オンライン殺人再びっorg_11_フロウちゃん家の一日

「アオイちゃん、朝ですよぉ~」

朝…可愛い声で起こされる。
眠い目をむりやりこじあけるとそこには既に身支度を整えたどころか相変わらず可愛いフリフリの新妻エプロンを装備したフロウちゃんが…。


今…一体何時なんだろ…
私がなんとか目を開けると、フロウちゃんはニッコリ。

「朝ご飯できてるので、着替え済んだらダイニングにいらして下さいね♪」
と、パタパタと部屋を出て行く。

その足音を見送って、あらためて壁の可愛い鳩時計に目を向けるとなんとまだ7時半…。

夏休みでもこの時間に起きてるのか…。
つか大学生になってから1限の授業ある日以外は平日でもこんな時間に起きないよ、私…。

それでも郷にいれば郷に従え、仕方なく気力を振り絞っておき上がると、身支度を済ませた。

そして丁度部屋を出た所で同じく自室から出てくるユートと遭遇。
ユートもなんだか眠そうだ。


「おはよ~。フロウちゃん家ってさ、休みでもこの時間なのかな?」
私が声をかけると、
「子供は朝早いってのはお約束じゃね?」
と、ユートがあくびまじりに言う。

随分な言い草だけど、実はそこで子供より早起きならしい人物がいた。


ダイニングに降りて行くとシャワーを浴びた後らしきコウが、すでに席で新聞を読んでいる。
聞くと朝5時半起床でランニングプラス基礎鍛錬が日課とのこと。

昨日…フロウちゃんと部屋に戻ったの1時半くらいなんだけど…と思って聞くと
「昨日はちと寝たの遅かったから睡眠3時間くらいだったが、普段は4時間くらいは寝てる」
とのお言葉…。

平均睡眠4時間…どこの世界の話です?
エリートビジネスマンみたいだな。


ちなみに…フロウちゃんは6時半起床らしい。
前日に朝ご飯の下ごしらえをして、ご飯のタイマーをセットして、鍛錬終えたあとのコウのタオルとかバスルームにセットして就寝、起きて身支度整えて食事を作るのがこちらの日課。

意外に規則正しいと言うかしっかり主婦してるぽい。
朝食も絵に描いたような日本の朝ご飯だし。

別荘にお泊まりした時もそうだったけど、フロウちゃんのイメージだと朝食も洋食なんだけど…。

そう言うとフロウちゃんはパタパタと甲斐甲斐しくキッチンとダイニングを往復しながら
「ん~あれはゲスト用ですね~。父もコウさんも本当は和食派なので…」
と、にっこり答える。


男性陣がベタベタに甘やかしてるように見えて、実は結構亭主関白なのか、ここん家。
食事もなんだけど、これだけフロウちゃんがパタパタ忙しく立ち働いててもコウは新聞を読んでるだけで一切手を貸さない。


「ね…コウは手伝わないの?食事の支度とか…」
私が聞くと、コウはようやく新聞から目を離した。

「あ~ここん家の女性陣の地雷は台所だから」
そう言ってちらりとキッチンに目を向け、また新聞に視線を戻す。

あ、そいえば別荘の時もそんな事言ってた様な……

「貴仁さんがな、新婚時代たまには食事でも作って驚かそうかと思ってキッチン使ったら、優香さんキレて実家帰ったらしいぞ」

へ??

「女の城なんだと、キッチンは。
姫の部屋勝手に探索しようが、入浴中の浴室に入ろうが多分気にしないだろうが、あそこにだけは足を踏み入れちゃいかんと、この家に最初に泊まった日に貴仁さんに忠告された。
この家の男の部屋に冷蔵庫があるのはそのせい。
ちなみに…俺は父親と二人暮らしで自炊生活長いから料理含めた家事一通りできるぞ」

なるほど…あのミニ冷蔵庫にはそんな意味が……
そいえばユートの部屋にも何故かあったもんね…。

「私なら…平気なのかな?」
一応は手伝わないとなのかと思って恐る恐るお伺いを立てると、コウは即答
「やめとけ」
「怒られる?」
「いや…お前家事やってなさそうだから。
入っても怒られはしないだろうが邪魔だろ、ぶっちゃけ」

