オンライン殺人再びっorg_16_私怨?!刺された男

翌日…フロウちゃんは本当にフレカ削除した。
ある意味容赦のないお嬢さんだ。


(何故ですか?!俺が何か姫を傷つけるような事でもしてしまいましたか?!)
フレカ削除を申し出るフロウちゃんに当然アイジュさんは必死。

まあ…そうだよな。前日までにこやかにパーティーやってたんだから…。

そんなアイジュさんにフロウちゃんは

(ごめんなさい。アイジュさんがどうのという事ではなくて…私の方の事情なんです。
アイジュさんとご一緒してると私の一番大切な相手が沈んじゃうので…)
とウィスを返した。

それをリアル隣で見ていて、あ~これお前が悪いって言うより揉めるよな~って思ったら…やっぱり揉めた。

(一番大切な相手って…もしかしてギルドのベルセルクですか?!
姫、絶対に騙されてますっ!純粋すぎですよ!
ネットでしか知らない相手をそこまで信用しちゃだめですよっ!)

ザ~っとそこまで流れた時点で
(ごめんなさい。コウさんの悪口聞くの悲しいので…BLさせて頂きますね(;_;))
と、フロウちゃんいきなりアイジュさんをブラックリスト。

うあああ~~~~マジ容赦ないよ、この子っ。


ちなみに…ブラックリストというのは最近実装された、相手からのウィスもメッセージも届かなくなり、通常会話やパーティー会話でも相手の言う事がきこえなくなるという機能…。
これでもうアイジュさんの方からフロウちゃんへ言葉での接触は持てなくなる。

実装されて以来ストーカーの面々をポンポンそのリストの中に放り込んで来たフロウちゃん。
とうとうそこにアイジュさんの名前も表示される事に…。

これ…絶対にコウの方へ暴言ウィスが言ってるなって思ってたら、しばらくのち、リアルドアがノックされた。
ドアを開けると青い顔をしたコウと…何故かユートまで立っている。


「どうしたの?ユートまで」
ただならぬ様子の二人に、さすがに驚く私に、ユートはシ~っと指を口に当てる。

「ちょっと…アオイに話があるから…。姫のお守りユートに任せる」

コウがベッドの上で不思議そうにこちらに目を向けるフロウちゃんにチラっと目をやって小声で言った。
そしてユートとチェンジで私はコウに付いて行く。



「ま、座ってくれ」

コウはきっちり部屋のドアは開けたまま自分の机の椅子を私にすすめ、自分はベッドに腰をかけた。
二人きりの時はフロウちゃん以外の異性だと友人でも絶対にドアを開けておくあたりがコウだよなぁ…なんて妙な事に感心しながら、私は勧められるまま椅子に座る。

「何かあったの?」
真っ青なコウにこちらから聞いてみると、コウは両手に顔を埋めて大きく息を吐き出した。

「あいつ…リアルの姫の名前知ってる…」

へ?

「あいつって…アイジュさん?」
聞き返す私にコウは無言でうなづく。

「姫が奴のフレカ削除してBL入りしたとかでこっちに文句がきたんだが…色々グダグダ言ってて最終的にネット上だけなら騙せるだろうみたいな事言ってて、自分は姫のリアルを知ってるんだみたいな事言い出してな…。
仕方ないからこっちもリアフレギルドなんだって言ったらユートの所に確認のウィス行って、それでリアフレギルドってのを納得したら今度は優波さんは渡さんときた…」

うあ……

「で、どういう知り合いなのかって聞いたらお前に話す筋合いはないって言われて、たぶん俺BL入り」

「どう…するの?」
「わからん。てか、ちょっと俺動揺してて…。
でもとりあえず姫には言うなよ?不安あおるだけだから。
さっきユートと手分けして家の戸締まりは確認してまわったんだが…。
あとどうすればいいやら」

普段は一番冷静なはずのコウだけど、ことフロウちゃんの事になると駄目なんだね…。


「とりあえず今日は姫は俺の部屋で寝かせて俺起きてるから。
アオイはユートの部屋行っておけ。
これからの事は起きてる間考えるから」

なんか…大変な事に…。
思わず無口になる私。
そのとき急にコウの携帯が鳴った。

「ちょっと悪いな」
と、私に言って電話に出るコウ。

こんな時間に誰なんだろう…って思ってボ~っと待ってたら、なんだか青くなるコウ。

「…で?容態は?!……そうですか…」
電話を切ってコウは考え込んだ。

「どうしたの?…誰か…病気?」
容態という言葉はかろうじて聞こえたからコウに聞くと、コウは青い顔のまま首を横に振って言う。

「大学の同期が刺された」

??

