オンライン殺人再びっorg_09_ストーカーパニック

最近…いつもコウとフロウちゃんはパーティ組んで一緒に行動してる。
まあそれだけなら彼氏彼女なわけだし、単にずっと一緒にいたいだけなのかなぁとか思うんだけど、何故かそこにしばしばユキ君が加わってたりする訳で……なんとなく疎外感。

確かにユキ君は良い人だし楽しい人でもあるんだけどさ…コウも気に入ってたみたいだし。
でも何も私達だけ放置で3人で遊ばなくても…。



(ね、ユート、最近コウ達いっつもユキ君と3人だよねぇ…)

ユートも最近ネットゲーム内引きこもりっていうか…マイルームにこもってる時間が一番多い。
まあ…それだけにしゃべってても邪魔にはならないだろうし…。

私がウィスを送ると、
(あ~そうなんだ?俺最近部屋こもってたから気付かなかった)
と、気のない返事。

なんだか自分だけ取り残されてるみたいでつまんない…。
野良パーティーでも行ってくるかなぁ………


とぼとぼと街を歩いてると、いきなり声をかけられた。

「よっ、アオイじゃん。まいどっ!そっち大変だなっ。」
「あ…カイ君」
ボ~っとしてたから目の前にいるのにも気付かなかった。

「今日は…一人なんだね。」

私が言うと、カイ君からいきなりパーティーの誘い。
受けてみるとランス君の名前も表示される。

『おお~、アオイ。この前ぶりっ!まいどっ!』
『やほっ。今日は二人なんだ?』

たぶん離れた所にいるんだろうな、姿は見えないランス君。

私の言葉に
『正確には…最近は、だなw』
と、言う。

あ~最近ユキ君コウ達と一緒だもんねぇ…。


『ごめんね…私がうちのギルメンと引き合わせちゃったからだね…』

相変わらずフレンドリーな雰囲気の二人に思わず謝ると、カイ君が商店街の方に私をうながした。
そのまま合成屋さんに入って行くと、ランス君がいる。

『この前のパーティーでさ、拾ったもんプラス栽培の収穫で合成してもらったんよ。
俺ら装備つけない特攻NOUKINだからアオイにやる~』

言ってランス君がトレードしてくれたのは回避があがるベルト。
今つけてるのより数段性能が上だ。

『ありがと~』

素直に礼を言って受け取っておく。
良い人達だよな~。


『いやいや、迷惑料の前払い?ww』
ニカっと笑うランス君の頭をペチコンとはたいて
『前払いちゃうだろっ!すでに迷惑かけとるわっ!』
とカイ君が突っ込みをいれた。

相変わらずな二人…。
だけどそこでふとわき起こる疑問。

もしかして…本題はそっち?

『迷惑って?』
私が聞き返すとまずカイ君が口を開く。

『ギルの事。そっちすごい騒ぎになってるんだってな。迷惑かけてすまん』
『あ~…この前のユキ君とギル君いれたパーティー?』
『んにゃ、その後も』

『その後?』
私が不思議に思って二人を見上げると、二人は顔を見合わせた。
カイ君が口を開く。

『えっと…今それでユキがそっち行ってると思うんだけど…』

へ?

『なんだか…姫様本当にリアル若い女の子なんだって?
んで、ギルが舞い上がっちゃって追っかけ回してて姫様にしつこくウィス送ったり姫彼に嫌がらせウィス送ったりしてるんで、ユキが焦ってて…』

ええ??


『ギル、がきんちょだからなぁ。
姫様お守りプレイはあくまでプレイっていう感覚がなかったみたいで…』
ランス君がそう付け足してポリポリ頭をかく。

『プレイ…なんだ?』
そうだったのか…。
てっきり本気かと思ってたよ。

『そりゃそうでしょ?だって相手リア男かもしれんのよ?
つかネットゲーやってる男女比率圧倒的に男の方が多いし。
でもゲーム内では関係ないしさっ。
楽しいっしょ?ただダラダラレベル上げとかするよりさ』

あ~なるほど。ごもっともなご意見。

私はなまじっかフロウちゃんの見目麗しいリアルとか知っちゃってるから当たり前に思ってたけど、そういえばイヴちゃんだってあんなに可愛かったのに男だったしねぇ…。

『このゲームって元々イルヴィス王国のフローラ姫で始まってるしなっ。
姫様のキャラって髪の色や髪型違うだけでなんかフローラ姫に似てるじゃん?
名前もなんか似てるし。だから雰囲気でるっつ~かなっw』

