オンライン殺人事件クロスオーバーK03

アゾット


自宅に帰っていつものように食事を作りつつニュースをかけていると、また高校生殺人のニュース。

今度の被害者は秋本翔太。
ゴッドセイバー以外は本名を知らないので、インしてから参加者の数を数えるしかない。


8時を待ってインすると、ユートからパーティーに誘われる。
アオイもタッチの差で先にきてて、しばらく待っているとギユウもインしてきた。


外に出るとモンスターに絡まれたりもするので、大抵のプレイヤーは街中でログアウトする。
その中でも街の中心で、商店街にも外へ出るのも近く復活ポイントもある噴水前でログイン、ログアウトする人間がほとんどだ。

ここで待っていれば大抵の人間がログインしてくるのが確認できるだろう。


ということで、経験値稼ぎに行こうという仲間達に
『あ~…ちょっと今日は待ってくれ』
と、声をかけた。

『サビト…?どした?』
と聞いてくるユートに
『いや…悪いな、リアル事情で30分ほどキャラ放置するから。
なんなら3人で先行っててくれ』
と、答えると、
『じゃ、ここでおしゃべりでもしてお待ちしてますねっ。
みんな一緒の方が楽しいですし(^-^』
とギユウがいつものぽわわ~んとした口調で言って噴水の端に腰を下ろした。


勘の良いユートから即
(リアル事情…じゃないよな?)
とウィスが入ったので、秋本翔太が参加者なのか確認したい事、それをアオイやギユウに言って動揺させたくない事などを伝えて納得してもらう。

そこで続々と他の参加者もインしてくる。

結局30分後、最初の殺人が起こってメグがメルアド交換を申し出たタイミングで、危険だからゲームを放棄すると宣言したショウとメルアド交換をスルーしたヨイチ以外の参加者全員ログインしてくるのを確認できたので、離席から戻ったふりをして狩りに出かける事にした。

秋本翔太…ショウという事はないだろうか…そうだとすると一番の容疑者は…
色々と考えつつ進んでると、ふいにメッセが届く。
アゾットからだ。

『こんばんは。参加者のアゾットです。
なんとなく気にしていらっしゃる方もいるとは思いますが、今日の昼過ぎに秋本翔太君という高校生が殺害されたというニュースが放映されました。
参加者の一人、イヴさんによると、殺された秋本君は元このゲームの参加者のショウさんらしいです。
親しかった相手が二人とも殺害された事でイヴさんも非常にショックを受けていますし、犯人の男の次のターゲットが自分なのではと、とても怯えてもいます。
もちろん僕を含めて全ての参加者がそのターゲットになりうるわけですから誰しもが他人事ではありません。
そこで下手に相手の事を知らないまま不安を抱えるよりは、一度全員街の広場に集まってどういう参加者がいるか顔合わせをしませんか?
現在僕はイヴさんと共に街の広場の噴水前にいます。
来られる皆さんはぜひ、噴水前までお願いします』

意外だった。
秋本翔太=ショウという事実がイヴの口からでるとは思っても見なかった。

他が知らないであろうショウの個人情報を知っていたと断言するような事を言えば、当然疑いはイヴに向く。
そのくらいはいくら考え無しだったとしてもわかるだろう。
とりあえず…アゾットの人柄も気になっていた事ではあるので、街に戻る事にする。



錆兎達が街に戻った時にはすでに他に4人の参加者が噴水周りに集まっていた。
イヴと…隣にいるのは男のプリースト、アゾットだ。
黒いロングコートはウィザード、エドガー。
もう一人はシャルル。アーチャー。

メルアド交換を唯一スルーしたヨイチが来てないのはまあわからなくはないのだが、あれほど他との接触を求めてメルアド交換を提唱したメグが来ていないのが気になる。


「やあっ!君達いつも一緒にいるよね。仲いいの?」

サビトが考え込んでるといきなりシャルルが近づいてきた。
そしていきなり後ろにピタっとはりつく。

なんとなく気味悪くて距離を取ると、またピタっと寄り添ってきた。
な…なんなんだ??

