こうしてそれぞれ落ち着いて自席に戻って行く面々。
私はユートと二人でプラプラしてたんだけど、そのうち隣をあるくユートがふと足を止めた。
気軽に手をふる先には見覚えある人影。
「…ども…」
ペコリと頭を下げたのは2年前…例のゲームで一緒だったウィザードにそっくりなキャラ。
エドガー…ってキャラ名もそのまま。
ユートはリアルで
「誘っていい?」
と私に聞いて了承を取ると、彼をパーティーに誘った。
『ごめんなさいっ!』
まず彼はパーティーに入るなり謝罪した。
『いやいやいや…ま、実害なかったわけだし…』
実害…私とユキ君が超不愉快だった事くらい?という私の心の声が届いたらしいユート。
「ま、ほら、エドガーの弟ってことはまだ高校生なわけだし…。
アオイだって当時は可愛いお馬鹿さんでコウの事疑ったりとかしてたでしょ?
機嫌直しなさいって」
う…それを言われると…確かに…。
『まあ…小五郎君の誤解のおかげで酒井の存在がわかったっていうのはあるしね…』
渋々私も口を開く。
『そうなんだっ?!』
いきなり立ち直るエドガーこと小五郎君。
『もしかして僕、推理に協力できてたり?!』
うあ…もしかして…言っちゃ行けない事言っちゃった?また…。
「アオイ~~~」
隣でユートが苦笑した。
『今度何か起こったら絶対に僕の推理で解決してみせるからっ』
はい…自爆発言確定ですね…ごめんなさい…。
『なんかさ…兄弟そろって推理好きなんだね』
ユートがそれを華麗にスルーして話題をそらす。
このままだと何か推理する種求めてまとわりつかれかねないもんね。
『いや、兄弟だけじゃなくて…両親も家族全員推理小説マニアでね。
実は…小五郎ってのも本名で、兄は金田一耕助から取って耕助、僕は明智小五郎なんだ』
うあ…徹底してるな、親…。
『だからあの成り済ましメールよけの暗号も家族で考えてね…』
あ~~~あれ!
『そういえば結局わからずじまいだったよ、あの暗号…』
私がいうと、小五郎は得意げに
『そりゃあね、素人に見破られる様じゃ意味無いしねっ』
って。
あんただって素人じゃないよっ!
『たぶん…名高い社長様でもわかんないんじゃないかな』
って奴の言葉が私に火をつけたっ!
『わかった!じゃ、聞いてみるっ!!』
「みんな集合っ!!」
私がガタっと立ち上がると、フロウちゃんとそのお付きのランス君以外は何事かと寄ってくる。
「2年前、成り済ましメール避けにメールにお互いにしかわからない暗号を入れようってあったよね。
んで、ユートとエドガーの間のメールの暗号、これ解いてみて!」
「例は?」
もうこいつくだらない事に燃えるから…とあきれたようにつぶやきながらそれでもつきあってくれるらしく、コウが言う。
「待って!小五郎に提出させるっ!」
そして再びゲーム内。
『とりあえず今コウもユキ君も呼んだからっ。ユートのとこに例を送って』
『おお~社長様登場だねっ。おっけ~。今2通送る』
小五郎は喜んで請け負った。
そして送られてくる2通のメール.
まずは一通目。
*****
名高い三葉商事の社長様にチャンレジしてもらえるなんて
本当に探偵冥利につきるよ。
一緒に暗号を考えた兄耕助もきっと喜んでいると思う。
とりあえず1通じゃさすがに判断に困ると思うので
一応2通のメールを送らせてもらう事にするよ。.
これを解読できたらかなりすごいと思うけど、どうかな。
*****
そして二通目
*****
さて、謎は解けたかな?
凡人のアオイ君は2年かけてまだ解けてないようだけど
社長様はいかがでしょう?...
まあ…世間の噂通りなら時間かければ解けるとは思うけど?
*****
「あ~こんなん簡単簡単♪」
一通目に目を通した時点でユキ君が口笛を拭いて言った。
え~~???