ええ、ええ、もしかしたら…つかたぶんあれはフロウちゃんがモデルとみた。
まあ間違っても口に出来ないけど。

とりあえずギルメンの所行くからと言って、そこでパーティーを抜けて二人と分かれる。

結局…原因が私な事には変わりないよね……。
彼氏持ちという所より彼女=女の子な部分に反応されちゃったんだ…どうしよう……

私ってどうしてこうなんだろう…。
トボトボとマイルームに向かいかけると、いきなりパーティーに誘われた。
ユートだ。

『アオイ今どこ?』
『ん~マイルームに向かってる。』
『そっか、じゃあ居住区前で待ってて(^^』

居住区前のごついオッサンNPCの前で待つ事2分。

『ごめんね、待たせて(^^』
と、ユートが走って来た。
そしていきなりトレード。

…?

受け取った私の手にはドングリみたいな木の実をかたどった可愛いネックレス。

『これは…?』
『栽培の収穫物を何種類か合成してもらった成果物。
このためにさ、色々な種類の植木作ってたんだ。
アオイ前回ちょっと羨ましそうだったから、エンジェルウィング。
あれほど大げさじゃないから気軽につけられるっしょ?
今の装備にもなんとなくあうしさっ』


確かに…。
いかにもお姫様然としたエンジェルウィングと違って、木の実を加工しましたって感じのそのネックレスは素朴な可愛さだ。
茶色の皮鎧のシーフでも…っていうか、この格好だからこそすごく似合う。

『もしかして…これ作る素材収穫するために今まで部屋にひきこもってたり?』
ちらりと上目遣いに見上げると、ユートはうんうんとうなづいた。

『ありがとう…すっごぃ嬉しい』
私はそれを即装備してユートに笑いかける。

物自体よりも私の事考えて何か動いてくれてたってのがまず嬉しい。
最近疎外感に悩んでたから特にかな。

『今回は先を急ぐ必要ないからね。
コウと違って前衛じゃないから守るとかもできないし、たまにはねゲーム内でも彼氏らしい事したかったわけ(^^』
にこやかに言うユートの言葉でふと思い出した。

コウとフロウちゃんのこと…どうしよう…

『どした?何か困ってる?アオイ』

ユートって…なんでこんな勘がいいかなぁ…
一瞬黙り込んだだけでもう何かあると察してくれたみたいで…

『ユートって…』
『ん?(^^』
『なんでそんなに勘がいいわけ…』
私の言葉にユートは無言…って思ったらいきなりリアル携帯がかかってきた。

「そりゃね、アオイが可愛いいお馬鹿さんだから♪」

おい……
第一声がそれですか?

携帯を握りしめてフルフル震える私。
恥ずかしがるべきなのか怒るべきなのかよくわかんない。

「んで?どしたん?」
いつもの柔らかい口調で聞いてくるユートに、私は今の状況を話した。

全部聞き終わると、ユートは少し考え込んで、
「今日はもう遅いし押し掛けたら迷惑だから…明日俺姫ん家行ってくるわっ。アオイはあんまり気にしないでいいよっ」
と請け負う。