なよっとした感じはあるが男キャラだ。
それが自分が見ても多分誰がみても可愛らしい少女キャラのギユウとかをスルーして自分に張り付いてくる意味がわからない。
背筋に寒いものを感じてまた距離を取るとまた距離をつめてくる。

その様子に、アオイが呆れたように
「サビト、いい加減にしなよ、大人げない」
というので、
「ほっとけ」
と返したのだが、そこで何故かシャルルがいきなりアオイに
「そうだよ、君には関係ないでしょ?馴れ馴れしいな」
と矛先を向けた。

自分の仲間にいきなり向けられた悪意的な言葉にサビトはカッとした。

「ふざけるなっ!馴れ馴れしいのはお前だっ!気味悪いっ!!!」
こいつらは俺の仲間だから馴れ馴れしかろうがいいんだっ!
それを見ず知らずのお前にグダグダ言われる筋合いはないっ!!」
思わず叫ぶ。

錆兎は基本的にぶっきらぼうではあるが、本来別に敵を作りたいわけでもない。

仲間が出来てからは自分に向けられる敵意が自分の所属する団体、一緒にいる仲間に向けられる可能性も出て来るので、なるべく言葉には気をつけているつもりだったが…ついついキレてしまった。
自分が原因で自分の仲間に不快な思いをさせるのがあまりに嫌だった。

やってしまったという気持ちと、言ってやったという気持ちが複雑に混じり合う中、一瞬の沈黙ののち、シャルルはいきなり
「サビトってさ、すごぃ男らしいよなっ!そういう奴って僕超好きだよ!」
と、なんだか嬉しそうにまたピタっと距離をつめた。

ええっっ??!!!

「リアルもさ、そんな感じ?服とかどんなの好き?
リアルでも背そこそこ高い?体格は?サビトって鍛えてはいそうだよねっ。
制服は学ラン?ブレザー?サビトのイメージだと学ランって感じだけど、ブレザー着崩したりとかもなんかいいねっ、シャツのボタンはずしちゃったりとかしてさ…
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ、でも意外なとこで着物とかも似合うかもっ。
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」

なんなんだ?こいつはっ!!!
何を言ってるんだ?!!
わけわからんっ!!!
もう宇宙人の会話だっ!
何故そんな事をきいてくるんだ?!!!

リアルを特定しようとしてる…にしてはなんだかずれてる気がするし…からかわれてる??!!
思わず逃げに走った。
それでも追いかけてくる。

逃げてる間にもアゾットにはチラリと注意を向けてチェックをいれる。
いかにも優男といった感じで、泣きの入っているイヴを慰めてる様子は、特別へそ曲がりとかにも見えず、むしろ癒し系を演じている。

もう一人気になるのはイヴ。
仲間が二人殺されればまあくじけるというのはあるかもだが、女王様然としていた今までとは一転しおらしいか弱い風なキャラクタに変わっているのが不自然な気がした。

エドガーというウィザードは探偵もどきっぽい風で、殺された二人と親しくショウのリアルを唯一知っていたであろうイヴが怪しいという様な事を言って詰め寄っていて、それに対してアゾットが本当に犯人なら自分が真っ先に疑われる様な殺し方はしないはずと言い返している。

メルアド交換すらしてないショウのリアルを知る機会があったのもゲームをやめたはずのショウと連絡を取れたのもイヴだけだとさらに詰め寄るエドガーに、イヴはショウはメルアドは送っていてやめるとも言ってなく、メグに確認を取っている最中だったと、また気になる話を始めた。
しかし、それを確認しようにもメグは今ログアウトしているらしい。
アゾットがウィスを送っても届かないと言っている。

