オンライン殺人再びっorg_22_エピローグ

あの記者会見から数日後、史上最年少の三葉商事社長に就任したコウは時の人になった…。


コウが跡を継ぐとなるとさぞや社内の突き上げすごいだろうと思ってたんだけど、意外や意外、なんともあっさり受け入れられた。

元々世襲で社長職受け継いできた会社で直系ではないとは言っても血のつながりがあるからっていうのもあるけど、それよりなにより…年寄り受けいいんだよ、コウは。
そいえばうちの親も大絶賛だったしなぁ。

ものすごい前評判で鳴り物入りで迎えられた割にあくまで礼儀正しく腰が低く、それでいてきちんと通すべき筋は通して行くコウの姿勢は、もちろん反発する人が皆無ではないけど、大旨好意的に受け入れられた。

それは社内だけじゃなく、取引先相手にも言える事で、溢れ出る知性と同時に誠実さをにじませる物腰に、事件のダメージは完全に払拭されたとはもちろん言えないまでも、致命的になるまでには至らない程度には抑えられたようだ。


さらに一般へ向けた企業イメージに関しては、むしろ以前よりかなりよくなったくらいだ。

若くて能力があって…しかもイケメンな若い社長…。

しかもそれこそヒーローさながらに活躍した過去の武勇伝はネットから広まって、テレビでも伝えられてしまったりなんかしてるわけで…たまにテレビ番組のゲストで呼ばれちゃったりもしてて、もうほとんどアイドルのようです。


たま~に時間のある時にそのイケメン社長が遊びにくるということで、レジェンド・オブ・イルヴィスはものすごい人気でユーザー数が10倍になったそうで、今では日本で一番のシェアを誇るネットゲームだ。

新人X君は健在で、コウが出入りを自由にしてるためちょくちょく社長室まで遊びに来ては、公式HPで今度は”新人Xの社長観察日記”をつけている。

それがまあ大受けらしく、今度なんと本になって出版されるそうだ。



そんな慌ただしい日々を過ごす中、コウはギリギリ時間調整して大学だけは続けてる。

それができるのはひとえにコウの代わりに立ち回る優秀にして忠実な側近3人衆のおかげ。
彼らはすでに役割を終えた白い家を住居用に改造してコウと一緒に住んでいる。

そこには当然私とユートの部屋もあって、私とユートはやっぱり大学に通いながらそこで仕事の勉強中。
全員がちょうど集まれる時なんて滅多にないんだけどね。

その日はすごくたまたま全員集まれて、社長様がこの家に大事に大事にしまいこんでる”命より大事な彼女様”が作ってくれる美味しい食事を頂いたあと、久々に並んでネットゲームにログインした。

もっとも…以前と違って有名人になりすぎちゃったから、昔みたいにみんなでまったり狩りなんて事はできないんだけどね。

それでもまあ映ちゃんとかヨイチとか懐かしい面々に囲まれて、いまだに続いてる映ちゃんのギルドイベントに顔を出すコウとユキ君とカイ君。


フロウちゃんは…護衛役を仰せつかったランス君と共になんと釣り。

その周りにはものっすごい数の見物人なんですが?
てか、よくその状況でそんな事できるよね…。

その人ごみをかきわけてフロウちゃんに近づく人影。
そしてフロウちゃんに向かって優雅にお辞儀。

「ちょっと待って下さいね(^-^)」

その人物に向かって通常会話で言うと、フロウちゃんはブラックリストからその人の名前を削除してパーティーに誘った。


『ごきげんよう♪お久しぶりです(^-^』
フロウちゃんがパーティー会話で話しかけるその相手はアイジュさん。

『やっとお怒りを解いて頂けましたか(^^;』
というアイジュさんに
『いえ、別に怒ってたわけじゃないんですけどね(^-^』
とフロウちゃん。

『あれから…ちょっと祖父に連絡取る機会がありまして…それで思い出しました。
アイジュさんて…もしかしてエイジロウさんだったりします?I製薬の会長のお孫さんの』

『覚えていて頂けましたか(^^』
なんと…本当のフロウちゃんのリアル知り合いだったのかっ。

まあ…会話から察するに…跡取り様ではあったんだね、三葉商事の、ではないだけで…。


『えと…正確にはそれまでは忘れてましたっ。祖父と会うのは年に数回なので…。
ごめんなさい(^-^;』

そこで…嘘でももちろん覚えていましたって言えないのがフロウちゃんクオリティ…。
ま、それを気にしてたらフロウちゃんとはつき合えない…ってわかってるのかわかってないのか
『いえいえ、今思い出して頂けただけで満足ですよ(^^』
と、あくまで表面上は冷静に微笑むアイジュさん。