「それが…なんでコウのところに?」
「そいつが持ってた本が俺のだったから事情きかれた」

「え~っと…?」

「つまり…俺はそいつと面識あって、多少の付き合いもあって、本貸しててだな…。
そいつは最近いつ来ても俺が留守だから、この時間ならいい加減帰ってるだろうと近所だしついでにと、それを俺が普段大学通う用に使ってるマンションに返しにきたわけだ。
で、俺がいないからそのまま本持って帰ろうとして、エレベータから降りたところぶつかってきた
女が、そいつが落とした本を拾ってくれたんで、礼を言おうとしたらいきなり…だそうだ。
犯人はサングラスで顔隠してて、そのまま逃走…」

「え~っと…まさか…本には名前が書いてあったり?」
「…ああ」

「その人…コウと背格好似てたり?」
「そっくりってほどじゃないが…同年代で似てると言えば似てるな…」

うあああああ~~~~~
私はガタンと椅子から滑り落ちた。

ま…まさかっ

「確証はないが、たぶん…俺と間違われて刺されたっぽいよな…」

やっぱりっ!!

「それって…アイジュさん…じゃないよね?」
「わからん…」
コウは頭を抱えた。

「少なくとも…俺と姫の共通の知人なんてそう多くないし、俺を嫌ってる奴は多くてもそれで自分が犯罪者になってもいいくらい嫌ってる奴ってのもそんなにいないと思うんだが…犯人がアイジュにしてもそうでなくても検討がつかん。
そもそもこっちは奴の情報なんてほとんどないし…あ…そうか…」

コウは何か思いついたらしく、おもむろにパソコンに向かった。


『ユキ、いるか?!』
カチャカチャとキーボードを打つ。

『いるよーw』
(悪い、ランス呼べるか?)

あ~なるほどっ!ランス君、アイジュさんのギルドのメンバーだもんね

(姫様のBLの事?)
(それもあるんだが…ちょっと非常事態で…)
(おっけー、すぐ呼ぶからパーティー誘うね)

即ユキ君からパーティーの誘いが来て、コウがそれを受けてパーティーを組む。
そしてそれとほぼ同時くらいにランス君が入って来た。

『で?なんざんしょ?俺いてもいいのかな?』
とユキ君。

『ああ、かまわんが…アイジュについて情報欲しい。
できるだけ詳しく。
もし持ってればリアル情報も。
個人情報もらすのはまずいのは承知の上だが、頼むっ!』

『ちょっと待った…。コウがそこまで言うって何かあった?!』

普段は他人に踏み込まない踏み込ませないコウのその言葉にちょっとユキ君も驚いたようだ。
ユキ君にしては少し動揺してるようにも見える。
どう説明しようか悩むコウだが、コウの言葉を待たずにユキ君が聞いてきた。

『コウ、まさかとは思うけどリアルで何か危険な事とか起こってる?』

コウは一瞬考えて、それでも事実を伝える事にしたらしい。

『俺のマンション訪ねて来た同期がどうも俺と間違えられて刺されたらしい』

さすがに衝撃だったのか一瞬の沈黙の後、ユキ君は何故か
『コウ、ここじゃまずい。電話で話そう』
と提案して、コウが了承した。


そして鳴り響くコウの携帯。

「ユキか。ゲームがまずいならスカイプどうだ?
あとでユートとかにも事情説明するからログ残る方がありがたい」
で、即電話切ったところをみると、交渉締結したらしい。
またパソコンに向かうコウ。

『コウ、確認!今安全な所?』
『言ったと思うが姫ん家。ま、絶対に安全とも言えんが』

『…安全な所ってない?あんまり知られてないとことか』
『ん~別荘か』
『…金持ち…』
『いや、俺のじゃなくて姫のな』

『なるほど。とりあえずできるなら今すぐ最低限の荷物まとめてそっちに移動して』
ユキ君の言葉にコウは一瞬考え込む。

『な、ユキ。お前もしかしてお前なんか知ってるのか?
事情知らないにしては随分具体的な指示だしてるが…
ゲーム内じゃまずいとかな…』

あ、そう言えば…。
コウのつっこみに今度はユキ君が黙り込んだ。

『とりあえずな…俺はお前を信用する事にした。
信用するって決めたからには最後まで信用してやる。だから話せ。
こっちの事情がわからんと話せない事があるっていうなら言え。
隠さず話してやるから』