確実な事はメグがいないとわからない…。
だが…斜に構えているというわけでもなく、いかにも癒し系という感じに見せている時点でアゾットは怪しい…とサビトは思った。

水晶という透明な宝石の中に封じられた悪魔。
…たぶん…表面上のピュアさの中に潜む悪を表現したつもりなのだろう。
アゾットの意味なんて普通に知ってるレベルの知識ではない。
表だって野心や邪悪さだしたらまずいという理性と知性、その一方で誰にもわからないところでは悪に興じる自分を主張したいという強い自己顕示欲の持ち主……。

そして…そのアゾットと一緒にいる人格の変わったかのようなイヴ…。
今までのイヴと同一人物ではなくなっているという可能性はないだろうか…。
イヴ自身がすでに情報を引き出された上で殺されて、別の人間が成り代わっていると言う可能性も否定はできない気がする。
そして…成り代わっている人間はアゾットの関係者…。

一億を取れる可能性を考えれば、身代わりをやる人間がいても不思議ではない。
操ってる本人は、最終的に参加者の身元が割れている以上、イヴキャラで魔王を倒しても自分に一億が入る事はないわけだし、アゾットに協力して一億の中から分け前をもらうしかない。
そう考えれば…最終的にアゾットが一億を取って、イヴキャラを捨てる事になるため、イヴキャラがいくら疑われるような状況になろうと痛くもかゆくもないし、今の状況も全てつじつまがあうのではないだろうか。

とにかく…はっきりするまではとにかく仲間をアゾットとイヴには近づけない様にしなくては…。
錆兎はとりあえずそう結論づけた。




なりすましメール


日曜日。ギユウの夏期講習もさすがに休みで、ゆえに今日は送迎も休みだ。
普通ならゆっくりできる、と言った所だが、元々日々ゆっくりする習慣がない錆兎にとって、それは単に娯楽が全くない日常にすぎない。

あの可愛らしい笑顔が一日見られない…あの小鳥のさえずりのようなおしゃべりが聞けない…。
今までは当たり前だった日常が妙に味気なく感じる。
かといって理由もなしに女の子を誘えるほどの勇気もないのだ。

しかたなしに、翌日からギユウに勉強を教える合間に自身の勉強をする様にギユウの家に置いておいてもらう参考書の整理をする。
それが唯一の娯楽というにはあまりにささやかな娯楽だ。



(会いたいな……)
ボ~っとそんな事を考えながら鞄に参考書を詰めていると携帯が鳴り、思わずとびつく。

『もしもし?!』
まさかと思って出てみたが、やっぱりまさかな事は起こらない。
電話の主は錆兎を生徒会長に推薦した悪友で、自身も生徒会副会長に収まった早川和樹だ。


『なんだ…和か…』
思わずため息をつく錆兎に電話の向こうからはからかうような声がふってくる。

『ずいぶんがっかりしてるようだが…出来立ての聖星女学院の彼女からとでも思ったのか?』
『なっなんでそれっ?!!!』

自他共に認める情報通というのが早川和樹の総評ではあるが、ギユウの送迎を始めたのは二日前からだ。
とりあえず”彼女”というのはおいておいて、なんでギユウの事を知っているのかが謎だ。


『うちの学校と最寄り駅が近いからな。
学年トップの生徒会長様は有名人だ。女連れなんかで歩いてたらすぐばれるぞ。
しかもえらく可愛い子だそうじゃないか。お前面食いだったんだな』