そして一呼吸。
『お祖父様の所でお会いできないのなら、二人だけでお会いできませんか?祖父達抜きで』

これって……
同じくこそりフロウちゃんのパソコンを覗き込んでるユートと顔を見合わせる私。

『…祖父から優波さんのお祖父様の方にお話がいっていると思うんですが…』

これ…やばいって。ワタワタと慌てる私とユート。ランス君がユキ君の所に飛んで行った。

「カイ!お前応対してろっ!」
とユキ君とコウが飛んでくる。

そしてみんなが見守ってるところで相変わらずおっとり構えてるフロウちゃん。

『私自身は祖父からは何も聞いておりませんが?
まあ…両親を通してるのならそこで止まってる可能性も大なんですが…』

『そうでしたか…。
本当はお会いした時にきちんとと思っていたんですが、理由もなくいきなり二人でと言われても優波さんも混乱なさいますよね。
こんな状況で言うのもなんなんですが…俺と結婚を前提としたおつきあいをして頂けないでしょうか?』


やっぱり…そうきたか…。

『あの…でも…』
『もちろん三葉商事の新社長の事は存じ上げてますよ。その上で言ってます』

うあ…ユキ君殺気立ってる…。
コウは…少し青くなった。
ある意味…コウ相手にここまで自信満々でいられるのはすごいな、アイジュさんも。


『確かに日本有数の企業ではありますが、前回の事件の影響もありますしまだまだ不安定な三葉商事と違ってI製薬は製薬会社としては日本でトップのシェアを誇る安定企業です。
一応俺は最終的に祖父の跡を継いでその社長職につく予定ですし、社内が揺らぐ様な失策をおかす事はしませんから、優波さんに苦労や心配をおかけする事はまずないとお約束できます』


そうきたか…。
ギリギリと歯噛みをするユキ君。
それでフロウちゃんはようやく後ろを振り向いた。

「なんで皆さんそんな怖い顔なさってるんです?」
のほほ~んと言うフロウちゃんに脱力するユート。

「いや…普通さ…姫がいきなり他の奴からプロポーズとかされてたら、動揺するっしょ…」

「でも交際申し込まれたりとかって初めての事じゃありませんし、コウさんだって慣れてますよね?
今更じゃありません?」
フロウちゃんは今度は無言で立っているコウに目をむけた。

「普通の奴ならな。でも…こいつの言う事はもっともだ。
警視庁目指してた頃ならともかく、今回の事で俺は安定した人生って言うのを捨てたから…」
そう言ってうつむくコウ。

「返事…しないでいいのか?」
とうながすコウに、フロウちゃんは
「そうですね~」
とまた前を振り返った。

『だからだと思いますよぉ?私の所に話がこなかったのって』
いきなりカタカタ打ち始めるフロウちゃんに一同ポカ~ン。

意味不明な返答にアイジュさんも
『どういう事です?』
と不思議そうに聞き返してくる。

『えっと…”夫は暴れ駿馬に乗せて放り出せ”と言うのが我が家の女性に代々伝わる家訓なんですよぉ』

『…はあ……』
どう返して良いかわからず戸惑ってるらしきアイジュさん。

『ようは…他が乗りこなせない暴れ駿馬を乗りこなせるような男性を見つけて後押ししろって事ですね♪
そのかわり…悪戦苦闘する男性が少しでも乗りこなしやすいように庭先を履いて常に道をやすらかに保ち、男性が成功して戻りたくなるような家庭を作って待っているのが女性の義務って事になってるんですけどね♪
なので代々始めから安定企業の夫なんて持った人間いないんですよぉ、うちの家系は。
若いうちから安定して冒険もしない男性っていなくて、父も祖父もまたそのまた祖父もみ~んな一代で財を築いてる人なんです♪』

うっああ~そうなのかっ~~~貴仁さんだけじゃないのかっ…

『でもって…女性陣は代々何故かみんな見事にその父方の才能受け継がないんですけど、そのかわりそういう男性見つけ出す嗅覚だけはすごいらしいんですよねぇ…。
だから両親も自分の感覚を信じなさいって言ってますし、コウさんも多分成功する人なんだと思います。
まあ、しなかったらしなかったでも、私自身はコウさんといる時間が増えて楽しいから構わないんですけどね♪』

フロウちゃんの言葉にそれ以上言葉のないアイジュさん。

フロウちゃんは沈黙を納得と受け取って、じゃあそういうことで、とパーティーを解散。
それからクルリと後ろを振り返ってコウを見上げた。


「2年前から再三言ってるんですけど…私がコウさんと一緒にいるのってコウさんといるのが楽しいからで、別に名門学校の学生だからでも、有名企業の社長だからでも、もちろん警察の偉い人になるからでもないんですよ~。
だって元々最初にコウさんにしようって思った時ってコウさんの学校も家も容姿も本名すら知らない状態でしたしね。
それでもなんだかこの人だ~って思っちゃったわけで…。
社会的条件なんて今更でしょう?」

「そう…だったよな」
目から鱗って感じでコウが呆然とつぶやき、それからクスクス笑い出して、フロウちゃんの肩に顔をうずめた。

「姫様って…すっげえグレイト!マジすごいっ!」
ユキ君も吹き出す。

「これも日々言ってるんですけど…コウさん必要ない事まで色々考え込みすぎです」
フロウちゃんはそう言って、そのまま笑うコウも他の面々も放置で釣りを続行した。

ある意味…ここまで全てにおいて肩から力が抜ける人って貴重な存在だ。







0 件のコメント :

コメントを投稿