そうは言われても…気になるわけで…
「私も行きたい…」
と言うと、ユートは
「そう言うとは思ってたんだけどっ」
と笑う。

そして
「おっけぃ、俺がコウに言っとくから一応お泊まりセット&パソコン準備だけしといてねっ」
と言って電話を切った。


そして翌日昼過ぎ…いきなりマンションの前に見慣れない車が止まった。
さらに携帯が鳴り響く。

「はい?」
「アオイ、俺。支度できてる?」
「うん」
「じゃ、下に降りて来て。車で待ってるから」

…って……今止まってる車??
私は荷物を抱えてあわててマンションを出た。

「やほ~アオイ♪今日はお迎えつきだよっ」
車の後部座席からユートが手を振っている。

「何?この車…」
車から出てドアを開けてくれるユート。

「えっと…コウの車っ。」
「そういう誤解を生む様な発言するなっ!」
運転席には薄いサングラスをかけたコウ。

「レンタカー…じゃないよね?」
「えっと…パパがコウさんの移動用にって用意した車です♪」

おい……

「姫も…やめとけ…」
助手席でフロウちゃんがにこやかにのたまわるのに、がっくりと肩を落とすコウ。

「一応な…使用許可は降りてる借り物だ。買ったのは貴仁さんで名義は姫な」

「え~と…でも私免許持ってませんし♪もうどう見てもコウさん用としか…」
どんどん…取り込まれてるね、コウ…。


私が乗り込んで車が動きだしてもまだクスクス笑ってるユートに、コウが不機嫌に言う。

「笑うなっ!お前がアオイが悩んでて可哀想だとか交通費くらい出せとかグダグダ言うから車だしたんだろうがっ!」

「いや、交通費は冗談だったんだけどっ。
よもやこんなもん出てくるとは思わなかったからっ!」
ヒーヒー笑うユート。

確かに…すごいな。
そして車はそのまま一路フロウちゃん宅のある高級住宅街へ。


車を駐車場に止めると、ユートは自分の荷物をもち、コウが私の荷物を運んでくれる。
そしてそれぞれの荷物は休み中お借りしてるっぽい仮私室へ…。

コウほどじゃないにしろ、なんとなく自室っぽくなってきてたり…。
実は着替えとかもある程度置いちゃってるから、持って来てるのはホントパソコンと下着くらいなのよね。
だから当然荷解きっぽいこともなし。
即リビングへ降りて行く。

そこではすでにノートパソコンを囲むコウとユート。
フロウちゃんは例によって飲み物の用意をしてる。

「何みてんの?」
私がのぞきこむとユートが少し場所を開けてくれた。

「例のギルのウィスのログ」
との言葉に私は画面に目をやる。

コウはチャットウィンドウを最大限に広げてスクリーンショットを取っていたらしい。
そこにはウィスを示すオレンジの文字がざ~っと表示されていた。

すごいな…。
アタッカーのくせに盾からタゲ取って…という以前アイジュさんが言ってたような批判から始まってリアルのコウの事まで。

騙したんだろうとか脅したんだろうとか言うのが発展して、まあ無理矢理乱暴でもして言う事聞かせてるんじゃないかというきわどい中傷まで、最終的にフロウちゃんを解放しないなら警察に訴えてやるとかもうやばいな、この人。

大人しそうな人だったのになぁ…。


で、コウはそれを全てスルーしてるぽい。

「なんでここまで言われて言い返さないの?」
と思わずきく私。

それに軽く肩をすくめて
「一応ユキも色々動いてくれてるみたいだしな。
まあ下手に動いて邪魔しないほうがいいだろ」
と言うコウに、ユートが
「でもさ、このログ三葉商事に送りつけて垢バン(=アカウント停止)で解決じゃね?」
ともっともな提案をした。

それに対してコウは、ん~…と少し考え込む。

「それも考えたんだけどな…結局別のアカウント取るだけじゃないか?
そうすると、だ、こちらからはそいつってわからないキャラで何か企まれる事になるからな。
その方がやばい気するし」

なるほど…。
前回の経験もあって、ちょっと慎重になっちゃうよね、その辺は。

「ま、俺は慣れてるからいいんだけどなっ」
俯いて黙り込む私に、コウが気楽な口調で言った。

「慣れてる…の?」
ちらりと私が見上げると、コウは苦笑する。

「勉強にしても武道にしても結局競争だったから勝てば当然妬まれる。
本分と違う方向から追い落とそうなんて奴もザラにいるしな。
ずっと独りでそういう環境で育って来たから、今は損得本気で関係なくつき合ってくれるお前達や姫がいるだけ昔に比べれば全然余裕」



…コウ……。
なんだかものすごく悲しい気分になってきた。

最初は頭良くてお家も良くて運動神経も良くてなんて恵まれてて幸せだよなぁとか思ってたけど、前回のアゾットの事と言い、すごくすごくつらい中で一人孤独に生きてきたんだなぁ…。


「あ~泣くなよっアオイ!お前泣いたら俺ユートに縁切られるからっ」
思わずジワっときた瞬間、コウがまた苦笑して、ユートが
「よくわかってるじゃん」
と笑いながら突っ込みをいれた。

「ただまあ…姫が…な、奴のウィスにすごく怯えてて…。
日々俺んとこきてゲームやってたから、俺に対するウィスも目に入ってて、それで姫的怖い人認定してる相手からキワドい口説きウィスよこされてるからな」
コウがちょっと真面目な顔に戻ってキッチンにいるフロウちゃんにチラっと目をやる。