自校の生徒に目撃されてたのか……
再度ため息をつくコウ。学校が始まったらそれこそ和樹にチクチクなぶられそうだ…。

『まさかお前に限ってと思って探りいれにかけてみたんだが…ホントだったんだな』

うああ~~~かまかけられてたのかっ…と思ったものの後悔あとをたたずだ。

『…言いふらすなよ?』
一応言ってみるが
『いやだ。こんな楽しい事言いふらさずにいられると思うのか?』
と即答され、またため息が深くなる。

『まあせいぜい青春してトップの座をいい加減明け渡してくれ、生徒会長殿』
言って笑いながら和樹は電話を切った。

いったい…なんだったんだ…。
がっくりと錆兎はへたりこんだ。



(彼女…か…)
もしそうならどんなにいいか。
それこそこんな風に自宅でため息なんかついてないで、堂々と誘える。

勉強と武道くらいしか取り柄のない自分。
どう考えても一緒にいて楽しい人間でもない。

毎回トップじゃなくてもいい。
それこそ早川和樹みたいに気が利いてて話がうまくて空気が読める奴だったら人生はさぞ楽しいものだっただろうと思う。

そうしたらあの可愛い…本当に可愛い少女に交際を申し込めただろうか…。
そういう意味ではユートも羨ましい。

サビトがしばしば空気が読めなくてアオイを激怒させるたび間に入ってくれるのだが、ユート自身が他を怒らせたり不快にさせたりという事はまずない。
何が相手を怒らせるかとかがきちんとわかっていて、楽しい話題を提供できる。

それでも…まあ夏休みが終わるまではあのふわふわと可愛いギユウの近くにいられるのだ。
それだけでも充分幸運なのだろう。
錆兎は携帯を机に置くと、参考書の入った鞄をしまい、いつものように机に向かった。



いつものように一人で昼食をとりながら見るニュース。
今日もまた高校生が一人殺されている。

赤坂めぐみ……まさか?
駄目もとで電話をかけようと携帯を取った時、以心伝心なんだろうか、まさにかけようと思っていた相手から電話がかかってきた。

『一応な、息子の様子を気にして電話をかけた…”親の独り言”だ。
昨日の秋本翔太のパソコンにはオンラインゲームのデータが残っていた。
キャラクタ名はショウ。
そして…赤坂めぐみのパソコンも同じく。キャラクタ名はメグだ』

まさに聞こうと思ってた相手から聞こうと思ってた情報がふってきた事に驚きつつも錆兎は
『どうして俺にそれを?』
と聞く。

『お前は…お前の正義をつらぬくんだろう?』
『どうしてそう思うんですか?』
大人の事情に従いながらも自身の息子がそれにあえて逆らうのを後押しするようなその発言に錆兎がさらに聞くと、父は一言
『私がそう育てたからだ…』
と言った。

父は…大人の事情に従わざるを得ない状況を潔しとしていないのだろう。
やはり…父は自分が思っていた父だったのだ。

『父さん…ありがとうございます』
錆兎は心からの感謝と尊敬を込めて父に礼を言った。

『錆兎…お前はお前にできる正義を貫け。
私はそのためのサポートはしてやる。頑張れよ』
『はい…。ありがとうございます。最善を尽くします』
錆兎は言って切れた電話をしばらくそのまま握りしめていた。



今日は日中会えなかった分、いつもより8時が待ち遠しい。
時計の針をじ~っとにらんで、8時丁度にアイコンをクリック。
まあ…自分がインしているからといって相手もいるわけではないのだが…。

いつものように一番乗りで、すぐユートがインしてきてそれを誘う。
さらに1~2分後、リアルの可愛さには及ばないものの、やっぱり可愛いギユウのキャラが姿を現す。
もちろん即パーティーに誘った。



『ごきげんよう♪(^-^』
といつもの挨拶。

それにユートと共に挨拶を返すと、ウィスで
(勉強…順調か?)
と聞いてみる。

(さびとがいないとぜんっぜんわからないから明日頑張る)
とのギユウの返事に、これ…喜んじゃまずいよな…と思いつつ嬉しかったりする自分がいたりする。

しばらくするとアオイがイン。
今日は珍しく少し遅い。

それでも誘って挨拶を交わすと、アオイがいきなり
『ギユウちゃん、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?』
と、ギユウに声をかける。