「こういう事っしょ?」
ユキ君がボソボソっとユートに耳打ちする。
「うああ~~~ユキすげえ~~!!!」
正解だったらしい…。
「この手のものユキ得意だもんなぁ…」
メールを前に考え込みながらカイ君が言う。
「これでわかるのか…、何が暗号かはわかるんだが、理由がわからん」
コウが腕組みをして、2通目を開いた。
「あ…なるほど…そういう事か」
2通目ではなんだかわかったっぽい。
ユートにやっぱり耳打ちした。
「はい、正解。なんでわかるんさ」
「いや、俺は普通。ユキはありえん」
普通…じゃなくて悪かったね……。
今見てもほんっきでわかんないよっ!
同じくわからずうなってるカイ君。
「ユキ~、ヒントくれ、ヒント」
カイ君の言葉にユキ君
「なんでこんな簡単なもんわかんないんだよ」
と言いつつ、
「最初の文字がポイント。カナでな、考えろ」
と、それでもヒントを出す。
1通目は”な”
暗号になってるのは5行目最後の点だってのはわかるんだけど…
2通目は"さ”
暗号になってるのは3行目の3つの点。
う~ん……
「途中まではわかった気がするけど…点の数がわからん」
カイ君、途中まではわかったのか。
「点の数はその点がある行の頭の文字。
…ったくなんでここまで言わないとわかんないかね?」
思いっきりあきれたユキ君の声。
てか…ユキ君て考えてみれば子供の頃に知能の高さ買われてるわけだから…知能指数高いんだよね、きっと。
そういう面ではへたするとコウ以上なのかも…。
「あ~~わかった」
カイ君は叫んでユートに耳打ち。
「これだけ言ってわかんないのがおかしい」
と、ユキ君。
ごめん…わかんない…。
泣きたくなって来た私にコウはちらっと視線を落とすと、
「ひらがなをな、横にならべてみ」
と、ぼそりとつぶやいた。
横?
あいうえお…じゃなくて、あかさたなはまやらわ……
おお~~そういう事かっ!!
「最初の文字が"な”で、"あ"から数えて5番目ね。2通目は"さ"だから3番目!」
思わず口にする私に
「なに?まだわかってなかったん?」
と、呆れた目を向けるユキ君。
いいじゃん…わかったんだから…。
「んで?点の数も当然わかったんだよね?」
とのユキ君の言葉に意気揚々とうなづく私。
それも行の最初の文字ってのは聞いてたもんね~♪
最初の文字は"い”…って……あれ??
明らかに迷ってるのが見え見えな私にユキ君はため息をついた。
「ね、今時の大学生ってここまで応用力って言葉が辞書にないわけ?」
……そこまで言わなくても……
「"い”はな、”ア行”。な、」
そこで助け舟をだしてくれるコウ。
「コウあま~い。マジそれって答え言っちゃってるじゃん」
もうユキ君ほっといてよ。
「わかった…1通目はア行だから1つ、2通目は"し”でサ行だから3つね」
「はい、正解」
ようやく答えにたどりついた私にユートが笑みを浮かべて言った。
これ…ノーヒントでわかる二人ってちょっとおかしいよ!
結局全員なんとかわかったところで、ユートは経過と共にそれを伝えた。
『さすがだね…』
って言葉はたぶんユキ君とコウだけに向けられてるんだよね。
『僕もさ…なんだか社長の下で頭脳を生かしたくなって来たな』
うあああ~~~
『ね、ユート頼んでみてくれよっ。今度こそ絶対に役にたつからさっ』
「なに寝言いってんだよっこいつっ!コウ!俺絶対に嫌だからなっ!!」
ユキ君即ブーイング。
「アオイだって嫌だよなっ?!」
って私に振らない様に……。
まあ私も嫌なんだけどさ、確かに…。
チラリとコウを見ると、コウは苦笑。
「まさか…ほだされたりはしないよなっ?!!」
詰め寄るユキ君にデコピン。
「お前な…よく考えろ、相手まだ高校生だぞ。ムキになるなよ」
そう言って、ユートにちょっと代われと言って、ユートのパソコンの前に座った。
『今ユートと代わった。コウだ』
コウがキーを打ち始める。
とたんに小五郎はお辞儀。
『今回は失礼な事を言って申し訳ありませんでしたっ!反省してます』
と謝罪した。
それにコウはリアルでちょっと笑みを浮かべる。
「なんか…昔も俺を犯人だと思って暴走した奴いたよな」
