夢の後で
その後…花火が終わるとユートはまた私の手を引いて街に戻った。
なんだかいつものユートに戻ってるもよう。
泊まる予定だった宿に戻るともうサビト達は戻っていて、私達に気付くと手を振った。
置いて行った事を特に怒ってる様子もない。
男女に分かれて部屋を取って二人きりになったところで、私はギユウちゃんに聞いた。
部屋にはベッドが二つあって、その間に小さなテーブルと椅子がある。
ギユウちゃんは椅子に座ってマグカップにうずめていた顔をこちらに向けた。
「心配…してましたよ?」
「心配?」
私もベッドから飛び降りてギユウちゃんの正面に座る。
ギユウちゃんは私の言葉にうんうんとうなづいた。
「ユートさんが…かな~り煮詰まってるからって」
煮詰まって…る?確かに言動おかしかったけど……
「心配で必要だと思うなら追えばいいし、追わないなら考えるのもやめて今を楽しんだ方がって言ったら気にするのやめたみたいですけど…」
ギユウちゃんて……実はすごぃ割り切りの人??
私がそう言うと、ギユウちゃんはん~と考え込んだ。
「皆さん…色々考えてるんですよね…。でも考えた結果を実行に移さないから…。
今回の夢って神様からの贈り物な気がするんですよ~」
相変わらず…よくわかんない人だ、ギユウちゃん。
「えっとね、アオイちゃん、こう思いません?
今私はサビトさんの部屋で夢見てるんだと思うんですけど…
皆さん本当はそうなんじゃないかなって…」
「そうって?」
「実はね、全員あの部屋で夢見てて…それぞれみんな他の3人は自分の夢の登場人物だと思ってるけど、本当は同じ夢を見てるんじゃないかなって。
夢を共有してるっていうんでしょうか」
へ?
「私思ったんですけど…さびとは私の夢の中でもやっぱりさびとなんですけど…でも予測もつかない事言いだすんですよね。
私の想像だけなら絶対に思いつかない事。
だからあれは現実では言えないサビトさんの本音だったりするんじゃないかなぁと…」
そう言われれば……今日のユートもそんな気がしないでもない。
「みんな…今が自分の夢だと思ってるから言える事ってあるでしょう?
言ってしまえば良いのにリアルで絶対に言えないと思ってる事。
そんなのがいっぱいいっぱい溜まっちゃったから、言えない言葉で押しつぶされる前に言える機会を神様が作ってくれたんじゃないかなぁって」
私はギユウちゃんみたいにミッション系で日々神様にお祈りして過ごしてないから神様うんぬんというのはピンとこないけど、夢については確かにそうなのかもって気がしてきた。
ギユウちゃんは…なんにも考えてない、なんにも見えてないように見えて、たまにすごい核心をつく。
まあ…仮にそうだとして…本音聞いちゃったら私達ってどうなるんだろう…。
本音…聞かれてたって判ったら終わっちゃったりとか…したらどうしよう…。
目が覚めた後…私はどんな顔してユートに会えばいいの?
軽いパニック状態で私は目の前のギユウちゃんに目をやった。
特に慌てるでもなくまったり構えてるんだけど…不安になったりしないんだろうか…。
サビトも…予測もつかない本音をもらしたって事だよね…。
「ギユウちゃんの言う通りだとして…」
私はおそるおそる切り出した。
「ギユウちゃんはサビトの本音聞いちゃったってことだよね?」
「そうなりますねぇ…」
ギユウちゃんは何でもない事のように言う。
「どうするの?」
「どうすると言うと?」
「いや…目が覚めて本音聞かれてたってサビトが知ったら…」
言われてギユウちゃんはちょっと考え込む様に視線だけを天井に向けた。
「まあ…リアルでも本音もらしてもいいですよって言うだけじゃないですか?