むぅぅ…悪かったね…ま、その通りなんだけどさ…。
コウの言葉に私もしかたなしに席についた。


しっかしこの身も蓋もない言い方はホント変わんないなぁ…。
横ではユートがクスクス笑ってる。

食事が終わってせめて皿洗いならと思って申し出たんだけどフロウちゃんにやんわり辞退された。
まあ…確かに普段のおっとりさが嘘の様にキッチンに立つフロウちゃんはテキパキ手際良いから
コウの言った事が正しいんだろうな。



その後もフロウちゃんは楽しげに家事に勤しんでる。

コウは自室からパソコン持参でリビングのソファの上。
相変わらず仕事らしい。

周りで掃除機ブンブンなってたり、パタパタ洗濯物干してる中でやるより自室でやった方が集中できるんじゃないかと思うんだけど、コウに言わせるとその雑音がいいんだそうだ。

いわく
「自宅から流れる雑音て基本的には自分以外の人間が家にいるから起こるわけだろ。
それがな、なんとなくいい。ホッとする」
そんなもんかなぁ…うちなんかドタバタうるさくてたまには全員いなくなんないかな~なんて日々思ってたけど。

ユートは持参したパソコンゲームプレイ中。
フロウちゃんは上の部屋の掃除に行った。

私は…実は最初にやったコンピュータゲームがあの殺人事件の起こったネットゲームだったから、それ以来縁遠いんだよね、ゲームって。
なんでも自由にしててって言われてもやる事がない。
しかたなしにコウの隣でパソコン広げてネットサーフィン。

途中でフロウちゃんが降りて来て、コウにコーヒー、私にアイスティを入れてくれて、また掃除に戻って行く。

パタパタと去って行く足音を見送ると、コウは大きく伸びをしてパソコンから目を離すと、コーヒーの入ったマグカップを手に取った。

「ね、コウ」
ちょっと休憩中みたいなんで、私もパソコンから目を離してコウに声をかける。

「ん?」
「今もさ…会社継ぐの嫌なの?」

素朴な疑問。
まあ卒業しないと警視庁はいるとかできないし、それまでの暇つぶしっていうのもあるのかもだけど、今コウは普通にビジネスマンみたいな生活をしてるわけで…その延長線上で会社継ぐとか言う選択ないのかな。
一応変に勘ぐられないために素朴な質問な旨を説明しておく。

するとコウは私の言葉にあっさり
「わからん」
と答えた。

「へ?」
意外な返答に私はポカ~ンと口を開けた。

「正直…昔から目の前の事をとにかくこなさなきゃならなかったから、その先に何があるとか、ましてや自分の希望が何かとか考えた事なかったしな。
警視庁はいるっていうのも親の影響でなんとなくって感じで最初はそれほどこだわり持ってた訳じゃない。
ジジイのやり方は腹立つんだが、じゃあ会社経営とかをやるのがそんなに嫌かと聞かれるとわからん。
今のやり方が嫌なら自分で変えればいいわけだし、警察入ってもそれこそ大人の事情とか圧力とかあって自分の思う通りの行動が出来るかと言うとできんしな」

「えっと…もしかして会社継ぐ方にちょっと傾いてたりする?」

私のさらなる質問にもまたコウはあっさり
「全然」
と、即答。

ちょっとこの人よくわかんないよ、相変わらず。

「でもさ、さっきの話だとどっちもどっちだと思ってるぽくない?」
「全然違うだろ」

ごめん…凡人だから読み取れないんでしょうか…と思ってるとコウはあっさり

「姫が警察が良いって言うから」
と、はあ?と聞き返すしかないような返事しやがりましたよ。

なんだか推理小説で一生懸命犯人推理してたら、後付けで終わりに出て来た聞いた事もない奴が実は犯人でしたって言われたくらいの衝撃的肩すかしですよ?

「なんで…そうなるかな?」

もう意味不明なんですが?私からかわれてます?って思ってため息をつくと、コウは至極真面目な顔で説明を始めた。

「自分で言うのもなんだが…俺は我ながら使える奴だとは思うんだ」

はい、まあそれはそうですね。
それ否定する奴がいたらそいつが大バカものってことで決定ですね。

「だから…その時の職なくしても何かしら食ってく術は見つけられると思うんだよな」

まあ…それもそうだと思いますが?