なるほど…そりゃ怖いね…。

「んでな…アオイ、悪いけど頼みあるんだが…」
と、次に私に目を向けた。

コウが私に頼み?珍しいな。

「何?できる範囲の事なら何でも言って。
それこそユートの言葉じゃないけど、コウ命の恩人なんだし」

私の言葉にコウは
「命の恩人て…おおげさなっ」
と小さく吹き出す。

「いや、おおげさじゃないじゃん。
あそこでコウがイヴちゃんはり倒してくれてなければ私殺されてたしっ。
まあ…それ別にしてもさ、友達なんだからさ、遠慮なくどうぞ?」

「さんきゅ」
コウは小さく微笑んだ後、また真面目な顔で続けた。

「事態が落ち着くまででいい。しばらくこっち泊まって姫の隣でゲームやってくれないか?」


なんだ…そんな事か…。
私はまたもっとすごい役回りを頼まれるのかと思ってたんだけど…。

「全然いいけど?どうせ夏休みだし、フロウちゃん家なら親もおっけぃだしね。
でもなんで?」

「あ~ようはな、ウィス避け。
お前リアフレってわかってるわけだから、夏休み泊まりにきてるって言っても不自然じゃないし。
隣でお前が見てると思ったら、相手も変なウィス送ってこれないだろ。
俺だと奴を無駄に刺激することになるから…」

おお~~そういうことかっ。
相変わらず冴えてるね、コウ。

まあ、毎年の事なんだけど夏休みの予定があるわけでもないし、家でぼ~っとしてるくらいならフロウちゃん家の素敵ルームでフロウちゃんの作ってくれる美味しいご飯を頂いてリゾート気分の方が断然いい!

私がそう言って快諾すると、隣でユートが
「いいな~俺も泊まりたいな~だめ?コウ」
と、コウに詰め寄った。

なんだか…誰がこの家の主なんだか…。
そして結局ユートも泊まる事に。なんか楽しくなりそう♪


「無理言ってごめんなさい…」
話がついたところでキッチンからワゴンを押してくるフロウちゃん。

「どうぞ」
とにこやかにすすめてくれるドリンクは綺麗な緑色で、輪切りのオレンジがグラスの縁にさしてあって花が浮いている。

ホントにリゾートみたいだよ。
ユートのは赤い色で縁にはパイン。やっぱり花が浮いている。
フロウちゃんのは無色透明で縁にはレモン。コウのはたぶん普通のアイスコーヒー。

「うわあ♪綺麗だね~。味見させてっ、ユート♪」

ムッ…この味は…オレンジ?!

「ブラッディオレンジっていうイタリアのオレンジをサイダーで割ってみました♪」
と、フロウちゃんが説明してくれる。

「アオイちゃんのはカクテル用のライムで私のはレモン。
コウさんは甘いもの好きじゃないので普通のアイスコーヒーです♪」

なんだか色々がいちいちオシャレだ。
うちだと良くて普通にコップに入った市販のジュース。
普段だとペットボトルや缶そのままなのに。

流れる音楽もなんだか軽やかな曲調のクラシック。
そいえばリビングにピアノがあるんだよね、ここん家。

「ね、あのピアノってフロウちゃんが弾くの?」
好奇心にかられて聞いてみると意外や意外、貴仁さんが主に弾くらしい。

「私と母はフルートとバイオリンなら少し。
ピアノは手も小さいし力もないのであまり上手じゃないんです」
少し苦笑するフロウちゃん。

ほ~、そういうものなのかぁ…。
ピアノって華奢な女性のイメージあったんだけどな。

でもお嬢様だけあってやっぱり楽器はやってるのね。
聴いてみたいっていったらバイオリンを出してきてくれた。

そしてそこでまた驚きの発言。
「コウさん、伴奏お願いしますね♪」

コウが…ピアノ弾くの???