コウの言葉にユキ君は
『じゃ、率直に聞いちゃうけどさ』
と、口を開いた。

『ん?』

『コウって…例の跡取り様なのか?』

ユキ君の言葉にコウはちょっと悩む。
それは言うか言うまいか悩んでたわけではなかったらしい。

『難しい質問なんだが…』
と、少し言いよどむ。

『イエスorノーな質問じゃね?』
ユキ君の言葉にコウは苦笑した。

『跡取り様にならないかって言われて断り続けてるのが現状だ、今。
だから肯定していいやらわからん』

その言葉にユキ君はまた沈黙。

そして一瞬後、
『コウ、俺達は絶対にお前を裏切らないし死んでも危害は加えない。
つか加える奴がいたら盾になってやる。
だから今いる場所俺達も行っちゃだめか?
こうして話してる間にも何かあったら怖い』

と、なんだかすごい話に…。

それに対してコウは
『家主様に一応許可取るから1分待て。
ま、お前を信じろって言ったのは姫だから駄目とは言わんと思うけどな』
と言って内線をかけた。

「姫…ちょっと諸事情でな、ユキ達が今から会いに来たいって言ってるんだが…奴らは信じていいんだろ?
おっけー出していいか?…さんきゅ」

了承が取れたらしい。

『オッケー出たぞ。住所は携帯に送る』
それから場所を教えるといったんパソコンを閉じて事情を話すためフロウちゃんの部屋へ。

事情を話すと当然ユートもフロウちゃんも顔面蒼白。

「姫…ごめんな。
今から姫だけでも逃がしたいとこなんだけど、どこなら安全とか本気でわからん。
俺のせいだ…ホントに悪い。
でも俺が生きてる限りは姫にだけは絶対に危害加えさせたりしないからな」

コウがフロウちゃんを抱きしめて言う。

「すっごく怖いんですけど…」
コウに抱きしめられたままフロウちゃんがコウの胸元に引き寄せられてた顔だけ離した。

「おかげで新しく仲良しのお友達できそうですよね」

「は?」

自分を見上げてにっこり微笑むフロウちゃんに、コウは一瞬ポカンとして、次の瞬間吹き出す。
ユートと私も同じくだ。

「姫らしいなっ」
コウが言うのに私達も同意した。

なんか…コウがフロウちゃんに固執するのもわかる気がして来た。
こんな時でもフロウちゃんはあくまで前向きで、最悪な状態かもしれなくてもその中で楽しい事嬉しい事を拾ってくる。ある意味すごい才能だ。

4人リビングで待ってるとチャイムの音がする。

出ようとするフロウちゃんを制してコウは先にインターホンの所のカメラでユキ君達だと確認すると

「今出る」
と、言ってドアを開けに行った。

そしてコウの後に続いてユキ君達3人もリビングに入ってくる。



「まいどっ」
と入ってくる3人はさすがに前に会った時のテンションでふざけてたりはしないけど、なんだかちょっと嬉しそうにも見えた。

「ごきげんよう♪」
フロウちゃんはキッチンからお茶のワゴンをおしてくる。

そしてティーポットからトポトポ紅茶を注ぐと、テーブルに並べ、戸口に立ったままの3人にどうぞ、とソファをすすめた。


「その前にさ…確認なんだけど、コウ」
ユキ君がその場に立ったまま、ソファに座ってるコウに視線を落とした。

「なんだ?」
コウは入れたての紅茶を口に含んで逆にユキ君を見上げる。

「他の3人は絶対的に信用出来る?」



な……
思わぬユキ君の言葉にさすがにムッとして口を開きかける私とユートを手で軽く制して、コウは
「例の跡取り様の勧誘受ける前からの仲間だ」
と言うが、ユキ君はさらに
「その後…気が変わる可能性ないとは言えなくない?」
と続けた。

その言葉にコウは少し考え込む。


「それはわからん」
その後に続くコウの言葉に私達は呆然とした。

もうショックすぎて足元から崩れ落ちそうなのをユートが隣で支えてくれる。

そのままユートが何か言おうと口を開きかける前に、口を開いたコウの言葉

「だけどな、こいつらに裏切られるんだとしたら、もう俺はあきらめるぞ。
こいつらが俺を殺したいって思うんなら殺されてやる。
それに巻き込まれるのが嫌ならお前の方が帰れ。
今俺はお前を信用してるし最後まで信じる。
それは変わらんが、お前の希望を全部かなえると言うのはまた別だ」