結局…リアルで言われても私の反応って多分同じだったと思いますし…。
ここでの私の反応が気に障るものじゃなかったなら、リアルでわざわざ言わないでいる必要もない事だったってわかるでしょう?」
あ~なるほど…。
なんというか…ギユウちゃんの理屈はぶっとんでるようでいて実はすごく本質ついててわかりやすい。
心底感心してる私にギユウちゃんはにっこり微笑んだ。
「アオイちゃんも…今のユートさんが自分の夢の中の住人だからって思わないで本音をぶつけてみるのもいいんじゃないでしょうか。
ユートさんの本音を聞いてしまったなら尚更ね(^-^」
ほんっきで…頭いいぞ、ギユウちゃん。
実は私達の中で一番頭いいんじゃないだろうか…。
とりあえず…いつ目が覚めるかわからないし、今言っておかないと…
「ありがとっ、ギユウちゃん」
私はギユウちゃんにお礼を言うと、立ち上がった。
そのままヒラヒラ手を振って見送るギユウちゃんを部屋において、サビトとユートの部屋に行く。
ノックをするとユートが顔を出した。サビトは椅子の上で剣を研いでいる。
しかしチラリと視線だけこちらに向けると、剣を置いて立ち上がった。
「姫んとこ行ってくる。一人にすんのも心配だしな」
と、そのまま部屋から姿を消す。
残されたユートと私。
「変に気を回させちゃったかな」
私が苦笑いを浮かべると、
「ま、姫一人にしたくないってのもあるんじゃない?」
と、ユートは私を中にうながした。
「どうしたの?」
そのまま戸口に立ち尽くす私に不思議そうな目を向けるユート。
「あのっ、ここでいいっ。すぐすむからっ」
ユートは一瞬ちょっと目を見開いて、それから苦笑した。
「ごめん。今日はちょっと俺おかしかったけど、もう平気だから」
「あ~違って…言いたい事言ったら早々に戻らないとサビトに迷惑かな、と」
「なるほど。でもまあ…迷惑はないと思うよ。姫と一緒なら」
と、さらにうながすユート。
これ以上こうしてると変な誤解を与えかねないので私は仕方なく中にはいった。
パタンとドアが閉まると、勧められるまま椅子に腰掛ける。
「で?どうしたの?」
モジモジしているとユートの方からうながされた。
なんて言ったらいいんだろう…。
「今日の…挙動不審な俺の話?」
さらに聞かれて私は迷った。
「あ、あのねっ」
「うん」
「ギユウちゃんと話してて思ったんだけど…」
「姫と?」
予想と違う言葉だったんだろうな、ユートがちょっと目を見開いた。
「私ね…ずっとこれって私の夢で…今ここにいるユート達は私の夢の住人だと思ってたのっ。
ユートも実はそう思ってなかった?」
私の言葉はさらにユートを驚かせたみたいだ。
それと同時にちょっと戸惑った様子を見せるユート。
「…それで?」
と、それでも先を促す。
「うん、でね、ギユウちゃんいわく…みんなそう思ってるんじゃないかなって。
つまり…本当は私達全員あのサビトの部屋で夢を見てて、ここにいるみんなはそれぞれの夢の住人じゃなくて、夢を共有してるリアルのみんななんじゃないかって」
「ちょっ…ちょっと待った…」
ユートもさすがに驚いて混乱しているらしい。あわてて私を制して考え込む。
それでも私は先を続けた。
「それでねっ、ギユウちゃんいわく一見夢の住人の意味不明な言葉に思えたものって全部リアルの当人の本音なんじゃないかって…。
でね、私ずっと私の夢の中のユートの言葉だと思って半分流してた部分があるのねっ。
でももしね、本当にそれがリアルのユートの気持ちとつながってるんだとしたらっ、私もちゃんと伝えたい事があるのっ。
でも私もまだ半信半疑だし、言うならちゃんと相手が確かに私の夢の住人じゃなくて、リアルにいるユートだってわかる状態で言いたいからっ。
だから…えっと…もし今いるユートが本当のユートなんだとしたら、目を覚ましたら私の話聞いてねっ」
言った!