と、笑いを含んだ言葉に、私は思わず頭をかく。
「昔の事じゃん!今は全面的に信じてるよ?」
私が言うと、コウは静かに
「知ってる」
とまた微笑みを浮かべた。
「ただ…懐かしいなと思ってな。丁度こいつあの頃の俺達くらいの年じゃないか?」
「あ、うん。そうだね…」
ユートも答えて懐かしそうに画面に目をやる。
『今…高校2年生か?』
尋ねるコウに、小五郎は
『はいっ』
と、うなづいた。
『俺もその年に初めて例のネットゲームやって…迷走した。
ま、成長過程にはよくあることだ。
気にするな。今ここにも2年たってもまだ迷走してる奴いるしな』
「悪かったね~」
ふくれる私をみんなが笑う。
『あの、僕、社長の下で働きたいんです!使ってもらえませんかっ』
小五郎…いきなり図々しいぞ…って思ってたのは私だけじゃなくて…でも今回はユートの代わりにユキ君が代弁する。
「断れよっ!コウ!もう思いっきり断ってやれっ!図々しい!!」
それにコウはまた苦笑して
「誰かこのガキちょっと黙らせておけ」
と、ユキ君を指差して、ユキ君思い切りふくれてブーイング。
『今まだ高校生だろ?』
と、また小五郎の相手に戻った。
『もう学校なんてどうでもいいですっ』
小五郎は言うが、コウはそれにきっぱり
『学校ちゃんと出てから出直せ』
と答える。
『学校の勉強なんてそんなに必要なものじゃないじゃないですかっ』
粘る小五郎。
それにコウはまだつきあってやるつもりらしい。
『方程式だけが勉強じゃないぞ』
と続けた。
『俺はたぶん高校の時に学力的にはそこらの大学生くらいの学力はあったと思うんだが、そこで無駄だからと高校やめて高認でも取ってたら今の自分はなかったと思ってる。
その年齢、その立場でなければ学べない物ってのが必ずある。
だから今も大学やめずに通ってるしな。
それが最終的に必要だったか不要だったかなんて死ぬまでわからんが、知識はないよりはあった方がいいだろ?
だから回り道だと思っても学べる機会は逃さず学べ。
見られるものは全部見て、吸収するべきものは片っ端から吸収しろ。
で、そうだな、お前が大学を卒業した時にまだ俺が社長やってて、お前が必要な物を吸収してきたと思ったら雇ってやる。
もちろんお前の側にも考える時間はあるから、その頃にまだ気が変わってなければユートにでもメールしろ。
俺はお前の事も自分が言った事もちゃんと覚えておくから』
「…さすが社長だねぇ」
ユキ君がぴゅ~っとまた口笛を吹くのに、コウは
「ちゃかすなっ」
と少し顔をしかめる。
「2年前はあんなに空気読めない俺様だったのにねぇ…」
と、私もちょっと仕返し。
コウはそれにも
「悪かったなっ。ほっとけ」
と少しソッポをむいた。
ユートが笑う。
「なんだか…あのネットゲーム殺人の頃が妙に昔に感じるね。みんな…変わったんだなぁ…」
私がしみじみ感慨に浸ってるとコウが一言。
「アオイは全然変わんないけどな」
その言葉に吹き出すユート。
そこ…笑うとこ?と思ってると、ユートがとどめ
「相変わらずお騒がせだしねぇ」
………どうせ…ね…
「でも…そこがアオイちゃんの良い所ですよ♪」
ぜんっぜん聞いてないのかと思ったら聞いてたのか。
フロウちゃんがそこで微妙なフォロー。
「ま、姫も変わんないよな」
そこでスルリとユートが軌道変更。
「姫は変わられたら俺が困るから」
コウがそこで言う。
はいはい、ごちそうさま…。
一同同じ意見らしく苦笑い。
しかしその一瞬後、その笑顔が凍る宣言が…
「まあ…基本的には皆さん変わってないと思いますよ。
ユキさん達加わったくらいで…たぶん近いうち小五郎さんも加わりますし。
トラブルも、そう遠くない未来にまた…あっ!タコさんつれました♪」
フロウちゃん…また不吉な予言を中途半端に残して、気持ちがタコに移った。
こうなったら追求してももう…はお約束なわけで………青くなる一同…。
こうして再度起こったゴタゴタは恐ろしいほどよく当たるお姫様の不吉な予言でとりあえず締められたのだった。
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