なんか…力が抜けたよ…。

ユートもみたいで、隣で脱力したみたいにクスクス笑った。
ユキ君はというとしばらくぽか~んとしてたが、その後苦笑。

「悪いね、こっちも人生かけてるからちょっと慎重になりすぎてて。
コウがそこまで言うなら信じる…っつ~か、
そこまで言われたら普通の育ちかたしてたら裏切れんよな…」
とソファに座って、いただきま~す♪と紅茶のカップを手に取った。
いつものユキ君だ。


「ま、ちと言い過ぎちゃったお詫びもかねて、こっちからこっちの状況と正体さらすね」
言って、カイ君とランス君もソファに促す。
そして二人がユキ君に並んでソファに腰を下ろすと、説明を始めた。


「結論から言うと俺ら跡取り様の側近候補なのよ」

はあ?
思わぬ告白に私とユートは顔を見合わす。

コウは私とユートにも紅茶を配り終えたフロウちゃんを引き寄せて足の間に座らせると

「それで?」
と先を促した。

ユキ君はそれにうなづいて先を続ける。


「俺らがさ、生まれた頃って社長様50歳で…その奥様ももう子供生めるお年じゃなくてさ、直系じゃない遠縁の子供の誰かを引き取って跡取りにって話が出てたんだってさ。
でもそれに反対する人間てのも当然いて、中にはもう直系じゃないなら世襲制なんてやめちまえって話も出てて、跡取り様が跡継いでも結構前途多難っつ~か、大変だろうなって言うのは予測できたんだ。
で、社長様は、それならいっそ跡取り様のために育つ跡取り様だけのために動く側近を作ってそのフォローに当たらせようって考えたわけ。それが俺達。
正確には俺達だけじゃなくて、俺達が知らないところでそういう団体が何組かいるんだけどね」

「どういうことだ?」
コウの質問に、ユキ君達は少し顔を見合わせて何か相談して、最終的に3人揃ってうなづくと、ユキ君が口を開いた。

「俺らに限って言うと、孤児院一緒だったってのはホントで…小学校入った頃かな、三葉商事の社長の使いってのがきて慰安と称して色々体動かしたり頭使ったりする遊びをやらせていったんだ。
で、後日な、俺にその使いから実は先日のは遊びに見せたテストで俺が総合的に1位だったから、三葉商事の将来の社長様の側近候補として教育をうけさせたいって申し出があったわけ。
んでもってあと2名信頼できる人間を二人選んでいいって言われたからカイとランス選んでさ。
で、その時言われたのが、俺らはあくまで側近”候補”であって、確定じゃないってこと。
他にも同じ様に選ばれた奴らがいるんだって。
最終的に選ぶのは跡取り様だって言われてる」

そこでユキ君はチラリとコウに視線をむけた。


「俺らにはさ、跡取り様がどんな奴でどこにいるとかも聞かされてなくて…俺らはまずどこかにいるはずの跡取り様を捜す事から始めなきゃならなかったんだ。
一応全くなんにもないところからってのはさすがに無理だから、跡取り様に今回のゲームやらせるからって話は聞いてて…。
俺達は普段は3人それぞれ分かれてめぼしい人間にチェックいれて、最終的に絞り込むって感じで跡取り様を捜してた。
で、俺が辿り着いたのがコウで、ランスが辿り着いたのがアイジュ。
まあどっちかだろうなって事でそれぞれがそれぞれに張り付いてカイが遊撃みたいな感じでさ、動いてた」

なんか…前回以上にすごい話になってきたな。

「ちょっとこちらからも確認」
そこでそれまでずっと黙ってたユートが口を開いた。

「どうぞ」

「今の話だとさ、側近候補っていうのがまだ何組かいるって事だよね?
てことは…そいつらがどんな奴か見てから決定ってのか筋だよね?」

すごいシビアな意見だ、ユート。

その言葉にユキ君はうつむいて
「…そういう事に…なるな…」
と、つぶやいた。

「それでも決定まではコウに生きててもらわないと意味ないのは一緒だよな」
とさらに言うユートにユキ君は無言でうなづく。

「ま、最初に辿り着いたって事はそれだけ優秀って判断にはなるけど…」

「ユート、いい、やめとけ」
さらに続けるユートをコウが制した。


「たぶん今の時点でこっちよりお前達の方が情報持ってる分、俺が引きずられないようにイニシアティブ取らないとってユートもきつい事言ってるけど、元々そういう奴じゃない。
俺の為に嫌な役引き受けようとしてくれてるだけだ。誤解しないでくれ」