ぽか~んとする私とユートを尻目に、コウは
「了解」
と、ソファから立ち上がってピアノの前に座ると蓋を開いた。

そして二人が奏でる絶妙のハーモニー。
音だけじゃなくてイケメンと美少女の組み合わせで見た目も麗しい。

なんていうか…コウもお坊っちゃまだったんだよねっ。
今更ながらあらためて実感したよ……
つか、真面目に出来過ぎ男だよ…。

「ね…これを見たらさ…もうよほどの盲目馬鹿じゃない限りあきらめるよね…」
横に座るユートにボソボソっとつぶやく私。

「うん、この二人は放っておくのが正しいと思うんだけどねぇ…」
と、ユートもうなづいた。

その後フロウちゃんが午後のお茶の準備という事でキッチンへ退場。
3人になったところでユートのリクエストでフロウちゃんのウィスログ拝見。
コウが隣にいたという事もあってやっぱりチャットログ全開でスクリーンショットを取ってあった。



「うああ~キッモ~~~!!!」

ユートの第一声。
私も…そう思う。
鳥肌たっちゃったよ。

もうね…ほんっきで脳みそに何かわいてるってっ!
もうなんていうか…体中かゆくなりそうっ!

「バラの花を敷き詰めたベッドで抱きたいって……どの面さげていってるわけ??」

まあなんていうか…そんな感じのセクハラ発言。
もっと具体的なきわどいのもいっぱい。
ウィスだけじゃなくてメッセまで。
リアルで体温感じたいとかもうある意味名言だね……。


「ま、俺は男だから意味不明だなと思うが…女の側は見ず知らずの男にそんな事言われたら怖いんだろうな、やっぱり」
「う~ん…電波すぎて現実感ない気もするけど、逆にわけわからなさすぎて何やるかわからない怖さって言うのはあるよね…」
私が言うと、コウは小さく息をついた。

「ん~そういう意味では姫にとっては日常的な現実だからな…こういう異常者に言い寄られるのって。
だから…すごく怯えてる」

そう…なのか…。
私なんて極々目立たない人間だから、痴漢にすらあったことなかったり…。
美少女っていうのも人生大変なんだね…。



「コウさん、お茶菓子はどうします?クッキーでいいです?」

やがてフロウちゃんがティーセットを乗せたワゴンを押して出てくると、コウはパタンとノートパソコンを閉じた。

そしてフロウちゃんからパソコンを隠す様に立ち上がると、
「ん~俺はスコーン食いたい。クッキーって食った気がしないから」
と、言う。

その言葉にフロウちゃんはクスクス可愛らしい笑い声をもらして
「食いしん坊ですね、コウさん♪わかりました、温めてきますね♪」
と言いながら背伸びをしてコウを引き寄せチュっとその頬に口づけると、お茶のワゴンをコウに任せてUターンした。

なんというか…可愛いんだけどね……

「なんか新婚家庭に押し掛けた時のような気まずさがあるよな…」
と、隣でユートがまさに私が今思った言葉をつぶやき、私も笑いながらうなづく。

コウはそんな私達に気付かず、普通にティーポットからお茶を注いでテーブルに並べて行った。
そしてすぐスコーンとクッキーの並んだトレイを手にフロウちゃん登場。
なんだか優雅にお茶を頂いた。

もう…本当に同じ日本じゃありませんよ、この空間は。
もてなしてくれるのは我が友ながら存在自体がすでに優美な美男美女で、もてなし方がこれまた優雅。

これって非日常だから楽しい訳なんだけど、一般ピープルが日常的にこの耽美な空間に入り込むのって絶対に無理があると思うっ。
ギル君がなんぼのもんかはわかんないけど、まず絶対に無理っ。

夕食も…見目麗しく優雅に終わり、バスルームで汗を流してすっきりすると、パソコンを抱えてフロウちゃんの部屋へ。


「テーブル出しても良いんですけど、そのまま寝ちゃえるから…ベッドでやりましょうかっ」

いつもコウとそうしているらしいベッドラックにパソコンを置いてのネトゲ。
パソコンを置いてすぐ横に並ぶと、桃の香り。

奇しくも身に付けてるフリルいっぱいのネグリジェも淡い桃色。
Tシャツにパンツという私とは偉い違い。

フロウちゃんとこうして二人きりで長時間て結局高校2年のあの別荘旅行以来かなぁ…。

フロウちゃんも同じ事を考えてたらしく、
「アオイちゃんとこうして夜二人きりってあの最初の旅行以来ですよねっ」
と、私を振り向いて可愛らしい笑みを浮かべた。

一緒に遊ぶ事は結構あったんだけど、フロウちゃん家広いからお泊まりでも夜はそれぞれ個室だったしねぇ。


夜8時、私達はほぼ同時にゲームにログインする。
私もだけど、フロウちゃんもログアウトしたのはマイルームらしく、インするとまずマイルームが表示された。
即パーティーの誘いを送る私。
それとほぼ同時にフロウちゃんの方にもう一つのパーティーの誘い。