え?
サビトは驚いて振り返った。
昨日までは元気そうだったが…今日体調を崩していたのか。

『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから』

サビトは言うが、ギユウはハテナマークを振りまきながら
『えっと…私どこも悪くないんですけど……』
『え?だって今日貧血起こして倒れたって………』
『…?…なんの話です???
と言う様な会話をアオイと交わした後、いきなり無言。

アオイも無言という事は…ウィス中か…。


あえて隠されてるのだろうか…倒れた?何かひどく悪い病気なのだろうか……
悪い想像がグルグル回る。

もし…入院でもするような病気だったら再度あの笑顔を見る事はできないまま夏休みが終わって会うきっかけがなくなってしまう。
それどころかもし何か命に関わるような病気だったら…二度と会えない?!

リアルで血の気が引いて目眩がした。
心臓が痛いほど波打つ。

あまりの不安に思わず
『お前ら!裏で話進めるなっ!』
と叫んだ。

その言葉にギユウがピョンと一歩飛び退く。
その様子にサビトは少し我に返る。
『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
女同士の方が話しやすいのはわかるけど、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから。』

どうか…何もないように……本気でドキドキしながら言うと、今度はサビトにギユウからウィスがきた。

(あのぉ…さびと絶対に怒らないって約束してくれる?)
やっぱり何かあるのかっ!
目の前がす~っと暗くなる。

(さびと?)
無言のサビトにもう一度ギユウがウィスを送ってくる。

(あ、悪い。ああ、怒らない。約束するから言ってくれ)
リアルで深呼吸。最悪な想像もしつつ、それでも知らないうちに消えられるよりはと、サビトはうながした。

(あのね…私アオイちゃんにメール送ったらしいよ?)
(はあ?)
想像していたのとは全くかけ離れた話にサビトはポカ~ンと惚けた。

(えっとね…私は送った記憶がないんだけど、アオイちゃんの所に私からメールきたらしいの)
なるほど、そういう意味か…。

(貧血で倒れたっていうのはその偽メールか?
実際本当にギユウが倒れたわけじゃないんだな?)
一番知りたい事をまず確認すると、ギユウはウンウンとうなづいた。

(私は本当に元気だよ。だから明日8時半っお願い(^-^ )
その言葉に、ドッと安堵の汗が吹き出た。

(んで?どういう経過でそういう内容のメールが?)
もう思いっきり脱力して聞くサビトにギユウが答えた。

(なんでも…最初は私からリアルで一緒にお買い物しませんか?ってメールがきて、その後に貧血で倒れちゃったのでキャンセルにって)

ようは…会う事を了承したからキャンセルという言葉がでたということか…それでメールが来た事自体をかくしてみたと……そのおかげでこっちはどれだけ心配させられたのかと…安心すると共にフツフツとわき上がる怒り。

『アオイ、お前なぁ!』
思わず口をついて出る怒りの言葉に、即ギユウの
『サビトさん…怒らないってお約束したのに……』
という言葉がふってくる。

そうだった…、約束してたんだった。
とりあえず落ち着こうと黙ると、ユートが事情説明をうながした。


どうやらアオイの所にギユウを装ったなりすましメールが来たらしい。
よく最近詐欺とかでみかける、別の人間のアドレスから送られたようにメールを送るというあれだ。
それでギユウを装って遊びに行こうとメールを送っておいて、アオイが了承したところでドタキャンというのが真相。

そんなものまで使ってくるとは想定しなかった。
とりあえずなりすましメールについて3人に説明した上で、各々なりすまし対策にお互いメールの中に決まった暗号のような物をいれる事を提案して、なりすまし対策は終了とばかりに一息つく。

まあ…アオイが無事で本当に良かった。
しかしふとそこでわきあがる疑問。
何故そうまでしてメールを送っておいてドタキャン?
どの時点でドタキャン?まさか……
嫌な予想が頭をよぎる。