コウの言葉にユキ君は
「いや…本当の事だし」
と首を小さく横に振った。

「ユキ達が下手にでるような必要はない。
そもそも…選ぶ選ばない以前に俺はさっきも言ったけど跡取りの話は断ってるから、ユキ達の言う跡取り様じゃないし、ユキ達に守ってもらう義理もない。
今ここに呼んだのは、単にお互いの状況を腹を割って確認するためだ」

コウの言葉にユキ君は苦笑する。

「なんで…そういう自分が不利になるような事言っちゃうかなぁ?
ユートのが断然正しいって。
俺ら自分らの野望のために下心隠して近づいちゃう様な人間よ?
だからコウだって全部正直に言う必要ないって」

「それでも…俺にとっては数少ない友人だからな」
コウの言葉にユキ君はちょっと驚いた目をコウに向けた。


「昔な…ユート達と知り合った頃、数少ない友人だと思ってた奴にすごい裏切られ方してものすごく落ち込んだ。
もう自分本当に世界中に嫌われてるんじゃないかくらい滅入って…それから立ち直れたのはこいつらに無条件の信頼と好意を与えてもらったから。
ま、俺は一緒にいて楽しい奴じゃないってのは百も承知で…だからなおさら自分が友人て思える数少ない人間にくらい、せめて自分がもらって嬉しかった信頼と好意くらいは提供したいと思ってる。
もちろんそれは自己満足だって言うのもわかってるし、それに必ずしも応えてもらえないという割り切りもあるから。
ユキ達にはユキ達の事情があるだろうしな。それは別にいい」

なんか…私の方が泣きたくなった。

一瞬シン…とする中、ユキ君がいきなりはじかれたように笑い出した。
な…なに?この人!

ヒーヒーお腹を抱えてしばらく笑い転げたあと、笑いすぎて出た涙を拭いてコウを振り返る。

「決めたっ!俺諦めないからっ。コウには絶対に会社継いでもらう!
何年…何十年かかっても絶対に説得するっ!」

いきなりピシっと宣言するユキ君に
「お前…意味不明なんだが…」
と、コウはいつものようにため息。

「俺らは10年以上そのために全てをかなぐり捨てて生きて来たんだっ!
あきらめの悪さはハンパじゃねえぞ」
ユキ君はにやりと言った。
そして再度説明を始める。

ユキ君達側近候補にはただ、白い家と呼ばれる三葉商事所有のビルに出入りする権利を与えられるだけで、生活面についての保護は一切なかったらしい。
その白い家と呼ばれる場所は、学びたい項目は学術的な事から護身術まで、なんでも学ばせてもらえる所だそうだ。
そこで必要な物不必要な物を取捨しながら、側近候補としての自分を磨いて来たとのこと。

しかし…生活の保護がないという事は、当然自分達の生活は自分でなんとかしなければならない。
白い家で学びながら生活の糧を得る為に働く。
しかも有事にすぐ動ける様に自由度の効かない職に就く事はできない。
必然的に働く形態はバイト。
さらに有事の時の行動資金のためにギリギリの生活費以外は貯金という生活。
朝から晩まで仕事をいれてたのはそのせいだったらしい。

「苦しいギリギリの生活をずっと続けて来られたのは、いつか3人で日本有数の大企業を動かすって夢があったから。
俺らは社長の血筋じゃないから社長にはなれないけど、いつか跡取り様ごと三葉商事を動かしてみせる、そう思って頑張ってきた。
で、まあ跡取り様については所詮どこぞの普通の甘ちゃんだろうし、適当におだてて上手に名前だけ使わせてもらえればどんな奴でもいいって思ってたんだけど…気が変わった。
俺は絶対にコウがいい。
コウが信頼と好意を寄越すっていうなら俺らは好意と絶対の忠誠を返してやる!
だからお前社長になれ!」

ピョン!と立ち上がって正面に座るコウをピシっと指差すユキ君。
今度はコウがポカ~ンとユキ君を見上げた。

「テンション…高いなぁ…ユキ」
思わずつぶやくその言葉にユキ君の左右に座るカイ君とランス君が吹き出した。

「そそ!こいつっていつもこう。初めて側近候補の話が出たときもこのテンションよ?」
「ま…俺らも楽しんでるけどなっ。
退屈だけはせんの保証するから一緒にやろうぜ?」
二人がそれぞれ言う。