「しかしまあ…もう自分でも自覚してて、でもどうしようもないんだが…一緒にいて楽しい奴ではないと思うんだ。
だから…姫がいなくなったら俺と一緒にいて楽しいって言ってくれる相手ってもう一生みつからない。
ましてや自分がすごく好きで一緒にいたいって思ってる相手がそう言ってくれるなんて奇跡に近いだろ」

う~ん…そのあたりが…。

コウってさ、確かに空気読めない男ではあるんだけど基本スペック高いからコウの方がどう思うかは別にして、一緒にいたいと言う女はいっぱいいると思うぞ。
まあ…フロウちゃん並みの可愛さというと確かにいないかもだけどね。

「だからな、元々自分で自分が何をしたいとか考えた事なかった俺が初めて能動的にしたいって思った事が、その姫の希望を叶える事だったんだ。
極端な話…姫がそれが良いって言うなら俺自身は普通のサラリーマンでも八百屋でも教師でもなんでもいいんだが…。
まあ…結局どの職についても俺は迷うし足掻くし後悔する事もある。
でもその職についてる事を姫が喜んでくれるならやってけると思うんだよな」

なんというか…なかなかグレイトな話を聞いた気がする。
ジジイ…コウを動かしたいなら今すぐフロウちゃんに貢ぎ物だっ。

…という冗談はおいておいて…

以前ユートがコウは勉強やら武道やらで忙しすぎて遊びの部分がまったくなく育って来たって言ってたのを思い出した。
物理的に何でもできるくらいの物詰め込まれた代わりに、普通に子供がみる将来の夢とか
考える余裕もなく育っちゃったんだね。

何かをするために何をすれば良いかはわかってても、何をしたいのかが考えられない。
ある意味悲劇…なのかな。

そういう意味で言うとフロウちゃんはいくらでも夢がでてくるドラえもんポケットみたいな子だからねぇ。
しかも…人生めちゃくちゃ楽しそうだし。



その日はそれからお昼食べてコウの運転でお買い物。
ここでは自宅とは一転。フロウちゃんは一切荷物持たない。
財布すら持たない。全部コウ。

お金は留守の間の生活費にと貴仁さんからのお預かりならしいが、それを持つのはコウ。
理由は危ないから…だそうだ。

そしてコウの押すカートにフロウちゃんがポンポン買うものを放り込んでいく。
買った物を車まで運ぶのももちろんコウとユートの男性陣。

というかね、ドアすら開けませんよ?フロウちゃん。
自動ドア以外はお店のドアから車のドアまで全部コウが普通に開けている。
極端なまでに役割分担が決まってるんだな。

買い物を終えて家に戻ると手早く買った物を冷蔵庫にいれ、洗濯物を取り込むフロウちゃん。
コウは仕事に戻り、ユートと私はネット。


「そろそろ…先の事考えておかないとな…」
コウが唐突につぶやいた。

「先って…めっちゃ考えてない?コウ。
大学一年から将来の生活設計考えて実際に動いてる奴ってレアだって」
そのコウの言葉にユートが言うと、コウは苦笑する。

「いや、そっちじゃなくて…ゲーム内の事。前回と違って大勢がプレイする事前提に作ってるからミッションも少人数じゃできないもの多いだろ。
3までは4人でクリアできたが、そろそろフルパーティーじゃないとつらくなってくるから。
攻略法みつけるのにある程度実験繰り返す事になるし、できれば野良じゃなくてあと二人くらい固定が欲しいかなと」

「あ~そっちか~」

「ユキ君とか…だめなの?」
最近ほぼ毎日一緒にいるし、と思って聞くとコウは小さく首を横に振った。

「あいつはあいつで仲間いるだろ。
今はたまたまギルの事で一緒だけど、やっぱり元の仲間差し置いて引き抜きは良くない。
こっちは断ってくれてもいいけど、あいつはそれで多少なりとも気まずい思いするだろうし、こっち入ったらあいつのそれまでの人間関係に悪影響及ぼさんとも限らないから」

あ~そっか…。
ギル君はとにかくとしてカイ君とランス君はまだ仲いいわけだしね…。

「じゃ、カイさんとランスさんごとお誘いすればいいだけじゃないんですか?
ミッションは2回やるって事で♪」
フロウちゃんがいつのまにかお茶のトレイを手に立っている。

「あ…そか。そうだよな。そうするか…」
ニッコリするフロウちゃんにうなづくコウ。

「ということで…連絡取りやすくなるし3人ギルドに誘っていいか?」
最終的にコウが私達の了承を求め、私達も了承した。






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