一気にそこまで言い放った私をユートは一瞬ポカ~ンとした目で見て、それから笑った。
「なんか…さ、アオイって俺と全然違うのに、変な所ですごくよく同じ行動取るよな。
俺もさ…夢の住人のアオイじゃなくて、ちゃんとリアルのアオイと話したいなって事があって…夢…早く覚めて話できるといいね」
あ…なんかやっぱり…夢の中の住人じゃなくてホントにユートな気がする。
ギユウちゃんの言ってた事…ホントなんじゃないかな。
早く…目が覚めると良いな♪
私は軽い足取りで自室に足を向ける。
そして当たり前にドアを開けるとサビトは窓際に立っていて、私に気付くと
「もう話はいいのか?」
と振り返った。
ギユウちゃんは…ベッドの中。
夢の中でもすでに夢の国の住人になってるのか。
「サビトはさ…ギユウちゃんに聞いた?」
「あ?」
「いや、この夢って実は他も夢の住人じゃなくて全員が共有してるんじゃないかって話」
「ああ…きいたな」
サビトはクスっと笑みをもらした。
「焦った?」
ギユウちゃんの話だとサビトもリアルで言っちゃやばい話(?)してたみたいだし、ユートとの話をする際の参考までにと思って聞くと、意外や意外、
「別に?」
と言う答えが返って来た。
「ま、夢だと思いつつもリアルで聞くのがちと怖い事を聞いてみたんだけどな、俺は。
意外に普通に姫らしい答えが返ってきたんで…まあリアルでもそんな感じだろうなと」
なるほど。
「あの…ね、私ね、逆に聞いて良かったのかなって思う本音らしき事を聞いちゃったクチで…。
自分の方はどうせ夢だからって本音とか話してなくて…。
で、ずるいなって思って、目が覚めたらちゃんと自分の本音も話すねって言ってきたわけなんだけど、今」
いきなり話始める私に、サビトはちょっと不思議そうな目をむける。
「えと…つまり…私ねっ弟いるんだけど年離れてるし、彼氏とか作った事ないから実は同じ年くらいの男の子の心理とかあんまわかってなくてねっ…」
あ…いかん…涙が…。
「ようは…失敗したくないから意見聞かせろとかそういう話か?」
サビトが珍しく先回りして言ってくれるのに、涙を拭きながらコクコクうなづいた。
「当たり前だが…俺とユートは違う人間だからな。
高校生の男ってだけで一括りにはできんし考え方も違うと思うが、それをちゃんと判っててそれでも一意見として聞きたいなら構わんが」
なんだかあれからまだ4ヶ月しかたってないのに妙に人間丸くなったように感じるサビト。
穏やかにそう言うと、私の頭をポンポンとなだめる様に軽く叩く。
「ま…察するに…俺はただの良い人じゃなくてアオイが特別だから色々やってるんだ、それをアオイはぜんっぜん気付いてないだろっみたいな主張をされたんだろ…」
「ど…どうしてそれを?!」
「端から見ててもそんな感じだから」
あっさりサビトに断言された。
人間関係に関しては自他ともに空気読めないサビトにそれ言われるって、私ってどんだけ……
がっくりと膝をつく私に、サビトはいつものため息をついた。
「まあ…女って多かれ少なかれそういう傾向あるけどな。
特別な好意持ってない男に親切にする女って滅多にいないが、逆はままあるから。
どこまでが特別なのか判断が難しいよな」
「そうっ、そうなんだよねっ。特にユートは誰にでもフレンドリーだからっ」
力を込めていう私に、ま、気持ちはわかるけどなっとサビトは苦笑した。
「でもな…本当に気がある場合ってやっぱりはっきり言いにくいのって男の方なんだよな…。
だいたいにおいて女より男の方が自信がない」
「サビトが言ってもいまいち信憑性がないよ」
私が苦笑すると、サビトはちょっと目を丸くして、それから
「前もそんな話したよな」
と笑った。
「俺はホント自信ないぞ。前も言ったが相手の気持ちとかすごく気にしてるしな。
ま、今回俺が姫にきいてみた事っていうのは、ぶっちゃけそれで…」
「それ?」
「姫が俺を選んだのって、たまたま最初に俺が側にいたからで、側にいたのが他の奴だったら今姫が選んでるのって他の奴なんじゃないかってな…」
あ~なるほど。
「で?ギユウちゃんはなんて?」
「最初に出会った男っていう意味ならユートの方が先で、でもこの人だって思ったのは俺だからそれはないって。
いわく…代々一目惚れ体質だそうだ。
蔦子さんもそうだし、自分が好きになる相手をみつける事にかけては絶対自信があると言い切られた」
「ギユウちゃんらしいなぁ」
私が笑うとサビトも笑う。
「まあ…そこまで断言されてようやく安心できるっていうか…な。なさけないが」
そこでサビトはちょっと言葉を切った。
「一般的には…相手から少しでも脈がありそうな素振り見せてもらえないとなかなか告白なんてしにくいのが男だと思うぞ。
で、ユートが気を惹こうと一生懸命色々やってるのがもう見え見えだったわけだ、周りから見ると。
もしお前にとっても特別だと思えるなら少しでもいいからユートの事を特別扱いしてやった方が良いとは思うな。
あ~でもユートだと最終的な言葉は相手から言わせてやった方がいいかもだが…あいつはあれで実はプライド高いから」
そう…なのか~。
やばかった。勢いで自分から言っちゃうとこだった。
なんだか…ユートの意外な一面いっぱい知った気がするな~。
「サビト、ホントありがとうっ!