なんだか私まですごくワクワクしてきたんだけど、コウは相変わらず静かな口調で
「無理」
ときっぱり断った。

「なんで?!!」

断られるとは夢にも思ってなかったみたいな感じで、ユキ君は目を丸くしてコウに詰め寄る。

「ん~、俺の将来設計は22で順調に大学卒業後警視庁入って警察のトップ目指す事だから」

「じ…人生はイレギュラーの連続だぞっ!ここらでギュ~ンとまげてみようぜ!」
ユキ君の説得にもコウは静かにかぶりを振った。

ユキ君はそのコウの態度にウ~とうなる。


「ま、いっか。先は長いっ!説得は今度っ」
いきなりコロっと切り上げるユキ君。

「その前になんかあっちゃ意味無いもんなっ。先に状況説明するなっ」

この切り替えの早さって誰かを思わせる様な…。
とりあえずユキ君の説明が再度始まった。

「えっとな、俺達についてはそんな感じで、他の側近候補もたぶん俺達と同じくゲーム内で血眼になって跡取り様探してるから、そのうちコウのとこにもなんらかのアクションしてくると思う。
一応アイジュの方は跡取りだって事を否定しないから肯定と受け取る奴多いと思うんで、ま、俺達にとっては好都合。
コウに対しては本来ならさ、御前試合優勝者だしそういう意味で注目もいきやすいんだけど、俺が姫様の従者ギルドって強調し続けてたからさ。
普通思わんでしょ?人の上に立つ奴が誰かの下についてるって。
だから、そうかも?と思いつつも、だいたいは本命はアイジュだと思ってると思う」


あ~だからユキ君、勝てなさそうなのわかっててわざわざ御前試合に参加したりしてたわけね。
確かにそのおかげで本来ならコウに向かう注目もかなり分断された気がする。

「えとな、で、本題。
コウの事刺そうとしたのはたぶん遠縁の跡取り様を社長にするのに反対してる奴。
コウを特定できてるってことは多分社内でも高い立場にいて社長に聞き出せるか、コウのスカウトに関わってる人間かだと思うんだけど…。
だからさ、一応ゲーム内での会話はまずいって言ったわけ」

ユキ君の言葉にコウは少し考え込んだ。

「まだ…いる」
「は?」
「俺を特定出来る奴」

そう言ってから私達に
「2年前の話、言っていいか?」
と許可を取る。
そして私達が了承すると、コウは2年前のあのゲームの話をユキ君達に打ち明けた。


「そんな事が……」
コウが話し終わると、ユキ君が口に手を当てて考え込む。

「てことは…だ、あと可能性があるのは2年前のゲームやその後の祝賀会に関わってる奴と、アキラとヨイチ?」
「いや、二人は違う」
ユキ君の言葉をコウが即否定した。

「それは…お友達だからとかそういう意味で?」

「いや…会ってるからな、俺本人に。
祝賀会に関わってた奴も実物見てるから誰かに特徴言って依頼する事はできるし実行犯が俺と面識なければ間違う可能性もあるが、二人は普通の家の学生だからな。
やるとしたら自分でやるしかないから刺したのが俺じゃないって事くらい暗くてもさすがにわかる」



なんだか…コウが2年前に戻ってる気がする。
このところの穏やかさがなりを潜め、眼光が鋭くなってきた。

「あと気になるのが、今は殺されてたり刑務所だったりと参加出来るはずのない、2年前のゲームの参加者のキャラに似せたキャラが今のゲームをウロウロしてる事だな。
一人はイヴっていう女のウォーリア。2年前の連続殺人の犯人のキャラ。
俺を消す事だけが目的ならわざわざそんな警戒されるようなキャラ使う事は解せないし、かといって他人のそら似にしては名前だけじゃなくて外見から行動から似すぎてるんだ。

ちなみに…イヴってのは途中で中身変わってるっていうか、二人目が殺された辺りで参謀がついて行動が変わってるんだが、行動変わる前になんだ、似てるの。
変わった後の方が期間的には長いし印象も強いだろうから、運営関係者が演じるとしたら変わった後の方が自然だと思うんだよな…。

ってことは…それを使ってるのは二人目が殺されたあたりでゲームを見る事をやめたやつ…。
しかも…何故か公表されてないのに犯人がイヴのキャラを使ってたのを知ってた奴。
そう考えると可能性も限られてくるよな…」