『んで、アオイ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』

普通は…行かないだろう。殺害される人間がポロポロでてるわけだし……

『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは……次からは気をつけます……』

…やっぱりアオイだ……

『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
思わずどなりつけて、しかしすぐ思考を巡らせる。

相手の目的はアオイを誘い出してその後を付け、身元と住所を確認して殺せるチャンスを伺う事、それは間違いないだろう。
今この瞬間にも犯人がアオイに迫ってるかも知れない。

『アオイ、確認』
とりあえず思いつく限りの注意をしてみることにする。

『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。
あと窓のカーテン開いてたら閉めろ』

サビトがいうと、アオイは
『らじゃっ!』
と、どうやら確認に行ったらしい。

しばらくのち
『大丈夫だったっ』
との言葉。

今現在の戸締まりの次は…
『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、
それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ』

実際何か起こるまでは警察も動いてはくれない。
今できるのはこのくらいか。

しかたない。
とにかく急がなくては。
魔王を倒して賞金の行方が確定するのが先か、犯人がアオイに手を伸ばすのが先か…。


『とりあえずレベル上げ行くか…』
内心の焦りを押し隠してサビトは言った。
恐らく全員動揺している。ここで自分まで動揺している素振りを見せるとパニックを起こしかねない。

案の定ギユウが
『コウさんっそんな場合じゃっ』
と言ってくるが、
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』
と、出来る限り感情を抑えて平静を装う。

『ごめん、サビト、姫を連れて先行っててくれる?10分ほどしたらすぐ後追うから』
恐らく動揺しているであろうアオイを気遣ってユートが言う。

自身も恐らく動揺してないはずはないであろうに絶妙のフォロー。
ユートは本当にすごい人間だと思う。
アオイのフォローは任せておいても大丈夫、むしろ任せた方がいいと判断して、サビトは自分に出来る事をしようと決めた。


アオイのフォローにユートを残して、少しでも魔王に近づく為に次のミッションの下見。
ギユウは釣り竿を渡して海辺の敵のでないあたりに残しておく。
サビトはソロでミッション3までは終わらせていたので、下見はミッション4。

山の中腹に敵が2体。
ドアの向こうに1体目の敵。
しかしドアを開けると奥にいる敵も襲ってくるしかけだ。

一体ずつやろうと思うと奥の敵からやらないとだが、ドアを開けずに奥の敵の所に行くには一定のタイミングで炎が吹き出したり落とし穴が移動する脇道を通らなくてはならない。

(これ…ギユウやアオイには無理だな…)

パーティーを組んでる限り、誰かがクリアすれば全員クリアできるのは普通の戦闘と一緒なわけだが…問題は…奥の敵がソロで倒せない。
状態異常がひどすぎてプリーストがいないと無理だ。

う~ん…と一瞬考え込むサビト。
ドアの近くまで釣って来るしかないか…と結論づけてとりあえず他を待たせている海岸まで戻る。


戻るとすでに全員揃っている。

一応急いで3人の仲間を手伝ってミッション3を終わらせると、ミッション4を受けに行かせてその間にギユウが欲しがっていたオシャレ装備を取ってくる。

取り方自体は簡単だ。
街の教会奥の聖堂の最奥までいってドアを開けて来るだけ。

途中落とし穴のギユウアや、受験問題20題を解いて開けるドアなんて仕掛けもあるが、たいした事はない。
サクっと奥に辿り着いて、エンジェルウィングという髪留めをゲットした。
それを持って待ち合わせ場所に着くと、ミッション4を受けに行った3人を待つ。

3人はすぐ来て、ギユウに髪留めを渡してやると、
『きゃあぁっサビトさんありがとう♪』
と、それはそれは嬉しそうに受け取って即装備。

リアルと同様のサラサラの黒髪に金色の羽根。
可愛い。
何故こんな魔王退治とは全く関係のないイベントとアイテムがあるのかは謎だが、その点だけは運営側を少し褒めたくなった。