フロウちゃんは私の方のパーティーに入ると、

(ごきげんよう。ごめんなさいっ、今日も先約があるので(>_<))
と、もう一つの誘いの主、ギル君にウィスを送った。

文字を打つ手が少し震えていて、怯えてるのがわかる。
そのフロウちゃんのウィスに即返事が返ってくる。

(またあのベルなの?なんか束縛すごくない?
嫉妬深い男って…ちょっとみっともないと思うけど(^^;)

それまでスクリーンショットで保存したログ見てただけだったんだけど、こうして目の前で流れるウィス見るとやっぱりちょっと嫌な感じがフツフツと…。

(いえ…今日は夏休みという事でアオイちゃんが遊びに来てて。
今隣にいるんですけど、一緒に遊びに行こうって話してて…(^-^;)

(え?もしかして今隣で見てるとか?)
(はい、えと…パソコン並べておしゃべりしながらやってます(^-^) )

フロウちゃんがそう打ち込んだ途端、ピタっとウィスが来なくなった。
大きく息を吐き出して脱力するフロウちゃん。

一瞬のち、大きな瞳からポロポロ涙がこぼれ落ちた。
そのまま手で顔を覆って嗚咽をもらす。

「フロウちゃん、大丈夫?」
私が聞くと手に顔をうずめたままコクコクとうなづくが、肩がフルフルと震えてて全然大丈夫じゃなさそう。

「なんか…飲物もらってこようか?隣から…」
私が立ち上がりかけるとシャツの裾を掴んで首を横に振った。

「一人…怖いから…自分で行きます…」
ようやく顔から覆っていた手をどけて、真っ青な顔で私を見上げる。

そのままベッドを滑り降りると、可愛い…やっぱりピンクのフワフワのスリッパに足を通した。

その瞬間ピンコ~ンとメッセが届く音。
その音に一瞬ビクンと硬直して、次の瞬間フロウちゃんが耳に手を当ててすごい悲鳴をあげた。
ええ??!!!
私も思わず耳を塞ぐ。

「姫っ、どうした?!」
バン!とドアを開けて即コウが飛び込んできて、パニック状態のフロウちゃんの両肩に手をやって視線を合わせさせる。

「…あ…メッセが…」
フロウちゃんはひどく震えてボロボロ泣きながらコウにだきついた。

その言葉にコウは呆然としてる私の横、フロウちゃんのパソコンに目を向け、メッセの主を確認する。

「姫、大丈夫。ユキからだ」
なだめるようにフロウちゃんの背をポンポンと叩いて言うコウにフロウちゃんはホッとした様に力を抜いた。

コウはそのままフロウちゃんを抱き上げるとベッドに降ろし、自分もベッドに上がってフロウちゃんのパソコンからユキ君にウィスを送る。

(悪い、俺コウ。今姫ギルからのウィスでパニック中。
メッセ内容って俺も見て差し支えないものか?)

(ん~、ギルまだ送ってたんか。
一応奴には最終警告もどきを送っといたんでその内容なんだけどね>メッセ。
別にコウも見てもいいよ~、関係者だし)

(サンキュ~、見させてもらうな)
ユキ君の了承を得てメッセを開くコウ。

そこには普通の女の子は知らない男からいきなり性的な話をされたら怯える事、
フロウちゃんも例外ではないこと、
それは通常セクハラと捕らえられても仕方ない事、
さらにコウに送ってるウィスの内容も充分ハラスメントとなること、
それを運営側に申し出たらギル君になんらかの処分が下るであろうことを説明した上で、二人はそこまでするつもりはないらしいが、自分が紹介者としての責任上、これ以上二人にハラスメント行為を続けるなら運営側に通報するつもりだと締めくくっている。

二人が、ではなくて、自分が自分の判断で通報するって書くあたりがユキ君らしい。


(読んだ。で、これを送った反応は?)
コウが一通り目を通したあとでユキ君に聞くと、ユキ君からの返事。

(自分はそんなウィス送った事はなくて、自分を陥れようとしてるコウの捏造だって言うから、運営側に言ったらログを調べるくらいできるからねって釘さしておいた。
で、終だったんだけど…反省の余地なし…かな)

あ~だから私が隣にいるってわかったら急に送って来なくなったのかな…

「ね、私も発言していい?」
と一応コウに許可を取った上で、私もユキ君にウィスを送った。

(はろっ、今フロウちゃん家から実況中継中のアオイだよっ(^o^)ノ)