もうそこまで特定してたんだ…さすがコウ。

ユキ君も少し驚いた様子で
「ただのお育ちの良い勉強できるお坊ちゃんかと思ってたら…伊達に修羅場くぐってないんだな、コウ。
ますます頭にしたくなったんだけど…」
とつぶやいた。

そこで
「こいつの親警察の偉いさんだしっ」
とユートが言うと、3人揃って納得。

そんな4人をよそにコウは一人淡々と続ける。


「以上から可能性として考えられるのは第一の殺人の被害者のゴッドセイバーこと鈴木大輔と第二の殺人の被害者のショウこと秋本翔太、それからそれとほぼ日を同じくして殺された
第三の被害者のメグこと赤坂めぐみの関係者だな。
動機は…もう思いっきり想像の範囲を出ないんだが、もし2年前の事件が跡取り選出が目的で、そのために殺人自体がある程度黙認されていたって知ったとしたら…ジジイへの嫌がらせの一貫と現体制への抗議的な意味合いであえて犯人のイヴキャラでうろついた上で俺の殺害ってのもありうるな」

他人事のように本当に淡々というコウ。
そこでいったん言葉を切ると、足の間に抱え込んでいるフロウちゃんを見下ろした。

「姫、悪いんだけどコーヒーとなんか軽い物頼む。
今日は遅くなりそうだし、みんな腹減るだろうから。
で、それ用意したらもうお前は寝ろ。アオイと一緒に」

軽く頭をなでて言うコウにフロウちゃんはコクコクうなづき、立ち上がるとキッチンへ消えて行く。
それを見送ってコウは小さく息を吐き出した。

そして
「あんまり時間かけすぎて飛び火させたくないし…俺はちょっと姿晒すためにマンション戻ろうと思う」
と言う。


ちょ…それって…

「却下!」
私と同じ事考えてたらしいユートが即宣言する。

「あのさ、コウ俺らの事なんだと思ってるん?!そんなの納得できるわけないだろっ!」
「そうだよっ。
私が何度も危ない目にあった時もコウは当たり前に助けてくれたじゃないっ!」
私もユートに同意した。
でもコウは小さく息を吐き出してチラリとキッチンに目をやる。

「ああ。だから今度はその借りは返してもらう。二人とも姫を頼む。
アイジュの方も心配だが、俺が側にいるととばっちり行きかねないしな…。
守りきれないから」


「あのさ~、コウ!俺ら無視しないでくれない?」
そこでユキ君がシュタっとまた立ち上がった。

「コウに何かあったら俺らの10年の努力が水泡と化すんだけど?
俺らだってね、伊達に10年白い家に通ってませんよ?
コウみたいに段とってはないけど、一応護衛術くらいは学んでんだからなっ。

姫様の護衛くらいまっかせなさ~い。
コウがここにいてくれんなら、きっちり守り抜いてみせるよ?
その間にカイとランスに情報集めさせるからさ、もうちっと時間くれ。
どうせ相手おびき寄せるんでもある程度情報集めてからのがいいっしょ」

そこでユキ君はチラッとキッチンに目をやる。

「どうしてもって言い張るなら俺姫様に暴露するよ?
ああ、ない事ない事付け足しまくって言いつけてやるっ!」

うああ……ユキ君すごい事を……。

「ユキ!お前なぁ!!」

「俺だって必死だからなっ!
お前には選択の一つにすぎないかもしれないけど、俺らにとってはこれまでの人生の全てだっ!!
その可能性全部完全になくすくらいなら、どんなえげつない事だってやってやる!」
激昂するコウにひるむことなくユキ君は怒鳴り返した。

その二人の怒鳴り声に驚いたフロウちゃんが
「どうしたんです?」
と、エプロンで手を拭きながらパタパタとキッチンから出てくる。

そこでコウに何か言う間を与えず、ユキ君がヒラヒラとフロウちゃんに駆け寄った。


「姫様~俺もここ泊まっちゃだめ~?
俺の部屋クーラーどころか扇風機もないから暑くてさ~。
仕事一段落したから夏休みにしようと思ったんだけど、あの部屋で一日すごすって無理っ」
と、フロウちゃんに泣きつくユキ君。

あざとい…。

「ちゃんと家の手伝いするからさっ」

もちろんフロウちゃんの事だしね、即にっこりと
「ぜんっぜん構いませんよ~♪
お部屋は余ってますし宜しければカイさんとランスさんもどうぞ♪」
と、了承する。

「あ~。こいつらはまだ仕事あるから、仕事一段落しそうだったらお願いするかもだけど、とりあえず俺だけね♪」
フロウちゃんの後ろで舌を出すユキ君。
コウが頭を抱えた。

