清く正しいネット恋愛のすすめ_167_役員合宿再びっ

「おはよう、錆兎君」

翌朝、登校時に義勇を迎えに行ったなら、冨岡父母姉と、家族総出で迎えられた。
普段なら微笑ましくも温かくていいなと思うその光景も、今の状況だと少し緊張する。

前夜、義勇の父の義一には一応事情は全て話している。
こういう状況で愛娘を自宅から離すということに思うところがないわけではないが、彼女の身の安全を考えると、一応セコムくらいには入っているものの冨岡家は飽くまで一般の家庭なので防犯上で十分だとは言えない。
だからくれぐれも娘をよろしく頼むという話に落ち着いた。

加害者の弟の人権を守るため、加害者が加害者で危険人物であるということをぎりぎりまで警察に言わないことで、被害者になったかもしれない自分の娘の身がさらに危険に晒されるという事に思うところがないとは言えない。

が、それが学校側の判断であるという事と、加害者について警察に報告したとしても即相手が見つかるわけではなく、危険がなくなるわけではないということもあり、なんとか葛藤に折り合いをつけたような形なので、冨岡家と揉めたくない錆兎としてはなかなか緊張を強いられるところである。

思わず引きつった笑みを浮かべる錆兎に、しかし義一は特に他意はなかったらしく、
「当分また顔を見れないから全員で見送りにきちゃったけど、錆兎君が居るなら何にも心配は要らないね。義勇を頼むね。
でも義勇は君も知ってる通り、母親に似て“油断のならない子”だから気を付けてやってね」
と、苦笑しつつ、ポンと錆兎の肩に手を置き、──頑張ってね──と、配偶者に対して頑張り続けている者として同志になるであろう未来の義理の息子にエールを送ってきた。

こうして一家総出のお見送りを受けて、錆兎はいつものように義勇を連れて学校へと向かう。


木金土とたった3日ばかり臨時休校だっただけなのだが、随分と久々な気がする学校。

武藤まりが登校しない時点で何か噂になるのだろうか…と思ったりもしたのだが、彼女だけではなく、女子の何人かは保護者の方からもう数日休ませると連絡があって休んでいるらしく、彼女のことが特別になにか話題になるということはなさそうでホッとした。


教室に入ると、宇髄が手を振ってくる。

「あれだって?俺らウサん家で特訓だって?
ま、良いけどよ。
てか、ウサん家の方が電車で一本だから学校に来んの楽だし、俺はもう卒業までウサん家から通うんでもいいんだけどな」
と、ケラケラ笑いながら言うのに、
「親が泣くぞ」
と苦笑した。

「あ~、うちは親生きてるけど家帰ってこねえから。
ウサん家居れば飯出て来るしな」
「客じゃなく同居人になったら家事も分担だ」
「おう、いいぜ?
2人で2倍になるわけじゃなし、むしろやること半分になるだろ。
本気で前向きに考えてくれ。
なんなら親からお前んとこの爺さんに連絡させるわ」
などと、冗談ではなく本当に考えているらしい宇髄の発言に
「宇髄だけずるい!私も錆兎と暮らす!!」
とポコポコ怒る義勇。

「いや、嫁入り前の娘が男の家はさすがにダメだろう」
と、戸惑う錆兎に、義勇はきっぱり
「その嫁入り先なんだから問題はない!」
と、断言した。

それにさらに頭を抱える錆兎だが、
「まあ…とりあえず役員合宿再度決行は良いけど、期間が前回より長くなりそうだし、その後のことよりもまずその期間の家事分担決めようよ」
と、おはよ、と、あとから教室入りした村田がその問答をひょいっと横に置いて錆兎を救う。


「あ~、俺と村田あたりが買い出しで、料理は彼氏トリオ。
掃除は各自で、彼女トリオは食器運びとかそんなんでいいんじゃね?
とりあえず長くなるなら余計に飯は美味いモンが食いてえから、料理だけは得意なあたりにやってほしい」
と手を挙げて発言する宇髄に、

「そうね。伊黒さんのご飯はすごくすごく美味しいからっ!」
と、甘露寺がそこで大きく頷きつつ会話に入ってくる。

さらにそこに亜紀も来て
「あ、私掃除もやるよ?
家では掃除洗濯と家族全員分のお弁当作りやってるし」
と、言い出して、
「主婦だ…」
と、全員に目を丸くされた。

「あ、でも私、錆兎の分の家事したい。
掃除とか洗濯とか…」
お嫁さんみたいだ…と、ムフフと笑う義勇に、
「お前さ、家でちゃんとやってるか?
洗濯とか、何も考えずに洗濯機に放り込めばいいわけじゃねえんだぞ?」
と、宇髄の突っ込みが入る。

それに
「わかってる。ちゃんと洗剤は入れないとだよね」
と、義勇が得意げに頷いたあたりで、宇髄は、あ、これはダメだ…という表情で首を横に振った。

そこで静かに突き放す宇髄とは対照的に、亜紀はささっと義勇の隣に来て
「そうね。確かに洗剤は入れ忘れないようにしないといけないわね。
でもその他にも色落ちするものは分けるとか、ネットに入れないとダメなものとか…あと、乾燥機にかけた方が早い物とかけちゃいけない物とかもあるから、そのあたりは今回の合宿中に教えるわね」
と、お姉ちゃんオーラ満載で寄り添う。

「あ…じゃあ、私はアイロンのかけ方でも…」
と、それに甘露寺も加わって、教える気満々の長女組に囲まれた末っ子な彼女トリオはなんだか楽しそうだ。


甘露寺が楽しそうなので伊黒も嬉しそうだ。

「今月の彼氏会はまた鱗滝邸の居間だな。
身につける物はだいぶ作ったし、今度は少し作ってみたい物があるんだが、デザインが重要な物だから、錆兎の家のデザインソフトで模様や色味を決めて、刺繍かパッチワークで仕上げたい」
などと、次回の彼氏会の計画を練り始める。

そんな中に今度は隣のクラスの空太が
「錆兎君っ!自宅からマイ包丁を持ち込んで構わないだろうかっ!!」
と、こちらも一応合宿の趣旨とされている護身術とは全く関係なく、楽しい共同生活が始まるとばかりにそう言って飛び込んできた。

状況は本当に全く楽観視できず、むしろ悪化しているはずなのに、なんだか楽しいことになっているのが不思議だと、錆兎は親しい友人関係の有無の重要性を再認識することになった。


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