親なんかがやったら絶対にキモイっ。
「さて、と、着替えてトレーニングルームにゴ~だなっ」
パパさんから鞄を受け取った蔦子さんがまたパタパタと奥へ走って行くと、パパさんは少しネクタイを緩めながらサビトの肩に手をやる。
「お疲れじゃ?」
サビトはちょっと嬉しそうに、でも少し気遣わしげに言うが、パパさんはそれに
「ああ、疲れたね。肩凝った。だからちょっと体動かしたいね。
こういう時男の子いるといいな」
と、笑顔を返した。
そしてパパさんはそのままユートにも笑顔を向ける。
「よければユート君も一緒にどう?」
聞かれてユートは慌てて首を横に振って遠慮します、と苦笑いを浮かべた。
「そう?残念だな」
パパさんはそう言いながら、でもあえて強くすすめることもせず、ギユウちゃんに
「義勇、いつものセット頼むな」
と言ってチュっと頬にキスすると、着替えに自室に戻って行った。
あきれるほどの爽やかさだ…。
「ママ~、私パパとさびとの支度するから、お客様と残りのお料理よろしく♪」
「は~いっ♪じゃ、いってらっしゃい♪」
ギユウちゃんがどうやらスポーツドリンクの入っているらしき水筒とタオルを持って
「ごめんなさい、食前の組み手はさびとがいる時のパパの日課なんです。
ちょっと二人で寛いでて下さい。
何かあれば母に言って下さいな♪」
と、先に立って歩き始めるサビトをパタパタと追う。
なんというか…本気でもうすっかり婿みたいだな。
「ごめんなさいね、本当に。
タカさんずっと組み手とかやってくれる相手欲しがってたから、いつも錆兎君来たら張り切っちゃって」
ギユウちゃんとサビトが消えると、蔦子さんがジュースを持って来てくれた。
「いえいえ、おかまいなく。でもサビトもなんだかすっかり馴染んでるんですね」
ありがとうございます、と、ジュースを受け取りつつユートが言うと、蔦子さんはそのままペタンと絨毯に座ってニッコリ言う。
「錆兎君しっかりしてるから、いてくれるととっても安心だし、なんか…タカさんの若かりし頃にちょっと似た感じだから家にいても違和感なくて」
そう…なのか…?
「でも…確かにサビトはしっかりしてるけど、あんなに人当たり良くない気が」
ついつい本音をぶつけてみると、蔦子さんはコロコロ笑った。
「タカさんも昔はいっつも難しい顔してる人だったのよ?
よくわからないけど…いつのまにか笑顔の人に変わってきたの」
なんか…もしかして…っていうか絶対に蔦子さんの影響なんじゃ?
サビトもギユウちゃんといるとなんだかいつもより柔らかくなるし。
なにより…ギユウちゃんと蔦子さんて容姿にしても雰囲気にしても驚くほどそっくりだしね。
ギユウちゃんも十数年後はこうなってるんだろうなって感じ。
蔦子さんはたまにキッチンに戻りつつもそのまま私達のおしゃべりにつきあってくれた。
っていうか…
「一人でキッチンいるのも寂しいし♪」
って……なんだかギユウちゃんみたいなノリだ。
この親にしてっていうサビトの言葉がパパママ両方から違う意味で実感できた気がする。
その後、トレーニングで汗をかいた二人がそれぞれ1階と2階でシャワーを浴びてその間に戻ったギユウちゃんと蔦子さんが食事を食卓に並べて行く。
その様子は親子というより姉妹で仲良くお料理してるって感じで微笑ましい。
そしてみんな揃った所で夕食。
サビトが言った通りパパさんと蔦子さんは本当に仲がいい。
それでいて、二人だけの世界に入る事もなく、私達が居心地の良いようにもてなしてくれているように感じた。
そんな和やかにして楽しい夕食も終わり、私達4人は再度サビトの部屋に集合。
そこで雑談を再開したんだけど…なんだかそんなに遅い時間でもないのに目がシバシバしてきた。
眠い…のかな…ギユウちゃんの部屋に…もどらなきゃ……もど………
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