「という事で…俺お腹ペコペコなの、実はっ。食べ物恵んで下さいっ」
と、今後が決まったところでユキ君はフロウちゃんに甘える様に言う。
それに微笑んでうなづくと、フロウちゃんは再度キッチンへ戻った。


「ユ~キ~!この卑怯ものっ!」
「い~じゃんっ。ちゃんとお仕事はするよ?
でもたまには涼しい所で美味しいもの食いたいっ」

なんか主旨が……

コウはしばらくユキ君に文句らしき事を言ってたけど諦めたみたい。
とりあえずコウ一人で囮とかは阻止出来たみたいで、私もユートもホッとする。


「ユキさん達何がお好きかわからないので、とりあえず適当に。
残り物なのでたいした物なくて申し訳ないんですけど」
と、やがてフロウちゃんがワゴンを押してきた。

「おお~~!!!」
ワゴンを前にユキ君達3人歓声をあげた。

「これ残り物ってコウ達普段どういう食生活してんだよっ」

グラタン、パスタ、ライスコロッケにガーリックトースト、サラダにスープにデザートはチーズケーキ。
どれも全部フロウちゃんの手作り。

ホワイトソースやパスタソースは時間ある時に作り置きして冷凍してるんだよね、
フロウちゃん。
野菜も切ってゆでて小分けにして冷凍保存してるし、もちろんコロッケとかもそう。

だから急に言っても何かしらでてくる。
最初は私も驚いたんだけどね、今では慣れた。

しっかし…お腹ぺこぺこというのは方便じゃなかったらしい…。
スコーンやフィンガーサンドイッチをチビチビかじってる私達を尻目に、まあ食べる食べる。
どこに入るんだろうね、これ。


「ユキ…ちっこいのによく食うなぁ…」
と、コウが感心していうと、
「俺よりすごいね」
と、私達の中では一番よく食べるユートも目を丸くする。

「あ~、俺もここ住みたくなってきたっ」
「盆と正月、誕生日より豪華だよなっ」
ガツガツ詰め込みながら言うカイ君とランス君。

そんな彼らにたまにニコニコと飲み物を注ぎ足しながら、フロウちゃんは
「ホント気持ちの良いほどの食べっぷりですよね。
ここからお仕事通っちゃだめなんです?
人数多ければその分ご飯も品数作れますし♪」
と申し出る。

その言葉にカイ君とランス君がじ~っとユキ君に目を向けた。
どうやらこの3人の決定権はユキ君にあるらしい。

ユキ君は視線を向けられて、今度はじ~っとコウに視線を向ける。
コウも視線に気付いてまたため息。

「もう…一人も三人も一緒なんじゃないか?」
それでもそう言うとカイ君とランス君が歓声をあげた。

「じゃ、お部屋3人分追加ですね♪お布団とパソコンの用意してきます」
と、フロウちゃんが立ち上がりかけると、ユキ君はまだモゴモゴ食べながら、
「あ~、俺ら同室でいいんでっ!」
と手を挙げる。

「あ、じゃ、俺も手伝うね。ユキ達ゆっくり食ってろよ」
と、そこでユートが立ち上がってフロウちゃんと一緒に寝室のある2階へと上がって行った。



「なんかさ、ここん家って不思議空間」

たぶん…普通の人の5人分はあったと思われる料理を3人で綺麗に平らげると、ユキ君は満足げな
顔でソファに身を投げ出した。

「金持ちん家ってもっと仰々しいイメージだったんだけど、すっげえ暖かい家庭って感じなんだなっ」
ユキ君の言葉にコウが少し笑みを浮かべる。

「実際今旅行中の姫親もそんな感じだ。
中の人達の人柄がそのままここん家の空気を作ってる。
だから…ここだけは荒らされたくない」

「うん…わかる気する。今日初めてきた俺でさえそう思う」
ユキ君は言って身を起こすと仲間二人を見回した。

「ま、跡取り問題とは別に一宿一飯の恩は返すからっ。
明日からカイとランスは情報収集開始。
俺は姫様とコウの護衛。いいなっ」
言われて二人は黙ってうなづく。


「あ~俺は別に護衛とか要らんぞ」
「そう言わずにっ」
「姫が無事で姫が立てって言うなら死んでも立ち上がる。
だから姫の護衛に集中してくれ」

コウの言葉にユキ君は
「命より大事な彼女様ねっ。らじゃっ」
と吹き出した。






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