オンライン殺人再びっorg_21_記者会見

そんな中三葉商事の社長が記者会見を開いた。
もう超有名企業の専務が捕まった直後なわけだし、あちこちの番組で特番生放送だ。

今回はご迷惑をおかけしましたと頭を下げる社長。
話はその後当然今回の事件の発端になった跡取り問題へと向かう。


フロウちゃん家のリビングで揃ってテレビを凝視する私達。

「ジジイがおかしな事言いやがったら俺がマスコミに駆け込んで暴露してやるからなっ!」
何も言う前からすでに息をまくユキ君。

普段はそれをなだめるコウだけど、今回はやっぱり余裕がないのか、息を飲んで社長の対応を見守っている。

『今回の事件は実は社長の跡取り問題が起因していると言われてますが、そのあたりについて伺えますか?』
との記者の質問に、社長はお答えします、と口を開いた。

『確かに今回の事件は、元々は直系一族の世襲制という形で社長職を引き継いで来た本社の社長である私に跡取りとなる実子がいなかった事が原因となって起こっています。
もっと詳しく申し上げると直系に限らず血筋による世襲をと考えておりました私と、直系でないなら世襲制自体の廃止をと考える元専務酒井との確執によるものです』

『結果酒井氏は社長が定めた跡取りである碓井頼光さん殺害計画に踏み切ったという事でよろしいですね?』

記者の口から自分の名前が出ると、コウが少し息を飲んだ。
ところがその記者の質問に、社長は驚くべき返事を返した。

『訂正いたします。
今の跡取りであるという言葉ですが、正確には碓井君には跡を継いでくれるよう打診したのですが結果断られ、今現在も要請中であります』


おお~~じいちゃん偉い!ホントの事言ってるよ。

『今現在の時点ではまだ跡を継ぐ了承を得ていないということですか?』
『はい。その通りです』
『それでは他の方が跡を継ぐという事も充分ありうるという事ですね?』

ま、そういう事になるのか~と思ってるとなんとじいちゃん

『いえ、それはございません』
と言い切った。

おいおい……

『それはどういう事でしょうか?』
ま、当然の質問だ。
それに対してジイちゃんは続ける。

『皆様も今回の事件でご覧になった通り、現在三葉商事は会社組織としては大きくとも脆く、しかも今回の事件で不透明な部分が浮き彫りになり、皆様の信頼回復を急務としております。
そういう中で社内の汚れを払拭し、脆い組織の結束を固める事は、碓井君の清廉潔白さと実行力をなくしては実行不可能であります』

そこでジイちゃんは一度言葉を切った。
そしてジイちゃんは唐突に始める。

『皆様は2年前に起こった高校生連続殺人事件を覚えておいででしょうか?
高校生ばかり5人も殺害され、犯人もまた高校生と言う衝撃的な事件でした』

それからジイちゃんはなんとあれが本人達にはそれと知らされず社長の跡取り選考のために行ったネットゲームが原因となって起こった事を自ら暴露した。

『やめるにやめられないネットゲームで参加者の中の誰かが殺人者として他の命を狙っているという状況の中で、碓井君は実に賢明に、しかも良識的に行動し、結果、彼と行動を共にしていた他3人の仲間の命を守っただけでなく、犯人を特定し逮捕までこぎつけたのです。

その後…彼は我が社の思惑を知り、それを批判した上で、2500万という高額の賞金の受け取りを拒否すると共に跡継ぎの話も固辞しました。

その後2年間、再三の要請も断られ続け、私は愚かにも彼を我が社に近づけるため、2年前に彼が守りきったはずの友人達を利用し、再度、彼は心ならずも我が社のネットゲームへ参加する事になりました。
その結果酒井が2年前の殺人事件の被害者の関係者を騙して碓井君殺害を試みると言う暴挙にでたのです。

そのような中で彼は非常に冷静に状況を見極め、実行した人間を割り出し、しかも感情に流されずに自分の殺害を試みた者の身体の安全をも図り、その身を保護し、酒井と共に法の手に委ねると言う、並みの者には到底できない、賢明にして良識的な行動を取り続けました。

この並外れて高い知能と強い意志、優れた実行力、公平さ、そして何より強い道義心。
私はこれだけのものを全て持ち合わせた人材を他に見た事はございません』

うああ……確かにそうなんだけど……ほめ殺し?