気持ちは固まってたんだけどさ…例によって地雷踏むとこだったよっ!」
私はサビトに両手を合わせた。
サビトはちょっと目を細めて
「ま、がんばれ」
と言うと、私の頭を軽くポンポンと叩いて部屋を出て行く。
なんだか…ドキドキしてきたなぁ…
「…アオイちゃん…」
ギユウちゃんの声…
「どうしたらいいかな?」
「寝てるとこ移動させんのもなんだしユート様子見ててくれ。俺達姫の部屋いるから」
寝てる…とこ?
「ちょ、サビト待ってよ。二人で置いてくつもりかよっ!」
「姫がまた俺の部屋で熟睡しても困るし、俺の方が姫の部屋いた方がいいから。
アオイ起きた時一人だと何事かと思うだろ?」
「そういう問題か~?」
「ああ、そういう問題だ。
それとも何か?お前は俺の彼女と夜中に二人きりになりたいのか?」
「え?いや、そういうわけでは…」
「じゃ、頼むな~」
遠ざかるサビトの声…。
閉まるドアの音。
そしてユートのため息。
「ちょっと…アオイ起きたらどうすんだよ…心の準備くらいさせろよな…」
これは…現実?
パチっと目を開けると、すぐ側にユートがいたっ。
「うあっ!」
起き上がった私に驚くユート。
驚くユートに驚く私。
お互い驚いて…お互い沈黙…。
「「あのっ!」」
と、そのあと二人してハモる。
なんていうか…そうだよね…二人して変なタイミングで同じ事考えて同じ行動しちゃうんだよね、私とユートって…。
特別だってそれとなく伝えようにも……
うつむく私の頬にいきなり温かい感触。
……これって…ええ???
思わず顔をあげて真っ赤になった私の頬から唇を放すユート。
「嫌だったなら殴っていいよ」
と、少し真剣な顔。
そしてぶんぶん私が首を横に振ると、ユートは
「先にさ、俺が意思表示したかったんだけど…もうさ、何か言おうにもなんかアオイとは同じ事同じタイミングで言っちゃいそうだからさ…実力行使。
意志確認できないうちに唇はまずいかな~って苦肉の策だったんだけど」
といつもの笑顔。
なんか…びっくりしたけどなんだかユートらしくて私は思わず吹き出した。
「じゃ、さ、今度は私からの意思表示っ」
今度は私がユートの頬に唇を近づけると、
「俺…好きな子とするならこっちの方がいいな…」
と、ユートが軌道修正、唇と唇が重なった。
「私ね…実はギユウちゃんに成り済ました例のメール貰う直前…ユートとデートできたら楽しいだろうな~って思ってたんだけど…」
唇が離れたあと私は言う。
…あの頃から私の方は意識してたんだよな~と私が思っていると、驚いた事にユートは
「甘いなっ。俺なんか落とし穴落ちた時に姫の事でサビトに怒られて今日初めてPT組んだから知らなかったの、ごめんなさいみたいな事言った瞬間にもうチェックよ?」
そう言ってクスクス笑った。
こうして佐々木葵17歳。
彼氏いない歴イコール年齢な冴えない女の子に初めて彼氏ができたきっかけは…
なんとも不思議な夢の中で、ただの良い人だと思っていた意外にプライドの高い策士な男が夢だと思って油断して
みせた思わぬ本音なのだった。
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