私のウィスに
(まいどっ!おお~~なんてうらやましいっ!(>_<))
とユキ君。

「これ…パーティー会話の方が早いな、ユキも誘えよ、アオイ」
というリアルコウの指示でユキ君もパーティーに誘う。
そしてパーティーに加わるユキ君。

「あ~、部屋でユートがやきもきしてるかもだから、奴も誘ってやれ」
と、さらにコウの指示でユートにもパーティーの誘い。

そのメンツを見て、ユキ君はいつものように
『まいど!』
と挨拶したあと、
『もしかして…リアルで姫様ん家にリアフレ全員集合だったり?』
と聞いて来た。
隠す事でもないので、肯定する私。

つか…コウがフロウちゃんのパソコンから打ってるからこの時間にフロウちゃんの隣にいるってのは見え見えなわけだし
私達も一緒って言っておかないと色々不都合も出てくるよね…。



『今回は俺の人選ミスですさまじい迷惑かけてて本当に申し訳ないっ』
全員揃った所でまずユキ君が謝罪した。

『いや、ユキのせいじゃないし。レベル上げパーティーやるくらいでここまで暴走する奴でるとは普通予測できんだろ』
それに対してコウが即フォローをいれる。

『そうだよ。パーティーではギル君て普通に大人しそうな人だったしね』
と私も言うと、ユキ君、
『他の二人はリアフレだからまあ馬鹿な事したらはり倒しにいけるんだが、ギルだけはこのゲームで知り合ってるから…悪かったね。
でもまあこれ以上続くようならホントに俺が通報するから』
と、申し訳なさそうに再度謝る。

『そのことなんだけどね、実は私が隣にいるって言ったらウィスこなくなったから…』
との私の言葉を受けてコウが続けた。

『アオイに当分泊まってもらって姫の隣でプレイしてもらう事にしたから、それでほとぼりさめるまでしのごうかと。
垢バンになってもまた別アカとって来ないとも限らないしな』

『おお~それできるならそれいいね。さすがリアフレギルドっ。
でも姫様はそれでいいとしてコウの方は?』
『あ~俺は別になれてるから構わん』

『ふ~ん…』
ユキ君の意味ありげな沈黙。

『コウって…リアルエリートなわけだw』
続く言葉にびっくりする私達。

確かにそうなんだけどさ、なんでわかっちゃうわけ?
下手に反応すると墓穴掘りそうなんで私とユートは黙ってる事にしたんだけど、コウはリアルため息。

『なんでそこでそういう結論になるんだ?』
と聞き返す。

『こういう形の妬み系中傷されなれてるってことはさ…そういう事でしょ?』
『妬み系中傷…って断言したつもりはないが?』
注意深く言葉を選ぶコウ。

『ん~だってさ、単に痛い人で中傷つか悪口?とか言われ慣れてるとかじゃなさそうだし、コウ。
他ゲームとかの話題振っても疎いからゲームし慣れてるわけでもないくせに、今現在の条件の中で一番効率的な方法を選択できるってのは頭良くないとできんでしょ?
でもってそれなりにリアフレいてたぶん…お育ちいいんだろうなって彼女様いてってことはまあ、そういう事かなっとww』

「なんか…ユキの方が恐ろしく頭の回転早い人間なきがするな…」
と、これはリアルのコウの言葉。

私とユートもうんうんとうなづいた。

『当たりでしょ?w』
リアルでそんな会話をしてると、ユキ君のだめ押し。

『想像に任せる』
というコウに
『やっぱりあたったわけねww』
とユキ君は楽しそうに言った。

『とりあえず今日はどうする?狩り行くなら入れてよ』
とのユキ君の言葉にコウが
『んじゃ、自キャラに戻る』
と、ベッドをすべりおりるが、そこでクン!とパジャマを引っ張られて苦笑する。

「しょうがないな。姫、俺んとこ来るか」
と言うと、コクンとうなづくフロウちゃんをお姫様抱っこ。
「悪い、アオイ、姫のパソコン頼む」
と、そのまま部屋を出て行った。


そして結局何故かフロウちゃんの部屋に一人残る私…。

(こっち来ちゃえば?w)
というユートのウィスにパソコンもってユートの部屋を訪問~。
まあ…一応今日はギル君は私が隣にいると思ってるから、ウィスもしてこないだろうしね。








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