「ジジイわかってんじゃん♪」
ユキ君はぴゅ~っと口笛を吹くが、当のコウは頭を抱えてる。

『2年前から今回の事件にかけて全ては私個人のいたらなさ、未熟さが原因でおこったものです。
皆様が非難なさるのも碓井君が我が社を避けるのも当然の事だと思います。
全ては私の不徳のいたすところ、お詫びのしようもございません。

ただわかって頂きたい。
当社で働く大勢の社員達にはなんの罪もございません。
彼らは日々社会に貢献すべく額に汗して、ただただ真面目に働いておるのです。
会社組織を解体するという選択を考えた事もございますが、それはすなわち、その善良な社員達の生活を壊し、大勢の人間を路頭に迷わせる事につながります。

前任者がここまでボロボロにした組織を率いていくというのは、もちろん並大抵の事ではありません。
それでもなお、碓井君ならそれができると私は思っております。
ですので私は会社再建を試みると同時に碓井君の説得を続けたいと思っております』

下手すると逮捕されるかもしれないくらいのジイちゃんの捨て身のアタックにコウ顔面蒼白。
ここまでやられたら、もう普通の大学生には戻れないよね……。

「まあ…私利私欲ではないんだよな、たぶん。
先祖代々引き継いで来た会社守ろうと必死なだけで…」
ユートがしみじみとつぶやいた。
「しかも…まあ全部が全部事実だというのがすごいよな、これ」

確かに…。あらためて聞くとすごい話だ。
そんな渦中にいたってなんだか嘘みたいだよね。


「これ…どうやって逃げろって?」
珍しく弱気なコウのつぶやきに、フロウちゃんが相変わらずのほほんとした口調で言った。

「逃げる必要ないんじゃないですか?
コウさん実はユキさん達に会った頃から少し会社経営に傾いてる事ですし、やりたければやってみたらいいじゃないですか♪」

うあ…これまた簡単に…

「姫…そんな簡単な事じゃないと思うんだが…」
いつもはフロウちゃんのイエスマンなコウもさすがに今回は言い返す。

「簡単な事…ですよ?
だって今私がやりたいならって言ったのコウさん否定しないじゃないですか♪
てことは、やりたいって思ってるんですよ♪
2年前も私言ったと思うんですけど…何やっても上手く行くなんて保証ないんですから、やりたくない事我慢してやって失敗するより、やりたい事やって失敗する方があきらめつきます♪ね?」

にっこりとコウをのぞきこむフロウちゃん。

「姫は…警察がいいって言ってなかったか?」
「ん~あの時はね、コウさんの目が会社経営より警察がいいって言ってたから♪
今はみんなで一緒に会社やっていきたいって目してますよ?
私はやりたい事を一生懸命やってるコウさんが好きだから今は会社の方がいいかな♪」

あくまで楽天的でお気楽な調子のフロウちゃんに少し揺らいでるっぽいコウ。

「でも…今の状況だと批判もすごいし失敗する可能性だってすごい高い…」
「ん~マイナスの感情ぶつけられる事も増えますけど、逆に好意を持たれる事だってありますよ♪
それでも…マイナスだらけで耐えきれなくなったら、表でるのやめてそれこそ今みたいに
人目につかないお仕事すればいいじゃないですか♪
それを専業にすれば食べて行くだけは充分食べて行けますし♪」

そこでフロウちゃんはピョン!と立ち上がってソファに座るコウの頭を胸元に引き寄せた。

「大丈夫♪もしそうなってコウさんが他の人といるの嫌になったら、私がコウさん独り占めしてあげます♪
だからやりたい事やっちゃいなさい♪」


「姫様って…すっげえ。
俺ですらこうなっちゃうと事が大きすぎて会社継げなんて薦められないんだけど」
ユキ君がつぶやいた。

まあ…コウ以上に実はフロウちゃんはただ者じゃないから…。
本来は石橋を叩いて渡らないコウに石橋を飛び越えさせる事ができる唯一の人間だ。


「やってみるか?ユキ、カイ、ランス」
悩んだ末コウが動いた。

「マジ?!やった~!!」
その言葉にユキ君が飛び上がり、他の二人も歓声をあげる。

それを見てユートが口を尖らせた。
「なんだよ、俺だけ仲間はずれ~?」
私も…実は同じ心境だったり…。

「失敗…する可能性の方が多分高いぞ?風当たりも多分きつい。
ユキ達はまあ、そのために今までやってきてこれ以上なくすものないからな。
でも普通にまともな人生全うできるお前まで巻き込まれる事はない」
本気で心配をしてる様子のコウにユートはニカっと笑う。

「な~にを今更っ!
元々2年前に殺されて人生全うしてたはずなんだから怖いものないってっ…と俺は思うわけなんだけど」
と、ユートはチラリと私を伺った。
もう!なんでまた同じ事考えてるかなっ。

「私の言いたい事全部言っちゃったら私言う事ないじゃないっ」
思わず吹き出す私に、コウは
「…もの好きな奴らだ」
とやっぱり苦笑した。







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