そしてそのまま先ほどソロで敗退したミッション4へ。

途中ギユウが例によって触っては行けない物に触って、出現させてはいけない敵を出現させる等と言うトラブルはあったものの、意外にお役立ちなところを見せたアオイの活躍でなんとか無事ミッション終了。

あとは帰るだけという段になっていきなり来たウィス。
最近よく来るシャルルからのウィス。

(サビト、今どこ?一緒に遊びに行かない?)
いつものようにスルー。

シャルルは本当によくわからない。
仲間がいなくて寂しいのはわかるが…そこで自分に声をかけてくるのが謎だ。

自慢ではないが4人の中では一番愛想のない…どう考えても一番一緒にいても楽しくなさそうな自分に声をかけなくても、友人が欲しいならユートの方がいいのではないだろうか…。

そんな事を考えながらガケから落ちない様に気をつけて先頭を切って進んでると、スルーしているにも関わらずさらに続くウィス。


(サビトってさ、恋人いるの?)

ギクっと昼間の和樹との会話を思い出す。
出来立ての聖星女学院の彼女…周りからみるとやっぱりカップルに見えるんだろうか…。
自分みたいにつまらない男とこんなに可愛いギユウが?

日々勉強と鍛錬にいそしみ、周りに女の子がいなかったため身なりが整っているかどうかを気にする事はあっても自分の容姿の美醜など気にした事ない錆兎は、自分がはたから見れば思わず見惚れるような容姿をしているという自覚はない。

ただ、どう考えても一緒にいて楽しい人間ではない自分という自覚のみが自己評価の大部分を占めている。

チラリと後ろを振り向くと、視線に気付いたギユウはにっこり微笑む。
見ているだけで楽しくなるような可愛いフンワリ癒し系の女の子。
好きだと言う男は星の数ほどいるだろう。
それこそその中にはユートや和樹のように女の子を楽しませる事に長けているであろう男もいるはずだ。
そんな事を考えてリアルでため息。

(もしかしたら今フリーだったりする?)

…悪かったな…と内心少しいらつく。
本気で喧嘩売ってるのか、こいつは…。

(いないならさ…溜まった時って自分でしてんの?)
…へ……?
(週何回くらい?)
………
(その時どんな相手を想像してやってる?)

うあああ………!!!!
気付けばガケの下に落ちていた。

ユートが上で心配そうに声をかけてくる。
それに即答する余裕すらない。
今何か話したら変な事口走りそうだ。

溜まった時って……してるって……アレ…だよな??
どんな相手って……
カッと顔が熱くなる。

すごくみすかされてる気がして即落ちしたくなってきた。
半分パニックで炎の壁に突っ込みかけたのをあわてたユートに止められる。
あまりに挙動不審なサビトに、ユートがあきらめて先頭を替わった。


(サビト…どうしたん?いったい)
先頭を歩きながらユートが聞いてくる。

さすがに言えない…と思ってると、
(もしかしていつものシャルルからのウィス?)
と、あまりに勘の良いユート。

隠しても無駄な気がしてきた。
送られてきたウィスをしかたなしに全文原文のまま送る。

(うあ…これ…シャルルからだよな?)
(…ああ…)
(…動揺…した?)
(…おもいっきりな…)

そこでユートは少し沈黙。

そして
(…嫌がらせ…かなぁ?単なる好奇心にしては…だよな)
あ…そうなのか…。
(もしかして…俺の事妨害しようとしてんのか…)
そう考えるとなんだかホッとしてきた。

(そうだよな…他意はないんだよな。単なる妨害目的で…)
もうそう思うのが一番だ。というかそうとしか考えられない。

イヴをのぞくとウォーリアのゴッドセイバーとベルセルクのショウ亡き今、一番魔王に近いのは多分自分だ。
妨害目的の嫌がらせウィスがあっても不思議ではない。

そう思いついて心底ホッとした。
もう妨害ということでスルーして忘れよう。





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